坂東龍汰 – 演じる使命
自身の過去の経験とも重なる役を演じることに使命を感じたという坂東が、作品にかける思いに迫った。
自身の体験ともリンクしている役
― 映画『フタリノセカイ』ではダブル主演、『若武者』ではトリプル主演、そして初の映画単独主演作となる『君の忘れ方』 がいよいよ公開となります。単独主演ということで、心境的な変化もあるのでしょうか? ちょっと気負いがあったりとか。
それはもちろんありますね。作道(雄)監督の体験も含まれているオリジナル脚本で丁寧に作りあげたので、できるだけ多くの人に届けたいという気持ちは大きいです。
― そういった強い思いが、お芝居にもうまく作用した感覚はありますか?
今回演じた森下昴は、僕自身の経験ともリンクしている部分のある役でした。そのことはいつか役で出会って向き合うべきなんだろうなと思っていたので、脚本をいただいたときには使命のようなものを感じて絶対にやりたいと思いました。たぶん作道監督も僕の事情を知らずにオファーしてくれたので、昴のような空気を僕から感じてくれたのかなと。
僕のパブリックイメージは、ポジティブで明るいキャラクターだと思うんです。でも作り手側には僕の陰の部分を見てくれる人が多くて。『若武者』の二ノ宮(隆太郎)監督もそうでしたね。もちろん、『RoOT / ルート』の佐藤みたいなポジティブな役も好きだし、僕も自分に一番近いなと思います。でも、人間の抱えている闇や傷を描いた作品を作りたい人にも声をかけていただけることは嬉しいです。今回の作品との出会いには、磁石が引き合うように必然的な力を感じました。
― 先ほどご自身の経験ともリンクする役だとおっしゃっていましたが、差し支えなければ深く聞いても良いですか?
僕が3歳のときに身内が亡くなっていて。昴を演じるにあたって、親父には初めてその当時のことを電話で聞きました。(大切な人を亡くした話を)いろんな本で読むことはできても、実際に体験をした人の生の声はなかなか聞けないですから。
― 坂東さんにとっては父親でありながら、昴として生きていく自分自身とも重なる。
親父が当時どんな感情で生きていたのか聞くことで昴に嘘がなくなるというか、想像のお芝居じゃなくなることがすごく助けになりましたね。
昴の主観として現場にいようと思った
― 昴を演じる際にとくに意識したことはありますか?
常に主観でいることです。やっぱり主演だし、座長としてどう振る舞うのか考えるべきかもしれないんですけど、役にとことん向き合ったうえで必要な意見であればわがままになって良いのかなと。昴の人生を描いていくうえで、ずれたりぶれたりしないためにも僕は昴の主観として現場にいようと思いました。
映画の現場を何十年もやっているベテランのスタッフさんたちもいる環境だったので、甘えられるところは甘えて、わからないことがあったら聞いていました。
― 本音を言い合える環境はベストですよね。作道監督ともかなりディスカッションを?
しましたね。
― オリジナル脚本ですもんね。
はい。作道監督もそういう(死別の悲しみを)経験をされているので、作品のテーマがちゃんと伝わるかなというのは毎シーンの撮影前にしっかり話をしていました。その会話が深夜に及ぶ日もあったし、僕たちだけじゃ埒が明かないときは岡田(義徳)さんに来てもらうこともありました。
― 岡田さんも好演でした。
もうすばらしかったです。キャストもみんな個性的で、円井わんさんとか、津田(寛治)さんも最高だったし。そんな素敵なキャストのみんなに囲まれながら岐阜で1か月撮って、おいしいものもたくさん食べて。
しかもヒロイン(の柏原美紀役)がまさかの西野七瀬さん。「幻影という難しい役、誰がやってくれるんだろう」と思っていたんですけど、奇跡ですよね。
― 美紀は難しい役ですよね。語られないし、しゃべらないし。西野さん自身はどういう方でしたか?
