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湯川ひな – 続けるという才能

Aug 23, 2023
SNS社会の光と闇を描いた映画『#ミトヤマネ』に出演する俳優、湯川ひな。
この春に大学を卒業し、さらなる飛躍を遂げようとする彼女に、本作やSNS、そしてお芝居と向き合うことについて話を聞いた。

湯川ひな – 続けるという才能

Aug 23, 2023 - FILM
SNS社会の光と闇を描いた映画『#ミトヤマネ』に出演する俳優、湯川ひな。
この春に大学を卒業し、さらなる飛躍を遂げようとする彼女に、本作やSNS、そしてお芝居と向き合うことについて話を聞いた。

本当の自分ってどういう人なんだろう?

― 完成した映画『#ミトヤマネ』をご覧になって、どのように感じましたか?

「何を観たんだろう?」という感じになって、最初は言葉が出ませんでした。でもたぶん、それがこの作品の面白いところなのだと思います。

― 今時のインフルエンサーのお話かと思ったのですが、ぐらぐらと心理的に揺さぶられる部分もあって、とても面白かったです。脚本を読んだときどう感じましたか?

ちょっと不思議なシーンや、読むだけでは何を意味しているのかわからないシーンもあったので、撮影前に宮崎(大祐)監督の過去作を拝見しました。どれも画が印象的だったので、きっと撮っていくうちに見えてくることがあるだろうと思っていました。

― 湯川さん演じる山根ミホと、玉城ティナさん演じる姉の山根ミトの会話ややり取りにはズレや違和感を感じるところがあり、特に印象的だったのは車のシーンでした。

あのシーンが入ることによって、ちょっと心がざわつきましたよね。

― そんな気になるシーンもありながら、ミホをどう演じていきましたか?

芝居をするというよりも、監督からはもう少し無機質なものを求められていたように感じます。「ミホという人はこういう人」と表すよりも、どんどん虚無になっていく感じを見せることができればと思って演じました。とにかくミトとミホが、スクリーンの中で必死になっていることがお客さんにちょっとでも滑稽に見えたらいいなと。

― なるほど。玉城さんとの共演はいかがでしたか?

姉妹役だったので一緒にいる時間も長かったんですけど、あまりテンションが変わらないところがすごく居心地よかったです。物事を落ち着いて見ているところとか、誰かに合わせたりせず自分の思ったことをちゃんと伝えるところがすごく信頼できる方でした。

― ミトのマネージャー・田辺キヨシ役の稲葉友さんは?

とても気さくで、コミュニケーション能力の高い方でした。そんなに積極的でない私に対してもよく話しかけてくださって(笑)。現場でも親しく接してくださったので、とてもありがたかったです。

― 「本当の自分がわからなくなる」というミトのセリフが印象に残りました。湯川さんは自分自身のことがわからなくなるときはありますか?

私は自分の中に極端な気持ちがあって、テンションがすごく高いときと低いときの触れ幅が激しくて、その差を感じる時に、「本当の自分ってどういう人なんだろう?」と思うときはあります。

― 演じた役の感覚が抜けなくなることもありますか?

今まではないです。むしろ覚えていないことが多いです。でも、もう少し芝居で自分自身を出すことができたら、もっと没頭できるようになって、楽しくなるんじゃないかと最近思っていて。今は何かを表現する時に“自分を見せない”という気持ちが強いので、少し自分が見えるくらいのちょうどいい力の抜き具合ができるようになりたいです。

― 湯川さんが理想とするような形でお芝居をされている方って誰かいますか?

今回ご一緒した、筒井真理子さんや安達祐実さんでしょうか。すぐ切り替えてその役になれる、そういう形が理想的だなって撮影現場を拝見して思いました。お2人とも「芝居をする」という自分の状態をわかっているように感じて。これまでの経験値でもあると思うんですけど。

― 作品でご一緒したからこそ見えた部分でもありそうですね。

はい。私はまだ、余計なことを考えたり、何か不安なことがあるとそのことをずっと考えてしまったりするので、カメラが回っているときにもう少しいろいろなことを手放せるようになれたらいいなと思っています。

 

芝居の中でもっと新しい世界が見えそう

― 本作ではネット社会の出来事が描かれています。今回の取材にあたって湯川さんのInstagramを拝見させていただいたのですが、投稿の感じがとてもすてきでした。文章を書くことが好きなんですか?

ありがとうございます。好きです。話すことが苦手で、書くことの方が自分の思っていることを伝えやすいと感じています。書く言葉の方が言葉自体に真実味を感じるので、意識的に感じたことを書くようにしています。

ー SNSとの付き合い方は意識されていますか?

同年代の子たちの中にはSNSを表現として活用している方もいて、リアルとSNSで全然違う人に見えるときがあります。私自身はその2つをあまり掛け離れさせたくないと思っているので、そこは意識して使っています。

― 今年の3月に大学を卒業されましたが、生活や仕事に変化はありましたか?

