JUNYA WATANABE MAN 2026年春夏コレクション、“古さ”を再編集する、新しいリアリティ
そのコンセプトはショー全体を貫く軸として、演出からルックの細部にまで丁寧に表現されていた。かつての記憶やスタイルを呼び起こしながらも、決して懐古的にならず、現代の感性に寄り添ったリアルな美しさを鮮やかに描き出していた。
その出発点には、2004年秋冬に発表された“トラッド革命”の記憶がある。アンティークマーケットで見つけたインテリアファブリックを短丈スーツやビビッドなフレンチカフスのシャツ、立体裁断のツイードジャケットに転用することで、昭和的トラッドの定型を鮮やかに覆した伝説的なシーズンだ。今回は、その精神を20年後の今に再解釈することで、“古さ”に内在する革新性が改めて掘り起こされている。
コレクション全体には、バロックやロマネスク、ロココといったヨーロッパ古典装飾のモチーフが散りばめられ、ジャカードやプリントとして可視化されている。ヨーロッパなどの建築風景を転写したルックは、まとう人の動きと共に風景の一部のように映る。そこにあえてデニムやツイル、ドリルといったワーク素材を合わせることで、重さと軽さ、格式と実用性がちぐはぐにせめぎ合った、現代的なリアリティが宿っている。
ブランドの代名詞ともいえる“解体と再構築”の手法も健在だ。複数のネクタイを重ねたようなディテールや、非対称なステッチで構築されたシャツ、緩やかに揺れるワイドパンツなど、見慣れたはずのアイテムが新しい視点で再提示されていた。グランジ的なルーズさや意図的な歪みも随所に見られ、「完璧ではないものにこそ美がある」という美学が前面に表れている。
コラボレーションもまた、<JUNYA WATANABE MAN>の語法の一部として機能している。今季は<LEVI’S(リーバイス)><Lee(リー)><New Balance(ニューバランス)><INNERRAUM(インナーラム)>といった多様なブランドとの協業が行われ、eYeラインでは<Carhartt(カーハート)>や<Dickies(ディッキーズ)>といったワークブランドとの組み合わせも展開。さらに、ショーには登場しなかったものの、日本のヴィンテージデニムの象徴的ショップ「BerBerJin(ベルベルジン)」との協業も進行中であり、アーカイブ分析や素材提供を通じて、新たな実験的ピースの創出が期待されている。これらのコラボは単なる“ブランドロゴの融合”にとどまらず、異なる文脈と素材の交差から生まれる創造性に重きが置かれている。
ショー演出の中では、音楽と衣服の構築プロセスが呼応していた。クラシカルなピアノから始まり、途中からビートの効いたハウスやジャズへと解体・再構築されていく。その音の変化は、まさに服がたどるプロセスと重なり、視覚と聴覚がシームレスに連動するような体験をもたらした。
牧場や牛をモチーフにした刺繍ニットを、フレアデニムに合わせるようなスタイリングも見られた。少し野暮ったく、しかし意図的に崩されたバランスが、どこかユーモアを伴うカントリースタイルへと昇華している。
また、蝶や草花を描いたボタニカル柄のジャケットにワーク的なオーバーオールやパンツ、シャツとボーダーカットソーのレイヤードなど、異素材・異文化のミックスも多用されており、そこには装飾やギミックを超えた“記憶の層”のような深みが感じられた。
<JUNYA WATANABE MAN>の2026年春夏コレクションは、単に懐かしさを追うのではなく、懐かしさそのものを今この瞬間に立ち上がらせる試みだった。過去と現在、ワークとアート、形式と解体というあらゆる対立の間で服を揺さぶり、そこに新たなスタイルの“余白”を見出していく。それはもはや服をデザインするというよりも、記憶を編集し、物語として纏う行為に近い。ファッションが単なる消費財ではなく、文化の再編成であるという強いメッセージを我々に突きつけたのだ。
- Photograph : Ko Tsuchiya
- Text : Yukako Musha(QUI)


















