旅が育てた感性とヴィンテージが紡いだ縁──Nigel Cabourn WOMANでShaShaが受け継ぐ、ナイジェルのDNA
中国・北京出身。大学で映画制作を学び、卒業後はテレビ局で7年間、番組ディレクターやアートディレクター、スタイリストとして活動。並行してファッション誌への寄稿、ヴィンテージショップのバイヤー、自身のブランドのデザインなど、幅広い経験を積む。豊富なヴィンテージの知識と独自のクリエイティビティを生かし、2026年秋冬コレクションから<Nigel Cabourn WOMAN>のクリエイティブに深く携わる。
<Nigel Cabourn WOMAN>のクリエイティブに携わるShaSha
服から始まった、ナイジェル・ケーボンとの関係
2026年秋冬シーズンから<Nigel Cabourn WOMAN>のクリエイティブに携わるShaSha。ナイジェル・ケーボンとは親友の仲だ。約10年前に出会って以来、二人は友人として一緒に旅をし、ヴィンテージショップやマーケットを巡り、それぞれが見つけた服や本、映画について語り合ってきた。そうした時間の延長線上に今回の就任があったという。
──<Nigel Cabourn WOMAN>のクリエイティブに関わってほしいという話を受けたとき、どのように感じましたか。
ShaSha:
とても大きな責任を感じました。でも、振り返ってみると、とても自然な流れだったようにも思います。<Nigel Cabourn>のデザインに携わる以前から、私にとってナイジェルは何年ものあいだ親友でした。一緒に旅をしたり、それぞれが集めたヴィンテージウェアを見せ合ったり、お揃いのようなコーディネートを楽しんだり。FaceTimeでもよく服を見せ合っていました(笑)。ちょっと可愛いでしょう?そうやってお互いのことを知っていくうちに、ナイジェルが「一緒に仕事をしてほしい」と言ってくれるようになりました。

──親友という間柄のお二人ですが、どのような出会いだったのでしょうか。
ShaSha:
ナイジェルと初めて会った日のことは、一生忘れないと思います。私たちの縁も、服から始まりました。
初めて会ったとき、ナイジェルはちょうどインタビューを受けていて、私は本来その場にいる予定ではなかったんです。
その日、私は1950年代のスウェーデン軍のナースドレスを着ていました。それがナイジェルの目に留まった瞬間、彼はインタビュー中だということも忘れて、まっすぐ私のところまで歩いてきたんです。そして、「このドレス、本当に大好きなんだ。何年も前から自分のコレクションに加えたいと思っていたものだよ」と言いました。
今年の初めに電話でその日の話をしたとき、ナイジェルは「最近は記憶力も衰えてきたよ」と笑っていました。でも、初めて会ったときも、2回目、3回目に会ったときも、私が何を着ていたのかは驚くほど鮮明に覚えていたんです。きっとそれほど服を愛していたんですよね。だからこそナイジェルはナイジェルだったんだと思います。

ShaSha:
私たちは興味を持つものもよく似ていました。さまざまな国や時代のミリタリーウェア、ワークウェア、生地、歴史上の人物、自然、旅、映画……どんなことでもずっと話していられました。物事を見る視点や美的感覚も、とても近かったと思います。

ShaSha:ナイジェルは、私に電話をして「今、何をしているの?」とよく聞いてきました。私の答えはいつも「仕事をしているよ」だったんです。ナイジェルは、好きなことと日々の生活を切り離せないところも私たちの共通点だと言っていました。「自分やShaShaみたいに、ここまで夢中になれる人間は珍しい」とも言っていました。だから私のことを「自分の女性版」と呼んでくれたのだと思います。ヴィンテージへの知識や私自身のスタイルだけではなく、ナイジェルの考え方を理解しながらブランドをつくっていける。そう感じてくれていたのかもしれません。
山への興味から始まった、2026年秋冬コレクション
ShaShaが初めて手がけた2026年秋冬コレクションのテーマは「Mountain Icons」。その背景には、ナイジェル・ケーボンが長年関心を寄せてきた山と登山家の存在がある。

