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QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|cobble du デザイナー 森りこ

Oct 6, 2025
まだ広く知られていないからこそ、コアなファンを獲得しているというブランドが世の中には存在する。独自の世界観とファッションフィロソフィーの副産物として、コミュニティが形成されることも珍しくない。その不思議な引力と影響力は多くの場合が「才能」と呼ばれるが、それが未知であるほど強く惹かれるのがQUI編集部。
今回取り上げるのは<cobble du(コブルドゥ)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。

QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|cobble du デザイナー 森りこ

Oct 6, 2025 - FASHION
まだ広く知られていないからこそ、コアなファンを獲得しているというブランドが世の中には存在する。独自の世界観とファッションフィロソフィーの副産物として、コミュニティが形成されることも珍しくない。その不思議な引力と影響力は多くの場合が「才能」と呼ばれるが、それが未知であるほど強く惹かれるのがQUI編集部。
今回取り上げるのは<cobble du(コブルドゥ)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。
Profile
森りこ
デザイナー

1998年生まれ、東京を拠点に活動。服飾高等学校を卒業後、コレクションブランドでのインターンや販売などの経験を経てジュエリーブランドを設立。2024秋冬、ブランド名を新たに<cobble du>をスタート。ジュエリー制作で培った経験を活かし、独自の視点で創作を続ける。

服飾の専門学校で芽生えたモノづくりへの強い欲求

森さんは最初のブランドは20歳ぐらいで立ち上げていますが、ファッションをやるというのは早い段階から決めていたことですか。

森:中学校を卒業後、進学したのが服飾系の専門学校で、最初はスタイリストを目指していました。ですが、卒業制作でコレクションを作ったときに「自分はモノづくりの方が向いているかもしれない」と思って、それをきっかけにデザイナーへの想いが一気に高まりました。

中学卒業後ということは15歳でスタイリストを目指したということですよね。

森:最初は、服飾系の専門学校に興味を持って、そこからスタイリストという仕事を意識しました。当時は、大学進学のための高校にあまり興味が持てなかったんです。学校だけに限らず「みんながそっちを目指すなら、私はこっち」という感じでなんでもマイノリティーに進みがちなんです。ひねくれているわけではないのですが(笑)。

専門学校の卒業後の進路は?

森:大阪のセレクトショップ「11747391」で1年間、販売員として働かせていただきました。日々新しい学びがありましたが、卒業制作でモノづくりに目覚めて、制作が出来ていないことへの焦りが生まれたんです。それで動き出そうと上京してコレクションブランドでインターンとして働き、それから1年後に最初のブランドを立ち上げました。

デザイナーとしてのキャリアはジュエリーからだったんですよね。それは何か理由があったんですか。

森:とにかく自分の手を動かしてモノづくりをしたいという欲求が強かったんです。ジュエリーは初期はハンドメイドだったので自己完結できますし、多くの人の手を借りなくても最低限の工具などがあれば作品を生み出すことができました。モノづくりが最優先でビジネスとして重きを置いてなかったのですがありがたいことにお客さんもついてくれて、結果が出ると自信にもつながります。それで、ずっとやりたいと思っていた服をメインとして2024年から<cobble du>をスタートさせました。

ブランド名は響きがユニークですがどういう方向性で考えたのでしょうか。

森:意味も読み方もよくわからないようなブランド名にしたかったんです。なんだか耳に残る、気になる、お客さん自らが探し出したくなる、そんなブランド名にしたいと思ったので語感などはかなりこだわりました。

<cobble du>という名前はどうやって決めたんですか。

森:最初のジュエリーブランドが「C」から始まる名前だったので、それを引き継ぐ意味で「C」から始まる言葉を探し始めました。そしたら「cobble(コブル)」という言葉が引っかかってきて、調べてみたら「石」という意味でした。その時だけに限らず「何か気になる、引っかかる」と思ったことは自分にとって意味があることが多くて、私は質感や手触り、ミニマルな姿形、そんな石の存在感が好きなんです。響きもいい、しかも自分が好きな「石」という意味なら「cobble」しかないって。「du(ドゥ)」も同じく響きで選びましたが「数えられない」みたいな意味があって、カテゴライズされたくない想いもあって<cobble du>にしました。

