それぞれの立場を超えた関係性が生み出すクリエーション|SEVESKIGデザイナー 長野剛識×スタイリスト 百瀬豪
国内でのルーティン化を断ち切るために韓国でショーを開催

—<SEVESKIG>の2026年春夏コレクションの韓国でのショーは、どういう経緯で決まったのでしょうか。
長野:<SEVESKIG>は5シーズン連続で「五色人」をテーマにコレクションを発表して、2025年秋冬が最終章でした。一区切りついたこともあり気持ちのリセットとして国内以外でショーを開催したいという思いが生まれたんです。韓国を選んだのはソウルのセレクトショップの「SCULPSTORE(スカルプストア)」でエクスクルーシブが決まったこと、B.Iのツアー衣装を手がけたことなどが理由です。
—NORIさんから韓国でのショーのことを聞いたとき、百瀬さんはどう思われましたか。
百瀬:最初に聞いたのは2025年秋冬のショーの最終日だったと思います。「次は韓国でやろうと思っているんだよ」って軽く口にして、口調から強い決意のようなものを感じなかったです。
—NORIさんらしいです(笑)。
百瀬:こちらとしては「今はそんなこと言っている場合じゃない、目の前のショーに集中して!」って感じでした。その時点で僕の気持ちは韓国に向かっていないのに、NORIさんはメディアの取材に「次は韓国を考えていて、モモくんも連れていきます」って答えていて(笑)。


—NORIさんは以前のQUIのインタビューで「日本でのショーがルーティン化している」と話していましたが、百瀬さんはそんなモチベーションの低下を近くで感じ取っていましたか。
百瀬:モチベーションの低下を感じることはなかったですが、実際に僕も韓国を訪れて「SCULPSTORE」を見て、現地での<SEVESKIG>の盛り上がりを肌で感じました。なんとなく日本を離れてではなく、ちゃんと裏付けがあって、求められているからこその韓国での開催だったんだなってNORIさんの想いを汲み取ることができました。
—韓国での<SEVESKIG>の盛り上がりはどのような感じなのでしょうか。
百瀬:韓国のファンはアメカジが根底にある<SEVESKIG>の服を、すごくきれいに着こなしているという印象でした。「SCULPSTORE」のラインナップもアメカジを深掘りしていて、そこに<SEVESKIG>が並んでいる。そういうショップがきちんと取り扱ってくれているなら発表の場を東京から韓国に移すのはすごく意味があることだと思いました。

—NORIさんは韓国でのショーに対してどのような手応えを感じましたか。
長野:若い世代のお客さんも多くて、日本だと芸能関係者はショーに来場することは少ないですけど、韓国ではファッション好きのモデルやアイドルグループなども来てくれて盛り上がりはすごく感じました。ショーが終わってからみんな僕のところに挨拶に来てくれて「一緒に写真撮ってください」って次々に言うんですけど、全員がフォロワー数がとんでもないインフルエンサーばかりでむしろ写真をお願いしたいのはこっちですって(笑)。
—韓国のファッションシーンは「90年代の原宿に似ている」と聞くこともあるのですが、そんな感じはありますか。
百瀬:セレクトショップのブランドラインナップを見ると東京が大好きなんだなって感じました。だからといって一昔前の日本のファッションシーンそのままかといわれたらそんなこともなくて、アメカジにしても新しい雰囲気で着こなしているように見えたのは肌の色や体型が日本人とは違うというのも大きいと思います。
長野:確かに90年代の原宿ファッションは韓国で流行っているんですけど、それがまた日本に入ってきているので、逆に日本の若い世代ほど韓国のファッションシーンに感化されているんじゃないのかなって僕は思いました。


