ジャンルにこだわらず『自分の好き』を表現し続けたい|ジュエリーデザイナー 春井里絵
17歳で渡米。ギローム・パジョレック(元CHROME HEARTS)からワックスカービングを学び、ジュエリーに興味を持ち始めた。GIA宝石鑑定士資格を取得後、フランス・パリに渡り、LA HAUTE ECOLE DE JOAILLERIEにて伝統的なジュエリーの知識を学び、研鑽を積む。帰国後、フリーランスデザイナーとしてadidas AG<Y-3>と契約し、アクセサリー全般のデザイン・制作に携わる。
2018年に<RIEFE JEWELLERY>を立ち上げ、2020年には<Yohji Yamamoto>のジュエリーコレクション<Yohji Yamamoto by RIEFE>のクリエイティブデザイナーに指名された。現在は<RIEFE JEWELLERY>と<Yohji Yamamoto by RIEFE>両方のディレクション・プロデューサーを務めている。
好奇心を刺激されたギローム・パジョレックとの出会い
—春井さんは石好きが高じてジュエリーデザイナーの道に進んだそうですね。宝石鑑定の資格も取得されているとか。
春井:石は確かに好きなのですが、ジュエリーデザイナーを志したのはロサンゼルスでギローム・パジョレックと出会ったことが大きかったです。
—<CHROME HEARTS(クロムハーツ)>などで活躍された方ですよね。
春井:ギロームがアクセサリーを制作している現場を見学させてもらう機会があって、ワックスカービングや石の種類についていろいろ教えてくれたんです。それで自分でもやってみたいと思うようになって。宝石鑑定に関しても「この世界に興味があるなら資格を取得したら」とギロームからのアドバイスでした。
—出会いは偶然だったかもしれませんが、その後の春井さんの人生を左右したのなら運命的でもありますね。
春井:子供の頃から好奇心は旺盛だったので、興味を持ったらすぐに行動するタイプではありました。それは大人になっても変わらなくて「好き」だと感じたことは突き詰めたくなるんです。石の魅力には資格の勉強をしているうちにのめり込んでいって、インクルージョンは石の価値を下げると言われてきましたが、私は表情に個性を見出したらインクルージョンをあえて選びます。他の人から見れば何も魅力を感じないような石でも自分が素敵だと思ったら迷わずピックアップするので、時には石加工の職人さんから見向きもされずに放置されているような石に魅せられることもあります(笑)。
—ジュエリーのデザインも「自分の好き」を大切にされていますか。春井さん自身が身につけたいと思うデザインなど。
春井:それはもちろんそうですが、<RIEFE JEWELLERY>を身につけてくれている方のことを想像しながらデザインしています。「その日に会う相手との関係がこうなら、こんなデザインを選びたくなるのでは」や「こんなシーンなら、こんなジュエリーを身につけたくなるのでは」なんてことを考えたり。それと同時に「こんなモノを作りたい」と自然と湧き上がってきたテーマをシーズンごとにすくい上げている感じです。そんな私のいろんな想いがジュエリーからも伝わって、共感してくれているから<RIEFE JEWELLERY>を選んでくれているんだろうなって思っています。
—最近はどんなテーマが湧き上がってきましたか。
春井:パリで初めてコレクションを単独で発表したときのテーマは「日本」でした。四季をイメージさせるカラーだったり、お寺などの建造物をモチーフにしたり、日本ならではの美意識をあらためて海外の方に見てもらいたいという想いがありました。
本気の音楽好きたちが集まってほしい「RIEFE SETS」
—何事にも好奇心が旺盛ということですが、ジュエリーに関しても趣味の範囲で留めることもできたと思います。それを職業にしようと思ったのはどうしてですか。
春井:私自身はジュエリーの制作はお仕事という感覚はなくて、自分が好きなことをやり続けている結果だと思っています。コレクションの発表も「素敵なジュエリーができたので、せっかくだから見てもらえませんか」という感じです。「RIEFE SETS」というミュージックイベントを主催していますが、それも自分が好きな音楽というジャンルで何かできないかという発想から生まれたものなんです。
—「RIEFE SETS」が目指しているのはどのようなイベントでしょうか。
春井:ブランドがミュージックイベントをやると主役はどうしてもファッションになりがちで、音楽は演出の一部のようになることもあります。でも「RIEFE SETS」は「Celebration of music」が発想の源になっているので、<RIEFE JEWELLERY>というジュエリーブランドとは切り離して音楽好きが集まるようなイベントにしたいと思っています。
—新ラインの<R-R>は「RIEFE SETS」と関連性がありますよね。
春井:<R-R>は「RIEFE SETS」をもっと楽しんでもらいたいと「フェスで踊る時に身につけたくなるアクセサリー」をコンセプトにしています。<R-R>は「RIEFE SETS」を開催したからこそ生まれてきたアクセサリーラインで、音楽イベントのためのユニフォームのように考えています。ジュエリーやアクセサリーと音楽という自分が表現したいジャンルが自然とつながっていった感じですね。
—春井さんがイベントを主催するほど音楽好きになったきっかけなどはあるのでしょうか。
春井:高校卒業後にアメリカに住んでいた時期があって、ちょうどレイヴイベントが流行っていました。そこでも従来の好奇心が騒いで「みんなに混ざって楽しみたい!」と、いろんなイベントに参加していました。私にとって音楽イベントはすごく心地いい場所だったんです。モッシュで騒ぎながらもリラックスできるという(笑)。現在も海外のフェスなどに参加することもありますが、心地よさというのは大人になってからも変わらないですね。
—「RIEFE SETS」に出演されているDJはどのような方が多いのですか。
春井:ジャンルでいえばハウスです。有名だからとか人気があるとかは全く気にしていなくて、私がまず空間をデザインし、その空間に合う「今いちばんカッコいい」と思う方に声をかけていて、一番初めにYAMARCHYさんに声を掛けました。出演してほしいDJの方には私の本気度を伝えるために直接連絡して依頼しています。
—知名度などよりも「自分の好き」がやはり最優先なんですね。
春井:それが全てのモチベーションです。<Yohji Yamamoto by RIEFE>に関しても、協業をする前から<Yohji Yamamoto>のファッションが大好きでしたから。
—<Yohji Yamamoto by RIEFE>がスタートしたきっかけは?
