世界のどこにもないオリジナルでありたい|PETROSOLAUMデザイナー 荻野宗太郎
それがペテロオラウムだった。社会人となった現在も愛着は薄れることなく大切に履き続けているが、本人曰く「初めて目にしたとき、なぜあれほどまでに強く惹かれたのか」。
ペテロオラウム流のクラフトマンシップがそうさせたのかもしれないと、gallery一畳十間にて開催されたEXHIBITIONの空間の中で、デザイナーの荻野宗太郎さんに靴づくりに込めた想いを伺った。
手仕事にこだわった証しとしての指紋マーク
QUI 編集部(以下QUI):素敵な空間ですね。10年以上前に購入したペテロオラウムの靴、今日も履いてきました。
荻野宗太郎(以下荻野):ありがとうございます。ブランドを始めて11年目なので、初期の頃のコレクションを大切に履いていただけ嬉しいです。
和の空間の中でペテロオラウムの世界が表現でき、良い展示空間が出来ました。自邸のリノベーションもお願いした経緯もあり、とても気に入っているギャラリーなんです。
本日はどうぞよろしくお願いします。
インソールに刻印されているブランドロゴと指紋マーク
QUI:ファーストインプレッションでペテロオラウムに惹かれた理由のひとつがインソールの指紋のマークなんです。あれにはどんな意味や想いが込められているんですか。
荻野:最初にブランド名を考えたときに「家族への想い」というものを表したいと思いました。
それで父親が石油関係の仕事をしていたので、Petroleum(原油)という単語と自分の名前であるSotaro(宗太郎)を組み合わせて名付けたのがPETROSOLAUM(ペテロオラウム)です。あの指紋のマークは油で汚れた指先をモチーフにしていて、非常にパーソナルな印でもあると同時に手仕事にこだわるブランドというメッセージでもあります。
石油は地面を掘削していく工程がかかせませんが、ブランドして、モノ作りを深く掘り下げて考えるという意味もあり、指紋のマークにはいろんな想いが込められています。
QUI:最初に惹かれたのは見た目だったのですが、ペテロオラウムの真価はやはり履き心地だと思います。ずっと愛用しているのも履き心地の素晴らしさがいちばんの理由です。
荻野:ありがとうございます。
靴に興味を抱いたきっかけというか、入り口はファッションがきっかけかもしれません。多くの皆さんと同じようにファッションが好きで、今でも変わらないのですが、自分の好きな洋服を自分らしく着る事を楽しむ中で、私自身が小柄な体型ということもあり、靴だけはフィットするサイズがなかなか見つかりませんでした。
洋服ならオーバーサイズでもあえてルーズに着こなすこともできますが、靴の場合はそうはいかない。サイズが合っていない靴を無理して履いて足が痛くなったこともあったので、自分が靴の世界に飛び込んだときにシンプルに「かっこよくて、なおかつ履きやすい靴」を作っていくと決めました。
見た目も大事ですが、それ以上に足を保護する道具である靴としての機能面は妥協したくない部分でした。
QUI:「かっこよくて、なおかつ履きやすい靴」とは理想的ではありますが、作り手としては大変ではないですか?
荻野:前職のセレクトショップで働いていた時には、間近で国内外のさまざまなファッションブランドを目にする中で、表現にしても手法にしてもやり尽くされていることが多くてブランドの「らしさ」を打ち出すのは簡単ではないという事を感じました。
そこでペテロオラウムが自分たちの靴づくりとしてこだわったのが伝統的な手仕事の製法をベースに、そこに新たな思想やエッセンスを加える事で生まれるモノ作りでした。
本気の靴好きも満足させるビスポークの技法
QUI:ペテロオラウムはかなり凝った作りのようで、ビズポークでしか見られないような技法も採り入れていると聞きます。既製靴でそこまでこだわる理由は?
荻野:ビスポークの技法をいちばん採り入れているのが「03」という木型を用いたラインです。
ファッションもですが、アートや食、ライフスタイルの中で、拘りの強い、目の肥えたお客様にも満足してもらえるプロダクトを目指して生まれたラインで、オリジナルの素材も含めた革の選定から、パターンニング、縫製の仕様から底付けまでの繊細なテクニック、細部の処理等、手仕事ならではの履き心地の良さを最も追求していると言えます。
手間をかける分、プライスレンジも高くなってはしまいますが、それでも長く愛着を持って履いていただきたいという強い思いからブランドしてはコレクションを発表しています。
木型「03」
木型「03」で制作された靴たち
QUI:オリジナルレザーの開発というのもペテロオラウムの「らしさ」を表現するためのひとつの要素ですか?
