QUI

ART/DESIGN

DESIGNART TOKYO 2026 「UNDER 30」、次代のデザインを切り拓く5組の才能

Nov 6, 2026
デザインとアートの現在地、そしてその先にある可能性を提示する「DESIGNART TOKYO 2026」が、10月30日(金)から11月8日(日)まで開催されている。10回目を迎える今回は、銀座・東京・六本木・表参道など都内各地を舞台に、世界13カ国から約150組のクリエイターやブランドが参加。

そのなかでも目を向けたいのが、30歳以下の若手クリエイターに焦点を当てたプログラム「UNDER 30」だ。既存の枠組みにとらわれない発想や、まだ見ぬ表現の可能性を持つ5組を選出し、展示の機会を提供する。彼らがいま何を捉え、どのような未来を描こうとしているのか。今回は、選考を担った発起人らにプログラムの背景や選出の視点を、選ばれた5組のクリエイターには作品の見どころや制作の背景を聞いた。

DESIGNART TOKYO 2026 「UNDER 30」、次代のデザインを切り拓く5組の才能

Nov 6, 2026 - ART/DESIGN
デザインとアートの現在地、そしてその先にある可能性を提示する「DESIGNART TOKYO 2026」が、10月30日(金)から11月8日(日)まで開催されている。10回目を迎える今回は、銀座・東京・六本木・表参道など都内各地を舞台に、世界13カ国から約150組のクリエイターやブランドが参加。

そのなかでも目を向けたいのが、30歳以下の若手クリエイターに焦点を当てたプログラム「UNDER 30」だ。既存の枠組みにとらわれない発想や、まだ見ぬ表現の可能性を持つ5組を選出し、展示の機会を提供する。彼らがいま何を捉え、どのような未来を描こうとしているのか。今回は、選考を担った発起人らにプログラムの背景や選出の視点を、選ばれた5組のクリエイターには作品の見どころや制作の背景を聞いた。

DESIGNART TOKYOとは

青木昭夫をはじめとする6名の発起人によって、2017年に始動したデザイン&アートイベント「DESIGNART TOKYO」。
その立ち上げの背景には、当時のデザイン業界を取り巻く環境への危機感があった。2016年、東京オリンピックの競技場やロゴをめぐる混乱、TOKYO DESIGN WEEKでの火災事故などを受け、業界への不信感が広がり、若手クリエイターや企業が挑戦的な表現を発表する場が失われかねない状況にあった。そうした状況を打破し、東京から世界へ向けてデザインやアートを発信する場をつくりたいという思いから、DESIGNART TOKYOは誕生した。

DESIGNART TOKYO 2026 メイン会場風景

「UNDER 30」に込められた思い

若手クリエイターの可能性を広げるプログラム「UNDER 30」も、その理念を体現する取り組みのひとつだ。国内外からの応募者の中から毎年5組を選出し、無償で展示の機会を提供している。30歳以下という年齢制限を設けているのは、完成度や洗練だけでは測れない、粗削りであっても大胆な発想や挑戦する姿勢を後押しするため。既存の価値観やデザインの定型から逸脱する独創性、そして人の心に訴えかける力を重視している。まだ見ぬ表現と出会い、次代を担う才能が世界へと羽ばたく契機を生み出すこと。「UNDER 30」は、デザインの未来に向けたひとつの実験の場でもある。

5組のクリエイターとその表現

2026年の若手クリエイター支援プログラム「UNDER 30」に選出された5組のクリエイターに、それぞれ3つの質問をした。

1. 今回の展示作品:今回の「DESIGNART TOKYO 2026」の展示作品はどんな作品か教えてください。
2. 表現手法・素材への思い:表現に使用している「手法」や「素材」についてのこだわり・思いを教えてください。
3. デザインとの向き合い方:制作/デザインにおいて、大切にしている価値観や姿勢を教えてください。

竹内 瑠奈 —「Composition / Perception」

1. 今回の展示作品

「Composition / Perception」は、前作「Composition / Structure(2020)」に続く新たな試みであり、素材の構造や表面の変化が、人の知覚やものの見え方にどのような影響を与えるのかを探るコレクションです。布を単なる平面や装飾としてではなく、光や視点、距離、人の動きなど、周囲の環境との関係によって変化する柔軟な存在として捉えています。手捺染による色の重なりや、光の角度で表情を変える顔料、切り込みや接合による立体的な構造など、異なる素材や技法を用いて布の新たな表情を探っています。今回の展示では、職人との協業や素材実験を通して生まれた発見をかたちにし、布が持つ柔らかさや面白さ、可能性を伝えたいと考えています。

2. 表現手法・素材への思い

素材が本来持つ性質を理解し、異なる加工や構造を組み合わせることで、新たな可能性を引き出すことを大切にしています。ハンドプリーツによる立体的な表情や、厚盛りプリントによる表面の凹凸、光の当たり方や角度で見え方が変わる偏光パール顔料など、素材と技法の組み合わせによって、布の表情や質感がどのように広がるのかを探っています。制作では、完成形を決めきらず、実験しながら試行錯誤を重ね、共感と意外性の接点を探ります。また、産地や技術に根ざした知見を持つ職人との協業も重要です。それぞれの専門性や技術を掛け合わせ、自分ひとりでは生み出せない表現にたどり着くことに面白さを感じています。素材と人、技術の交わりから、新しい布の可能性を探り続けたいです。