春井:過去に<Y-3 (ワイスリー)>のアクセサリー制作に携わったことがあったので、ブランドとのつながりはありました。それで<Yohji Yamamoto>に「私が作れるものは何かありますか」と伝えたら「10日後にショーがあるけど、その時のコレクションに合わせるショーピースは作れますか」と課題のようなものを与えられました。
—アイデアを考えることから制作まで含めて10日というのはかなりタイトですね。
春井:本当にこれまでの人生でいちばん自分を追い込んだかもしれないです(笑)。でも私が制作したショーピースやジュエリーは気に入ってもらえて、本番でもモデルさんたちが身につけてくれました。<Yohji Yamamoto>との協業は1回限りなのかなと思っていたら、ありがたいことにその後もずっと声をかけていただいています。
品質にこだわるために職人との信頼関係を大切にする
—現在は3つのジュエリーブランドを手がけていますが、思いついたアイデアをどのブランドに落とし込むか迷ったりすることはあるのでしょうか。
春井:それはないですね。アイデアを思いついた時点で「これは<RIEFE JEWELLERY>でやりたい、これは<R-R>で表現するとおもしろい」と明確なので。ファンの方は3つのブランドに親和性や共通項を感じることもあるかもしれませんが、私の中ではクリエーションの考え方はブランドごとに分けています。
—アイデアはどういう時に思いつくことが多いですか。
春井:具体的なデザインよりもコンセプトが先に決まります。それは日々の暮らしの中で考えていることが起点となることが多くて、今年の新作は「コミットメント」がテーマなのですが、それも時代のキーワードとして自分の中にあったものでした。「コミットメント」がテーマだとしたら、それを表現するにはどんな石がいいのか、デザインがふさわしいのか、という流れです。
—新作の7th Collectionは伊勢丹新宿店メンズ館のポップアップでお披露目されるんですよね。
春井:最近は男性のファンの方もかなり増えてきていることもあって、メンズ館から<RIEFE JEWELLERY>を取り上げたいと声をかけていただきました。ジュエリーを楽しむのは女性だけではない時代ですし、「コミットメント」というのもそんな多様性から生まれたテーマなんです。現代のパートナーとの関係性をジュエリーで表現するなら「エンゲージメント」や「マリッジ」よりも「コミットメント」がふさわしいと思いました。
—一生物のジュエリーという意味で、自分にとっての「コミットメント」として選んでもいいんですよね。
春井:もちろんです。<RIEFE JEWELLERY>はプレゼントとしてよりも、自分のためのジュエリーとして選ばれることが圧倒的に多いです。プレシャスストーンを使用したファインジュエリーに初めて挑戦したのも、そんな方たちの一生物になってほしいという思いからです。これまでも山梨県や新潟県や埼玉県などに足を運んで加工をお願いしている職人さんと密に連携してきたのですが、新作はさらにクオリティにこだわるためにコミュニケーションもより深くという感じでした。日頃から職人さんと築き上げてきた信頼関係があったからこそ、私自身が納得できる「コミットメント」のコレクションが実現できたと思っています。
—<RIEFE JEWELLERY>は媚びないかっこよさがあってモードなジュエリーのイメージでしたが、春井さんのモノづくりのベースは意外と職人気質なんですね。
春井:地域によって得意な加工というのがあるので、そこは作りたいジュエリーに合わせて最も信頼できる職人さんに依頼するようにしています。あとはクラフトマンシップへのリスペクトもあって、相談するだけでも作業を見させてもらうだけでもすごく勉強になるので職人さんとお話をするのは大好きです。「コミットメント」のコレクションは品質をとことん追求しましたが、だからといってこれまでのセミファインジュエリーへの愛着は変わらないですよ。全てが愛おしい我が子なので(笑)。
—春井さんの新しい挑戦に対してお客さんからどんな反応があるのか楽しみですね。
春井:これまでのファンの方が選んでくれるのか、新しいお客さんの目に留まるのか、自分でもどうなるのか全く想像がつかないです。でも、わからないからこそ今は楽しみの方が大きいです。
—「エンゲージメント」や「マリッジ」と違って「コミットメント」は「誰がどんな目的で選んでもいいんだよ」って言ってくれてる気がするので、そこに共感される方は必ずいると思います。
春井:共感してもらえて、選んでもらえたらそれがいちばんうれしいです。
—現在は百貨店やセレクトショップの出店はポップアップがメインですが、常設ショップで展開したいという思いなどはありますか。
春井:ブランドの世界観を確立させたいですし、お客さんとの対話も大切にしているので路面店を出せたらいいなとは思っています。自分で手を動かす作業も好きなので、できればアトリエも併設させたいです。
—ジュエリーデザイナーとして複数のブランドを手がけていて、音楽イベントも主催されていて、路面店というビジョンもあって。春井さんの「自分が好き」が次はどこに向かうのか楽しみです。
春井:アートも大好きなんですよ(笑)。何か新しいことを始めたくなったら、すぐにQUIさんにお知らせしますね(笑)。
RIEFE JEWELLERY
https://www.riefejewellery.com/
- Photograph : Kaito Chiba
- Interview & Text : Akinori Mukaino / Yukako Musha(QUI)