古着はファッション経験値を高めてくれる練習台|FRONT 11201オーナー 西山育貴
インターネットによってヴィンテージという価値観が広まった
「FRONT 11201」でも古着への注目度の高さは感じていますか
西山:「FRONT 11201」はまだ若いお店なので古着のブームなど浮き沈みを大きな流れで体験しているわけではないですが、確かにここ5年ぐらいは古着が盛り上がっているといわれています。それもちょうど落ち着きつつある感じですね。
ここ数年、古着が盛り上がっている要因はなんだと思いますか
西山:シンプルな理由としてはファッションのサイクルは15年から20年で繰り返されるといわれているので、今がまさに再び流行を迎えた時期というのもあると思います。
2000年に入った頃は古着人気に陰りがあった?
西山:僕も日本ではショップはまだやっていなかったので周囲から聞いたことやあくまで個人的な見解になりますが、セレクトショップが隆盛を極める前の80年代前半を皮切りにさらに90年代後半ぐらいまでは古着人気は安定していましたが、それが2000年代後半に入ると冬の時代になったといわれています。それを脱したのがインターネットの発達です。オンラインでヴィンテージ品を手に入れることが普通になり、アメリカだけでも、ヨーロッパだけでも、日本だけでもなく、全世界で売買が行われるようになりました。それも古着への注目度の高まりの要因だと思っています。「ヴィンテージ」という価値観が世の中に浸透していったんです。
新品と古着をミックスさせることで生まれる自分らしさ
「FRONT 11201」に来店される方は古着にどのような価値を求めているように感じていますか。
西山:お客様は20代から40代が中心ですが、古着に求めるものは千差万別です。年代や生産背景などのモノに価値を感じて選ぶ方もいらっしゃいますし、新たなワードローブを探しに来店される方もいます。
最近はヴィンテージという古着そのものの価値よりも、個性を表現できるファッションアイテムとしての魅力を感じている方が増えているようです。
西山:まさにその通りですがそれは現代だけでなく、すでに80年代の渋谷や原宿には古着を試行錯誤しながらコーディネートに取り入れて自分だけのおしゃれを表現されていた方は大勢いらっしゃいました。でも、もしかしたら新品と古着のミックスという楽しみ方は現代のほうが定着しているかもしれません。
それはまさに今回お聞きしたいことでした。「FRONT 11201」の店内のラインナップは見た目も新品と遜色なくて、ミックスコーディネートもしやすそうです。
西山:古着なので程度に差はあってもダメージというのは付きものですが、なるべくすぐに破れたりしないような服を買い付けるようにしています。「古着だからこその味のあるダメージがいい」というのもありますが、それもトレンドによって変わったりしますね。日本の古着屋は海外と比べてもアイテムのレベルはかなり高いです。外装、内装の雰囲気もセレクトショップと遜色がないようなお店がどんどん増えています。
新品と古着をミックスさせる良さってなんでしょうか。
西山:全身をデザイナーズブランドで固めるよりも、古着を差し込むことで着こなしに抜け感が生まれるというのはあると思います。今は「全身でファッションしています」というのがあまり受け入れられていない時代だと思うんです。だからこそ古着のゆるさみたいなものがフィットするのではないでしょうか。若い世代ほどそんな空気を鋭敏に感じ取っているような気がします。
自分のクローゼットになってくれるような古着屋との出会いを
初心者からは「古着をどう選べばいいかわからない」という声もあるようですが、西山さんがアドバイスをするとしたら。
西山:僕は古着は練習台だと思っています。新品1着の値段で古着なら3着購入できることもあって、それだけ多くの服を着るという経験ができます。さらにクローゼットに服が増えていくと皆さん選別をしていくと思うのですが、そこでも残したくなる服を見極めるという訓練にもつながります。色落ちにしても誰かにとってはチープに感じても、自分としては魅力的に見えることもあります。古着は自分だけの大切な一着にもなり得ると思います。
確かに古着にしか醸し出せない雰囲気、佇まい、表情などはありますね
西山:古着の価値は年代、生地、状態、ディテールなど複合的な要素で決まるので、そこに気づけるようになったら古着屋に行くのが楽しくなるはずです。
初心者にとってはそんな審美眼も古着に対するハードルのようにも感じるのでは
西山:僕は古着屋で服を選ぶのに知識なんて全く必要ないと思っています。若ければ若いほどアイデンティティを表現したくなりますし、ファッションというのは重要な役割も果たすので、自分にとっての好きを最優先して選べばいいと思います。年齢を重ねるほどにアイデンティティへの意識が薄くなりがちなので、個性の表現は若いうちに楽しむべきです。その点でも古着は唯一無二のスタイリングを生み出せるツールなのかなと。
古着はファッションに造詣の深い人たちのマニアックな楽しみのようなイメージもありましたが、「練習台」というのがすごくわかりました
西山:新品の良さも古着の良さも知ることはファッションにおける経験値になりますし、見る目が鍛えられることで自分の手元に残したくなる服をその時代ごとで選べるようにもなれるはずです。
ファッションは好きだけど、これまで古着を通ってきていないという方に西山さんが何か伝えるとしたら
西山:先ほど若い世代は新品と古着をミックスさせるのが上手いと話しましたが、他の人とは違ったおしゃれを完成させるにはいつもの自分のスタイルに古着がハマるかどうかが大切です。ミックスすればこなれて見えるというわけではないので、まずは自分のワードローブになってくれるような古着屋を見つけてほしいです。「このお店に行けば自分の好きと出会える」という気軽に楽しめる方から古着の世界に足を踏み入れてもらえたらと思いますね。
- Photograph : Reina Tokonami
- Writer : Akinori Mukaino
- Edit : Miwa Sato (QUI)