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岸井ゆきの – 私は忘れない

Mar 31, 2022
喪失を抱えて生きるには。映画『やがて海へと届く』主演の岸井ゆきのへのインタビュー。

岸井ゆきの – 私は忘れない

Mar 31, 2022 - FILM
喪失を抱えて生きるには。映画『やがて海へと届く』主演の岸井ゆきのへのインタビュー。

やっぱり私は変わらないんだなって確認できた

― 『やがて海へと届く』の脚本を読んだときの感想や心境を教えてください。

この作品への出演が決まったのは3年以上前で、主演映画として脚本を読んだのですが、今の形ではなかったんです。中川(龍太郎)監督が何度も書き直して、最終の脚本では(岸井さん演じる)真奈の喪失感がより深いものになったように思います。

― 喪失感を描く部分で変化があったと。

時代の変化とともに中川監督の伝えたいことも変わってきて。中川監督も以前大切な方を失っているんですけど、失ってからの時間を経験したことで、今のこの脚本になったんだと思います。あと、3年前から私の心の中に真奈がいたということがすごく重要だった気がします。

― 真奈を演じたことで、岸井さん自身の気持ちも変わりましたか?

根本的なところは変わっていないです。私はもともと友人が少ないタイプなので、会う人や着るものは基本ずっと同じだし、美容院や整体とかも変わらないんですよ。新しいものはあまり取り入れないタイプなので、変化したというよりは確認できたという感じでした。やっぱり私は変わらないんだなって。

― 真奈を演じるうえで、軸にしたことや大切にしたことは?

(浜辺美波さん演じる)すみれと真奈が仲良く過ごしていたころのパートを先に撮ったので、そこで感じた気持ちを最後まで持っておくことができました。真奈とすみれはあまりお喋りをするタイプではなかったので、大事な思い出を作って、思い出を発酵させていく感じでしたね。

― 浜辺美波さんとは、どのように関係を作っていきましたか?

役についての話はあまりしませんでした。でも「どこでお茶するの?」とか、そういう他愛もない話はいろいろしました。その中で自然と真奈とすみれができていったので、役や関係をあまり詰めていかない方がいいのかなと。

― すみれに対しての気持ちは監督ともお話したんですか?

すみれのことについては、監督にはあまり確認していないです。中川監督、演出はするんですけどあまり自分が思っている本質的なことは言わなくて。思っていることがバラバラな方がよかったっておっしゃっていたので、私も言いませんでした。言語化せずに、断定できない方がこの作品にとって大切なのかなと。「自分だったらどうなんだろう?」と思える方が豊かだと思ったので。

― 監督と一緒に向き合いながら、作り上げていかれたんですね。今回中川監督とご一緒してみていかがでした?

脚本のあるシーンに、「ここで真奈は何て言うのだろうか」って書いてあったんです。脚本上で問いかけられたことは初めてだったので、「変わった人だな~」と思いました(笑)。話していても、すごくビジョンが決まっているところもあれば、ほとんど決まっていないところもあって。「こうしたい」というものはあるんだけど、全部「こうしてください」とやってしまうと、僕の見たいものにはならないという。

― 監督の演出に対しての拘りが見えますね。

拘りはあるけど、思い通りにはやらないで欲しいという印象を受けました。確認したわけではないですけど、監督が描いている枠組みのなかで驚かせてほしいのかなと。中川監督は、自身の体験をよく話してくれるんです。でも、決してそれを追って欲しいというわけではなくて。

― すみれの不在を、真奈はなかなか受け入れることができませんでした。岸井さんは大切な人や物を失ったとき、それをどうやって乗り越えていますか?

「忘れない」って思うことですね。その人が「本当にいない」ということを認めるというか。「忘れないよ」だと、まだいる人に対しても言える言葉じゃないですか。「大丈夫、私は忘れない」っていう気持ちを心に強く持っていたら、顔を上げられる気がするんです。あとは抱えられるだけ抱えて、乗り越えようとしないことですかね。

 

古着の心意気が好き

― 本作はロケーションも魅力的でしたが、印象的なロケ地はありましたか?