大学生の頃は卒業することに向けて頑張っていたので、いつも課題とか授業とかに追われている感覚がありました。芝居は芝居でいつも全力でしたが、何かを抱えながらやっている状態で。本当は勉強も仕事も100:100くらいの気持ちでやりたかったのに、当時はどちらもやりきれていない感じがしてしまっていて……。卒業した今では、準備も含めてすごく芝居と向き合えるようになりました。芝居の中でもっと新しい世界が見えそうだなと、余裕ができました。

― 以前、別のインタビューで「2つの場所があるのがいい」とお話されていましたが、そこからまた新たな変化があったのでしょうか?

その時は居場所が2つあることで、どちらかが大変なときはもう1つの場所があると思えていましたが、学生生活の最後の方はどちらからも何も得られていないと思うようになってしまって。「二兎を追うものは一兎をも得ず」ですね。卒業したことで、がんばるべきことを1つに絞ることができるようになって、今はシンプルでいいなと思っています。

― 大学ではフランス語を学ばれていたそうですね。知らない世界について学ぶことは好きですか?

知らない世界に物怖じすることはないですが、私はあまり社交的ではなく、結構頑固な性格なので、世界が狭まってしまうタイプだと思います。映画を観たり小説を読んだりすると、こういうことを考えている人がどこかにいるんだって思えてきて、実際に誰かと関わっているくらいの世界の広がり方を感じられます。

― ますますお芝居と向き合っていこうという意志とは逆に、不安な気持ちになることもあるのでは?

大学の時は卒業した後が想像できなくて、不安になることもありました。でも今は、本当の意味で芝居というものを楽しめる気がしていて、その不安はなくなりました。芝居をお金や生活とは結びつけずにやれることが理想的だなと思っています。芸術の世界なので、楽しめるだけ楽しみたいなと。

― これから先、見てみたい世界はありますか?

とにかく続けることが重要だなと感じています。続けてみないと続けた先のことはわからないですし、続けるということもひとつの才能だと思っていて。芝居をうまくなるにはどうしたらいいのかはわからないですが、続けることだったら頑張ることができるし、相応の実力を身につけられるかなと思っています。続けていった先の世界を見てみたいです。

― これまでにもさまざまな作品に出演されていますが、作品や役との出会いから湯川さん自身に変化はありましたか?

今までなぜ俳優をやめなかったのか考えると、クリエイターの方々との出会いがあったからだと思います。大学に行っているだけだったら出会えていない方々ばかりで、自分にとって財産になっています。大学でフランス語を勉強してみようと思ったのも、『そうして私たちはプールに金魚を、』の長久允監督がフランス文学を勉強していたことがきっかけにあるので。そういう影響もありますね。

― それはすごく大きな出来事ですね。何かを作る側への興味は?

今までは自分自身で何かを作りたいと強く思ったことがなくて。でもその気持ちがあまりないからこそ、作りたいものがあって作っている人たちとのクリエーションに興味があります。

― では最後に、映画『#ミトヤマネ』を観る方にメッセージをお願いします。

観ていると「これはどういう意味を表しているのだろう?」「どういう物語になるのだろう?」って思うことがあると思います。自分自身の価値というものが本当はどこにあるのか、そういうことを考えていただくきっかけになったら嬉しいです。物語を楽しむだけではなく、いろいろな疑問を考えながら観ることを楽しんでいただけたらと思います。

 

Profile _ 湯川ひな(ゆかわ・ひな)
2001年生まれ、東京都出身。2014年、TVCM『ミサワホーム』でデビュー。『あえかなる部屋-内藤礼と、光たち』(監督:中村佑子)で映画初出演。その後、主演を務めた『そうして私たちはプールに金魚を、』(監督:長久允)が、第33回サンダンス映画祭短編部門に正式招待、日本作品初のグランプリを受賞した。近年の主な活動に、映画『子供はわかってあげない』(監督:沖田修一)、主演ドラマ WOWOW『FM999 999WOMEN’S SONGS』、舞台『さいごの1つ前』(演出:松井周)、『スカパン』(演出:串田和美)、『BLINK』(演出:荒井遼)、ピンク・リバティ『とりわけ眺めの悪い部屋』(演出:山西竜矢)など。公開待機作に主演映画『誰が為に花は咲く』(監督:藤原知之)がある。

Instagram

earrings ¥9,900・ring ¥16,000 / MIRAH (STUDIO FABWORK 03-6438-9575), dress・shoes Stylist’s Own

 


 

Information

映画『#ミトヤマネ』

2023年8月25日(金)より全国公開

出演:玉城ティナ、湯川ひな、稲葉友、片岡礼子、安達祐実、筒井真理子ほか
監督・脚本:宮崎大祐

映画『#ミトヤマネ』公式サイト

©2023 映画「#ミトヤマネ」製作委員会

  • Photography : IKKI FUKUDA
  • Styling : Ayano Nakai
  • Hair&Make-up : Masako Takahashi
  • Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI)

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