2026年秋冬コレクションのビハインド
──デビューコレクションのテーマに「Mountain Icons」を選んだ背景を教えてください。
ShaSha:
ナイジェルは、山と登山家たちを心から愛していました。登山家たちの勇敢な精神や、彼らが身につけていた服は、いつもナイジェルを励まし、インスピレーションを与えてきたものです。それは<Nigel Cabourn>というブランドのDNAの一部でもあります。
なかでも、エドモンド・ヒラリーがナイジェルにどれほど大きな影響を与えたのかという話は、何度も聞いてきました。そこで2026年秋冬コレクションでは、1930年代から1960年代に活躍した登山家たちをインスピレーション源にしました。エドモンド・ヒラリー、グウェン・モファット、クロード・コーガン、バーバラ・ウォッシュバーンなどです。
極限の気象条件のなかでは、登山家の服は命を守るためのものです。だからこそ、非常に高い機能性と実用性を持っています。細かく見ていくと、とてもよく考えられたディテールがたくさんあります。こうした登山家たちや、彼らを記録したドキュメンタリー映像、写真を見ることは、私にとって大きなインスピレーションになりました。

本や映画、ドキュメンタリー、写真を見ながら彼らの足跡を辿り、ヴィンテージウェアにも触れながら、当時の服がどのようにつくられていたのかを見ていった。
厳しい環境に対応するためのポケット、身体を動かしやすくするパターン、長く使われることで生まれた生地の風合い。もともとは必要に応えるために生まれたディテールが、今見るとデザインとしても魅力的に映る。
2026年秋冬コレクションでは、そうした機能をそのまま再現せず、現代の女性が楽しめる服へと置き換えている。
ShaShaが選ぶ、今シーズン思い入れのある5アイテム
「友情の記憶を、ヴィンテージコーデュロイに刻んで」
1950〜70年代のアメリカで、学生たちが思い出やメッセージを描き込んだ「Senior Corduroy」が着想源。2020年、ShaShaがナイジェルとの友情をテーマに制作した“Friendship Skirt”を起点に、2026年秋冬ではジャケットとスカートへと展開された。
パンデミックの最中、ほぼ毎日のように電話を交わし、本や映画、日々の出来事について語り合った二人。その時間を象徴するモチーフをShaSha自身が手描きし、コーデュロイの上に落とし込んでいる。ヴィンテージカルチャーと個人的な記憶が重なった、今季を象徴するピース。
「ヒラリーのエベレスト遠征を、一着のニットに」
クラシックなカウチンセーターをキャンバスに、2026年秋冬コレクションの核となるエベレストの物語を描いた一着。着想源となったのは、エベレスト初登頂を成し遂げた登山家エドモンド・ヒラリーだ。
雪山や登山靴、標高「29,031.7フィート」、強い日差しを浴びた登山家の顔など、遠征を想起させるモチーフをウール100%のニットに編み込んだ。ヴィンテージアウトドアの素朴な佇まいと、グラフィカルな表現が共存するコレクションのキーピース。
「防寒具の機能を残して、1960年代のギアをバッグへ」
着想源は、1960年代に使われていたダウン製のハンドウォーマー。ヴィンテージアウトドアギア特有のユニークな構造を生かしながら、現代のアクセサリーへと再構築した。
軽量なダウンジャケット用素材に、内側はウール仕様。さらに、手を入れて温めるスペースと荷物を収納するスペースを分けることで、オリジナルにはない機能性を加えている。実用品のディテールをファッションへと転換した、遊び心のあるアイテムだ。
「雪山の迷彩に差し込む、エベレストのテントカラー」
ミリタリーをルーツの一つとする<Nigel Cabourn>にとって、カモフラージュは欠かせないデザインコード。2026年秋冬では、雪原で身を隠すために生まれたスノーカモをフィーチャーした。
特徴は、表裏で異なる表情を見せる両面プリント。一方にはスノーカモ、もう一方には鮮やかなイエローを配している。その色の着想源は、真っ白なエベレストの雪山に点在する登山隊のテント。ミリタリーの機能美と、遠征風景の鮮烈な色彩を一枚の生地に重ね合わせた。
「1940年代の実用品を、モードなデニムセットアップへ」
ジャケットとスカート、それぞれ異なる1940年代のアメリカンヴィンテージを再解釈したデニムのセットアップ。ジャケットはワーカーズデニムをベースに、大きなフロントポケットや背面のバックル、チェック柄のフランネルライニングといった当時のディテールを取り入れている。
スカートの着想源は、アメリカ海軍で使われていたランドリーバッグ。ワークウェアやミリタリーの実用品をそのまま再現するのではなく、シルエットやバランスを調整することで、ハイファッションとして成立するデザインへと昇華した。ともに日本製のセルビッジデニムを使用している。
ヴィンテージを今着たい服に変える、ShaShaのものづくり
ShaShaがデザインするとき、大切にしていることの一つが「面白さ」だ。目新しさだけを追い求めず、使ってみたときの新しい発見や、背景を知ってさらに好きになる感覚を与えたいという。


