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佐藤浩市 – 人生に答えはない

Feb 25, 2022 - FEATURE
主演・佐藤浩市、監督・三島有紀子がタッグを組んだ短編映画『インペリアル大阪堂島出入橋』。俳優として40年以上にわたって第一線で走りつづける佐藤浩市が本作で得たもの、そして人生を振り返ったときに大切だったと気づいたことについて。

映画の神様がいたなって感じた

— 『MIRRORLIAR FILMS Season2』の一篇『インペリアル大阪堂島出入橋』。本当に心に染みる素晴らしい作品でした。何かを失うことと得ることの両面が濃縮して描かれているような。佐藤さんは本作の核となる部分はどこにあると感じましたか?

人が生きてきて、ふと自分の人生を振り返ったときにどう感じるか。そこに答えらしい答えはないんですよ。観る人の立場によって、映画が出している何かというのは変容するわけで。

(佐藤浩市さん演じるシェフ、川上次郎が)デミグラスソースがついたハンバーグを持って、途中から目的もなく街をさまよいながら自分の年譜を口にしたときに、なんだ俺の人生、もう生きてても仕方ないなと、軽い気持ちで道路に横たわる。何やってんだと我に返って起き上がる。最後に橋の上から夜明けとも白みかけた空を見て、なんとなく自分は明日も生きていくんだなと思う。それだけの話なんだよね。

— そうですね。それがワンカットで展開されます。

三島監督が7月の4時16分から11分40秒の長回しということに勝負をかけていて。初日に1回やって三島監督がもう1回やりたいと言うので、じゃあ10分後にいこうと応えたら「いや、明日にしたい」と。お、何だよ、だって光の加減なんてのは後処理でいくらでもできるじゃないか。明日も朝4時からなんて、ねえ。

でも映画ができあがってみると、そこだけは明確に三島さんのビジョンがあった。僕の役が30代、40代だったなら明けた空でもよかった。そうじゃないこの男には漠然と白みかけた7月の空が答えだったんだよね、三島さんにとっての。

— 奇跡みたいに美しかったです。次郎がまだ歩いていけるという余韻を感じさせてくれました。

結局2日目の同時刻でチャレンジして、カットがかかった瞬間に「よしっ」と思ったから。

— 2回目の方がいいなというのは、撮影している最中にわかっていたんですか?

いや最後、手にきれいにデミグラスソースがついたんですよ。これはね、狙ったってできない。あと僕が道路から起き上がったら、ものすごい勢いで車が通過するでしょ。そんなことも狙ってできるわけじゃない。

— 車が来るのがあまりにもタイミングがバッチリなので、てっきり準備していたのかと。

あれは偶然。後で映画を観てぞっとしたもん(笑)。ああ、映画の神様がいたなって、特に長回しの時に感じるんだよね。いろんな偶然が相乗的に重なって、そのカットを成立させてくれるっていう。

— 映画をやっていて、そういう瞬間が一番嬉しいですか?

いまの時代の編集的なカッティングのための材料としての長回しじゃない、ワンカットでいきたいというカットをやったときには感じますよね。

 

もう一人の自分が背中を叩く

— 本作で佐藤さんが演じた川上次郎は時代の流れとともにいろんなものを失って自暴自棄になりそうになったんですが、佐藤さん自身も歳をとったしもういいかなという状態に陥ることはありますか?

正直に言って今年62で、俺の半生っていろいろ恵まれてたなぁと自分のキャリアを思い返すことはあるわけじゃないですか。でもそう思う反面、いや、まだ何かやりたい、やれることがあるんじゃねえかっていうふうに、自分自身に対して背中をぽんと叩くもう一人の自分がいる。それは映画だけじゃなくて、この歳で音楽をやったりすることも含めてね。そういったことをまだまだ自分で探せるぜっていうことが、周りの同世代の人たちに対するひとつのボールになったらいいかなと思います。

— じゃあ、もう道路にゴロンとしちゃおうと思うことは……

ないですね(笑)。

— そもそも短編映画に出演すること自体も挑戦ですよね?

そう。三島さんに誘われて、短編っていうのもやってないし、おもしろいなって。しかも800メートルを歩く11分40秒の長回しでやりたい。でもそれにしちゃ材料がなさ過ぎるぜ。この材料じゃ厳しいな……って思ったこと自体が面白かったですね。

— でも本当に、佐藤浩市という俳優だから成り立っている作品ですよね。三島監督の佐藤さんに対する絶対の信頼が感じられました。

最初は無理だよと言ったんだけど。まず歩き始めて最初に声をかけられるまで何も起こらない。

— そうですね。声をかけられるまでがけっこう長かったですね。

200メートル以上、2分以上は歩きだけで持たせられるか。途中で携帯を見たりとか逃げたくはなかった。そしてセリフを入れながらも走ったり、言行不一致でそこに答えがないことをやりたかった。だって人ってそうじゃない?