パンクな状態だった10代のマインドをヘッドピースで表現


—2026年の春夏コレクションは「MEMORIES」をテーマに、NORI さんが10代のときに夢中になったカルチャーを詰め込んだそうですね。
長野:これまでに自分の過去を投影するような服を作ったことがなかったので、これも韓国でのショーと同様に気持ちをリセットする、初心に帰るという意味で取り組んでみたんです。
—「MEMORIES」のコレクションには百瀬さんはどの段階から関わったのでしょうか。
百瀬:テーマが決まって、実際に製作する少し前の段階からアイテムについていろいろ意見を求められました。
—百瀬さんはモノづくりには直接関わらないとは思いますが、それでもNORIさんが意見を求めるのはどういう理由からでしょうか。
長野:そこはモモの知見と経験を信じているからです。ブランドをたくさん見ている、あらゆるショップを訪れている。自分が持っていない視点で意見をしてくれるので、すごく発見があるんです。アドバイスをそのまま取り入れるというわけではなく、自分なりに噛み砕いて昇華させていく感じです。
—クリエイターは自分のアイデアや発想に固執してしまうこともありますが、そうやって意見を取り入れることができるのは信頼関係が築けているからですよね。
長野:やっぱり人に喜ばれる服を作りたいといつも思っているので、新しいと思えたり、面白いと感じられる意見だったら取り入れることに抵抗は全くないです。
百瀬:NORIさんが求めているのは僕の本音だということはわかっているので、「ちょっと違うかも」と感じたときは遠慮なく伝えるようにしています。NORIさんは映画とアニメが大好きで、僕はいろんな人と会うことで情報を得ることが多くて、見てきたものが全く違うからこそ意見ができるというのはあります。NORIさんからは映画やアニメを薦められるんですけど全く観ない(笑)。
長野:以前は「観なさい」って言い続けていたんだけど、どう言ってもモモは観ないってことがわかったから最近は薦めることもやめました(笑)。

—お二人は年齢も近いので「MEMORIES」のモチーフに共通の思い出などがあったと思いますが、コレクションを作るにあたってどのようなやり取りがありましたか。
百瀬:ショーの演出として27体のヘッドピースを作成したんですけど、あれをやりたいと言ったのは僕なんです。10代というのはやりたいことだらけなのに何ひとつ叶わなくて、欲求も欲望もパンクな状態です。前回までの「五色人」が大人の雰囲気だったので今回はティーンエイジャーらしさを表現したくて、パンクの象徴として思いついたのがモヒカンでした。
NORI:最初は僕は「ちょっと違う」って言ったんです。でもモモは曲げないし、折れなかった。
百瀬:「MEMORIES」はこれまでの<SEVESKIG>と比べてもアメカジの純度がすごく高いと感じていて、そこをさらに加速させるために僕としてはモヒカンが必要でした。


—最初はちょっと違うと思っていたNORIさんが自身の考えを翻したのはどういう理由からですか。
長野:ヘッドピースが加わることでカッコよくなることはイメージできたんですけど、自分が設定したコレクションテーマとモヒカンが最初はうまく結びつかなかったんです。でも自分の15歳、16歳の頃を振り返ってみたら確かにあらゆるマインドがパンクだったなって。そういう捉え方なら成立すると思い直したんです。
百瀬:ヘッドピースを使ったショーをやってみたいと以前から言っていたのはNORIさんなんです。それを「今はそのタイミングじゃない」って止めていたのは僕でした。東京でのショーだったら<SEVESKIG>のステイタスを踏まえて演出を考える必要があって、アイコニックなヘッドピースは違うというのが僕の判断でした。それが初開催の韓国では<SEVESKIG>の勢いを伝えたいと思い、「今こそやるべきだ」とNORIさんに強く推したんです。


—百瀬さんが担当されているのは<SEVESKIG>だけではないとは思いますが、他のブランドでもそこまで踏み込んで意見しているのでしょうか。
百瀬:いちばんストレートに意見をぶつけているのはNORIさんだけかもしれないです。NORIさんってやろうと思えばなんでもできて、スタイリングだってやれるはずなんですけど「俺の仕事はここまでだから、あとは任せた」ってチームのみんなに託してくれるんです。任せてくれているわけだからやりがいがありますし、さらに自由にやらせてくれる。そういう良好な関係性を築けていると思います。
長野:自分の専門分野ではないところは、専門家に任せた方が面白くなるんです。自分でもスタイリングはできるかもしれないですけど、場数で言ったらモモの方が断然なのでそもそも発想の幅が違う。自分では思いつかないような提案をしてくれるからそれが毎回楽しいです。
プロフェッショナルな姿勢を持つスタッフから得られる刺激
—ブランドを取材すると「チームでのクリエーション」という言葉を聞くことが増えています。NORIさんと百瀬さんもコンビとして知られていますが、お二人もチームというものを意識していますか。
百瀬:僕とNORIさんのお互いを補っていくような関係性は意識したものではなく自然発生したもので、僕たちのことをコンビのように捉えて、やっていることが楽しそうに見えているとしたらうれしいです。
長野:一緒に仕事する人からプロフェッショナルな姿勢を感じられなかったら刺激もないですし、自分自身が得るものがない。だから僕が一緒にやりたいと持って選んでいるスタッフは指示待ちなんてもちろんいませんし、むしろフライング気味にどんどん進めていってしまう人ばかりです(笑)。
百瀬:ヘア担当の向井大輔さんとメイク担当の遠藤真稀子さんもずっと一緒にやっていて仲間意識は強いので、韓国のショーが終わった後なんてNORIさん、僕も含めて40代の4人が達成感から泣いたりしちゃって。2回目の青春をしてました(笑)。


