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杉咲 花 – わかったつもりにならない

Dec 7, 2023
俳優は役にどこまで近づけるのか。
人は人をどこまで理解できるのか。

映画『市子』で社会から逃れるように生きてきた女性、市子を演じた杉咲花へのインタビュー。

杉咲 花 – わかったつもりにならない

Dec 7, 2023 - FILM
俳優は役にどこまで近づけるのか。
人は人をどこまで理解できるのか。

映画『市子』で社会から逃れるように生きてきた女性、市子を演じた杉咲花へのインタビュー。

この船に乗らない選択はない

― 『市子』、本当に素晴らしい映画でした。

ありがとうございます。

― そして杉咲さん、最高でした。

うれしいです。

― これを伝えられたので今日はもう満足なんですけど……。まず、『市子』のオファーをどのように受け止めましたか?

オファーをいただいて脚本を読んだときに、関わらなくてはならない作品だと直感しました。いち俳優としても、日々を営むひとりの人間としても、市子という人物に近づくことで自分が想像もつかなかった境地にたどり着いたり、何かを感じることができるのではないかと。

そして戸田(彬弘)監督がくださったお手紙に、「自分の監督人生の分岐点になる作品だと思っています」という言葉が添えられていたんです。そんな作品に私を必要としていただけたことがありがたい気持ちで、この船に乗らない選択はないと導かれるような感覚がありました。

― 作品に導かれるような感覚になることは珍しいのでしょうか?

オファーをいただけること自体に巡り合わせを感じるタイプだと思っているのですが、『市子』はちょっと異質といいますか。その圧倒的なエネルギーに飲み込まれるような感覚でした。

― 撮影前にはいつもどのような準備を?

私は心情面でのプランを作品に持ち込むことを避けているところがあって。本作であれば市子は東大阪の人なので、イントネーションを落とし込むなど、演じる役の暮らしが映るようなことに関しては丁寧に向き合っていきたい気持ちなのですが、内面に関して役を作っていくという行為が、個人的にプラスに働くとはあまり思えないんです。

― だからこそ実際的な部分にはしっかり向き合うわけですね。

それから今回は、戸田監督が作成してくださった市子の生い立ちが書かれた年表がとても参考になったり、身体的に満ち足りていない状態でいることが必要な気がして減量をしました。

― 市子を演じてみて、どんな女の子でしたか?

それは、今もわからないんです。

― では市子の中で大事にしてあげたいところはなにかありましたか?

穏やかな暮らしを求めている人だと思ったので、その感覚でいることを意識していました。

― その感覚は、杉咲さん自身も共感できるものでしたか?

そうですね。私もそんな毎日を過ごしたいです。

― 市子は他人から見られている自分と本当の自分の境界があやふやになっているところがあって、でもそれは市子に限らず、本当の自分なんて自分自身でさえ掴めないものですよね。杉咲さんも、他人から見た自分とのギャップで苦しむことや、ネガティブな感情を覚えることはありますか?

ありますね。

― たとえばどういう?

私も自分自身のことが分からなくなる瞬間がありします。どうしてこんなに怒ってしまうんだろうとか。その姿に戸惑う周りの雰囲気を感じとって、さらに自分のことが分からなくなってしまうような瞬間もある気がします。

― 仕事柄、役の印象で見られることも多そうです。

確かにそうかもしれません。ですがそこに関してはあまりネガティブな感覚はない方かなと思います。ただ、こういった取材でもそうなのですが、自分の言葉でなにかを話す際に、潜在的に「よく見せたい」と思ってしまう自分がいることを感じると、とても恥ずかしくなりますね。

― では、コミュニケーションにおいて大切にしていることはありますか?

他者のことをわかったつもりにならないことです。「この人は、こういう人だから」という感覚をなるべく持ちたくないなと思います。それはあくまで自分というフィルターを通して見ていることで、例えば相手に対してがっかりしてしまうようなことも、それは私が勝手に期待をして求めてしまっているだけだと思うので。

― 結局は一方的な押し付けに過ぎない?

