清原果耶 – 背中を見て、追って、生きていた
何度も頑張ろうと奮い立たせられた
― 本作『碁盤斬り』は時代劇ということで苦労したことや意識したことはありましたか?
以前、時代劇をやったときに、現代劇のお芝居の仕方とは違うんだよということを演出家さんに教えていただいたことがあって。今回はその違いを意識しながら現場に立とうと思っていました。実際に何がわかったのか言語化は難しいんですけど、登場人物の品格のようなものがすごく絵に出ているなと思って。その品格をうまく伝えていくものこそ時代劇なのかもしれないなということを考えていました。
― 時代劇ではセリフを発するのも、当時の言葉づかいが身についていないと難しそうです。
難しいです。過去に「違うよ」と言われたことは、まさしくそういう部分だったと思っています。時代劇のリズムが身に染みついていなくて、あるべきリズムを崩してしまっていたんでしょうね。今回は草彅(剛)さんについていくだけでいいんだろうなと思っていたので、常に(草彅さん演じる)格之進の背中を見て、追って、生きていました。
― 草彅さんに呼吸を合わせるように。
(清原さん演じる)お絹はお父さん(の格之進)から本当に強い軸を受け継いだ女の子だったので、それに従ってやっていました。
― お絹は格之進の女性版というか、揺るぎない心を持った女性でした。
ずっと父娘2人で暮らしてきたので。さっき草彅さんが「(お絹には)母性がすごく見える」ということをおっしゃっていて。格之進にもお絹の心の強さが伝わっていたのかなと思ってうれしかったです。
― 現場に入る前になにか準備をされましたか?
基本的な時代劇の所作は、事前に先生に教えていただき勉強しました。でも本当に、現場では草彅さんの背中を見て感じるものを受けて演じただけで。いつかご一緒したいなとずっと思っていた草彅さんと親子の役で、こんなに贅沢なことはないです。
― 実際に草彅さんと共演してみていかがでしたか?
空間を掌握する力がすごく大きい方、というか、気を抜くと飲まれてしまうような感覚があって。だからついていくために自分もずっと集中の糸をピンッと張っていないといけない。怖さもありましたが、何度も頑張ろうと奮い立たせられるものがありました。
― しびれますね。草彅さんは現場ではずっと役の感覚を持ち続けているタイプでしたか? それとも、スタートがかかるとスッと役に切り替えるタイプ?
一概には言えないですけど、今回はカットがかかったあともずっとお絹の父という存在を示すような佇まいでいてくださったような気がします。でも私が集中力が必要なシーンを撮ったあとには、草彅さんがセットの端の食事を作る場所におもむろに近づいていって、紙コップに出汁を入れて「これ飲みな、元気出るから」と渡してくださったり。すごくやさしくて、あったかい方だなと思いました。
― 清原さん自身はどうやって役に向かっていくのか、方法論はありますか?
役によって準備することは異なるんですが、たとえば今回だったら囲碁の所作など、まず技術的なものの稽古をする。そのうえで脚本を読み込んで、疑問があれば監督と現場で一つずつすり合わせていくことが多いです。
― 今回も?
今回もそうでした。お絹をかわいげのある少女だと定めすぎても違うよなと考えていて。「ここはもうちょっと強く言ってみましょうか」みたいに、都度、監督に探りを入れながらやっていました。
― 白石和彌監督も今回が初の時代劇だったそうですね。ご一緒するのも初でしたか?
初めてでした。
― 監督からはどのような演出が?
すごく丁寧かつやさしい言葉遣いで、導いてくださる方でした。お絹の感情が高ぶるようなシーンでも、付かず離れずの距離感で見守ってくださって。でもなにかあったときには、パッと言葉を伝えてくださって。すごくありがたかったです。
― 見た目はちょっと怖そうですけど(笑)。
作品はハードなイメージでしたが、ご本人はまったくそんなことはなく、やさしい方ですよ。
― 草彅さん以外では、弥吉役の中川大志さんやお庚役の小泉今日子さんとの共演シーンが多かったですね。
中川さんとの共演は、もう4回目で。現場では一緒に囲碁をしていました。
― 囲碁、覚えられたんですか?
はい。現場に囲碁の先生もいらしたので。囲碁アプリも入れて対戦もしていました。
― 中川さんとどっちが強かったですか?
中川さんかな。私は深く考えずに置いちゃうタイプで(笑)。最初のころは私もたまに勝てていたんですけど、中川さんはどんどん上手になっていきました。
― 小泉さんはどんな方でしたか?
