パリ・ファッションウィーク 2025年秋冬コレクションガイド — 境界を越えて生まれる新しいスタイル vol.3
Florentina Leitner/フロレンティーナ レイトナー
<Florentina Leitner(フロレンティーナ レイトナー)>が2025年秋冬コレクション「2 COOL 4 SCHOOL」で描いたものは、カレッジライフと超常現象が融合するユニバース。
日本の人気アニメ『ダンダダン』や映画『プリティ・プリンセス』、90年代のプリンセス・ダイアナから着想を得た本コレクションは、個人の変容と未知との遭遇をテーマに、若さの衝動と空想世界が交差する物語を紡いでいる。
ラインストーンで彩られたエイリアンガールのプリントや、UFOを想起させるメタリックキルティングのスカート、白いパフスリーブ、星型レーザーカットのプレッピースカートなどが、チアリーダー風の制服スタイルに異次元の要素を重ねている。
ブランドの代名詞である立体的な花やフリルに加え、ジュエリーデザイナーのエレナ・チューリンやサングラスブランド<Komono(コモノ)>とのコラボレーションが、現実とファンタジーのはざまに立つ少女たちの強さと夢見心地を際立たせていた。
Florentina Leitner 2025AW COLLECTION RUNWAY
Ann Demeulemeester/アン ドゥルムメステール
<ANN DEMEULEMEESTER(アン ドゥルムメステール)>は2025年秋冬コレクションにて、「迷い、そして見つけ出す思考」をテーマに、旅する精神を詩的に描いた静謐な世界を披露した。
コレクションは、風化や記憶、時間の経過を纏うような美学を軸に、無骨さと儚さが交錯するスタイルが展開され、荒涼とした砂漠を彷彿とさせる風景のなかで、再構築と変容のプロセスを静かに紡ぎ出した。
擦り切れたデニムや褪せたTシャツ、鋭いラインのブラックスーツ、襟のないジャケット、つば広のレザーハットなど、無機質で厳粛な佇まいのアイテム群が、旅人の孤独と強さを象徴するように登場。
本コレクションは、記憶と夢が溶け合う曖昧な風景を通じて、「衣服」というユニフォームが人の内面を映し出す鏡であることを改めて提示し、ブランドらしい内省的かつ芯のある美学を確かな足取りで更新している。
ANN DEMEULEMEESTER 2025AW COLLECTION RUNWAY
McQueen/マックイーン
<McQueen(マックイーン)>は2025年秋冬コレクションで「現代におけるダンディズムの再解釈」を掲げ、自己表現と反抗の精神をロンドンの夜に重ね合わせながら提示した。
コレクションは、ヴィクトリア朝のゴシックな要素や美学者たちの肖像を引き寄せつつ、儚くも強烈な装飾性と触覚的な豊かさが交錯する、詩的で挑発的な世界を構築している。
地金やビーズが刺繍されたマント、シャープなブリティッシュスーツ、フューシャやライラックのシルク、角張った彫刻帽やクリスタルマスク、さらにメタル細工のジュエリーや球体バッグなど、幻想と現実を行き来するアイテムが数多く登場した。
本コレクションは、装うことが単なるスタイルではなく、生き方や信条そのものであることを改めて示し、ブランドらしい緊張感と芸術性に満ちた視座から、ダンディズムの本質を鋭く掘り下げている。
McQueen 2025AW COLLECTION RUNWAY
MARINE SERRE/マリーン セル
<Marine Serre(マリーン セル)>は2025年秋冬コレクション「HEADS OR TAILS」で、幻想と現実、貨幣と象徴、そして継承をめぐる詩的な対話を、パリ造幣局という歴史的空間を通して表現した。
キャットスーツや構築的なレザードレスなど、身体性と記憶を軸に展開された47のルックは、1950年代や1980年代のファム・ファタール像を現代的に昇華し、官能と自立のあいだを縫うように構成された。
月の刻印を施したジュエリーや、再生素材から生まれたAURORAバッグ、MS CRUSHヒールなど、時間と価値の再解釈を宿すアクセサリーが、視覚と触覚の境界を揺さぶる存在として登場。
幻想を照らし出す“トロンプ・ルイユ”の美学を核に、衣服を通して社会や歴史との関係性を掘り下げ、ストリートからクチュールまでを横断する独自の視点で、ファッションの本質的な問いを浮かび上がらせていた。
MARINE SERRE 2025AW COLLECTION RUNWAY
Gabriela Hearst/ガブリエラ ハースト
<GABRIELA HEARST(ガブリエラ ハースト)>は2025年秋冬コレクションで、考古学者マリヤ・ギンブタスの神話的象徴論に着想を得ながら、「再生と循環」を軸とした女性性の根源に迫る物語を紡いだ。
コレクションでは、新石器時代の神話や螺旋、蛇、三日月などのモチーフを現代の衣服に抽象化し、ブラックカシミアや手縫いレザー、リサイクルデニムを用いて、力強くもしなやかな女性像を描き出している。
カシミアムートンやインターシャコート、シームレスなパイソンレザー、手編みニットや手織りレザーなど、素材と技術の高度な融合が印象的で、MarijaバッグやOhioスニーカーといったアクセサリーにも持続可能なアプローチが息づいている。
衣服を媒体に、古代の象徴と未来のクラフトが交差する場を築き上げ、女性の内なる神性と創造力が時代を超えて循環する様を、美と思想を共に宿す造形として静かながら確かな熱量で提示した。
GABRIELA HEARST 2025AW COLLECTION RUNWAY
Kiko Kostadinov/キコ コスタディノフ
<Kiko Kostadinov(キコ コスタディノフ)>は2025年秋冬コレクションで、「夜と朝のあいだの自分」という詩的な問いを掲げ、曖昧さと変容の瞬間に宿る女性のエネルギーを探求した。
ヴァリ・マイヤーズや1950年代パリのボヘミアン文化から着想を得て、下着とアウターの境界を揺るがすようなレイヤリングや、身体と衣服のあいだに生まれる空間を意識したシルエットが展開された。
ペイズリーアップリケのスリップドレス、構築的なプリーツニット、特注ロープ付きスーツ、職人によるペイントデニム、カスタムブーツやスプリットトゥスニーカーまで、官能性と構築性を併せ持つアイテムが多数登場。
本コレクションは、女性の身体性を束縛するのではなく、むしろそれを解放するための衣服を通じて、抑制と解放、フェミニンとマスキュリンのはざまを漂いながらも、自分だけの存在のあり方を証明した。
KIKO KOSTADINOV 2025AW WOMENS COLLECTION RUNWAY
UJOH/ウジョー
<UJOH(ウジョー)>は2025年秋冬コレクションで、90年代のスクールファッションを出発点に、制服という枠組みに対する個人の自由と美意識をテーマに掲げた。
デザイナー自身の原体験を起点に、規律のなかで芽生える反骨精神を、精緻なカッティングと多層的なレイヤードで再解釈し、懐かしさと革新性のあいだを行き来するスタイルを構築している。
プリーツのバランスを変えたスカートやオーバーサイズのベスト、再構築されたセーラーカラー、エアーフレイクを詰めたキルティングのコートやドレス、ルーズソックスを昇華させたレッグウォーマーなど、象徴的なアイテムが随所に登場。
記号としての制服をただ模倣するのではなく、そこに個の意思を織り込むことで、ファッションが持つ「規則への応答」としての側面を控えめながらも確かな存在感で表現していた。