ジュエリーでキャリアを積んだことで技術的なことでも発想法でも現在のコレクションに活きていることはありますか。

森:女性的なしなやかさもファッションの美しさだとは思いますが、私はジュエリーの硬質的なデザインが好きでした。金属的、鋭利的な美しさというか。服も同じく立体的、構築的なシルエットが好きで、それはジュエリーのクリエーションから派生した発想かもしれません。

服もジュエリーも発信したいクリエーションそのものは変わらないのでしょうか。

森:ジュエリーから服になったからといって発信したいことに変化はないですね。ただ、服はパタンナーや生地屋、縫製工場など多くの人が関わるのでハンドメイドジュエリーのように自己完結では済まされず、プロダクトを生み出す手段や工程は大きく変わりました。私の服作りはどちらかといえば完成形が先に頭にあって、逆算するように色柄や生地、ディテールを落とし込んでいくやり方なのですが、それも一人で全てを決めることはなくなっています。<cobble du>を立ち上げてからはリアルクローズとのバランスも意識するようになりました。ジュエリーは実験的なことばかりやっていたので(笑)。

気持ちがピンと張るような緊張感を表現の源泉に

<cobble du>がクリエーションのキーワードとして掲げているものはありますか。

森:ありますけど、あまり表には出していないですね。

その胸に秘めている言葉を知りたいです(笑)。

森:人が心の奥底に静かに、強く秘めている感情が好きで、言葉で表すなら「怒り」や「哀しみ」です。気持ちがピンと張るような空気感、緊張感が好きなので、それを表現の源泉にしているところはあります。

そのようなキーワードを通じて作り出した<cobble du>をどんな人に届けたいと思っていますか。

森:勝手な推測ではあるのですが、私自身が「やると決めたことはやり遂げる」という性格なので、<cobble du>の服が好きな人も私と生き方の姿勢が似ているんじゃないかなって思うんです。誰にとってもわかりやすくて、着やすい服ではないので、それでも選んでくれる人はハードルを乗り越えてくれているわけで、そういうお客さんとは共鳴し合えることは多いです。それはお客さんだけではなくモノづくりのチームにも同じことがいえます。

チームでやるからには熱量も見ている景色も目指している方向も全員が同じでありたいですよね。

森:そこはすごく大切です。パタンナー、工場、撮影メンバーなど挙げるときりがないですが、それぞれプロの方々の熱量がブランドを強くしてくれます。制作の際のコミュニケーションも密にしたいので、最近は生地の調達も縫製を依頼するのも国内です。ジュエリーや雑貨などの金属のパーツなども前ブランドの頃からお付き合いのある工場に相談しています。築き上げた信頼関係も人脈もすごく大切にしています。

我が道を突き進んでいるのかと思っていました。

森:本来の私は周囲の意見に流されやすい性格なんです。そこをコンプレックスに感じていて、だからこそ服作りに関しては「自分を曲げない」と強く意識しています。「みんながそっちなら、私はこっち」のような抗いも流されたくないという気持ちがあるからなんです。

そんな森さんの考えや姿勢も<cobble du>の独自性につながっているとは思いますが、デザインのインスピレーションは何から得ることが多いですか。

森:これといって決めているものはないですけど、自分が気になっていること、自分の感情に引っかかっていることをピックアップしていけばコレクションの全体感は自然と構築されていくことが多いです。ひとつひとつのアイテムを作っているときは全体のラインナップのことを考えることはなくて、展示会で全て揃ったときに「今シーズンに私がやりたかったことはこれだった」と初めて見えてきます。

これまで出会ってきたデザイナーさんの中にはそういう方は確かにいました。着地点は見えている、作るべき服もわかっている、でも制作段階ではまだ言語化はできない、みたいな。

