世界と肩を並べるためのクラフトマンシップ|JAXURY委員会 代表理事 前野隆司
そんな世界に誇るべき日本のクラフトマンシップを正当に評価し、国内外に発信するために設立されたのが「JAXURY委員会」。今回、委員会の代表理事を務める前野隆司さんに日本のモノづくりがもっと世界に認められるために何が必要なのか、意見を伺った。
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授
ヒューマンマシンシステム、イノベーション教育、社会システムデザイン、 幸福学、システムデザイン・マネジメント学などの研究に従事。
JAXURYとは
JAXURY=Japan’s Authentic Luxuryの略称造語。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント 研究科でのアカデミックな研究を背景に、講談社FRaUほかで、
JAXURY公式HP:https://jaxury.jp/
instagram:https://www.instagram.com/jaxury_official/
日本のモノづくりの価値を高める起爆剤に
QUI編集部(以下QUI): JAXURY委員会はどのような目的で立ち上げられたのでしょうか。
前野隆司(以下、前野):JAXURY委員会の理事にファッションブランドを立ち上げているメンバーがいるんですけど、その彼がシャツを作って同じくファッションの仕事をしているイタリア人に見せたところ「Japanese!」と感嘆の声をあげたそうです。
引き算の美学ともいえるミニマルなシャツはとても日本的だと。彼は日本人が本気でモノづくりをしたものは伝統工芸に限らず日本ならではの美意識が宿るんだと勇気づけられたそうで、私の教え子でもあった縁から「日本に数多く存在する本物を広めるために、一緒にJAXURYをやりましょう」と声をかけられました。
その美、「ほんもの」。体感!ラグジュアリー日本 | JAXURY (Japan’s Authentic Luxury)(gendai.media)
https://gendai.media/list/
講談社FRaU JAXURY号の内容から。各界への取材コメントが集められた(2002年)
QUI:「日本のモノづくり」というと良質なイメージはありますが、ブランドや企業、職人さんはあまり知られていないかもしれません。
前野:理事の一人が手がけているのは<AUXCA.(オーカ)>というブランドですが、原材料のコットンもこだわって調達していますし、縫製もとても丁寧です。シンプルなTシャツでも20,000円近くしますが、着心地も触り心地も最高だと思っています。
日本にはヨーロッパに負けないという自負を持ってモノづくりをしているブランドも企業もありますが、知られていないことも多い。そんなブランドや企業の認知を高める起爆剤になりたいという想いから、JAXURYでは日本が世界に誇るブランドを毎年選出する「JAXURY AWARD」というものを設けています。
日本に新しい価値を提供するため、創業から受け継がれたDNAを通して “日本の服”を一から再定義して誕生した AUXCA. (オーカ)
赤坂に構えるAUXCA.のフラグシップストア
クラフトマンシップとは技術と精神性の両立
QUI:JAXURYの「10の視点」のひとつにも挙げられていますが、前野さんが思う「クラフトマンシップ」とはなんでしょうか。
前野:ひと言で表現するなら「作り手の誇り」でしょうか。自分たちの製品や技術を後世まで残したいと情熱を捧げている方々からはクラフトマンシップというものを強く感じます。
JAXURYの「10の視点」はJapanʼs Authentic Luxuryの定義を徹底的に議論して、洗い出したものです。技術と心意気が重なっている領域を私たちはクラフトマンシップと呼んでいます。
QUI: クラフトマンシップは日本と海外で捉え方は異なるものでしょうか。むしろ異なって当然でしょうか。
前野:クラフトマンシップ=職人技の誇りというのは世界的にある程度は共通の捉え方ではないでしょうか。
私はウェルビーングの研究者なので、職人技を極めたような人物の心の在り方にも興味があります。
これまでに自身のモノづくりに矜持を持っている多くの方に出会ってきましたが、全員に共通しているのが人格者ということです。文武両道を思わせるのはとても日本的です。
