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素晴らしい人と、その人の匂いを撮る 。フォトグラファー 淵上裕太

May 22, 2019
淵上裕太、31歳。2016年から「路上」というタイトルで作品を発表し続けているフォトグラファーだ。真っ直ぐにこちらを見据える被写体からは、まるで人生そのものが滲み出るかのような圧倒的な存在感を感じる。文字通り路上で“人”を撮り続ける彼に、作品に込める想いをきいた。

素晴らしい人と、その人の匂いを撮る 。フォトグラファー 淵上裕太

May 22, 2019 - FEATURE
淵上裕太、31歳。2016年から「路上」というタイトルで作品を発表し続けているフォトグラファーだ。真っ直ぐにこちらを見据える被写体からは、まるで人生そのものが滲み出るかのような圧倒的な存在感を感じる。文字通り路上で“人”を撮り続ける彼に、作品に込める想いをきいた。
Profile
淵上裕太(ふちかみ・ゆうた)
フォトグラファー

1987年 岐阜県生まれ
2014年 名古屋ヴィジュアルアーツ 卒業

http://fuchikamiyuta.com

【個展】

2015年 「瞼に映る黄色」Bar鳥渡・東京
2015年 「瞼に映る黄色」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京
2015年 「還る」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京
2016年 「どうすることもできない」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京
2016年 「路上〜私の心を奪うために〜」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京
2017年 「Spotlight」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京
2017年 「路上Ⅰ」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京
2018年 「路上Ⅱ」TOTEM POLE PHOTO GALLERY・東京

人が苦手で、カメラを通じて理解したかった

ー 写真を撮りはじめたのは、いつごろ、どんなきっかけだったのですか?

淵上裕太さん(以下淵上):大学を卒業した後、車の整備士として働いていたのですが、このままの人生に疑問を感じていたんです。昔から表現をしたいという欲求はすごくあって、でも絵画とかスキルが必要なものは僕にはできない。カメラならできるんじゃないかと思って、整備士の仕事を辞めて写真専門学校に入ったんです。

ー 何かを表現したい、というとき被写体に“人”を選んだ理由は?

淵上:学校に入って、はじめて鬼海弘雄さんの写真集を見て、その影響がとても大きいです。あと、その頃の僕は人間がすごく苦手で、だからこそ興味もあって。カメラを通じて、人間を理解したいなと思って撮りはじめました。

撮る人を尊敬しているし、立っているだけで素晴らしいと思う

ー 路上で人を撮るときは、どのように声をかけているのですか?

淵上:カメラを持って歩いて、そこで直感的に気になった人、例えば、なんでこんな服を着てるの?とか、なんでこんな表情をしているの?とか。そう思った人に声をかけて、その方の“どこがステキと思ったか”を伝えています。

例えばこの人は、街の中ですごく際立って見えて。光で輝く筋肉の感じとか、路上で立っている姿が素晴らしかった。

「僕は路上で気になった人に声をかけて写真を撮っている者なんですけど、すごくいい筋肉ですね」と声をかけました。撮影するときは、必ずその人と向きあいたい。皮膚や服も感じたいという気持ちがあるので、被写体の方にはレンズを見てもらって、正面から写真を撮るということを続けています。

ー 素人の方はこんなまっすぐにカメラを見られるものでしょうか?

淵上:よく言われるんですが、一切苦労したことはなくて。自然と声をかけて、OKもらった人を普通に撮っていたらこうなったという感じです。僕は、声をかけた方をかっこよく見せたいし、この人たちの素晴らしさを伝えたい。だから、ただまっすぐ向き合って撮りたいんです。立っているだけで素晴らしいと思っているので。

人間くさく、必死で生きている人に救われる

ー とても個性的な方々を撮られていますが、どうやって出会っているのですか?

淵上:歩いていたら自然に目につきます。好きなんだと思います。好きだから撮りたいと思うし。男の人がかわいい女の人を見て反応するのと同じなんですかね?

この先、僕が撮っているような人たちは減っていくんじゃないかと思うんです。僕の思う人間らしさや個性はなくなっていくんじゃないかと。

人間くさい部分はあったとしてもネットの中にあって、路上には出てこないんじゃないかな。そう意味でも、その変化を撮り続けていきたいなと思います。

ー 「路上」はライフワークとして撮り続けていく予定ですか?

淵上:そうですね。はじめは何かを表現したいという気持ちで写真を撮っていましたが、今は“残したい”という気持ちが強くて。

写真って、見る人のこれまでの人生によって見方が変わるのがおもしろいところ。だから僕がこう捉えてほしいというよりは、こういう人たちがいたということを写真として残したいという気持ちでやっています。

僕の撮っている人って、すごく必死で生きている人が多いように感じています。だから、僕自身励まされるし、救われているところがすごくある。

こういう素晴らしい人たちがいて、同じ時代を生きているってことを知ってもらいたい。だから多くの人に見てもらいたいと思っています。

「いつも上野公園にいる方。よく会って、仲良くなって、いつも撮らせてもらっています」

「東京が大雪だったとき、不忍池でお客を待っていたお姉さん。池のまわりには僕とお姉さんだけの、二人きりの世界でした」

「彼は僕のバイトの元同僚。お笑い芸人を目指していたんですけど、この写真を撮った一週間後に地元に帰りました。お笑い芸人とか写真家とか、いろいろ葛藤があるじゃないですか。同志みたいな感じです」

新作「路上Ⅳ」ではカラーフィルムに挑戦

ー 次回展示の「路上Ⅳ」では、はじめてカラーフィルムにチャレンジしているそうですね。

淵上:学生時代からモノクロしか撮ったことがなかったんですけど、はじめてやってみようと思って。写真を残すものとして考えるとき、色の情報も記録としてすごく重要じゃないかと。

フィルムが変わっているだけで、やっていることは変わらないですけど、カラーってすごくむずかしいんですよね。色が入っていることでその人に目がいかなくなる。まだ試行錯誤中ですが、僕自身いろんなことに挑戦して、経験できればいいなと思っているところです。

 

人の生き様を映し出すような力強さや、それゆえの危うさ。淵上さんの作品には、一人ひとりの被写体にストーリーを感じずにいられない。「自分がどういう想いで撮っているかを話すのも僕の責任だと思う」と語る淵上さん。ぜひギャラリーに足を運んで、その想いに触れてほしい。

 

淵上裕太/ 路上Ⅳ

2019.5.28(tue) – 6.9(sun)

TOTEM POLE PHOTO GALLERY(トーテムポールフォトギャラリー)

http://tppg.jp

〒160-0004 東京都新宿区四谷四丁目22 第二富士川ビル1階

Tel/Fax:03-3341-9341

営業時間:12:00 – 19:00 (close on Monday)

  • Text : Midori Sekikawa

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