病室、ムエタイ、精霊 ─ ルーツと感性が織りなすデザイン|STRONGTHE ストロング・テヴィティヴァラック
<STRONGTHE(ストロングテ)>の服には、病室の沈黙、ムエタイの護符、精霊への祈りといった、目に見えないものの気配が漂っている。デザイナーのストロング・テヴィティヴァラックに、ロンドンとバンコクの狭間で育まれた感性、病院で過ごした日々、そして“傷つきやすさ”にこそ宿る美しさについて話を伺った。
強さとは、傷つきやすさと共にあるもの
──まずはお名前についてお聞きします。“Strong”という言葉にはとても力強い響きがありますよね。この名前がご自身のクリエイションに影響を与えていると感じますか?
ストロング・テヴィティヴァラック(以下、ストロング):この名前は、私にとって祝福でもあり問いでもあるんです。人からは力強さや自信を期待されるけど、私の中での“強さ”は少し違います。たとえば、脆さや繊細さ、静かでしなやかな強さ。それが本当の強さだと思っていて、だからこそ、私の服も“守ってくれるようなもの”や“安心感をくれるもの”を意識して作っています。精神性や象徴性も含めて、自分なりの“強さ”を表現したいんです。
──そのお話はまさに<STRONGTHE>の服そのものだと感じます。そうした感覚には、ご自身のルーツであるタイの文化も深く影響しているのでしょうか?
ストロング:ええ、やっぱり大きいですね。私にとってタイであることは、見えないものと共に生きている感覚と強く結びついています。たとえば、精霊の家やお供え、占い...。そういう日常のなかの静かな儀式が、無意識のうちに深く根づいている。私の服では、それを色、シルエット、シンボルなどを通してエネルギーとして織り込んでいる感覚です。伝統をなぞるのではなく、文化的な本能を、新しいかたちで服に翻訳しているんです。
ストロングが撮影した故郷であるタイ・バンコクの日常風景、タイの花飾り「マーライ」で装飾された室外機
──タイとロンドンという、まったく異なる文化圏で生活してきた中で、そのあいだにいる感覚はデザインにどう影響していますか?時に葛藤することもありますか?
ストロング:ありますね。ロンドンにいるとタイが恋しくなるし、タイにいるとロンドンのことを考えてしまう。常に感情的な宙ぶらりんの状態にある気がします。その行き来や間にいる感覚が、服にも現れていて。たとえば、シルエットは文化の衝突のようだけど、ディテールはすごくタイ的だったりする。その緊張感が、服に声を与えてくれるんです。
幼少期の観察と感情が、服づくりの土台
──ストロングさんの感性は、子どもの頃から育まれていたように思います。ファッションに興味を持った最初の記憶って、覚えていますか?
ストロング:言葉にする前から、ずっと惹かれていました。バンコクで育ったんですが、質感や色、服が感情を表現できることに小さい頃から魅了されていました。特に覚えているのが、母が出かける前に服やアクセサリーを選ぶ姿。まるで「感情を静かに語るような時間」だったんですよね。
──“感情を語る”という感覚、とても素敵ですね。
ストロング:そう言ってもらえると嬉しいです。あと、子どもの頃に印象に残っているのが、タイの「7日間・7色」のシステムです。曜日ごとに色と運勢があって、色には意味がある。装飾じゃなくて運命とつながっているような感じ。だから、私にとって色は感情や祈りと密接につながっているんです。休みの日はファッション誌を読み漁って、学校にも持って行ってましたね。
──そんな幼少期には、病院で過ごす時間も多かったそうですね。その経験は、デザインのどんな部分に影響していますか?
ストロング:病院って、静かで、些細なものに敏感にならざるを得ない場所なんです。光の入り方や、シーツの質感、音の反響...そういう環境が、私の観察力と感情への感受性を育てたと思います。服づくりでも見た目以上に、「どう感じるか」「どう包まれるか」を大切にするようになりました。服が、着る人の癒しや力になる空間にもなれる、そう信じています。
──それは強烈な原体験ですね。では、最初に自分で何かを作ったときのことは覚えていますか?
