この一枚からマニア道がはじまった | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 11
連載第11回目となる5月のテーマは「この一枚からマニア道がはじまった」
各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し“が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。
サイケデリックの申し子シド・バレットから広がった音楽の世界「夜明けの口笛吹き」
recommend by 商品部 プログレッシヴ・ロック担当 山口 誠さん
プログレに飽き足らず東欧音楽も探求。aka ソ連東欧ナイト主催/死の蛸壺/DJ何。
アーティスト名:ピンク・フロイド
アルバム名:夜明けの口笛吹き(2017 / ソニー・ミュージック・エンターテイメント)
スタッフのおすすめコメント:
私が20歳くらいの頃、シド・バレット在籍期のピンク・フロイドは『サイケデリックで異質だ』などと音楽誌でたまに紹介され興味を持ち、当時よく聴いていたミッシェル・ガン・エレファントの某シングルにジャケットデザインが似ていた(実際にはパロディ)のが後押しとなり、本作の旧版にあたる2001年版の紙ジャケットCDを入手したのを覚えています。
オリジナル・リリースは1967年、ピンク・フロイドの1stアルバム。当時サイケデリックの申し子としてシーンの中心にいたシド・バレットの才気あふれるソングライティング、サウンドギミックが詰まっています。甘美なメロディ、ソリッドなサウンド、どこか不思議な魔法がかかったような世界観。今聴いても色褪せていません。そして続くシド・バレット在籍期の2ndアルバム、シド・バレットのソロ、調べていくうちにUFOクラブやノッティング・ヒル・ゲート周辺のバンドの存在を知り、ソフト・マシーン、プリティ・シングス、トゥインク、ピンク・フェアリーズ、デヴィアンツ、ホークウインドなどに辿り着き、音楽探求の旅は続きました。私にとってこの1stアルバムが、アーティストの繋がりが根っこのように広がる英国サイケ〜プログレシーンの深淵の入り口となったと言えます。
本作は、2017年にリリースされた紙ジャケットCD。リマスタリングが施され、英国オリジナル盤のジャケットや付属品を丁寧に再現した秀逸の復刻盤です。特に、メガレア国内初版のミニチュア帯が嬉しいです。時は流れ、2024年、映画『シド・バレット 独りぼっちの狂気』が公開。興味がある方は、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。まだ知らないよという方は、騙されたと思って本作を聴いて、シド・バレットの魔法を体験してみてはいかがでしょうか。
中学時代の友人が東京に行った後に貸してきたデ・ラ・ソウル「3 Feet High and Rising」
recommend by 商品部 ソウル担当 / DIW 荒井 克宏さん
渋谷FAMILY / METROCKRIDE 他、都内を中心に月4、5本、年間50本ほどDJ活動をしている。
アーティスト名:DE LA SOUL
アルバム名:3 Feet High and Rising(1989 / Tommy Boy Records)
スタッフのおすすめコメント:
中学の頃、そんなに話さないけど同じ部活の友人が「東京行ってきた」と急に貸してきたのがこの DE LA SOUL(デ・ラ・ソウル)『3 Feet High and Rising』の CD。聴いて衝撃を受け、46分のカセットテープ×2に録音してタイトルをレタリング。以降、擦り切れるまで聴いて、レコードを購入するに至る。
まず最初の衝撃はジャケットのカッコよさ。「俺、こんなん聴いてんのよね(センスイイっしょ?)」みたいに、これ見よがしに部屋に飾ってた。実家出るまで、この 1st とシングルカットされた「Me Myself & I」(リミックスじゃないピンクの方)のジャケは壁にかけてあった。もちろん楽曲のカラフルさもハマッた要因。ニュースクールを知って、オールドスクールに興味を持ったり、サンプリングという文化を知って、ソウルなどネタ探しも始める。キッカケで FUNKADELIC(ファンカデリック) のファンになったり「Say No Go」ネタの HALL & OATES のレコード買ってみたり。それとクルーへの憧れ。ATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト), JUNGLE BROTHERS(ジャングル・ブラザーズ) それと QUEEN LATIFAH, MONIE LOVE など NATIVE TONGUE(ネイティブ・タン) 関連は見かけたら全買い。PRINCE PAUL は?BLACK SHEEP も NATIVE TONGUE なの?なんて議論も楽しい。とにかく好きなアーティストやレーベルの作品は片っ端から集めてた。
TRUGOY と ATCQ の PHIFE は亡くなってしまったけど、グループでもソロでもリリースが続いている。GORILLAZ や TOM MISCH が DE LA SOUL をフィーチャーしたり NERD「She Wants To Move (Native Tongue Remix)」みたいな、リスペクトを感じる作品も多いのも嬉しい。今も聴き続けてる原点みたいな1枚。まさにドハマリしたキッカケ。ずっと DE LA SOUL のレコードは買い続けてるし、今もアパレルとかグッズをオークションとかマーケットプレイスで探してしまう。結局やってることがずっと変わってないし、止める必要もないと思ってる。
テクノ歌謡のバイブル!歌謡曲の沼への扉を開いてくれた「イエローマジック歌謡曲」
recommend by ディスクユニオン昭和歌謡館 岩﨑 晃一さん
昭和歌謡館スタッフ。2013年の昭和歌謡館オープンから現在まで、ほぼ在籍。
アーティスト名:V.A.