戦後は「欧米に学べ」という風潮になり、それは時代背景としても仕方がないことだったかもしれないですけど、今は「技術と精神性の両立」という日本的なものを取り戻す時期ではないでしょうか。
QUI: 世界からラグジュアリーと認めている日本のブランドでも、それを自ら発信することは少ないような気がしています。
前野:日本人の気質として最初からラグジュアリーを目指すという考えが少ないんだと思います。
年代物によってはとんでもなく高価なワインもありますけど、日本酒も銘柄によっては同じぐらいの値段をつけてもいいと個人的には思います。でも、それを日本人はあまりやりません。ビジネスということで考えたら下手なのですが、なるべく多くの人に届けたい、手に取ってもらいたいというのが日本の生産者の心理なのではないでしょうか。
「JAXURY AWARD」の基準も高価であることよりも本物であることが重要で、結果的に本物の追求ゆえに高価になった製品やブランドが選出されているだけですから。
QUI: 海外のラグジュアリーブランドが日本の技術を信頼する一方で、日本はラグジュアリーブランドが育ちにくいとも言われています。
前野:教育の在り方も大きいと思います。ヨーロッパには多くの大学にブランディングについて学ぶ学科が存在しますが、日本ではあまり聞きません。ブランドを強くして、強く売ることを学べば、意識は変わりますよね。
そのためにうちの大学院でも Japanʼs Authentic Luxury についての授業をやろうとしています。まだまだ小さいことかもしれませんが、第一歩を踏み出すことが大事だと思います。
JAXURYを通じて得られた心の豊かさ
QUI: JAXURYという活動は前野さんにとっても学びはありましたか。
前野:日本のモノづくりの考え方に触れることで、心が豊かになりましたね。
漆工芸の職人さんも竹細工の職人さんも、自分の仕事に対して真摯で謙虚なんです。その謙虚さがまたかっこいい。
JAXURY AWARDの受賞を機に、職人さんやブランド同士の交流も生まれていて、コラボレーションの話にまで発展していることもあります。そこには日本のクラフトマンシップに新しい可能性を感じます。
QUI: 日本人自らがジャパンブランドの素晴らしさに気づくべきですね。
前野:JAXURYに携わって感じるのは、日本のモノづくりの方々は自分たちの優れた技術や製品の発信や宣伝に長けていないということです。それがもったいない。
日本の市場は欧米と比較すると圧倒的に小さいのですが、一般の方たちにも日本のプロダクトの素晴らしさが広まれば市場が大きくなりますし、大きくなれば後継者不足の解決にもつながっていくはずです。
QUI:JAXURYが描く日本のモノづくりの未来とは、目指しているゴールとは。
前野:日本のブランドがヨーロッパのラグジュアリーブランドと同等の評価をされるようになって、世界的にも尊敬されることです。
漆は欠けても、割れても塗り直すことで修復でき、現在のSDGsのお手本のような技法なわけですから、世界の人たちに知ってもらって日常に使ってほしいです。JAXURY委員会としてゴールははっきりと見えているんです。ただ、道のりは遠い(笑)。
これからはAIで何でもできると言われていますけど、人間の手でしか生み出せないものは確実にあるわけで、プロダクトとしてこれからの時代に生き残っていくには日本ならではのクラフトマンシップは必須だと思っています。
・JAXURY10の視点で選ばれた2023年の部門賞
「クラフトマンシップ」部門受賞 ヤーマン(美容機器)
「感性」部門賞 ソニー(デジタルラグジュアリー)
「信頼」部門賞 マルニ木工(家具)
「本来感」部門賞 ハルノブムラタ(ファッション)
「唯一無二」部門賞 ろ霞(宿泊)
「美」部門賞 我戸幹男商店(漆器)
「日常的な上質さ」部門賞 サントリー(酒)
「神話・歴史」部門賞 資生堂(美容)
「幸運・僥倖」部門賞 コスメデコルテ(美容)
「利他」部門賞 和多屋別荘(宿泊)
・AXUCA. flagship store
東京都港区元赤坂1-5-20 ロイヤル赤坂サルーン102
営業日 / 月~金 11:00-19:00土日祝 11:00-18:00
TEL: 03-6804-1769 E-MAIL: shop@tailor-cloths.jp
公式HP
その美、「ほんもの」。体感!ラグジュアリー日本 | JAXURY (Japan’s Authentic Luxury) (gendai.media)