夏菜 – 役に教えられる
役の過去を積み重ねて受け入れていく
— 映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』で婚約者を裏切る悪女役を受けたときの印象を教えてください。
今回のようなザ・悪女は演じたことが無かったので、最初に話をいただいたときはすごく嬉しかったです。こういう悪女がやりたかった、これはいい挑戦をさせてもらえる、と。
— 悪女は初めてとのことですが、役はすっと受け入れられましたか?
そうですね。イメージが湧きまくりでした。でも最初の登場シーンとか、(山﨑賢人さん演じる高倉)宗一郎と過ごすシーンは難しかったというか、少し苦労しましたね。最初からお金や欲にまみれた悪女を作り込んでしまうと人間味が薄くなってしまうなと思ったので、(夏菜さん演じる白石鈴が)本当は宗一郎のことが少し好きなんだと仮定して。宗一郎のピュアな部分とか、自分とは違う生き方をしてきたであろうところに対して惹かれていて、だからこそ(清原果耶さん演じる松下)璃子に対して少しやきもちを焼いているということにしたんです。ただの悪女ではなく、ちゃんと白石鈴としての意味を持たせたいなと思っていました。
— 悪い役と良い役は、どちらが演じやすいですか?
悪い役ですね。だから今回は本当に楽しく演じることができました。私は良い子の役だと演技の癖がついてしまっていて、“ウザ良い子”みたいになってしまうんです。それが自分のなかでも気持ち悪い……。だからなるべく良い子は演じたく無いです(笑)。
— これまでドラマや映画などでさまざまな役を演じられてきた夏菜さんですが、役との出会いは毎回どんな気持ちで迎えていますか?
正直、似たような役のお話をいただくことも多いんです。でも役ごとに自分のなかで細かく細かく変えていく必要があるので、いつもどういう準備をしようかなと考えています。
— 準備というのは?
これから演じるその人は、どんな生い立ちで、どんな過去があるのか。そしてどんなトラウマを持っていて、人生で最も悲しかったことは何か、とかを考えてノートに書いていくんです。これまで怒ったことや嬉しかったことなどを一つひとつ自分のなかで作り上げていって、実際に声を出したり頭のなかで想像したり。その人の気持ちになって、悲しかったことを思い出して本当に泣けるのかをやってみて…ということを繰り返しています。
どんな過去があるかによって全然異なる人間になるので、そういう細かいところを見付けて積み重ねているんです。大変な作業だなって思いながらも、いつも受け入れて向き合っていますね。
— その一人ひとりの違いは、夏菜さん自身が脚本から読み取っているんですか?
そうですね。その作業をしないと、息をしているだけの瞬間とか0.5秒の間が埋まらないという感覚が自分のなかであって。私はもともと、すごいストイックで真っ直ぐなタイプだったんです。今はもう全然違うんですけど、(役に向かう準備に関しては)そういうストイックな部分が残ってしまっているんですよね。そのほかはもう少し楽にやろうって柔軟性が生まれましたけど。
— その柔軟性が生まれたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
たぶん、そういう自分に疲れたんでしょうね(笑)。ストイックにやりすぎることでお芝居もやりすぎてしまって。みせるお芝居のラインよりも、自分のなかで気持ちが良いお芝居のラインが先にあるんです。だから、観ている人からするとすごくうるさい “○○すぎる”という過剰な芝居になってしまって。
これではダメだ、これだとみんなに受け入れてもらえないって気付くことができてからは、引いて引いてお芝居をするようになりました。自分のなかの最大値はわかっているので。
— でもそれだけ、夏菜さんのなかでお芝居に対しての想いがあるのでしょうね。
熱く語る人があまり好きではないので、熱が無いように見せているんですけどね。でも実際は……あるんだろうなあ。ちょっとしたこだわりが。
俳優業は毎回自分との闘いで、孤独な作業
— さまざまなフィールドで活躍している夏菜さんですが、バラエティなどのお仕事と役者のお仕事ではどのように気持ちを切り替えていますか?