森:本当にそうなんです。2026年春夏コレクションは「EMBODY」がテーマなんですけどそれも最後に出てきたワードで、私の中にあったのは「身体(からだ)」という単語だけでした。それが「整形」や「タトゥー」のようなワードに分裂していって、一着一着のインスピレーション源になっていきました。最近ロンドンに行ったときに目にしたマネキンのディスプレイが私が発信したかったことを体現していて、最初は感覚的に浮かび上がってきた「身体」という言葉の強度が高まって「EMBODY」に終着した感じです。

どんなディスプレイだったんですか。

森:女性が美しいとされるシルエットは時代によって異なりますよね。ボディコンシャスだったりふくよかだったり。ずらっと並んだマネキンは時代ごとの美しいとされるシルエットを表現していたんですけど、それに従うのも抗うのも自分次第だなと感じて「EMBODY」をテーマにしました。

憧れの存在に近づけるように自分を焚き付けている

<cobble du>は2026年春夏で4シーズン目ですがブランドのシグネチャーにしていきたいアイテムはありますか。

森:中指の部分だけが空いている袖のデザインがあって、これまでにロングドレスやカットソー、ニットなどで展開してきて2026年春夏はUVケアグローブを作りました。そのデザインを装着することで少し強気になれるような気持ちの変化があるといいなと思ってファーストから継続させています。

ブランドの世界観を作り出すということではルックやシーズンのビジュアル撮影で意識されていることはありますか。

森:「どこにも負けないビジュアルを作る」という意気込みと気合です。もちろん撮影の手法やアイデアはスタイリストの遠藤さんと綿密に打ち合わせをしてストーリー性やエディトリアルを重視しますが、最終的には「日本一かっこいいビジュアルを作ろう」って、締めくくりはその一言です(笑)。わかりやすいものを作りたくない思いはあって、SNSは重要なコミュニケーションツールではありますが、そこにアップするビジュアルも親しみやすさなどは排除するようにしています。あえて壁を作るというか。

cobble du 2026SS COLLECTION はこちら

<cobble du>はビジュアルに起用しているモデルの雰囲気が毎シーズン異なっている印象があります。

森:私が好きな体型やシルエットというのはある程度は決まっているのですが、それよりもコレクションのテーマを表現するのに最もふさわしいモデルを選ぶようにしているので、シーズンによって印象が異なるのかもしれないですね。オーディションで服を着てもらうと「今シーズンのテーマの表現はこの人しかいない」というぐらいバチっとハマるモデルがいるんです。

20代前半からデザイナーとして活動されている森さんの目には現在のファッションシーンはどのように映っていますか。

森:私はまだまだ挑戦し続けて、戦い続ける立場なので<cobble du>と周囲のブランドを比べたりする余裕はないです。ファッションをやり続けるために追いつきたいというブランドだらけです。

森さんが追いつきたいと思っているブランドは?

森:私の創作欲に火を点けたのが<COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)>なんです。追いつくなんて軽々しく言える立場ではないことは十分にわかっているのですが、憧れの存在として遠くから眺めているだけではダメだと自分で自分を焚き付けています。

頭に描いている<cobble du>の未来像のようなものはありますか。

森:近い未来像はブランドの視野を広げ、強度を高めるためにも早い段階でのヨーロッパ進出を考えています。

森さんが<cobble du>を通して世の中に伝えたいメッセージはなんでしょうか。

森:<cobble du>の表現の根底には「怒り」や「哀しみ」があるとお話ししましたが、私はそれらをネガティブに捉えていません。人間の素の部分が表れますし、エネルギーやパワーがいちばん宿っている感情だと思っています。私のクリエーションの動力源にもなっていますし、「抗う」というのも挑戦のひとつであることを<cobble du>の服から感じ取ってもらえたらうれしいです。

 


 

cobble du

2024年の秋冬コレクションでデビュー。ブランド名はスウェーデン語で“石”を意味する“cobble(コブル)”と、フランス語で不可算名詞の前に置かれる“du(ドゥ)”を合わせた造語。

Instagramはこちらから!
@cobbledu

  • Photograph : Souta Kasahara
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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