ストロング:はい。たしか9歳のとき、学校のメッセンジャーバッグが嫌で、分解して安全ピンで何百個も繋げて自分だけのバッグに作り替えたんです。すごく雑だったけど、「これが自分だけの反抗だ!」って感じで(笑)。そこから、ファッションは自分を表す自由な手段だと気づきました。
服を通して、言葉にできない感情を届けたい
──ストロングさんの作品は、不安定さややさしさが布の動きとして表現されている気がします。ご自身の感情を、どのように服へと変換しているのでしょうか?
ストロング:デザインって、言葉にできない感情を形にする手段なんですよね。まずは自分の中でその感情をしっかり味わって、それをどうやって布や構造で表せるか考えるんです。たとえば、ゆるいシルエットやレイヤー、未完成な端処理で不安定さを出したり。結び目や紐は保護や結びつきを意味しています。制作中はすごく直感的で、着られる感情を縫い上げていくような感覚です。
──そのプロセスはまるで祈りや瞑想のようですね。ご自身では、感情と直感、理性のどれが主導していると感じますか?
ストロング:やっぱり感情と直感が中心ですね。ただ、あとから振り返ると「これはこういう意味だったんだ」と気づくこともあるので、結果的に思考も追いついてくる感じ。制作は感覚先行ですけど、完成した服がスピリチュアルなオブジェのようになることもあります。
──アイデアが浮かぶタイミングも、感覚的なんでしょうか?
ストロング:めちゃくちゃ感覚的です(笑)。散歩中だったり、眠れない夜だったり。スマホで昔の画像を見ていてふと、ということもあります。あとは、タイの色、儀式、迷信や占い。そういった文化的な感覚が、気づかないうちにひっかかりとして残っていて、ある時ふっと形になるんです。
服に込められた祈りと見えない力

STRONGTHE 2025AW COLLECTION
──<STRONGTHE>の服には、物語や祈りが宿っているように感じます。2025年秋冬コレクションのテーマについて、詳しく教えていただけますか?
ストロング:今回のコレクションは、ムエタイと護符の文化からインスピレーションを受けました。ムエタイの選手って、試合の前に護符や聖なる紐を身につけるんですよね。それって、単なる装飾じゃなくて、“自分を守るための信じる力”なんです。強さと信仰、そして脆さや不安を抱えたまま戦う姿勢に、深く惹かれました。それを、パワフルでありながらも親密な“身にまとうお守り”としてデザインに落とし込んでいます。
──なるほど。まさに「祈りの衣服」ですね。<STRONGTHE>の服には、結び目やチャーム、非対称のディテールが印象的ですが、それにもスピリチュアルな意味があるのでしょうか?
ストロング:そうですね、それぞれに静かな意味があります。たとえば結び目は、タイ文化ではつながりや守護の象徴。チャームは悪いエネルギーを避けるためのもの。非対称のデザインは、「人生は思い通りにいかない」という自然な不完全さを表しています。そういった要素を服に織り込むことで、静かな儀式のような服を作っているんです。単なる美しさじゃなく、感情や精神に作用する服を目指しています。
文化の他者性とどう向き合っていくか
──ストロングさんはセントラル・セント・マーチンズで学ばれましたが、そこではどのような気づきや変化がありましたか?
ストロング:セントラル・セント・マーチンズは、私にとって“ファッションは物語を語る手段”だと教えてくれた場所です。自由で、実験的で、枠にとらわれない。でも、やっぱりアジア出身の学生としては、文化的な説明責任を求められることも多くて。自分の背景やルーツを、他人に伝えるために掘り下げなければならない瞬間が何度もありました。だからこそ、文化をテーマにするのではなく、自分の一部として真摯に向き合うことの大切さに気づいたんです。
STRONGTHE 02 COLLECTION「Bless You!」
──そうした視点があるからこそ、<STRONGTHE>のコレクションには深みがあるんですね。ところで、2021年に発表されたコレクション「Bless You!」では、障害や病といったテーマにも取り組まれていましたよね。多様な身体を扱うことについて、どんな思いがありますか?