アルバム名:イエローマジック歌謡曲(2005 / SONY)
スタッフのおすすめコメント:
YMOの裏側には広大な海が広がっていた!このCDはYMOの3人が作編曲で携わった楽曲を収録した3枚組コンピレーションで、いわゆるテクノ歌謡のバイブルでもあり、姉妹編「テクノマジック歌謡曲」とともに2005年の発売以来愛され続けているシリーズです。テクノ歌謡の魅力は、80年代ニューウェーブシーンとお茶の間テレビ番組が融合した面白さであり、アイドルの歌声とピコピコ電子音との相性の良さといいますか、誤解を恐れずに言えば歌ヘタでも楽曲の完成度には何らマイナスにならず、むしろ魅力的になっていくというところです。
このCDにも収録されている、宇宙人アイドル「スターボー」や中学生テクノポップ・バンド「コスミック・インベンション」が代表格で、中毒性のあるサウンドに眩暈がします。YMOのアルバムや3人のソロアルバムを聴きつくした私が行きついた先がテクノ歌謡で、歌謡曲の沼にずっぽりハマり、新しい扉を開けてしまった、そんなきっかけを与えてくれたCDです。
音の聴き方を変えてくれ、音への探究が始まった「BASIC CHANNEL」
recommend by 商品部 ハウステクノ担当 猪股 恭哉さん
ハウステクノ担当バイヤー。HOUSE definitive改訂版参加、ele-kingなど
アーティスト名:BASIC CHANNEL
アルバム名:BASIC CHANNEL(1996 / BASIC CHANNEL)
スタッフのおすすめコメント:
私は、ベーシック・チャンネルを聴き始めてからテクノのアンダーグラウンドさ、ディープなスタイルというものに興味が出てきたと記憶しています。渋谷宇田川町の奥地、通称シスコ坂にあった日本のテクノにおける重要なショップだったCISCOテクノショップで目についた金属製CDパッケージ。表側のなんだかわからないデザインと相まって、他のアルバムやMIXCDとは違う独特の主張を醸していました。買って家で聴きながら、裏のクレジットを読み、よくわからないけどなんだかとても気持ちいい音、と思った気がします(ダブについては全く知らなかったので、アンビエントとして理解。エイフェックス・ツインのアンビエント・ワークスと共に入眠導入装置として多用することに)。
カール・クレイグの別名義ペーパークリップ・ピープルのリミックス、それがマニュエル・ゲッチングのE2-E4を元にした曲であり、CDと12インチではバージョンが別で、12インチはクラブユースなハードなサウンドであることを知るのはまだ先のことながら、ベーシック・チャンネルをきっかけに、音の聴き方が変わって、こういう音はもっとないか?と色々と探していくことになりました(マイク・インクによるSTUDIO 1のような作品)。1995年に紙スリーヴでリリースされたオリジナル盤からは間もなく30年が経とうとしていますが、時間の経過と共に本作の残した美学が強くなっていると思っています。
GANGSTA RAPを深掘りするきっかけ「VISION OF A DREAM」
recommend by 商品部 ヒップホップ担当 渚 雄一さん
商品部ヒップホップ担当
アーティスト名:VONTEL
アルバム名:VISION OF A DREAM(1998 / FO LIFE RECORDS)
スタッフのおすすめコメント:
私がGANGSTA RAPを深掘りするきっかけとなった1枚を紹介したいと思います。そもそもGangsta Rapというジャンルを知ったのは小学4年の頃でした。CD・レコードショップにて偶然試聴した2Pac、Ice Cubeの楽曲から興味を持ち、西海岸のスタイルをメインに聴く機会が増えていきました。それから数年後の学生時代に、偶然ネットで見つけたのが本題のVontel / Vision of A Dreamです。それまで2PacやN.W.A.などメジャー系アーティストの世界しか知らなかった私にとっては、G-RAPというジャンルを深掘りしていくきっかけとなった非常に重要な1枚です。
Vontel / Vision of A Dreamは、アリゾナ州Fo Life Recordsより1998年にリリースされたアルバム。西のレジェンドプロデューサーBattle Catも一部プロデュースを担当。Roger Troutmanのトークボックスが炸裂する目玉の人気ナンバー“4 My Homiez”(同郷ラッパーBookieによる初っ端のヴァースが個人的にお気に入り。)を筆頭に王道90’s G-FUNK、女性コーラス絡みのメロウナンバーまで全編を通して非常に聴きやすく、万人受けする1枚だと思います。私がディスクユニオンの店舗スタッフ時代、有名アーティストやDJの方がVontelの曲をプレイした週に、お客様から直接、在庫のお問い合わせを頂いた事も何度かあり、印象に残っております。
90年代のGangsta Rap名盤は近年、かなりサブスクにて誰でもお手軽に聴けるようになりましたが本作は未だサブスク未解禁です。98年のオリジナルから何度かリイシューも登場しており、直近では、Most Wanted RecordsというG-Rap作品の再発をメインに力を入れているレーベルからリマスター盤やボーナストラックを追加したフィジカルも登場しておりますので、是非ともこの機会の入手をオススメいたします。
「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い
世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。
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