QUI

今村圭佑 – 最良を突き詰める

Dec 14, 2021 - FEATURE
アートからコマーシャルまで幅広い映像作品を手掛けるカメラマン・撮影監督、今村圭佑。日本の映像業界の最前線に立つクリエイターとして、自身が仕事に取り組む姿勢、次世代のカメラマンへの想いなど話を訊いた。

自分の脳から出てくるものだけで撮りたい

— 今村さんはカメラマンや撮影監督として幅広いジャンルのお仕事をされていますが、ここ最近仕事面で変化は何かありましたか?

これまでは広告、ミュージックビデオ、映画で3分の1ずつくらいになるようにバランスをとっていたんですけど、最近は映画の仕事が少し多くなってきていますね。

— なぜバランスを?

単純に自分が飽きてしまうからです(笑)。同じコンテンツを続けていると、それっぽい画になってしまうのが嫌なので。

— 「飽きる」というのはどういうことですか?

自分が撮っている自分の画に対して飽きてしまうということです。作品、被写体や一緒にやるスタッフ、場所などによってもちろん変わるのですが、大きく見ると一緒だなと。カメラマンとしてやっていることはすごくシンプルだし、自分の引き出しもそんなに無いので。こういう展開になったらこうだろうとか、良い画にしようと思ったらこういう方法だよねとか、経験を踏めば踏むほど慣れが生まれてしまうんです。それを打破するために、映画も広告もミュージックビデオも偏らず新鮮な気持ちでやるようにしています。

— そうすることで、自分が撮る画に飽きずにいられる。

そうですね。あと、影響を受けやすいので、映画の現場に入る前はなるべく似た映画は観ないようにしています。映像は脚本から生み出していくのですが、その時に「あの作品のあのシーンみたいな感じで撮ろう」というような発想はしたくないんです。単純に自分の脳から出てくるもの、脚本から自然に受けとったものだけで撮りたいなと。

— 今村さんのように若手の映像カメラマンが活躍することで、映像に注目して観る人が増えている気がしています。放送中のドラマ「アバランチ」の第1話放送後もTwitterで今村さんのお名前をたくさん見かけました。注目されることについてはどう感じていますか?

テレビドラマは反響が大きいので、以前「dele」を撮影したときにもやっぱりまだまだテレビを観ている人はたくさんいるんだなと感じました。ただ、僕はめちゃくちゃ天邪鬼なので、人に褒めてもらっても、俺は全然良いと思っていないのになと感じてしまうことはあります(笑)。

— それは、撮影したドラマの映像に関してですか?

そうです。ドラマって、脚本が最後まで全部揃っていないことが多くて…。それがある種、ドラマの面白さのひとつではあると思うんですけど。脚本が全て無いと、最後まで物語をわかっていないまま、その場で良いと思ったものをただ撮っているだけになっているのではないか、というところが個人的に気になっていて。

例えば、この人は10話でこうなるから物語の途中でこう変化している、ということをわかった上で撮らないと、「こう撮ろう」というアイデアが生まれ難く、あまり面白くないなと感じてしまうんです。

— 映画の現場では違ってくるんですか?

自己満足かもしれませんが、映画だと2時間の脚本があって、話の流れがあるなかで撮っていくので、この人はこの作品の中で何ミリのレンズで撮ろうとか、これくらいの距離感にしようとか考える時間があるんですよね。そうすることで撮影現場での気付きを、どんどん作品に落とし込んでいけるんです。   

 

撮る瞬間を見極めることが、良い映像に繋がる

— 今村さんがこれまで撮影した作品のなかで、転機になった作品はありますか?

7~8年前に中島哲也監督とご一緒した、ゆうちょ銀行のCMですね。その現場で、「画ってこうやって撮るんだ」と気付かされました。画の切り方って大きくわけると、人で切るか、背景で切るかの2種類あるんですけど、それまでは人との距離感でしか画を切っていなかったんです。ちなみに『ヤクザと家族』の場合、1章と2章は人で切っていて、3章は背景で切っています。

— それはどういうことですか?

