【BEHIND THE RUNWAY – SHINYAKOZUKA】ブランド10周年を迎え、これまでの感謝とこれからの姿勢を示す|Rakuten Fashion Week TOKYO 2025S/S
今回紹介するブランドは、ブランドを設立して10年を迎える<SHINYAKOZUKA(シンヤコヅカ)>。フォトグラファー千葉海斗によるライブ感たっぷりの撮り下ろしとともに。
バックステージレポート
今年でブランドを設立して10年を迎え、TOKYO FASHION AWARD 2024にも選ばれ、東京を代表するブランドにもなった<SHINYAKOZUKA>が選んだ会場は、国立競技場の地下駐車場へと続くスロープ。
会場のライティングは、小塚氏にとって大切な色であり、ブランドのアイコンともなっている“あお”で溢れる。ライティング同様に、今回のランウェイには、レッドカーペットならぬブルーカーペットが敷かれていた。
来場者には、いつものように封筒に丁寧に入れられたリリースと絵葉書が配布される。封筒は、今回のコレクションで重要な色である“あお”に塗られていた。これは、ショーのあとのインタビューでわかったことだが、小塚氏を含めスタッフ皆で一枚一枚”あお”に手塗りしたという。
ブランドの20年目へ向けた1歩目となる今回のコレクションは、小塚氏が20代前半に描いた絵本から始まった。
絵本のタイトルは『いろをわすれたまち』。
色のない世界に住む男性が、まちで“あお”の絵に出会い、その絵から出てきた不思議な生き物の住人に導かれ、色のある世界へ飛び込むというストーリー。
一見ファンタジーに見えるストーリーは、小塚氏にとってはリアルな話だそう。
ISSUEという形でコレクションを発表して7シーズン目を迎える今回のテーマは“picturesque or die”
特に“or die”という部分には、小塚氏の強い信念が見え隠れするが、ブランド10周年に、まさに小塚氏が伝えたかったという“変わらない”デザイナーとしての姿勢、誰かの素敵な背景になれればいいという思いが反映されているのだろう。
「人は生まれた時から何も変わらない」「変わる」・「変える」のはその人の背景で、誰かの素敵な背景になれればと思い、自身の作るものを「情景」と表現する小塚氏のデザイナーとしての姿勢はこの10年で確固たるものになったのだろう。
ルックは、絵本のストーリーに沿って展開される。ファーストルックは絵本の表紙がプリントされたニットでスタートした。最初は、色のない洋服を着用したモデルが無音の中で歩く。そこから、“あお”の洋服を着たモデルが登場し、徐々にカラフルな色のあるルックへと移っていく。
絵本の中でも主人公は色の世界へ導かれるが、ショーでは、カラフルな色のある洋服を着用したモデルが登場するとMr.Childrenの「1999年、夏、沖縄」が流れる。
地元の友人達との大切な曲だそうだが、小塚氏の伝える感謝の想いとミスチルの歌詞がリンクしており、感傷的な気持ちへ誘われた。
※権利の関係上、動画では音源が流れません。
絵本のストーリーの中で、“あお”は絵の住人に出会えた大切な色として扱われるが、それは小塚氏がデザイナーとして歩みを進める上で大切な友人や恩師との出会いと通ずる。
実際に小塚氏にとって、2人の親友のイメージカラーが“あお”だったことから、ブランドにとっても大切な色として採用された。
このように出会いを大切にしてきた小塚氏ならではと言えるアイテムも登場する。
ショーで度々登場した手紙を運ぶポストマンのカバンは、土屋鞄とのコラボレーションで生まれたもの。そのきっかけは、パリで土屋鞄の社長と出会い意気投合したからだそう。周りの環境や出会いに感謝し、色んな情景を描いていきたいというデザイナーの姿勢を表すアイテムと言えるだろう。
ブランドの10周年で改めて小塚氏は、クリエイションへ向き合う姿勢を伝えると共に、これまで導いてくれた周りの人々や環境に感謝を伝えた。
小塚氏がデザイナーとして歩み始めたとき、絵本を描き始めたとき、デザイナーを辞めたいと思ったとき、小塚氏を色のある世界へ導いてくれたすべてのきっかけになった人へ感謝を伝えつつ、これからも「情景」を描き続けると、変わらない姿勢を示すショーだった。
小塚氏は、自分の作るものが誰かにとっての「情景」となればとの想いを込める。これまでもそうだったように、これからも変わらず小塚氏は私たちに色々な情景を見せてくれるのだろう。
私たちにとっての<SHINYAKOZUKA>は、色のある世界に連れて行ってくれ、最高の「情景」をくれるブランドである。
デザイナー 小塚信哉 インタビュー
― 手がけた絵本に、小塚さんの決意表明というか強い意志を感じたショーで感動しました。11年目に向けて新たな決意を込めたのかなと。
ありがとうございます。いや、まぁ、決意も感謝も覚悟も全部、ですかね。
― タイトル「picturesque or die」の「or die」の部分に含まれているのは?
