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Pillings 2026年春夏コレクション、“便利”の裏側に見る人間らしさとは

Sep 5, 2025
<Pillings(ピリングス)>は「思想をスタイルに変換する稀有なブランド」であると、あらためて確信したランウェイだった。
見終えたあとの読了感のような感覚は、強い造形だけでなく、その造形が指し示す意味を無意識でも探り続けているからだろう。

Pillings 2026年春夏コレクション、“便利”の裏側に見る人間らしさとは

Sep 5, 2025 - FASHION
<Pillings(ピリングス)>は「思想をスタイルに変換する稀有なブランド」であると、あらためて確信したランウェイだった。
見終えたあとの読了感のような感覚は、強い造形だけでなく、その造形が指し示す意味を無意識でも探り続けているからだろう。

ショーが終わったあともしばらく、<Pillings>のコレクションが頭から離れなかった。
それも、囲み取材での村上氏の「みんなにとって、それぞれのマイバスケットがある」という言葉が頭に残り続けたからだ。

今回のコレクションのテーマは「MY BASKET」。まさしくイオングループが運営する都市型小型食品スーパーにインスピレーションを得たものである。

徹底的に効率化された買い物空間は快適そのものだが、その均質化された便利さの中にはどこか虚しさが潜んでいる。
これは説教じみた「贅沢病」ではなく、人間らしい自然な感情といえる。

その虚しさは、効率化の中で削ぎ落とされてしまった「個人の違い」や「不完全さ」が見えにくくなったことから生まれるのだろう。
<Pillings>はあえて“歪み”や“裏側”をデザインに持ち込み、便利の隙間に潜む感情を掬い取る。不便を設計することで、均質化した日常に個の輪郭を戻している。

通常は隠れるポケットの袋布などを強調し、不恰好に見える形に美を見出したクリエィションは、社会の裏面を縫い直す行為にも重なる。裏返した編地に花が咲いたようなディテールも、その思想を視覚化する象徴的なルックであった。

他にも、これまで「部屋の中」という内面をテーマにしてきた<Pillings>が、今回は“スーパーへ行く”というわずかな外出を描いた点も重要だ。
ボサボサの髪や寝起きのような装いが登場し、ちょっとそこまで出かける“不完全”な服装を肯定してみせた。
大冒険ではなく小さな一歩。だがその移動が、人と社会の距離を測り直すきっかけになる。
都会の効率性の中で置き去りにされがちな「人間のゆらぎ」を抱きとめるスタイル提案であり、印象に強く残った。

改めて<Pillings>の美学は「不完全さを通じて日常を情緒化する」ことに尽きるだろう。
その思想は歪み、袋布、裏返しの編地、細部の違和感を積層させ、そこに内包される意味をこちらに投げかけてくる。
それを読み取る行為を<Pillings>はランウェイやコレクションを通じて、毎シーズン更新してくれている。

pillings 2026SS COLLECTION RUNWAY はこちら

  • Text & Edit : Yusuke Soejima(QUI)

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