「人で切る」というのは、人が向いた方向や、人の感情にあわせた距離感で人中心に画を決めていて、「背景で切る」というのは、例えばシンメトリーに窓があってそのシンメトリーが崩れないように人を背景に合わせるということです。

— なるほど。

中島さんとご一緒する前は、人中心でしか画を考えていなかったんです。いま考えるとそれでよくプロの仕事をしていたなと(苦笑)。中島さんが撮る作品は、一つひとつの画にちゃんと理由がある。その感覚がピンと頭のなかに入ってきて。それからそういう脳で撮れるようになり、もうひとつ自分のなかに引き出しが増えた感じがしました。

そこから、対比の物語を撮るときに、僕のなかでその脳を切り替えればいいという発想が生まれたんです。例えば『新聞記者』では、シム・ウンギョンさんのシーンは人でアングルを切っていて、(松坂)桃李くんを撮るときは、壁に対して正対にカメラがあるかどうかしか気にしていない。人がどう動こうと、背景をここで切ると決めて撮っていたので、なるべくカメラも動かさないようにしていました。

— そこを切り替えることで、受ける印象が変わってくるんですね。ちなみに映像って時代による流行りってあるんですか?

流行りの画や色みたいなものはあって、世界の映像がより簡単に見れるようになっていろんな国のトーンを真似ているんだと思います。でも日本には日本の良い所がたくさんあるので、それぞれにあったトーンが大事だと思っています。僕はどちらかというと、昔の日本映画を参考にすることが多いです。

— 観ると刺激を受ける作品はありますか?

自分の過去作を見ることが一番刺激になります。

— 特によく観る作品は?

あいみょんの『さよならの今日に』というミュージックビデオはよく観ています。あいみょんがその場に立った瞬間に、想像の100倍くらい良かったんです。僕はほぼ何もしていないんですけど、その場所と光とあいみょんと、その連合性がめちゃくちゃ良くて。そういうことを感じられる瞬間はあまりないので、すごく印象に残っています。

— 現場で「これは良い」と、判断する軸みたいなものはあるんですか?

カメラマンは物理的に被写体と一番距離が近いので、「この人は今撮られたいと思っている」とか「早く撮って欲しい」という俳優の良い瞬間を判断できるかどうかが一番重要だと思っています。今が撮る瞬間かどうかを見極めることが、良い映像に繋がっていくのではないかと。

— その判断をするときに躊躇することは無いですか?

あまりビビらない方かもしれません。そもそもかっこいい映像が撮れるわけでもなく、文脈をわかった上で撮れるわけでもなく、良い瞬間をちゃんと撮れるということしか無かったので。それだけはせめて守っていこうと思っていました。

 

若い人たちが活躍できる状況を作っていく

— 映像業界を志している人も多いと思うのですが、どうしたら今村さんみたいになれるのでしょうか?アドバイスはありますか?

僕はアシスタントの時代から「カメラマンになる」という脳みそで、とにかく映像を観ていました。助手として優秀だったわけではないので、「次のカットはこういうシーンだからこういうものを準備しておかなきゃ」というよりも、「こういう映像はこう撮っているんだ」みたいなことの方に興味がありました。

僕も含め、カメラマンが撮る映像にそこまで大きな差はないと思うんです。だからこそその中で、人と比べるんじゃなくて自分はなにが好きなのかわかって、自分が好きな感覚を持って撮れるかということが、「この人に頼みたい」となる要素なのではないかなと。

— それはイコール、作家性ということでしょうか?

案件によってはそれがすごく邪魔になることもあるので、あればいいというわけでも無いと思いますけどね。僕は作家性を出せる仕事だけをやりたいわけではなく、好きに撮ってくださいというものも、向かう方向が決まっているものも好きなので。あと、いろいろな選択肢を出せた方が良いと思うので、自分の考えがあるときはなるべく言った方が良いですね。

— 映像業界全体で見ると今村さんもまだまだ若手だと思いますが、更に下の世代から突き上げを感じることはありますか?