正直、僕はファッション以外やることない人間なんですよ。休みをもらっても何していいかわかんない。自分にはファッションしかない。そんななかで、ときどき若い人のブランドや学生の作品を見ると、ガーン!って衝撃を受けるんです。僕じゃ考えられないような世界観とか考え方を見せつけられたときに、「うわっ!!」って思うんですよ。「あぁ、いいな」って。
もちろん、僕のほうがスキルも経験値も上で、その部分では勝てるけど、そこで戦ってもねぇっていう……。おじさんはおじさんのいいところを出していかないと。みんながあきれるほどすごいことを、ふつうにやらないといけないなって思っています。
― 絵本を読んで考察してみました。作中に登場する色のない世界と色のある世界をつないでいるのが、小塚さんのまわりにいる人たち。背景、つまり“情景”です。つながりながら、小塚さんがデザイナーとして成長していく姿を描いたのかなと思いました。小塚さん的に色のない世界はどういうものなのでしょうか?
色のない世界っていうのは、僕にとって結構リアルな部分。ブランドを始めて5年ぐらいは「もうやりたくないな、やっていても意味がないかな」って思っていて。何をやっても楽しくなくて、本当に色がない感じだったんですよ。それを、色のある世界に戻してくれたというか連れてきてくれたのが、親友たちや恩師なんです。彼らが夢を見させてくれた。
― ショーの前半、無音の中でモノトーンのアイテムが続きました。次第に青や、イラストを描いたルックが続き、中盤でミスチルの曲が流れ出すとともに、カラフルなルックが登場してコレクションが色を帯びてきました。
音楽は最初、2曲用意したんです。ただ、 “ミスチルバイアス”ってすごいじゃないですか。今までもエレカシ、ブランキー・ジェット・シティの曲を使ってきましたが、いちばん難易度が高いなって正直思ったんです。だけど、リリースにも書きましたが、この道に進むきっかけを与えてくれた親友たちが僕の上京前夜に集まって、一緒に演奏した曲がミスチルだったんです。だから今回はミスチルであることが大事だった。たまたま今回使った曲の尺が、色のある世界からフィナーレまできっちり合ったんで、じゃあもう最初のほうは音無しでいきましょうと。そっちのほうがコンセプチュアルだよねって。
― 今回のショーを作り上げていくなかで、チームメンバーとディスカッションしたりだとか、大切にしたポイントなどあれば教えてください。
今回タイトルが結構ヘビーじゃないですか。自分でも「うわ、気合入ってんなオレ」って思ってたんですよ(笑)。でもそれってすごくイヤなんですよね。言ってみれば、自分のなかで天びんがあって、これが水平に保たれると、いいコレクション。タイトルだけ意気込んでいたら、天びんは一方に傾いてしまう。だからヘアやメイクで、ちょっと抜けた感じ、遊んだ感じにしたかった。ボトムレスのスタイリングもそういう意図です。
― ISSUEという形でショーを発表してから、小塚さんのなかでファッションに対するアプローチ、向き合い方はある程度できているような印象を勝手ながら受けていたんです。小塚さん自作の絵本を拝見して、今回のショーで、そのファッションへの姿勢をオープンにされたのかなと。今後もこのスタイルで続けていくっていう宣言というか。ブランド10周年の節目を迎えて、気持ちに変化はありましたか?