真奈とすみれが大学生のときに電車に乗って行った千葉の菜の花畑です。圧倒的な景色で、本当に言葉がいらないというか。あのシーンも、あまり重要なセリフは言っていないんですけど、あの景色を共有したことが、2人にとっての思い出になっていて。あとは海のシーンですね。それこそ生命力や海の偉大さとか、今ここでものすごく地球がうごめいていることを感じた瞬間だったので。

― 部屋の美術もどこか幻想的で、すごく素敵でした。美術や空間から芝居に影響を受ける部分もありますか?

どういう部屋に住んでいるかによって役の印象が変わることもありますし、「もう少し生活感があった方がいいんじゃないですか?」と監督に話すこともあるくらい大事です。今回は少しファンタジーなところもあったので、ちょっと違う世界にいる感じを美術から受けました。私が住んだらもっと生活感あふれる部屋になってしまうんですけど(笑)。丁寧に暮らしていることがよくわかる部屋でした。

― 青のワンピースを着るシーンや、真奈の服をすみれが着るシーンなど衣装にも拘りを感じました。

今回、衣装合わせは結構苦労していましたね。監督の思う“何か”があったんですけど、それをうまく言語化できずにいたようで。決まった衣装は青が基調になっていて、真奈が着てそうだと感じられました。

― どの衣装もとても似合っていました。岸井さんはプライベートではどんな服がお好きなんですか?

古着が好きです。

― なぜ古着が好きなんですか?

心意気が好きなんです。何かを大事にしている感じがして。

― 心意気!

特にドイツの古着が好きなんですけど、西ドイツと東ドイツが統一されたときに捨てられてしまった服も多いみたいで。だから今残っているものはすごく貴重なんですけど、すごく状態がキレイなんです。本当に誰かが残したいと思って、大切に内緒で保管していたものが今出てきているようで。

― 素敵ですね。

そういう服を売っている人たちも同じように服オタクなので、「このタグはこの時代しかなくて…」みたいな話をよくしています(笑)。もちろん服がかわいいからなんですけど、ドイツの洋服が日本に来て、違う国でまた大事にされるというのが、私も一緒に歴史を背負っている感じがするので、その背景も含めて古着が好きです。

― よく行く古着屋さんはどこですか?

ヨーロッパ古着のお店ですね。有名なところだと中目黒のジャンティークとか、吉祥寺のオルフェオとか。

― 古着のほかに好きなことは?

好きなものが本当に変わらないんですけど、映画を観るのは好きですね。あと、フィルムカメラ。

— 何を撮るんですか?

友達です。最近はピントが合わせられるようになってきたので風景も撮るようになりました。

— カメラの機種は?

キヤノンのEOS Kissとオリンパスのμ(ミュー)です。あとはフジフイルムのSilviを使っていたんですけど、すごい古いやつで押せなくなってきてどうしようって。

 

 

Profile _ 岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年に女優デビュー。以降映画、ドラマ、舞台と様々な作品に出演。2017年映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』(森ガキ侑大監督)で映画初主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。2019年『愛がなんだ』(今泉力哉監督)では、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人賞を獲得。そのほか近年の主な出演作には、映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』(21/木村ひさし監督)、ドラマ「#家族募集します」(21/TBS)、「恋せぬふたり」(放送中/NHK)などがある。

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Information

岸井ゆきのさん出演映画『やがて海へと届く』

4月1日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

出演:岸井ゆきの、浜辺美波、杉野遥亮、中崎敏 ほか
監督・脚本:中川龍太郎
原作:彩瀬まる

『やがて海へと届く』公式サイト

©︎2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

  • Photography : Toshiaki Kitaoka
  • Styling : Setsuko Morigami
  • Hair&Make-up : Yuko Aika
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

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