小泉さんは、なんてチャーミングな方なんだろうって。小泉さん演じるお庚は、お絹ちゃんにはすごくやさしく接してくれる反面、少し怖い一面もあるという役だったんですけど、実際の小泉さんはずっとやさしくて。「今日も頑張ろうね」「おまんじゅうあったよ」とか、現場の合間中でも話しかけてくださいました。
― お母さんみたいだ。劇中の終盤のシーンは緊張感がありました。
お庚さんに対して、本気で「ありがとうございます」と身に染みて感じられるものがありました。
出会いを楽しんで、感性も人の輪も広げていきたい
― 復讐劇なので重い話かなと思いきや、すごく気持ちよく観終われる作品でした。
そうですよね。復讐って書かれているけど、それは愛でもあるし。気構えずに観ていただきたいです。
― 本当の悪人がいないというか、敵役でさえ憎みきれない感じがありましたよね。完成した作品をご覧になった感想を教えてください。
私はいつも、1回目は「ここはこうしたらよかったのかな」とか、「これでよかったのかな」とか、自分を客観的に観れないタイプで。でも今回は、あのときにしかできなかった芝居だったと受け止められました。本当におもしろかったです。物語のペースがよくて、すごく観やすいですし。
― 映像もきれいでしたよね。
京都で撮影したんですけど、本当に丁寧に撮られていて。
― 時代劇ファンでも満足できる仕上がりだと思います。
ありがとうございます。
― 登場人物それぞれが抱える誇りや信念も大きなテーマなのかなと思いました。清原さん自身が譲れないもの、行動の軸になっているものはありますか?
「楽しい」という気持ちですかね。
― というと?
楽しくないと仕事ができない、続かないじゃないですか。いろんな役とか組とか、本当に出会いが多い職業なので、それを毎回楽しんで、感性も人の輪も広げていけたら良いなと思っています。
― 理想とするお芝居や俳優像は?
それはまったくないんです。そのときどきで、自分にできることをまっとうするだけなので。これからも丁寧にできていければ良いなと思っています。
― 一方で、キャリアを積み重ねることで成長を実感することも?
どうだろう…成長したいなとは思っています。歳を重ねるだけじゃない経験とか、自分の留めておきたい感情とか、きちんと蓄えて次に活かしていけたら良いですよね。
― 本作では素晴らしいキャリアのある俳優さんが多く出演されていましたが、刺激を受けたことはありますか?
私が言うのもおこがましいですけど、本当に草彅さんはぶれないんですよね、生き様が。びっくりするぐらいまっすぐに立たれていて。私には、「オフってあるのかな?」って思うぐらい現場中は格之進としての役を手放さず、ずっと緊張感を持ってらっしゃるように見えました。その極限状態を保とうと思っても、保っていられる方ってそんなに多くないですよね。そういう取り組み方ってかっこいいなとも思うし、憧れもあります。
― すごいですよね。あらゆる現場を経験してきたことも大きいんでしょうね。最後に、清原さんが今後挑戦したいことがあれば教えてください。
アクションが好きで、今はアクションの稽古を頑張っています。今回は時代劇でしたが、今後も新しい挑戦ができる、そういう役に出会えていけたら嬉しいです。
Profile _ 清原果耶(きよはら・かや)
2002年1月30日生まれ、大阪府出身。2015年、NHK連続テレビ小説「あさが来た」で女優デビュー。『護られなかった者たちへ』(21/瀬々敬久監督)で第45回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。主な映画出演作に『3月のライオン 前編/後編』(17/大友啓史監督)、『ちはやふる -結び-』(18/小泉徳宏監督)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20/藤井道人監督)『まともじゃないのは君も一緒』(21/前田弘二監督)、『夏への扉-キミのいる未来へ-』(21/三木孝浩監督)、『線は、僕を描く』(22/小泉徳宏監督)、『1秒先の彼』(23/山下敦弘監督)など。テレビドラマでは、「透明なゆりかご」(18/NHK)、「おかえりモネ」(21/NHK連続テレビ小説)、「ファイトソング」(22/TBS)、「霊媒探偵・城塚翡翠」(22/NTV)などの主演作がある。現在、『青春18×2 君へと続く道』(24/藤井道人監督)が公開中、公開待機作に、『片思い世界』(25/土井裕泰監督)がある。
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Information
映画『碁盤斬り』
2024年5月17日(金)全国公開
出演:草彅剛 / 清原果耶 中川大志 奥野瑛太 音尾琢真 / 市村正親 / 斎藤工 小泉今日子 / 國村隼
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
音楽:阿部海太郎
©2024「碁盤斬り」製作委員会
- Photography : Munehiro Hoashi(AVGVST International)
- Styling : Megumi Isaka(dynamic)
- Hair&Make-up : Eri Akamatsu(ESPER)
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)