西野さんはシャイで寡黙なイメージだったんですけど、実際はすごく自然体で接しやすいし、話しやすい。撮影が本当に楽しかったです。
初対面の日に、美紀と昴の結婚式で披露するための写真を撮ったんですけど、西野さんで本当に良かったなと思いました。今回の作品において写真はすごく大事な要素だったので。
― 終盤のシーンも魅入られました。
すごい包容力のある方ですよね。全部受け止めてくれる。
役と誠実に向き合うことの大切さ
― 恋人と死別する映画は少なくないですが、生前の関係性をしっかり描くことで観客に感情移入をさせてから死別を迎えることが多いですよね。でも、本作ではカップルや亡くなる恋人に対して、観る側が思い入れを抱く前に死別してしまう。死という事象に対してはどこかドライというか。
言われてみるとそうですね。
― だからこそ彼らが置かれている状況を第三者として冷静に見られたんですけど。
たしかに珍しいですよね。今回の映画はある意味ちょっと尖っているかもしれません。
― そういう部分も含めて、映画として面白い映画でした。
重い題材だけど感情移入型ではなく、現実を淡々と伝えるドキュメンタリー的な部分もあって。
あと、決して暗い映画ではないと思うんです。僕は試写で観終わったあと、『君の忘れ方』という名前にはなってはいるけど、逆に「思い出し方」という意味も含まれているなと思って、少し明るい気持ちになったんですよね。観ていてどうでした?
― 僕も最後まで観ると、間違いなく前向きな映画だと受け止めました。喪失は乗り越えられなくても、それでも生きていける希望のようなものが感じられたので。
そうなんです。
― 映画単独初主演となった本作で得たものがあれば教えてください。
まず、この役と出会えて本当に良かったです。主演をやれたことももちろんうれしいし、重圧もちゃんと感じています。役者としても人としても、すごくいろんなことを経験して学べました。映画の中で昴は出ずっぱりじゃないですか。
― 全編を通して出ていましたね。
それでも観ている人に飽きられない芝居をしなきゃいけないし、役と誠実に向き合うことの大切さを改めて感じました。
僕は、映画という表現と、映画館という空間が、この世で一番感情を動かす芸術だと思っているんです。2時間という時間で、人ひとりの人生を表現できる。僕自身、今回の作品でも本当に成長させてもらったし、皆さんにしっかり届けたいです。
Profile _ 坂東龍汰(ばんどう・りょうた)
1997年5月24日、ニューヨーク生まれ、北海道育ち。2017年デビュー。『フタリノセカイ』(22/飯塚花笑監督)で映画初主演を務め、第32回日本映画批評家大賞の新人男優賞(南俊子賞)を受賞。主な出演作に映画『春に散る』(23/瀬々敬久監督)、『バカ塗りの娘』(23/鶴岡慧子監督)、『一月の声に歓びを刻め』(24/三島有紀子監督)、『若武者』(24/二ノ宮隆太郎監督)、『シサㇺ』(24/中尾浩之監督)、劇場アニメ『ふれる。』(24/長井龍雪監督)、ドラマ「RoOT/ルート」(24/TX)、「366日」(24/CX)、「ライオンの隠れ家」(24/TBS)、舞台「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」(18/作・演出:岩松了)、「う蝕」(24/作:横山拓也・演出:瀬戸山美咲)などがある。映画『雪の花 -ともに在りて-』が1月24日(金)より公開予定、舞台「ベイジルタウンの女神」が5月より上演される。
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Information
映画『君の忘れ方』
2025 年1月17日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
出演:坂東龍汰、西野七瀬/円井わん、小久保寿人、森 優作、秋本奈緒美/津田寛治、岡田義徳、風間杜夫(友情出演)/南 果歩
監督・脚本:作道 雄
エンディング歌唱:坂本美雨
Ⓒ「君の忘れ方」製作委員会2024
- Photography : Yuta Fuchikami
- Styling : Yasuka Lee
- Hair&Make-up : Yasushi Goto(OLTA)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)