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FILM

細田佳央太 – 否定せず、受けとめる

Apr 6, 2023
やさしさってなんだろう。
どうすればだれも傷つけずにいられるんだろう。
答えのない問いにとらわれて、ぐるぐる悩みつづける。

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』に主演する細田佳央太へのインタビュー。

細田佳央太 – 否定せず、受けとめる

Apr 6, 2023 - FILM
やさしさってなんだろう。
どうすればだれも傷つけずにいられるんだろう。
答えのない問いにとらわれて、ぐるぐる悩みつづける。

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』に主演する細田佳央太へのインタビュー。

接するのもやさしさで、放っておくのもやさしさ

― 細田さんが映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』で演じた七森は、男らしさや女らしさのノリが苦手な大学生でした。脚本を読んで、彼をどう演じていこうと考えましたか?

なによりもまず、やさしくて繊細な男の子だなと思いました。自分が男として存在しているだけで女性に危害を与えてしまうんじゃないかとおそれてしまうような。すごく五感が敏感なので、役作りでは最初にその感覚に寄せていくことから始めました。

― 七森は心やさしくて、作品のタイトルにもやさしいという言葉が入っていますが、細田さんの中で「やさしさ」ってどういうことだと思いますか?

劇中に「やさしさと無関心は似ている」というセリフがあって、すごく納得したんです。こっちから接してあげることもやさしさだし、放っておくのもやさしさじゃないですか。やさしいという言葉はすごく広くて難しいんですけど、やさしさに直結しているものがあるとすれば、それはどれだけ気遣いができるかなんだと思います。

― 相手の立場に立って考えるという?

ただ、相手の立場に立ったとしても、相手を完全に理解することは不可能で……。

― もどかしいですよね。関わると傷つけてしまうし、関わらないと無関心につながることもある。やさしさが一方的になってしまう怖さへの対処のひとつが、ぬいぐるみとしゃべることなのでしょうか。細田さんも実際にぬいぐるみとしゃべってみましたか?

しました。僕は目があるぬいぐるみとしゃべることがすごく難しかったです。

― へえ。それは?

目があるっていうだけで、向こうから発信してくるようなものを感じてしまう。ぬいぐるみがなにか意味ありげにこちらを見ているような気がしてしまって。だから僕は、目のないぬいぐるみのほうがしゃべりやすかったです。

― ぬいぐるみによって話しやすさが違うのであれば、ぬいサー(ぬいぐるみサークル)の部室にいろんなぬいぐるみがいることも納得です。

実際に現場でも、監督からは「みなさんどのぬいぐるみと話しますか?」と俳優部に委ねられていました。みんな感覚的なものも含めて選んでいたんじゃないかな。

― 登場人物の中で、特に共感できるキャラクターは誰でしたか?

七森の感覚もわかるんですけど、僕も含めて多くの人が(新谷ゆづみさん演じる)白城の感覚に近いと思うんですよ。ぬいサーとは違う外の世界の広さや冷たさを、当たり前だと捉えている感覚がある。

― そんな外の世界でコミュニケーションするときに、細田さんが心がけていることはありますか?

「でも」とか、「だけど」とか、なるべく逆説の接続詞を使わないということです。

― その理由はなんでしょう?

逆説って、捉え方によっては相手の言ったことへの否定になってしまうじゃないですか。

― そうですね。

否定するのでなく、いったん受けとめることが必要だと思うんです。これまでにギクシャクした体験があったわけじゃないですけど、気をつけてはいます。

 

お芝居で気分が高揚する瞬間を求めている

― 心がしんどくなったとき、細田さんはどういうふうにリカバリーしていますか?

自然と口に出していることが多いです。これまでに起こった嫌なことは人に吐き出せばすぐにリセットできるんですけど、これから先の不安なこととかだと、どれだけ口に出しても忘れることは難しいですよね。むしろ、余計しんどくなります。でも他に、どう発散して良いかがわからないので口にしてしまう。

― そういうときって、お芝居することもストレスになりそうな気もします。

逆に全部忘れられるかもしれません。自分であることを置いてきているからでしょうね。

― なるほど、おもしろいです。お芝居のやりがいを、どういうところに感じますか?

褒めてもらえることが自信になります。『町田くんの世界』という作品で、すごいテンション上がったときがあったんですよ。お芝居が楽しくて仕方ないっていう。

― 細田さんの映画初主演作ですね。

池松(壮亮)さんとバスを降りて言い合うシーンで、カメラのセッティングを直しているときですらもうニヤニヤが止まらないぐらい気分が高揚した瞬間があったんです。それはある種の奇跡だと思うんですけど、すべての現場でその感覚を味わいたいと追い求めているところはあります。

― そんな快感が訪れることがあるとは。

びっくりしました、本当に。

― 本作で特に手応えがあったシーンはありますか?

