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HARUNOBUMURATA 2025年秋冬コレクション、所作と内面がかたちづくるエレガンス

Apr 1, 2025
変化のスピードが増し、何が正解かも見えにくい今の時代。そんななかで、自分にとっての「誠実さ」や「確かさ」を信じて生きることは、思っている以上に勇気のいることだと思う。
揺れながらも、立ち止まりながらも、自分で選び、自分の足で進もうとすること。
その姿勢そのものが、今を生き抜く強さなのかもしれない。
<HARUNOBUMURATA(ハルノブムラタ)>は、そんな勇気にそっと寄り添ってくれるコレクションであり、その提案は深く刺さった。

HARUNOBUMURATA 2025年秋冬コレクション、所作と内面がかたちづくるエレガンス

Apr 1, 2025 - FASHION
変化のスピードが増し、何が正解かも見えにくい今の時代。そんななかで、自分にとっての「誠実さ」や「確かさ」を信じて生きることは、思っている以上に勇気のいることだと思う。
揺れながらも、立ち止まりながらも、自分で選び、自分の足で進もうとすること。
その姿勢そのものが、今を生き抜く強さなのかもしれない。
<HARUNOBUMURATA(ハルノブムラタ)>は、そんな勇気にそっと寄り添ってくれるコレクションであり、その提案は深く刺さった。

<HARUNOBUMURATA> 2025年秋冬コレクション「TRAJECTORY」は、ブランドとしての新たな挑戦を示したコレクションと言えるだろう。
ブランドのシグネチャーであるドレスに象徴される詩的なエレガンスにとどまらず、今季はその源泉を人の内面性へと深く掘り下げ、新たなエレガンスの定義を探った。

インスピレーション源となったのは、20世紀初頭の女性レーシングドライバー、Dorothy Levitt。
女性が車を運転することさえ珍しかった時代に、彼女は自由と意志を持って未知を切り拓いた。
無機質なマシンを操る繊細な手、そして「優雅さ」と「大胆さ」を同時に宿すその姿に、<HARUNOBUMURATA>は現代的なエレガンスのあり方を重ね合わせていく。

過去のシーズンから一貫して、<HARUNOBUMURATA>は、ポケットに手を入れ、立ち止まり、スカートが揺れ、空気をはらむ――そうした所作の一瞬に、美しさの本質を見出してきた。
ただ、今回のコレクションでは、その“瞬間”の美が、これまで以上に着る人の意志や内面と深く結びついていた。
エレガンスを、外見の美しさにとどまらず、「内からにじみ出る個性や所作に宿るもの」として再定義している。

今季のコレクションの中核にあるのは、「Dorothy Levittが体現した『慣習を打ち破る強さ』と、そこから自然に滲み出る『余裕のようなエレガンス』」。

今季の最大の革新は、エレガンスに対する「完成美」の追求ではなく、むしろそこから“意図的に逸脱する”ことで生まれる「揺らぎの美」を肯定した点にあるだろう。

たとえば、あえて洗いをかけてクシャクシャに仕上げたシャツに、プリーツの効いたスカートを合わせたルック。
ハリとゆらぎ、粗さと繊細さ――質感や動きの対比を際立たせることで、従来の「エレガンス」という文脈に揺さぶりをかけ、その定義そのものを更新しようとする姿勢が感じられた。

そこにあるのは、アイテム単体の美しさではなく、異なる要素を“掛け合わせる”ことで立ち現れる、新たなエレガンス。

また、素材使いもその思想を映し出している。
レザーのような艶を持つオイルコーティングのダスターコートには、内側にモヘアの柔らかさを重ね、インダストリアルなパンツにはワーク構造のディテールを忍ばせつつ、落ち感とシルエットの美を融合させている。
「対極の質感や機能を掛け合わせることでこそ、エレガンスは更新されうる」という哲学が、そこには確かに宿っている。

トップをコンパクトに抑え、裾に大胆なボリュームを持たせたスカートが、身体の動きとともに軌跡を描く。
その動きは、単なるスタイリングの演出ではなく、「速度を纏うことで生まれる身体の解放」を暗示し、結果としてそれは、「時代の障壁を軽やかに超えるための装い」へと昇華されている。


こうした思想を象徴するのが、Levittの言葉──「手鏡を持って運転せよ」。
「視点の転換」というこの発想は、今季のコレクションにおける副次的なモチーフとして扱われ、
プリントやカッティング、素材の重ね方、ドレーピングといったディテールにまで、その思想が織り込まれている。

グラデーションのプリントには、鏡に映り込む風景をモチーフに、“スピードの中で切り取られた一瞬の視点”を表現。

Levittが語った「視点を変えることの美しさと大胆さ」を、視覚的に落とし込んだ象徴的なディテールとなっている。

今季の<HARUNOBUMURATA>が提示したのは、「完成された美しさ」ではなく、「不均衡や緊張、余白と揺らぎの中に見出されるエレガンス」。
そこには、着る人の内面、意志、そして行動が映し出されている。

描かれる女性像は、「自らの意思で選択し、しなやかに変化する存在」。
その姿を浮かび上がらせたコレクションは、まさにブランド自身が「慣習を打ち破り、自分をも超えていく挑戦の軌跡」のようにも見えた。

そして<HARUNOBUMURATA>の服は、纏うことで自然と背筋が伸びて、自分の足でしっかり立てるような気がする。
気持ちが少し揺れているときも、「大丈夫」と背中を押してくれるような、そんな確かな存在。
まとう人の内側にある意志を、さりげなく、けれど確かに支えてくれる――そんなコレクションだと感じた。

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  • Text & Edit : Ysuke Soejima(QUI)

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