めちゃくちゃあります。ミュージックビデオとか広告の方が多いですが、良いカメラマンはたくさんいます。僕が20代前半だった頃よりも、今の方がもっと世に出やすいと思いますし。僕もInstagramで繋がって、一緒にご飯を食べに行くこともあります。

— 若い人たちとの交流もあるんですね。

上の世代の人たちが凄いことをしたら「凄い」ってなるけど、下の人たちが凄いことをしたら「ヤバい」って焦るじゃないですか。そうなることで、上の人たちももっと頑張って映像業界が全体的に良くなっていくと思うんですよね。

あと、若い人たちが活躍できる状況を作っていかないと自分もダメになっていくと思うので、そういう事例を作れるようにしていきたくて。Netflixのドラマとか、僕が1度やっていれば若い人たちに繋がる窓口が増えると思いますし、今いろいろと考えているところです。

— 今村さんが注目している若手のカメラマンを教えてください。

光岡兵庫佐藤涼介くん、林大智くん、上原晴也とかはミュージックビデオや広告ですごく頑張っていますね。

— チェックしてみます。ちなみに、若い人たちからはどんなことを聞かれるんですか?

みんな映画やドラマをやりたいという想いがあるので、そこに入り込むにはどうしたら良いのか、進め方や制作体制、ギャラのこととか。映画的な文脈やカット割とかは経験していけば身につくものなので、どちらかというとカメラマンはまずはちゃんとカッコいい、美しい映像が撮れることが大切だと思います。それを持っていれば、芝居を撮れる空間に入ることでレベルアップしていけると思うので。

 

俳優のことが好きだから、とにかく良く撮りたい

— 『余命10年』のポスターは今村さんが撮影したそうですが、映像だけでなくスチールも撮るんですか?

普段の仕事でスチールはあまり撮らないですね。『余命10年』は、藤井(道人)さんから撮って欲しいという依頼があったので撮りました。映画の本編を撮りながらスチールも撮ったので、ロケ地の見方が変わりましたし、俳優部との距離感もまた少し違う感じがあって面白かったです。本編の撮影にも活きました。

ポスターに使われた写真は、撮影開始4日目くらいに撮った1枚です。役としてというよりも、小松(菜奈)と坂口(健太郎)くんという人間自体が好きだから撮れた写真だったと思います。

©2022映画「余命10年」製作委員会

— すごく素敵な1枚だと思いました。これまで本当にいろんな方を撮影してきたと思いますが、そのなかで強く印象に残っている瞬間はありますか?

いっぱいありますけど、最近だと『ヤクザと家族』の磯村(勇斗)くんのラストシーンの顔ですね。あのシーンが撮影最終日だったんですけど、役としても本人としてもあの作品の中でめちゃくちゃ成長した感じが表れていました。

僕は、何者かになって何者かとして生きる仕事をしている俳優のことが好きで、尊敬しているんです。だからその人たちのことを、とにかく良く撮りたいと思っていつも撮影しています。

— では最後に、今後の目標や理想はありますか?

一番の理想は、自分が良いと思ったものを、全員に良いと思ってもらうことですね。もちろん、良いと言う人もいればダメだと言う人もいるけれど、そこを諦めたくなくて。誰かに合わせるということではなく、自分が“良い”と思ったものがみんなの“良い”になったら最高です。何が良いのかということを毎回ギリギリまで足掻いて突き詰めていきたいです。

僕が早くカメラマンになれたのは、そういう部分を持っていたからだと思います。自分が良いと思うものを撮って、それを良いと思ってくれた人たちがたまたま近くにいて、引き上げてくれたというだけで。最初から周りに合わせて、こういうものが求められているんだろうなと撮っていたら、他の方との差も無かっただろうし、カメラマンとしてスタートできることもなかったと思っています。

 

Profile _ 今村圭佑(いまむら・けいすけ)
1988年生まれ。富山県出身。日本大学芸術学部映画学科撮影・録音コース卒業。大学在学中より藤井道人監督と自主映画を制作する。卒業後はKIYO氏のもとで約2年アシスタントを務めたのち、24歳で撮影技師としてデビュー。映画・CM・MVのカメラマン、撮影監督として活動し、2020年には映画『燕 Yan』で長編監督デビュー。主な映画作品は『星ガ丘ワンダーランド』『帝一の國』『ユリゴコロ』『おじいちゃん、死んじゃったって。』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『デイアンドナイト』、『ホットギミック ガールミーツボーイ』『新聞記者』『サヨナラまでの30分』『約束のネバーランド』『ヤクザと家族 The Family』など。

Instagram Twitter

 

FEATURE
藤井道人 – 映画の力を信じ抜く
Jan 31, 2021

  • Photography : Yasuharu Moriyama(QUI / STUDIO UNI)
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

NEW ARRIVALS

Recommend