YOHJI YAMAMOTO 2025年秋冬コレクション、記憶を纏い未来を結ぶ、エモーショナルな衣服表現
荘厳なシャンデリアが煌めき、天井には見事なフレスコ画が広がる会場が暗転した瞬間、静寂を破るように流れ始めたシンガーソングライター山崎ハコの「ジプシーローズ」。そのメロディが響くとともに、空間は一気にエモーショナルな空気に包まれた。
ランウェイに最初に登場したのは、バルーンスカートにフード付きのロングコートをまとったモデル。意外性のあるシルエットは、ブランドの持つ美学に新たな側面を加え、観客の視線を釘付けにした。
序盤のルックでは、口元まで覆うハイネックの衣装を纏ったモデルが登場。顔の下半分を隠すことで、過去の傷や言葉にできない思いを象徴しているかのようだった。
また、コードで身体を包み込むようなジャンプスカートや、絡み合うコードが施されたロングコートなど、一見遊び心のあるデザインに見えながらも、その奥には複雑な心境が潜んでいることが感じられる。
さらに、ヴィンテージ感のあるレザーが随所に用いられ、過去から現在へと続く時間の流れを視覚的に表現していた。
今シーズンのキーカラーはパープル。赤(情熱や愛)と青(冷静や理性)が交わることで生まれるこの色は、愛と憎しみという相反する感情の交錯を象徴するように映る。まるで相反する感情が同時に存在し、その微妙なバランスが揺れ動くような繊細な心理描写が、コレクション全体に漂っていた。
ショーでは<LIMI feu(リミ フゥ)>のルックが8ルック登場。
カッティングやシルエットの美しさに、ツギハギや結び目のディテールが加わることで、より一層の複雑さが生まれていた。ツギハギや結び目が繰り返し登場することで、傷つきながらも修復し、繋がり、再び結びついていく様子が浮かび上がる。それは、人間関係や人生そのものの修復と再生の物語のようでもあり、過去の苦しみから学びながら成長していくという希望を込めているようにも思えた。
モデルのヘアスタイルにも、このコレクションのメッセージが宿る。タイトにまとめられた髪は、部分的にあえて無造作に崩され、不完全さを演出。その上には、パイナップルやガーリックといった野菜や果物をモチーフとしたヘアアクセサリーが添えられた。時間と共に成長する植物が、修復と再生というテーマに寄り添うようだった。
終盤、モデルがコードを脱ぎ、裏返して交換するシーンでは、人の繋がりや温もりをも感じた。
壮大な空間で、過去と未来が交差し、いつの時代も変わらぬ人の感情と新しい視覚的アプローチが融合した今シーズンのコレクションは、観る者の心に深く刻まれるものだった。
- Text : Yukako Musha(QUI)