これまで10年やってきて出した結論を見せたかった。誤解を恐れずに言えば、服にあんまり興味がないんですよ。ファッションは好きだけど。その「服」と「ファッション」の言葉の定義付けが自分のなかでできてきたのが、ここ何年かなんです。ファッションって何だろう→アティチュードかつ“情景”だよねって。「場所、音、モデルのパーソナリティ、そして服があり、ファッションができあがる」という考えが僕のなかでは強い。この考えはこれからも絶対変わらないです。だからデザインのことはあんまり言いたくない。というよりも、「ファッション」という大きなものに感化されて志したはずなのに、玄人になればなるほど、そっち(テクニカルな分析)にいってしまう。それがすごくイヤで。絵本を書いた当時よりも前に受けた、ファッションに対する感動みたいなものが、いちばん大事なんじゃないかなと思ったんです。
― 絵本のなかに『さて、今日はどんな情景を描こうか』という一文がありました。これは服作りを始めるときに毎回思っていることですか?
いや、そこを考えたらダメなものができあがる気がするんです。思いついたことがあれば心の内にしまっておく。それがいくつか集まったら、これとこれをこうしたら素敵なんじゃないかな、とか。正直、毎回「服でこれを伝えたい!」ということがなくて。まず最初は、「この景色にこういう服があったら素敵じゃない?」っていう入り方です。その最後の一文は、ちょっとイキって書いただけです(笑)。
ディレクター 梶浦慎平 インタビュー
― 今回のショーで梶浦さんが担った役割について教えてください。
ショー全体の枠組みを作ったり、お金のことだったり、モデルの交渉だったり。服のデザイン以外は全部。
― チームでショーを作り上げるうえで、小塚さんをはじめスタッフとどんなディスカッションがありましたか?
準備期間中、僕と小塚と齋藤くん(ショーディレクター)の3人でずっと話し合っていました。全体的な構想は小塚が考えて、それに対して僕が「コスト的に無理」とか。今回の招待状の封筒もめちゃくちゃロット数が多くて。「ここにコストをかけるなら、こっちを削らなきゃ無理だよ」「じゃあ自分で塗るわ」って。もう殴り合いです(笑)。お金のことを考えずに好き勝手したらショーが成功するかっていうと、そうではないですよね。自分たちが汗をかくことも大事だと思っています。
― 招待状に添えられたメッセージを読んで、今回のコレクションは新たな幕開けに向かうための第一歩となっているのかなと感じました。あるがままの自分で、ブランドらしい道を進んでいく、という決意を固めているような……。11年目の活動にも目を向けていたのでしょうか?
僕も、今ここでちょっとギアを変えていかないと、それこそ海外にはたどり着けないなっていうのを感じ始めていたんです。次のシーズンではガラッと大きくは変わらないかもしれませんが、何かしらの変化を感じていただけるようにはしたいなと。僕らもそろそろ大人になろうっていうか。またケンカして終わるかもしれないですけど(笑)。
ショーディレクター 齋藤隆城 インタビュー
― ショーディレクターの役割を教えてください。
僕の場合ですが、年間を通してブランドがやらなければいけないことがたくさんある中で、ショーがどういう位置づけになるかというところを、デザイナー含めブランドのメンバーと徹底的に話し合います。予算、見せ方、観客に誰を呼ぶか、そういう根本のところ全部。ショーの中身をどうしようかってことになると、そのコアの部分は小塚さんの話を聞いたうえで決めていきます。まずはロケーションですよね。東京は開催する場所が限られているので、そのなかでいかに新しい見せ方ができるかを考えてロケーションを探します。あと、どういう音楽を使うか、モデルを何人呼んでどういうふうに見せるか、とかも。基本的には小塚さんの横につねにいて、彼が言ったことをどう広げていくかを考えます。相談役みたいな感じですね。
― 今回のショーを作り上げていくなかで、小塚さんをはじめチームのメンバーとどのようなやりとりがあったのでしょうか?
