仲野太賀 – 行動と好奇心
俳優・仲野太賀が、ドラマ『拾われた男』への出演で得たものとは。
どこまでも泥臭く、憎たらしく、愛おしく
― ドラマ『拾われた男』は、俳優の松尾諭さんによる自伝風エッセイが原作です。最初に脚本を読んだ感想からお聞かせください。
実はこれまで松尾さんとの接点はほとんどなく、ドラマになるような人生を歩んでこられたなんて全く知りませんでした。それで原作や脚本を読ませてもらったら、とてもおもしろくて。松尾さんが持つ図々しくても憎めない部分も含めて、愛さずにはいられないキャラクターとして描かれていて、オーディションに落ち続けた日々とか、同じ俳優としての苦労に共感できる部分もありました。草彅剛さん演じるお兄さんとのエピソードでは、思いもよらない角度に急カーブしていく物語の展開にもワクワクしました。
― 主人公の松尾さんは、ドラマでは松戸諭という役名になっていますが、演じるうえで意識したことはなんでしょうか?
話したりアクションを起こしたりすることがおもしろいというよりは、存在自体がおもしろい、醸し出すなにかがおもしろいとなるように心がけました。諭の図太いところだったり、感動しやすいところだったり、個性といえるものを大事にしながら演じていました。
なにより、松尾さんに喜んでもらえると良いなと思っていました。松尾さんご自身からも、伸び伸びと自由にやってほしいと言っていただいたので、そのお言葉に甘えて、憎たらしく、愛おしく演じました。
― 井上剛監督からはどんなリクエストが?
諭はとにかくよく泣くんですが、監督はその涙を大事にしたいとおっしゃっていました。監督とよく話していたのは、この作品は松尾さんの自伝に基づいているけど、諭というキャラクターとして見てくれる人も共感できるようにしたいということ。松尾諭ではなくて、松戸諭をしっかり演じていこうということを大事にしました。
― ドラマをご覧になった松尾さんから、感想の言葉はかけられましたか?
すごくおもしろかったって、熱量たっぷりにおっしゃってくれたので良かったです。正直ちょっとやりすぎちゃったかなとも思ったんですけど(笑)。でも自分がやるからには松戸諭というキャラクターを絶対に魅力的にやりたかったし、やれるという自信もありました。
自分が憧れていた世界は、実は地続きにあった
― 本作はディズニープラスでの配信、NHK BSプレミアムでの放送となりますが、通常のドラマと比べて予算のスケールも大きそうですね。
諭が働くレンタルビデオ店の「TATSUYA」、あれ全部セットなんです。後半はアメリカでも約3週間撮影しました。あと、とにかく素敵なキャストの皆さんが出てくださったことも大きいですよね。
ゲストで来られる方々は松尾さんが好きで集まってくださっていて、皆さん松尾さんの話をとても楽しそうにしていて。松尾さんの素敵なお人柄や魅力が、この作品を豊かにしてくれたと感じています。
― 本当に豪華なキャストですよね。特に印象に残っている共演者は?
やっぱり草彅剛さんとご一緒できたことはすごく心に残ってます。いざ面と向かうと、ものすごく吸い込まれるというか、引き込まれる。撮影の約5か月間、僕は毎日スタッフと一緒にいたので、スタッフの空気で芝居の感じが分かるようになってくるんです。草彅さんの芝居がガッツリ入ってきたときのスタッフの波動の揺らぎは、もう「きたー」「最高!」みたいな(笑)。草彅さんがお兄さんで本当に良かったなと思います。
― アメリカでの撮影はいかがでしたか?
英語でお芝居する機会もあり、拙い発音だけど現地のスタッフも日本のスタッフも笑っているという状況がとても嬉しくて。言語は違えどお芝居を通してつながれたかなと思いましたし、もっと海外でお芝居をしてみたいという意欲も出てきました。
初めて映画に出たときに、憧れていた世界が実は地続きにあるんだって思えた気持ちを今回も感じたんです。作品を世界中で観てもらえる配信の時代になったことで、国境を飛び越えてお芝居できる可能性もゼロじゃないと、志がすごく高くなりました。もっともっと海外でも挑戦できれば良いなと思っています。
― 松戸諭を演じたことで思い出した過去のエピソードはありますか?