手応えがあって、手応えがないのがラストのシーン。(駒井蓮さん演じる)麦戸ちゃんと2人で話すところです。

― 手応えがあるのにない?

あのシーンは本番前の段取り中に、金子(由里奈)監督も、撮影の平見(優子)さんも泣いていたんですよ。僕も泣きそうになって手応えを感じながらも、現場の温度が作品を観た人に伝わるかどうかという意味では、まだ手応えがあやふやな感じで。

そもそも役者が「観た人に伝わる」と確信してはいけない気もするんですよね。監督が思うのは良いんですけど。

― その役者という立場で大切にしていることはなんでしょうか?

満足しないということです。あと僕は、作品は監督のものというスタンスなので、監督のためにということを念頭に置きながらやっています。

― 役者として、成し遂げたいことはありますか?

以前、韓国人の監督に「韓国の撮影環境ってどうなってるんですか?」と聞いてみたら、やっぱりお金や時間の使い方に日本と明確な差があって、すごく羨ましい状況で。僕が死ぬまでにほんのわずかでも、日本も良い方向に持っていけたら良いなとずっと感じています。

― そうなっていくことで、より映画業界も盛り上がる気がします。

そうですね。この仕事に夢があるなと感じてもらいたいです。

― 最後に、完成した映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』をご覧になった感想を教えてください。

観た人が包まれて、甘えることができる、誰をも肯定してくれるような作品だと感じました。弱くても良いし、もろくても良いし、しんどいと思うことも決して間違いじゃないと。

ただ、多様性という言葉をむやみやたらに振り回すのも違うと思うんです。それこそ発信しづらい世の中になっちゃう。たとえば先日ニュースで見てびっくりしたのが、「美白」っていう表現をなくすという。果たしてそこまでやることが正しいのかどうか……。

― 本当に難しい問題ですよね。誰かに伝えることやルールを作ることで解決につながることもあるし、誰かを傷つけてしまうこともある。

そうなんです。すごく繊細だし難しい。だから、そこは按配ですよね。発信する人の価値観や感覚に委ねられるところが大きいと思うので、僕自身もっと気をつけなきゃいけないなとは思います。

 

 

Profile _ 細田佳央太(ほそだ・かなた)
2001年12月12日生まれ、東京都出身。1000人超の応募者の中から抜擢され『町田くんの世界』(19/石井裕也監督)で映画初主演。以降、『花束みたいな恋をした』(21/土井裕泰監督)、『子供はわかってあげない』(21/沖田修一監督)、『女子高生に殺されたい』(22/城定秀夫監督)、『劇場版 ねこ物件』(22/綾部真弥監督)、『線は、僕を描く』(22/小泉徳宏監督)、TBS「ドラゴン桜」、日本テレビ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」、テレビ朝日「もしも、イケメンだけの高校があったら」でドラマ初主演、日本テレビ ZIP!朝ドラマ「クレッシェンドで進め」で主演を務めるなど映画・ドラマを中心に幅広く活躍。2023年はNHK「どうする家康」で大河ドラマ初出演を果たすほか、連続ドラマW-30「ドロップ」で主演、夏には舞台「メルセデス・アイス」にて初主演を務める。
Instagram Twitter

jacket ¥71,500・pants ¥44,000 / Ohal (JOYEUX 03-3461-4464)

 


 

Information

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

2023年4月14日(金)より、新宿武蔵野館、渋谷 ホワイト シネクイントほか全国ロードショー
4月7日(金)より京都シネマ、京都みなみ会館にて先行公開

出演:細田佳央太、駒井蓮、新谷ゆづみ、細川岳、真魚、上大迫祐希、若杉凩、天野はな、小日向星一、宮﨑優、門田宗大、石本径代、安光隆太郎
原作:大前粟生「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(河出書房新社 刊)
監督:金子由里奈
脚本:金子鈴幸、金子由里奈 
撮影:平見優子
録音:五十嵐猛吏
編集:大川景子 
プロデューサー:髭野純
スチール:北田瑞絵
宣伝デザイン:大島依提亜
音楽:ジョンのサン
主題歌:わがつま「本当のこと」(NEWFOLK)
製作・配給:イハフィルムズ (2022|109分|16:9|ステレオ|カラー|日本)

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』公式サイト

© 映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

  • Photography : Takuya Nagamine(SIGNO)
  • Styling : Kentaro Okamoto
  • Hair&Make-up : Ayaka Kanno
  • Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)