QUI

FASHION

JUNYA WATANABE MAN 2026年秋冬コレクション、ジャズのように成熟する夜のフォーマリズム

Jan 30, 2026
<JUNYA WATANABE MAN(ジュンヤ ワタナベ マン)>が、パリ・ファッションウィークにて2026年秋冬コレクションを発表した。ジャズが鳴り響く会場で描かれたのは、夜という時間帯を強く意識した演出のもとで浮かび上がる、装いと文化の関係性。ヨーロッパの正装とアメリカの文化が交差してきた歴史を背景に、現在のフォーマリズムを問い直す試みを、写真家・土屋航が撮り下ろした写真とともに読み解く。

JUNYA WATANABE MAN 2026年秋冬コレクション、ジャズのように成熟する夜のフォーマリズム

Jan 30, 2026 - FASHION
<JUNYA WATANABE MAN(ジュンヤ ワタナベ マン)>が、パリ・ファッションウィークにて2026年秋冬コレクションを発表した。ジャズが鳴り響く会場で描かれたのは、夜という時間帯を強く意識した演出のもとで浮かび上がる、装いと文化の関係性。ヨーロッパの正装とアメリカの文化が交差してきた歴史を背景に、現在のフォーマリズムを問い直す試みを、写真家・土屋航が撮り下ろした写真とともに読み解く。

マイルス・デイヴィスの楽曲が、照度を落とした会場に静かに満ちていた。抑えた音量と間を生かした旋律が空間に行き渡り、ランウェイ全体を包み込んでいく。モデルの歩みは急がされることなく、服の輪郭や素材の切り替えに自然と視線が向かう進行だった。

音楽の選択は、ショー全体の空気を読み解くための重要な手がかりとなっていた。1926年生まれのトランペッター/作曲家、マイルス・デイヴィスは、ビバップ、モード、エレクトリックと、時代ごとに音楽性を更新しながら戦後ジャズの潮流を形づくってきた存在として知られる。彼の活動の場には、バーやクラブといった夜の社交空間が数多く含まれ、音楽はしばしば、装いや立ち居振る舞いと切り離せないものとして共有されてきた。

夜の社交空間において、音楽と同じように装いが意味を持つのは、それが単なる衣服ではなく、その場にどう身を置くかを示す態度として機能してきたからだ。クラブやレストランに身を置くことは、音楽を聴く行為であると同時に、何を着て、どのように振る舞うかを含めた時間の共有でもあった。夜という時間帯は、装いを日常着から切り離し、空間や人との関係性を可視化する要素として浮かび上がらせてきたのである。

夜の社交文化が広がっていくなかで、装いには次第に一定の秩序や形式が求められるようになっていく。第一次世界大戦後から第二次世界大戦前にかけて、アメリカ都市部では、外出や社交が生活の一部として定着していった。夜の場に足を運ぶことが日常化するにつれ、人びとは時間帯や空間にふさわしい装いを意識するようになっていった。その過程で、ヨーロッパで整えられてきたスーツという形式がアメリカへと渡り、仕事着として、また夜の社交のための装いとして着用の場を広げていく。フォーマルは「特別な装い」でありながら、着用される状況や時間帯を意識したまま、次第に日常の中へと組み込まれていった。アイビールックやワークウェアも、そうした流れの中で形成されてきたスタイルとされている。

装いの歴史を踏まえると、当日の会場演出も、単なる雰囲気づくりとしてではなく、夜の社交とともに育まれてきた装いの感覚を呼び起こすものとして捉えることができる。パリという発表の場に、アメリカの文化が内包してきた時間や空気が、音楽を介して重ね合わされていくようだった。

このような文脈のもとで展開された今シーズンの<JUNYA WATANABE MAN>からは、アメリカの文化の中で日常化してきた装いの形式を、パリという場所からあらためて組み立て直そうとする姿勢が感じられた。これは後にフォーマルと呼ばれる装いに通ずるものがある。フォーマルは決められた様式をなぞることではなく、場や時間に応じて自らの在り方を整えるための、ひとつの指針として機能してきた。今シーズンの<JUNYA WATANABE MAN>が掲げる「THE BEST, DRESSED」は、その指針を端的に言葉にしたものだと言える。ここで示されているのは、単にドレスアップすることではなく、その場にふさわしい佇まいを整えながら、本来の規律を踏まえたうえで、ブランドがこれまで培ってきたフォーマル、ワーク、カジュアルといったスタイルを、現在の感覚へとアップデートしていくという姿勢である。

スタイリングを振り返ると、今シーズンはフォーマルウェアを「どう着崩すか」ではなく、「どのように成立させるか」に重心が置かれていたことがわかる。歪みなく結ばれたネクタイや整えられた襟元、フェドラハットを含む装いは、フォーマルウェアが本来備えてきた規律や秩序を、過度な強調に頼ることなく示していた。

ウールやギャバジンといった定番素材をベースに、異素材の切り替えやパネル使いが随所に見られる。ジャケットやコートはテーラードを軸としながら、ライダースジャケットを思わせるジップや切り替え、ワークウェア由来のポケットが加えられ、異なる背景を持つ要素がひとつの仕立てとして違和感なく重ねられていた。縦のラインを意識したシルエットや立体的な作りによって、仕立ての精度が際立っている。

シャツやインナーでは、襟のバランスや前立てにわずかな違和感を残す仕立てが見られた。端正な形式を踏襲しながらも、均質になりすぎない調整が施され、着用時の表情に静かな変化を与えている。ニットやカーディガンに用いられた牧歌的な柄は、テーラードスタイルに視覚的なリズムを添えていた。

パンツは腰まわりから腿にかけて余裕を持たせたシルエットが中心となる。センタープレスやテーパードといった要素を保ちながら、動作に対応するゆとりが与えられ、どの角度から見ても整ったラインが保たれていた。

足元には<New Balance(ニューバランス)>のスニーカーを合わせたルックも登場する。トラディショナルな製法のレザーシューズが装いの軸を担うなかに、主張を抑えたスニーカーが加わることで、全体の緊張感がほどよく調整されている。

さらに、今シーズンは複数のコラボレーションも装いの文脈へと接続されていた。<Stüssy(ステューシー)>とのアイビールックをベースとしたアイテム、<Levi’s(リーバイス)>によるデニムの再構築、<Spiewak(スピワック)>のセーフティージャケット、<MAMMUT(マムート)>のダウンジャケットなど、異なる背景を持つ要素が無理なく取り入れられている。

音楽と歩調を揃えた進行のなかで展開された今シーズンの<JUNYA WATANABE MAN>は、夜の社交とともに育まれてきた装いの感覚を、パリという場所から現在の装いとして整え直すと同時に、フォーマルを身にまとうという行為そのものを、あらためて問い直すコレクションだった。

JUNYA WATANABE MAN 2026年秋冬コレクションはこちら

  • Photography : Ko Tsuchiya
  • Edit & Text : Yukako Musha(QUI)

NEW ARRIVALS

Recommend