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池田エライザ × 橋本愛 – 私を演じる、私を生きる

Jun 9, 2025
映画『リライト』で初共演を果たした池田エライザと橋本愛。
本作を通して共鳴したふたりが撮影を振り返りながら、それぞれのお芝居へのアプローチから人生観に至るまで語り合った。

池田エライザ × 橋本愛 – 私を演じる、私を生きる

Jun 9, 2025 - FILM
映画『リライト』で初共演を果たした池田エライザと橋本愛。
本作を通して共鳴したふたりが撮影を振り返りながら、それぞれのお芝居へのアプローチから人生観に至るまで語り合った。

初共演で感じた、心地よい距離感

― おふたりは本作が初対面だったそうですが、お互いに素敵だなと気づいたところはありますか?

池田エライザ(以下、池田):過干渉じゃないところでしょうか。愛ちゃんがもともと持っているオーラや緊張感はありながらも、拒否されている感じはせず、受け入れてくれるところが素敵でした。

― 自然と波長が合うような。

池田:そうですね。気楽に、気負わずに接することができる気がします。

― 橋本さんは池田さんにどんな印象を?

橋本愛(以下、橋本):会う前から、きっと自分と似ている部分がある人だろうなと思っていました。だから必ずどこかで会うことになる予感があったので、この映画の話が来たときには「あ、今なんだな」という感覚でした。

エライザちゃんはすごく華やかな一面もあるし、その一方で内向的というか、パーソナルな部分をしっかりと守っている。そして、そこを自由に行き来できる柔軟さがあると思うんです。私自身にもそういう多面性があるから、意識的に仲良くなろうとしなくても心地よい関係性でいられました。

― 同い年かつ出身地も近いので、感性にも通ずるものがあるのかもしれませんね。本作では高校時代とその10年後、2つの年齢を演じ分けられましたが、それぞれの役の何を大切に演じましたか?

池田:高校生のときは自分を軸に世界が回っていて、脳みそから指先まで神経がよく通っていて、身体が軽くて、愚かで気ままにいるということ。大人になってからは受けに徹して、劇場でご覧になる方々と一番近い視点で物語を観るという立ち位置を崩さないことを大切にしました。

― 演じる時代によって、マインドにかなり差をつけていたんですね。

池田:くっきり違ったと思います。

― (池田さん演じる)美雪が10年後の自分と出会うシーンでは、瞬間的に10年の経過が感じられました。

池田:松居(大悟)監督とも、美雪はこの10年間をどうやって生きてきたのかについてよく話していました。その上で、服装の変化がスイッチになって切り替えられた気がします。逆に制服を着ると、行動がバタバタしやすくなるんですよね。久々に使った筋肉や関節があって大変でしたが、それぞれに楽しさがありました。

― 橋本さんは友恵を演じる際にどんなことを意識しましたか?

橋本:友恵は学生時代、すごく孤立している子で。教室では1人で本を読んでいて、いじめのようなものもあって、家庭環境にも問題を抱えながらも、彼女は他人を見下すことでなんとか自分を保てていたんです。そんな状況の中でのある出会いをきっかけに、10年間で膨れ上がった彼女の執念を感じさせるような髪型や髪色、衣装などを、松居監督たちと相談しながら作り上げていきました。

― 友恵が10年間抱え続けてきた執念のとてつもなさには驚かされました。橋本さん自身、友恵に対して共感する部分はありましたか?

橋本:ありました。学生時代の孤独感、大人になってある意味で満たされたことから来る余裕、ちょっと勝ち誇ったような感覚。自分でそう思っているフリをして、それが鎧になっている。その感覚は私にもすごく身に覚えがあるなって。

― ちなみに橋本さんはどんな高校生活を送りましたか?

橋本:高校はまともに行けていなかったので、私の学生生活は中学で完結していますね。

― 池田さんはいかがでしょう?

池田:私も頻繁には行けていなくて、久々に行くとチームが変わっていたり、自分のポジションが変わっていたり。自分は何もしなくても、まわりの気分や流行でいろいろ変わっていく。それは楽しいことじゃないけど、脚本にして書いていた気がします。

― 書くことで昇華していた。

池田:そう。真に受けると落ち込んじゃうから、とにかく文字に起こして物語にして。恨みつらみもキャラクターに言わせていましたね。でもちゃんとギャルもやっていましたよ(笑)。

 

ふたりが向き合う、演じるということ

― 本作に限らず、お芝居に臨む際はどんな準備をしていますか?