そうですね。

 

市子に限りなく接近できた瞬間があった

― 今回、『市子』という作品を経験して得たものがあれば教えてください。

なんでしょうね……。この作品でしか感じられなかった感覚は間違いなくあったのですが、それはこの座組で、市子という役だったから出てきたものだと思うんです。なのでそんな表現をこの先求められたとしても、できるかわからないんですよね。

ただ『市子』という作品に出会って、自分がそんな状態になれたという事実だけが残っている感じなんです。

― これまでいろんな作品に出てらっしゃいますが、『市子』という作品に対してなにか特別な思いはありますか?

はい。

― それは言葉にできるものでしょうか?

私は、役に憑依するとか、入り込むということはほとんど不可能なのではないかと思っていて。かつては自分がそういう状態にあるのではと思い込んでいた時期もあったのですが、それはそんな自分に満足したかっただけなのではないかなと思うんです。“他者を演じる”ということは、どこまでも想像を続けて近づいていくことなのではないかなと今は思います。

そして本作では、市子という人に限りなく接近できた瞬間があったように思うんです。そんな感覚になれたことは、初めての経験でした。

― 役と杉咲さんってどういう関係性なんですかね。芝居を観ていると、役そのものだと確信できるような瞬間もあるのですが。

演じてる瞬間は自分がその役であるという実感を持っていたいと思っています。ただ、役と自分を完全に別の者として切り離すことはできないからこそ、個人としての私がどういうものに感動して、悔しくなって、喜びを感じてきたかということは、どこか演じる役にも反映されるような気がしていて。

― なるほど。俳優自身の人生が役に宿る。

演じる自身のフィルターを通した役になるはずだからこそ、どういう関係性かと問われると難しいですね。「演じる」という、文字通りな気がします。

― すごく腑に落ちました。『市子』という映画をどういう人に届けたいですか?

日々濃い関わりを持っている相手に対して、安心がある人に観てほしいです。相手のことを知っているという感覚があるほど、あなたは本当にその人のことを知っていると言えますか?ということを突きつけられるような話だと思います。

― 最後に映画にちなんで、杉咲さんの意外な「本当の私」をひとつ教えてもらえますか?

難しいですね。本当の私は、あまり器用なタイプではなくて(笑)。忙しい時ほど部屋が散らかっていくように、如実に自分の気分が環境にあらわれます。

― 部屋の状態で心の状態を窺い知ることができそうですね。

そうなんです。なので心がざわついているときほど部屋を片付けることを心がけています。そうすると内面的にもクリアになっていくような気がするんですよね。

 

Profile _ 杉咲花(すぎさき・はな)
1997年生まれ、東京都出身。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16/中野量太監督)で第 40 回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞 をはじめ、多くの映画賞を受賞。「とと姉ちゃん」(16/NHK)でヒロインの妹を演じ、「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」 (18/TBS)では連続ドラマ初主演を果たす。その後、NHK 連続テレビ小説「おちょやん」(20-21)と「恋です!〜ヤンキー君と白杖 ガール〜」(21/NTV)で第 30 回橋田賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に『十二人の死にたい子どもたち』(19/堤幸彦監 督)、『青くて痛くて脆い』(20/狩山俊輔監督)、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(21/三池崇史監督)『99.9-刑事専門弁護士 -THE MOVIE』(21/木村ひさし監督)、『大名倒産』(23/前田哲監督)、『杉咲花の撮休』(23/WOWOW)、『法廷遊戯』(公開中)、などがある。今後も「52ヘルツのクジラたち」(2024年3月公開)などが待機中。

jacket ¥47,300 / HARDY NOIR (Spick & Span LUMINE YURAKUCHO 03-5222-1744), turtleneck ¥16,500 / journal standard luxe (journal standard luxe OMOTESANDO 03-6418-0900),  skirt ¥136,400・belt ¥44,000 / CRISTASEYA (journal standard luxe OMOTESANDO 03-6418-0900), boots ¥75,900 / BEAUTIFUL SHOES (AUTHENTIC SHOE&Co. 03-5808-7515)

 


 

Information

映画『市子』

2023年12月8日(金)より、テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

出演:杉咲 花、若葉竜也、森永悠希、倉 悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
監督:戸田彬弘
原作:戯曲「川辺市子のために」(戸田彬弘)
脚本:上村奈帆、戸田彬弘
音楽:茂野雅道

映画『市子』公式サイト

©2023 映画「市子」製作委員会

  • Photography : Madoka Shibazaki
  • Styling : Tatsuya Yoshida
  • Hair&Make-up : Ai Miyamoto(yosine.)
  • Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)

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