仕事がなくて自分の俳優人生はもうダメかもしれないってときにオーディションが決まったこととか。今思えば本当に些細なことかもしれないけど、そのときに声をかけてもらえることって、自分がここにいて良いんだよって言ってもらえるような、存在を証明してもらえるような気持ちになるんですよね。
― 仲野さんが過去の自分にアドバイスするとしたらどんなことを伝えますか?
仕事がないと、果たして自分は俳優といえるのだろうかみたいな時間って山ほどあって、夢を追いかけることさえ頭の片隅に置き去って、普通に友達と楽しく生きていくこともできてしまう。
でも些細なことでも、小さな役でも、どこかで必ず見ていてくれる人はいて、つながってくるなっていうのは思うんですよね。セリフひと言のオーディションで受かって、それから10年後にそのときのスタッフさんが大きな役で呼んでくれたり、チャンスをくれたりということもある。一つひとつを懸命にやることでしかないような気がします。
思春期からエンターテインメントの虜のまま
― 本作で松戸諭は運と縁に恵まれて、俳優の道を駆け上がっていきますが、仲野さんは運と縁を味方につけるためになにが必要だと思いますか?
核心を突いた答えは出せないけど、もしあるとするなら「行動」でしょうか。行動することが、運とか縁を一番引き寄せる力になるんじゃないかなと。
― なるほど。ではもうひとつ話を進めて、俳優として必要な力はなんでしょう?
人それぞれでしょうが、僕は「好奇心」だと思います。知らないことを知りたいとか、この役を演じてみたいとか。モチベーションとも感受性ともいえるような、ワクワクする気持ちです。
― 行動と好奇心は、関連して循環しているような。『拾われた男』もそういう物語なのかなと感じました。
確かにそうだと思います。松尾さんも、そして僕自身も、こうありたいとかこうなりたいということに対して、いろんなものを貪欲に嗅ぎつけて、人と会ったり、挑戦してみたり。そういう積み重ねが、なにかを引き寄せていくのかなと思いますね。
― では最後に、仲野さんが俳優を仕事にする理由についてお聞かせください。
他になにもできない人間であるってことは第一にあると思うんですけど、そもそも映画とかドラマとか舞台とかエンターテインメントが大好きなんですよ。思春期のころからその虜になっている自分が変わらずに今もいて、それがすべてのような気もします。自分が受け取り手であるという認識がすごくあって、その視点っていつまでも揺らがないんです。だから僕がいろんな作品を観て、いろんなものをもらって、自分の景色が変わってきたように、他の人にもそういうものを届けたいというのはありますね。
Profile _ 仲野太賀(なかの・たいが)
1993年2月7日生まれ、東京都出身。2006年の俳優デビュー以来多くの映画、ドラマ、舞台などの作品に出演し高い評価を得る。
Information
仲野太賀さん主演ドラマ『拾われた男』
毎週日曜、午後10時よりBSプレミアム、午後11時よりディズニープラス「スター」で見放題独占配信
出演:仲野太賀
伊藤沙莉 / 鈴木杏 伊勢志摩 北村有起哉
要潤 安藤玉恵 前田旺志郎 北香那
松本穂香 岸井ゆきの 片山友希 大東駿介 塚本晋也 六角精児
夏帆 松尾諭 柄本明 ベンガル 綾田俊樹 末成映薫 井川遥
風間杜夫 石野真子 / 薬師丸ひろ子
草彅剛
原作:松尾諭著「拾われた男」(文藝春秋刊)
監督:井上剛
演出:林啓史
脚本:足立紳
音楽監督/音楽:岩崎太整
制作・著作:ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社/株式会社NHKエンタープライズ
©️2022 Disney & NHK Enterprises, Inc.
- Photography : Kenta Karima
- Styling : Dai Ishii
- Hair&Make-up : Masaki Takahashi
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)