荻野:世界的に知られる有名なタンナーの素晴らしい革はたくさんあります。様々な一流ブランドが採用していて、もちろんクオリティは間違いありません。ですが私たちは常にオリジナリティーを模索する中で、靴の顔つきを左右するアッパーのレザーもペテロオラウムだからこその表情を生み出したいという思いは持っています。
海外のラグジュアリーブランドと同じ革を使用することで「あのブランドっぽい」と言われてしまうことだけは避けたいんです。日本人として日本のブランドとして、世界と勝負したいと思ったときに国内のタンナーさんの素材を使用させてもらうことは自然の流れだったと思います。
左が展示品、右はデザイナー荻野氏が3年履いている靴
QUI:ペテロオラウムはクラシックなドレスシューズブランドのイメージがありますが、バブーシュやサンダルなどコレクションは幅広いですよね。
荻野:靴に凝る方ほどビスポークシューズのような王道も好きですが、他の人が持っていないアートピースのようなシューズも探しています。
ペテロオラウムとしてもひとつのことに固執しているブランドのようには思われたくないので、良い意味でブランドの匂いを付けたくないと考えています。ここ数年私自身のライフスタイルも大きく変化する中で、より自由にプロダクトとしての靴を捉えられるようになりコレクションの幅も広がってきているように感じています。
QUI:バブーシュは<JAN-JAN VAN ESSCHE(ヤン ヤン ヴァン エシュ)>とのコラボレーションですが、どのような経緯で実現したのでしょうか。
荻野:JAN-JANが日本に来たときに、ペテロオラウムの靴を見て気に入ってくれたのがコラボレーションのきっかけでした。どちらのブランドも同じセレクトショップで取り扱いがあったのでショップオーナーが引き合わせてくれました。
私自身もJAN-JAN VAN ESSCHEの世界観を含めた洋服は好きでしたし、コミュニケーションをとる中で彼自身の人間性にも引かれ「ぜひ一緒にやりましょう」となりました。やはり自分が好きになれなかったらコラボレーションはできないです。どれだけ有名なブランドだとしても価値観などを共有できなかったら良いモノは作れないと思ってます。
JAN-JAN VAN ESSCHEとのコラボレーションバブーシュ
自分がかっこいいと思う靴だけを作り続ける
QUI:「世界で勝負する」という言葉もありましたが、ブランドの未来をどのように描いていますか。
荻野:自分が靴ブランドをやるようになってから、今でこそ断続的に変化していますがレザーシューズは関税率の問題から海外でビジネスを展開するのは容易ではないというのが現実です。ですが、難しいと言われれば言われるほど挑戦してみたくなってしまうのが性なのでしょうか。ただの天邪鬼なのかもしれません(笑)。。。
最近は靴ブランドを立ち上げる若い世代も減りつつあり、国内の靴産業自体はシュリンクしているのが現状です。私が靴の世界を目指した時には、偉大な諸先輩デザイナー方に憧れを抱き、先駆者として今も第一線で活躍されているところにとても尊敬の念を抱いています。
もっともっと新しい靴デザイナー、靴職人に出てきてもらうためにも日本の靴づくりが世界に認めてもらうことは大事だと思っています。
QUI:ペテロオラウムも最初からうまくいった訳ではないと思いますが、厳しい時期を乗り越えてでも続けた理由はなんですか。
荻野:最初はひどいものでしたよ(笑)。それでも自分たちが作っている靴が、時間はかかるだろうけど、評価される時が必ず来るはずだと信じていました。芯をぶらさずに、表現をし続けた結果、少しづつではありますが、皆様に評価いただけ始めているという事を嬉しく感じます。
自分たちも歳を重ね、生活環境も変化する中で、制作に関して新たなアプローチの仕方ができるようになってきています。
好奇心が旺盛なのでこれからもいろんな方向性を探っていくとは思いますが、ブランドの芯にある機能面としての作りには一切妥協をせずに、今の自分の気分として「かっこいいと思う靴を作る」という軸だけはブレることはないでしょう。それがずっと変わらないペテロオラウムの靴づくりです。
公式HP:https://www.petrosolaum.com/
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