もうとんでもない時間を費やして小塚さんと梶浦さんと話をするんですけど、最後は「正直である」こと、「すべてに愛をもってやる」こと、そして「感謝をする」ことみたいな、クリエーションとは離れた話に行き着くんです。そのマインドを絶対忘れないようにって。それはチーム全員で共有しています。
― 小塚さんと距離が近い齋藤さんは、小塚さんの絵本を読んでどんな感想をお持ちになりましたか?
初めて一緒に仕事をさせてもらった時から読ませてもらっていたので、15年前から 一貫して何も変わってないことがすごい!と。言葉の選び方も、絵のタッチも、そして彼自身もそのコアのところが全然ブレていない。それが小塚さんの強さというか、人間の魅力だなっていうのはあらためて感じました。
メイクアップアーティスト Yoko Minami インタビュー
― ショーの準備を進めるにあたり、小塚さんとどのようなやりとりがありましたか? 印象に残っているエピソーがあれば教えてください。
信哉さんの描いてくださるキャラクターや絵本、世界観がしっかりしているので、それに沿って、メイクアプローチを考えて提案する感じです。
― ショーのコンセプトや絵本の世界観を落とし込むうえで、キーとなったことやポイントなどはありますか? また苦労したことは?
絵本のストーリーに沿ってメイクも変化させています。
表紙look0と裏表紙look39はクラシックに、いろをわすれたまち、いろのない世界では所々にしろのstrong highlightやwhite mascara。
そこに‘え’のじゅうにんによってもたらされた“あお”。“あお”のせかいでは陰影を“あお”にしたblue contouring makeupを。
肌はキャンパスをイメージしてマットに仕上げていたのですが、当日はとても暑くてモデルたちも汗だくになってしまって……(苦笑)。あと、今回は信哉さんから、「未完成さ、中途半端さを加えるために服の色に合ったマスキングテープを使いたい」との提案がありました。どう落とし込めばいいかすごく悩みましたが、いろんなギザギザに切って、まるで子どもが貼ったようなプレイフルな感じで、モデルの体のいろんな場所に貼っていきました。
ヘアスタイリスト Mikio インタビュー
― ショーの準備を進めるにあたり、小塚さんとどのようなやりとりがありましたか?印象に残っているエピソーがあれば教えてください。
小塚さんが書いた全ルックの絵が送られてきて、そこにウィッグの色や形などが細かく書いてありました。その世界観をさらに膨らませ、モデルのキャラクターとスタイリングを見て、ヘアを大袈裟に作るところ、シャープに見せるところ、などを調整していきました。小塚さんの撮影ではいつも、キーワードやお題を当日朝に聞き、お互いに思いついたことを話し合って発展していく、みたいなラリーで仕上げていくんです。今回のショーもその延長で作り上げていきました。
― ショーのコンセプトや絵本の世界観を落とし込むうえで、キーとなったことやポイントなどはありますか? また苦労したことは?
自分のなかで、“ずらす”がキーでした。毛質や髪色を統一しない。あえてすごくチープな毛質にしてポップさを演出したり、逆にきれいにカラーリングしてファンタジー感を出したり。幻想的、ポップさ、非現実感、夢のような雰囲気、夢の中での感情の起伏……そんなキーワードを具現化するウイッグに対比させるために、モデルの地毛をほぼそのまま使っているのもすごく大事なポイントです。
※バックステージの様子を撮影しているため、一部ヘアメイクは公式のランウェイとは異なります。
- Photography : Kaito Chiba
- text : Kaori Sakai
- interview & edit : Yusuke Soejima