橋本:私は決まったメソッドがあるので、それを1個1個着実にやっています。最近、そこに新たに加えたのが、対称的なものが何なのかを考えること。たとえば自信がない人って、何かの自信があるはずなんですよ。その自信ってなんだろうと、相反するものを考えていくことで、役がより多面的になる気がしています。

― たしかに。スクリーンには一面しか表出しなくても、その裏にはバランスを取るための何かがあるはずですよね。

橋本:しかもそこが起源だったりするから。

池田:ちょっと似ているんですけど、私は役の生い立ちを聞いたり考えたりするのが好きで。何県何市何町で生まれ、家族構成はこうで、部屋の間取りはこう、カーテンの色、ベッドの色、クローゼットのハンガーの数、靴下は穴が開いているのか開いていないのか、そのひとつひとつが役の自意識がどこに向いているのかを教えてくれるんです。

そこさえ固まれば、考えすぎなくても想像できるようになってくる。衣装を決めるときはその役のクローゼットを開けて、朝起きてどんな服を選ぶのか見えてくる。そうやって土台を作ることは好きですけど、現場ではあまり何も考えていません。

― たとえば美雪の制服の着こなしにもこだわりが?

池田:快活さが出るように袖をちょっとだけまくったり、スクールカーストとの関わり方を意識してスカートの長さを短すぎないようにしたりはしました。

― 友恵の着こなしで意識したことはありますか?

橋本:きっと体中についたアザを隠すために、暑くても長袖にベストを重ねていて。ベストは何年も着古したように自分でボロボロにして、穴も開けました。

池田:あれ愛ちゃんがやったんだ……知らなかった。

橋本:ファンタジー作品でもあるから、衣装さんのこだわりで、みんなの制服もリアルよりもパリッとした感じになっているんです。でも友恵のシャツは絶対汚れていないと嫌だったので、襟袖をちょっとだけ黄ばませたりしています。

― 阿達慶さんが演じた未来人の保彦の魅力をどんなところに感じましたか?

池田:阿達くんは、顔立ちも佇まいも、実際に未来人っぽいですよね(笑)。未知の存在だからこそ、ついつい目で追ってしまうような。そして、お肌がすごくきれいなんです。余分な栄養を取っていなさそうな、突き詰めて管理されたようなつるんとした肌にも、未来人としての説得力を感じました。

橋本:友恵としては、自分と同じような傷を負っているとシンパシーを感じた初めての存在が保彦だったんじゃないかなと。そこが根本的に惹かれた部分だと思います。

― 完成した作品をご覧になった率直な感想を伺えますか?

池田:みんながちゃんと、物語の中で生きている。ほったらかしにされている人がいないというか、映っていなくても描き抜かれている。それぞれがそれぞれの人生を全うしていて、だからこそ本当にこの世界の中で同じことが起きているかもしれないと錯覚させてくれるんだなと思いました。そして改めて、すごいどんでん返しですよね(笑)。

橋本:最後のエライザちゃんの表情が本当に素敵で、この顔を見るための2時間だったんだなって。私は原作のものすごく後味の悪い読後感が大好きだったんですけど、映画は原作の物語を活かしつつ柔和に変貌を遂げていて、最後にはすごく温かな余韻が残り、「良いなあ、この感覚」と素直に感じました。

 

「私だけの物語」を生きるふたりの哲学

― 『リライト』にちなんで、おふたりが書き換えたい過去があれば教えていただきたいです。

池田:小学生のときバレエを習っていて、発表会とかがあるので日焼けができなかったんです。かなりストイックにレッスンに通う日々だったので、お兄ちゃんが外でサッカーをやっているのが羨ましくて。50メートル走も遅かったんですよ。だから親には申し訳ないけど、せっかく田舎で育ったので、野蛮なこともいっぱいしたかったな。

橋本:私は真逆で習い事をしたかった。それこそバレエがやりたかったので。あとはピアノとか。この仕事をしているとすごく必要だなと思います。

― いろんな人生があって、ないものねだりみたいなこともきっとあるんでしょうけど。

橋本:そうですよね。エライザちゃんの話を聞いて、自由な日々を宝物としてちゃんと大事にしようと思いました。

― 何事も捉え方次第なのかもしれませんね。おふたりが人生を前向きに歩んでいくために普段から心がけていることがあればシェアしていただけますか?