バラエティのときは、基本的に素のままです(笑)。本当に家でもずっとこんな感じなんですよ。だからバラエティに出演するときはあまり疲れないですし、すごく楽しめる。好きな場所だなって思っています。
役者のお仕事は、役に教えられることが多いですね。悔しい思いとか、プレッシャーとか、自分にとっての成長とか。演じることによって自分自身を見つめ直すきっかけになることもあるし、いろんな考え方があるんだなって視野が広がることもあります。
— 役に教えられるというのは?
もともと本をあまり読まないこともあって、俳優業を通して役から学ぶことがなかったらいまのような人格形成はされていなかっただろうなと。いろいろな役をやってきたからこそ、夏菜という人間の厚みが一枚ずつ増えているんだろうなと思います。そういう意味でも、俳優業は自分に無くてはならないものです。
— いままで演じてきたいろいろな役が蓄積されている感じなんですね。
いい意味でも悪い意味でも、本当にいろいろな影響を受けています。だから自分の考えも、性善説になってみたり性悪説になってみたり、結構変わりがちかもしれません。でも結局は元の自分に戻る気もしていますけどね。
— お仕事をスタートして、いつごろからお芝居にのめり込むようになりましたか?
そんな瞬間は無いです(笑)。コメディータッチの作品を撮っているときは楽しいですけど、俳優業はものすごく大変で体力も要るし、毎回自分との闘いです。すごく孤独な作業ですし。
お芝居は相手があってできるものですが、まずは自分と向き合っていく作業だと思うんですよね。身を削って、一人の人生を責任持って演じなければいけないので。そして作品を多くの人たちに観ていただき、観てくれた誰かの人生にも影響するかもしれないって考えると、やっぱり適当にはできないなって思います。
— その孤独な作業や自分との闘いは、自分自身のため? それとも観てくれている人のために?
うーん、ハーフアンドハーフですね。自分自身と向き合わないと感情って出てこないんですよ。でも向き合いすぎてしまうと限界突破して見れた芝居にならないので、みせる芝居にするためにもハーフアンドハーフで。いつも頭の中にもう一人の自分がいて、泣いているシーンでもめちゃくちゃ冷静にコントロールしている感じですね。
— 「お芝居は相手があってできるもの」とおっしゃっていましたが、山﨑賢人さんや清原果耶さんとの共演はいかがでしたか?
山﨑くんは、ふわっとしていて、ほにゃほにゃ系男子っていうんですかね(笑)? 掴みどころが無い人で。ボン・ジョヴィを楽屋で熱唱したりエアギターをしたりする一面もあれば、役になるとスコーンって顔が変わるんです。その顔が変わる瞬間ってすごく色気があったりするから、ほんと惹き込まれるんですよね。何なんだろうこの人って。どういう経験をして山﨑賢人という人間になったんだろうって不思議で、すごく刺激になります。
果耶ちゃんはすごくしっかりしていて、ちゃんと自分を持っているので、果耶ちゃんの姿を10代の私に見せてあげてほしいってくらい。とにかく2人ともうらやましいですね。ヘラヘラ生きていてはダメだなって思いました(笑)。
— これまでの出演作でも影響を受けた方はいますか?
うらやましさでいったら、やっぱり『GANTZ』で共演した二宮(和也)さんですかね。二宮さんもどちらかといえば山﨑くんと似ている感じで。掴みどころが無い人だなと思っていたら、お芝居になった途端にバチンと入ってくるというか。私に無いものを持っているなと、本当に感じました。
どうやって役作りをしているんだろうってくらい、役作りの片鱗みたいな部分が見えなくて。あの感じは、真似したくてもできないですね。山﨑くんの目と二宮さんの目はすごくキラキラしている印象が強いです。
— そういう方々と一緒にお芝居することで、引き出されるものもありますか?