— そのとおりですよね。

だから300メートルでもいいのに800メートルやってくれといった監督の課題が、最終的に面白さにつながっているのかな。

— 歩いているだけのシーンもなぜか目が離せなかったですし、佐藤さんが走り出したときには観ている側も少し心拍数が上がりました。何かが始まりそうな予感があったのと、あとあんなに走ったら息が乱れて噛むんじゃないかとハラハラして。

「昭和60年、いや、昭和61年やったな」ってところは言い直したり。

— まだ走る前ですよね。そこのセリフ印象に残ってましたが、言い間違えだったんですね。

そういうことすらも、うまくはまってくれて。

 

キャリアの節目節目で必要な出会いがあった

— これまでに映画だけで110作品以上、ドラマも含めるともう膨大な数の作品に出演されていますが、佐藤さんがキャリアを通して俳優として大切にしていることがあれば教えていただきたいです。

その時その時で自分自身も変わっているけどね。今が自信があるというわけじゃないけど、自信がないから周りに対して攻撃的だった時代もあったし。そうして40年やってきて思うことは、節目節目で自分にとって必要な出会いがあったなということ。その作品に出会えたことでやってこれたというような。

— 出会いというものは誰にでも訪れるものでしょうか? それとも何かを心がけることで出会いがやってくる?

どっちもだと思うんですけど、出会いがあっても気づかなかったり、大事だと思わなかったりしてスルーする人もいるんですよ。今回の短編の話も原田芳雄さんの家の飲み会で会った監督からの依頼で、もし自分が「やってられっか短編なんて」ってスルーしてたら当然この作品は生まれなかった。でもそれを出会いだなと感じてやってみたら、自分にとって思った以上の財産が来た。達成感みたいなことは持ってはいけないんだろうけど、ある種の充足感が得られる出会いだったわけで。

— 映画のリリースでも「懐かしい緊張感とヒリヒリする自分がそこにいました」とコメントされていましたが、短編映画ということで特有の何かを感じましたか?

いや、変わらないですよ、それは。でも朝4時16分からの一発勝負800メートル、11分40秒ワンカット。直前のヒリヒリ感は久々でしたけど。

— それも含めて短編ならではのチャレンジングな企画といえそうですね。

そこの違いはもちろんありますね。これが長編だったら主人公の人生をひとつずつ振り返って、お客さんに対して見えやすいようにいろんなことを説明しながら構築していかなきゃいけないんだけど、短編だからそうじゃない。この人の生き様というものを、観終わった方々1人ずつが感じて欲しい。

— 人それぞれ自由な解釈で。

短編映画というのは長編と違って明確な答えがそこにないんですよ。だから観る人によってさまざまな答えがあると思ってくださっていいし、そうやって感じてもらえるものがあればいい。ただひとつ確かなことは、そんなこと簡単に言うなよって思われるかもしれないですけど、カットがかかった瞬間に「映画の神様はいたよ」って思えた映画ということです。

— 短編はまたやろうと思いますか?

まあ、やってもいいけど……インペリアルやっちゃったから、しばらくはいいかな(笑)。

 

Profile _ 佐藤浩市(さとう・こういち)
1960年、東京都生まれ。1980年に俳優デビューをし、翌年、映画『青春の門』でブルーリボン賞新人賞を受賞。その後も日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞、毎日映画コンクール等、数多くの賞を受賞し、日本を代表する俳優として活躍。短編映画「インペリアル 大阪堂島出入橋」(「MIRRORLIAR FILMS」の一編)では、約14年ぶりに短編映画に出演した。

Koichi Sato wearing RAINMAKER

 

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Information

映画『MIRRORLIAR FILMS Season2』

2022年2月18日(金)より順次公開

監督:Azumi Hasegawa、阿部進之介、紀里谷和明、駒谷揚、志尊淳、柴咲コウ、柴田有麿、三島有紀子、山田佳奈
出演:板谷由夏、片岡礼子、駒谷由香里、佐藤浩市、サンディー海、柴咲コウ、しゅはまはるみ、Joyce Keokham、細田善彦、永野宗典、中本賢、藤谷理子、松本まりか、矢部俐帆、山崎樹範、山田孝之

『MIRRORLIAR FILMS』公式サイト

©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

  • Photography : Kenta Kikuchi
  • Styling : Yoshiyuki Kitao
  • Hair&Make-up : Kumiko Oikawa
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

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