──ShaShaさんが考える良いデザインの条件とは何でしょうか。
ShaSha:
インスピレーションの源にあるのは、ヴィンテージ、伝統的な技法、自然、さまざまな人物、そして今の私たちのライフスタイルです。面白いこと、そして意味があること。その二つはとても大切です。人は、これまで見たことのないものに出会いたいと思うものです。ただし、それは<Nigel Cabourn>というブランドの考え方の上に成り立っていなければなりません。
ナイジェルと一緒に仕事をしていた頃、彼はよく私のデザインを「clever――よく考えられていて、気が利いている」と言ってくれていました。一つの服にいくつかの機能を持たせたり、細かな工夫を加えたりすることで、実際に使ったときに小さな驚きを感じてもらえると思っています。それが良いデザインの条件ですね。
──素材については、どのようなこだわりがありますか。
ShaSha:
天然素材を使うことです。自然から生まれた素材には、それぞれ違った表情があります。だからこそ、実際に触れて、その良さを感じてもらいたいです。私は長く愛せるクラシックな服をつくることが好きなので、そこに職人の技術や特別な天然素材、今では珍しくなった伝統技法を取り入れたいと思っています。商品を手にした人が、素材に触れたり、その背景の話を聞いたりして「こんなところまで考えられているんだ」と驚いてくれるのが嬉しいんです。
Shashaが描く、Nigel Cabourn WOMANのこれから

──2026年秋冬コレクションで最もご自身らしさが表れている部分はどこですか。これからブランドにどのような新しさを加えていきたいですか。
ShaSha:
私自身のクリエイティブな個性が最もよく表れているのは、コレクション全体にある「Joyful Energy――喜びに満ちたエネルギー」かもしれません。
ナイジェルが元気だった頃、私たちは「これから一緒にこんなことをしたいね」と、未来のことをよく話していました。一緒にやりたいと思いながら実現できなかったことを、これから少しずつ形にしていきたいと思っています。
世界には、本当にたくさんの面白い物語や、個性的な人たちがいます。それらも、これからのデザインのインスピレーションになると思います。過去に何があったのか、そして今何が起きているのかを知ることは、とても大切です。私は、新しいものは過去と切り離して生まれるものではないと思っています。私がブランドに加えられるものがあるとすれば、過去の素晴らしいものと今の時代を組み合わせた、シックなスタイルなのだと思います。

──ブランドを受け継ぐうえで、大切にしていきたいものはありますか。
ShaSha:
何より大切にしたいのは、ナイジェルが持っていた「“one of a kind”――唯一無二の精神とスタイル」です。ナイジェルがいつも言っていたように、「リアルな物語を持つ、リアルな人々のための、リアルな服」をこれからもつくり続けたいと思っています。
私たちがつくるものが、ただの一着で終わってほしくありません。着ることで気分が上がるような、そんなエネルギーを持った服にしたい。世の中にはすでにたくさんの服があります。だからこそ、手元に残しておきたいと思える、特別で意味のあるものをつくることが大切だと思っています。
──これから<Nigel Cabourn WOMAN>を通して、どのようなものを伝えていきたいですか。
ShaSha:
これから楽しみにしているのは、より多くの人が、最初は服の美しさに惹かれて<Nigel Cabourn WOMAN>を知り、その先にある物語にも興味を持ってくれることです。服をきっかけに、この世界にはこんな景色や、こんな人、こんな出来事があったのだと知ってもらえたら嬉しいです。
ナイジェルが亡くなったあと、共通の友人と話した言葉が、とても心に残っています。彼は、「一人の伝説が去ることは、ファッションから“ロマン”が失われることでもある」と言いました。私は、デザインにおいてロマンはとても大切なものだと思っています。今後、移り変わる空や雪山、広い海など、どんなものからインスピレーションを得たとしても、そこにある心を動かすものを、ロマンティックでありながら力強く表現していきたいです。

美しいと思った服を手に取り、その背景を知る。
そこから、知らなかった人物や時代、文化へ興味が広がっていく。
ナイジェル・ケーボンから受け継いだものを大切にしながら、ShaShaらしい「Joyful Energy」を重ね、<Nigel Cabourn WOMAN>のこれからが始まる。
Nigel Cabourn WOMAN
https://cabourn.jp/pages/woman
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)