ありますね。一緒にお芝居をすると、こちらも自然にリアクションをしてしまうというか、体や表情が自然に反応するような感覚があります。
自分の人生を味わう時間も大事
— 今作は1995年が舞台ということもあり、衣装も時代を感じさせてるものでしたね。衣装を着ると“スイッチが入る”みたいなことはありますか?
すごくあります。ドレスを着ると背筋がピンっとなるじゃないですか。それと一緒で、やっぱり形からって大事。洋服を変えたり、髪型を変えたりすることによって、顔つきが変わることがあるので。あと、洋服は自分の人生観などを示すもの、これが私ですという部分を出すものだと思っています。
— 夏菜さんのInstagramにも素敵な洋服がたくさん載っていますね。
インスタには私服をぜんぜん載せられていないので、ほとんどスタイリストの三村(絵理香)さんの衣装ですね。でも、洋服はすごく好きです。先日もセリーヌ出身のピーター ドゥというブランドのパンツや、ボッテガ・ヴェネタの新作バッグを買ったり。実はいろいろ買っているんですけど、全身の自撮りとなると面倒くさくて…(笑)。
— 働き方が変化している昨今ですが、夏菜さんはお仕事とライフスタイルのバランスは意識して過ごしていますか?
意識しています。むしろそれがすごく大事だと思っているので。昔は、働いて働いて働いて働いてみたいな感じがベースでしたけど、それで一度止まってしまったこともあって。
あと、コロナ禍で働き方改革もあり、やっぱり日本人って働きすぎていたよねって思ったんです。最近は地方に住む人も増えてきて、そういう働き方もいいよねってすごく共感しました。仕事をすることも充実感に繋がるけれど、犬と戯れたり花を見たり、海へ行ったり。そういう自分にとっての幸福感を増やすことも大事なバランスだなって思います。
— 仕事が面白いと、気付かないうちについつい走り続けてしまうこともありますよね。
そうですね。走り続けて、あっという間に30歳に。仕事のことで頭がいっぱいになることが何年も続いていたけれど、自分の人生を味わう時間も大事だなと気付いたんです。プライベートでちゃんと休みをとっているからこそ、お仕事も全力でできるんですよね。
— では最後に、夏菜さんがいつもお仕事で大事にしていることを教えてください。
周りのことを見ながら調和しつつ、でも自分らしくいるということは、どの仕事のときも大事にしています。自分らしさを“出す”のではなく、自分らしさを“忘れないようにね”くらいの気持ちですね。
Profile _ 夏菜(なつな)
1989年生まれ。2006年ドラマ「ガチバカ!」(TBS)でデビュー。2012年NHK連続テレビ小説『純と愛』の主演に抜擢、その後も映画・ドラマに加えてバラエティー番組でも活躍する。主な代表作に、ドラマでは「ダブルス~二人の刑事」(EX)、「スペシャリスト」(EX)、映画では『GANTZ』(佐藤信介監督)、『鋼の錬金術師』(曽利文彦監督)、『銀魂2 掟は破るためにこそある』(福田雄一監督)、など。
Instagram
dress ¥151,800 / TADASHI SHOJI(TADASHI SHOJI 03-5413-3278)、shoes ¥293,700 / JIMMY CHOO(JIMMY CHOO 0120-013-700)
Information
夏菜さん出演映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』
2021年6月25日(金)ロードショー
時を超えて、もう一度会いたいー 1995年の僕と、2025年の僕で君を救え!
出演:山﨑賢人、清原果耶、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨臨、原田泰造 / 藤木直人
監督: 三木孝浩
脚本:菅野友恵
原作:ロバート・A・ハインライン(著)/福島正実(訳)「夏への扉」(ハヤカワ文庫刊)
©2021 映画「夏への扉」製作委員会
- Photography : Naoto Ikuma(QUI / STUDIO UNI)
- Styling : Erica Mimura
- Hair&Make-up : Yukio Mori
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)