ストロング:ファッションの中で違いや弱さが見落とされていると感じています。私自身、子どもの頃に病院で過ごす時間が長くて、身体が痛い・動かない・違うという現実を身近に見てきました。だから、そういう経験がデザインの責任として自然に反映されているんです。ただ多様性を語るのではなく、そもそも私にとっては現実だった。服でできることは多いと思うんです。たとえば、包む、守る、動きやすい、心地いい。その先に、見えないやさしさが届けばいいなと思っています。
プライベートとデザインの間で生まれる感受性
──ストロングさん自身は、普段どんな服を着ているんですか?<STRONGTHE>の服も日常的に着ているのでしょうか?
ストロング:はい、自分の服はよく着ています。そこに古着をミックスして、より自分らしいスタイルにしていますね。自分の服だからといって固くならず、あくまで気持ちや気分に寄り添ってくれるものとして着ています。
──そういえば、モデルとして活動されていたこともあるそうですが、実際に着る側を経験することで、デザインに影響はありましたか?
ストロング:意外かもしれませんが、あまり関係ないんです。モデリングとデザインって、私にとっては全然別のモードなんですよね。モデルとしては見せられる側の役割ですが、デザインでは感じさせる側になる。なので、そこはあえて分けて考えています。
日本という場所、そしてこれからのSTRONGTHE
──ストロングさんは、日本のファッションにも影響を受けていると聞きました。特にどんなところに魅力を感じますか?
ストロング:日本のファッションには、詩的で、反骨精神がある自由さを感じます。たとえば、川久保玲さんや山本耀司さんのようなデザイナーは、美しさやシルエットの常識に挑戦していて、本当にリスペクトしています。彼らの仕事を見ていると、私自身ももっとリスクを取っていいんだと背中を押されるんです。完璧じゃないことを美しさに変える勇気をもらっています。
──<STRONGTHE>は日本でも展開されていますよね。日本のマーケットについては、どのように感じていますか?
ストロング:とてもユニークで面白いマーケットです。GR8での展開から始まって、2025年秋冬コレクションからは伊勢丹新宿店、itimi、DOMICILE TOKYOなど、全然違うスタイルの店舗で販売が始まります。それぞれの店に独自の個性があるので、<STRONGTHE>の服がどう受け取られるか楽しみなんです。日本のお客さんって、自分のスタイルとブランドの世界観を融合させるのが本当に上手なので、反応がとても楽しみです。
祈りの服を、社会の中で生かしていくために
──<STRONGTHE>は、スピリチュアルな世界観と、現実的なビジネスの両立がとても見事だと感じます。このバランスは、どのように保っているのでしょうか?
ストロング:とても難しいですが、分けて考えすぎないことが大事かなと思っています。たとえば、意味や祈りを込めて作ることと、マーケットで受け入れられることは必ずしも矛盾しないと思うんです。だからこそ、一つひとつの選択を丁寧にしていくことが重要。服に込めた意味が損なわれないように、でもちゃんと人の手に届くように。その両立が、ブランドを魂のあるかたちで成長させてくれるんだと思います。
──最後に、これから<STRONGTHE>をどのように進化させていきたいと考えていますか?
ストロング:ブランドとしては、もっと多くのショップとつながっていきたいです。あと、タイの職人たちとコラボレーションして、地域に仕事を生み出すような取り組みもしていきたいですね。そしてサステナブルな取り組みとして、デッドストックの素材を活用したり、素材供給に応じて柔軟にデザインを変えられるような仕組みも大切にしていきたい。変わらない核と変われる柔軟さを両立させていきたいんです。
インタビューの最後に、創作の不安や葛藤を抱える若いクリエーターたちへ、こんな言葉を残してくれた。
「不安になるのは当然のこと。むしろ、不安や脆さの中にこそ強さがあると思います。だから、自分の気持ちを仲間と共有することを恐れないでほしいし、時には立ち止まることも自分を守る手段になる。何より、自分の直感を信じてください。自分だけが感じる違和感こそが、未来の種になるはずです。」
祈りと感情、そして脆さに宿る強さを縫い上げるようにして、<STRONGTHE>の服は生まれている。その静かで力強い思想は、これからも多くの人の内面にそっと寄り添い続けていくだろう。
STRONGTHE
https://www.strongthe.com/
Instagram: @strongthe
- Interview & Text : Yukako Musha(QUI)

















