池田:最近、自分のダメなところをやっと認められるようになりました。子どものときから人に教えられると、ついつい「うるさいな」「ふん」って反発しちゃうんです。4人きょうだいの次女なんですけど負けたくなくて、そういう育ち方をしてしまったので。

だから最近は、とにかく聞く耳を持つことを心がけています。15秒我慢して聞けば、絶対におもしろいし、ためになるんだから。

橋本:私は三姉妹の次女なんですけど、最近姉が妹を慰めるためにグループLINEで送っていた言葉があって。「あなたがどんな仕事をしていても、どこで何をしていても、あなたがあなたでいることがあなたの人生なんだよ」と。なんだ、この名言……。本当にそのとおりだと思うんです。

私も仕事に熱中しすぎて、身体も気持ちも痛めつけてしまうことを長く続けていたんですけど、数年前からはできるだけ自分の心に正直に生きることにしていて。重い意味じゃないんですけど、どう死にたいかで全部選ぶんです。死ぬときに「あれやっとけば良かった」って思いそうなことは全部やるようにしています。

池田:刺さる。

― 『リライト』風にいえば、「私だけの物語」をちゃんと生きている。

橋本:無理やり繋げればそうかも(笑)。明日死ねるように今を生きるというぐらいの気持ちで、前のめりに生きています。

 

Profile _ 池田エライザ(いけだ・エライザ)
1996年4月16日生まれ、福岡県出身。2011年に『高校デビュー』にて俳優デビュー。主な出演作に『ルームロンダリング』(18/片桐健滋監督)、『貞子』(19/中田秀夫監督)、「FOLLOWERS」(20/Netflix)、『騙し絵の牙』(21/吉田大八監督)、『真夜中乙女戦争』(22/二宮健監督)、『ハウ』(22/犬童一心監督)、「DORONJO」(22/WOWOW)、『お前の罪を自白しろ』(23/水田伸生監督)、「地面師たち」(24/Netflix)、「海に眠るダイヤモンド」(24/TBS)などがある。映画監督として『夏、至るころ』(20)と、『MIRRORLIAR FILMS』(22)の「Good night PHOENIX」を発表した。21年8月より、ELAIZA名義で音楽活動を開始。2025年6月17日より、主演ドラマ『舟を編む〜私、辞書つくります〜』(24/NHK)の再放送が決定。

Instagram

dress ¥64,900・skirt ¥108,900 / MSGM (aoi 03-3239-0341), necklace ¥107,800・bangle ¥28,600・ring (pink) ¥44,000・ring (green) ¥27,500・open ring ¥22,000 / SWAROVSKI JEWELRY (SWAROVSKI JAPAN 0120-10-8700), shoes ¥20,900 / YELLO (YELLO 03-6804-8415)

 

Profile _ 橋本愛(はしもと・あい)
1996年1月12日生まれ、熊本県出身。10年『告白』(中島哲也監督)に出演し注目を浴び、12年『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八監督)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。最近では、映画『熱のあとに』(24/山本英監督)、『アナウンサーたちの戦争』(24/一木正恵監督)、『早乙女カナコの場合は』(25/矢崎仁司監督)、ドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(24/NHK)、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(25/NHK)などに出演。

Instagram

dress ¥40,000 / Bibiy. (Bibiy. https://bibiy.store/)

 


 

Information

映画『リライト』

2025年6月13日(金)全国公開

出演:池田エライザ、阿達 慶、久保田紗友、倉 悠貴、山谷花純、大関れいか、森田 想、福永朱梨、若林元太、池田永吉、晃平、八条院蔵人、篠原 篤、前田旺志郎 / 長田庄平(チョコレートプラネット)、マキタスポーツ、町田マリー、津田寛治、尾美としのり、石田ひかり、橋本 愛
監督:松居大悟
脚本:上田 誠(ヨーロッパ企画)
原作:法条 遥「リライト」(ハヤカワ文庫)
主題歌:Rin音「scenario」(ROOFTOP / ユニバーサル ミュージック)
音楽:森 優太
製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス

映画『リライト』公式サイト

©2025『リライト』製作委員会

  • Photography : Takao Iwasawa
  • Styling for Elaiza Ikeda : Misaki Takahashi(Sadalsuud)
  • Hair&Make-up for Elaiza Ikeda : Ken Nagasaka
  • Styling for Ai Hashimoto : Naomi Shimizu
  • Hair&Make-up for Ai Hashimoto : Yumi Narai
  • Edit&Text : Yusuke Takayama(QUI)