—お二人はずっと二人三脚のクリエーションをされてきたんですね。
百瀬:それでいえば<SEVESKIG>のチームはヘアの向井大輔さんとメイクの遠藤真稀子さんも含めて四人五脚ですよ。
—ヘアの向井さんとメイクの遠藤さんもショーのためのアイデアや提案に積極的ですか。
百瀬:ヘッドピースをやりたいと言ったのは僕ですけど、製作したのはヘアの向井さん担当で、「服の色に合わせて作ってほしい」とオーダーしたんです。それでトリコロールのヘッドピースが出てきたときは「勝てる!」って確信しました。ルックの表情に対してすごくカウンターの効いた質感で仕上げてくれたってうれしくなりました。
—百瀬さんは細かく指示をしていなくても、表現したかったことを向井さんが汲み取ってくれたんですね。
百瀬:僕がショーのスタイリングで意識しているのはNORIさんが作り出したアメカジをどうやって拡散させていくかなんです。従来のファンだけでなくもっと若い世代に知ってもらうために、出てきたものをそのままではなく、解釈し直して再度組み立てる。そこに必要なヘッドピースが出てきたと思いました。
—百瀬さんのスタイリングへの考えをNORIさんは事前に聞いていたんですか。
長野:いや、特には(笑)。
百瀬:そこはね、あえて言葉にしなくても。僕がディレクションしているなんて気持ちは全くないので。
長野:僕が服を作るときは誰かが着ている姿をイメージしています。なので自分なりのスタイリングの完成形は出来上がっているんですけど、それをそのまま出すのもつまらなくて。そこにヘッドピースなどで別角度を生み出してくれるからチームでやっている意味があると思っています。

—今回のショーでNORIさんと百瀬さんが印象に残っているルックってどれでしょうか。
百瀬:トロンプルイユのセットアップですね。これはジャケットをパンツにインさせているんですけど、さらにジャケットを腰に巻くことでツナギを思わせるルックになったんです。アメカジをあまり着ないような人たちにも刺さるようにアップデートさせた着こなしは常に考えていて、これはいい着地点が見つかったと手応えがありました。
長野:これは確かに良かった。モモはいちばん難しくて、格闘したって言ってたね。

—韓国でのショーは<SEVESKIG>にとって次なるステップのひとつだったと思いますが、これから新しくやってみたいことはありますか。
長野:自分がやりたい国に進出していくというよりは、今回の韓国のように求められている場所に出て行きたい気持ちは強くなっています。ランウェイじゃなくてもイベントでもインスタレーションでもよくて、新しい見せ方はないだろうかって模索はしています。


—今後は発表は海外がメインになるのでしょうか。
長野:海外と決めているわけではないですが次はL.A.でイベントを開催予定で、自分がやりたいことがやれる場所というのは探して行きたいです。どこで何をやるにしてもモモは連れて行きますけどね(笑)。
百瀬:声をかけてもらえたらもちろん行きますけど、いつでもどこでも僕はNORIさんに付いていっているという感覚はないんです。並んで一緒に歩いている。あくまでデザイナーとスタイリストですけど、それを超えた関係性はずっと続けて行きたいです。

- Photograph : Kaito Chiba
- Text : Akinori Mukaino (BARK in STYLE)
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)