3. デザインとの向き合い方

デザインにおいて大切にしているのは、素材と技術の相性から生まれる実験や観察を通して新たな表現を探ることです。素材の質感や構造、光の反射、ものと人との距離など、さまざまな要素に目を向け、そこから生まれる現象を制作の出発点としています。ひとつの素材や技法に対しても用途や表現を限定せず、試行錯誤のなかで見えてくる発見を大切にしています。また、職人をはじめ、異なる専門性を持つ人々と協働することで、自分の想像を超えた表現が生まれることにも魅力を感じています。テキスタイルを軸に、プロダクトやグラフィック、空間など領域を横断しながら、素材や技術の新たな可能性を探ることが、私のデザインの姿勢です。


竹内 瑠奈(デザイナー)

テキスタイルを中心に、グラフィック、エディトリアル、空間など領域を横断して活動するデザイ ナー。2020年に多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻を卒業。「平面と立体」 「素材と技術の融合」をテーマに、多様な表現に取り組む。現在はクライアントワークと個人制作活 動の両軸で活動している。
ウェブサイト:runatakeuchi.com
Instagram:@runa_artworks

Selected by 青木昭夫 / DESIGNART INC. 代表取締役, MIRU DESIGN INC. 代表取締役
テキスタイルは、光や風、見る距離によって、その表情を絶えず変えていきます。誰もが目にしながら見過ごしてきたその移ろいを、ひとつの現象として丁寧に見つめ直す姿勢に惹かれました。
テキスタイルを軸に、職人の技術を引き出しながら、グラフィックや空間へと領域を越えて培ってきたまなざしが、素材と知覚のあいだに静かな響きを生み出している。その繊細な感性が、これからどんな景色を織りなしていくのか期待し、選出しました。

展示場所:AUTOBAHN / KK line(東京都中央区銀座西2-2先)
展示期間:2025年10月31日(金)〜11月3日(火)
公開時間:10:00〜19:00
詳細はこちら

Fushi Sano + Mio Haruhana —「BONE VOYAGE」

1.今回の展示作品について

いつかのどこかの誰かの記憶を注入されるような体験をもたらす作品「BONE VOYAGE」を展示します。本作は、先端に骨伝導スピーカーをつけた3本のアームで構成され、各アームは多関節スライドリンク機構で動きます。ツタや指のようにうごめくアームが、横たわる体験者の頭部に接地し、押し込むように動きながら頭蓋骨を震わせます。すると、まるで頭蓋骨そのものが新たな耳になったかのように、ミッドタウン周辺で録音した環境音が頭の中に響き渡ります。どこに、いつ、どれだけの強さで触れるかによって聞こえ方は変化し、見知らぬ時間と場所に入り込んでいくような不思議な聴取体験が生まれます。会期中は予約制で、実際にこの感覚を会場でご体感いただけます。

2. 表現手法・素材への思い

本作のポイントは、多関節スライドリンク機構と骨伝導スピーカーです。多関節スライドリンク機構は造語で、複数の回転関節と直動運動を組み合わせ、複雑な軌跡と大きなストロークを実現する機構です。開閉するアームは美しさや不思議さを持ちながら、頭部を押し込むときにはわずかにたわみ、人の指に近い柔らかな感触を生みます。骨伝導スピーカーは、骨伝導イヤホンなどで身近になった部品ですが、本作ではそれ自体が頭に触れたり離れたりします。アームによって発生する、頭を押す圧力も一つの要素として捉えながら、どこにどう触れ、どんな音を響かせるか、動きと音を一体のものとして構成しました。そうして、何者かの記憶を注入されるような世界観をつくり上げています。

3. デザインとの向き合い方について

大切にしているのは、まず作品の世界観に引き込まれ、そして体感するうちに今度は自分自身の内側へ潜り込んでいくような体験をつくることです。入り口になるのは、形や動きが持つ美しさや不思議さです。思わず足を止めて見入り、やがてその中に身を置いて全身で感じているうちに、意識は少しずつ作品から離れ、いつかの記憶や忘れていた自分自身の感覚へと向かっていく。作り手が何かを伝えるだけでなく、そこにいる人の中に眠っていたものが引き出され、目の前の現実がふと揺らぐ。そんな瞬間を生み出したいと考えています。そのために、見た目も音も振動も別々の要素ではなくひとつながりの体験として捉え、制作途中の道草や手足を動かすなかで出会う発見も取り込みながら、自分の予想を越えた着地点を探り続けています。


Fushi Sano + Mio Haruhana(サウンドアーティスト/デザインエンジニア)

佐野風史 / 春花海緒
「聞こえ」そのものを編集可能な構成要素として捉え、音楽/音響を制作する佐野風史と、構造/力学の必然性を骨格として、動的造形を生み出す春花海緒による ユニット。 多様な音響デバイスと、有機的な意匠・動作を組み合わせることで、 まだ見ぬ新たな音響体験のための作品を制作する。
佐野風史 Instagram:@fu.fu.fu.fu.fu.fu
春花海緒 Instagram:@haru_.hana

Selected by 小池博史 / NON-GRID Inc.代表
美しくもコケティッシュな佇まいと、生き物のような動きに惹かれました。
眺めていたアームが自分に触れ、音が耳からではなく、アームを通して頭の中へ直接インプットされる。
その不思議な感覚と、目の前の造形や動きや結びつきが面白いと思います。
触れる位置や強さ、タイミングまでを音とともに設計し、見る好奇心を身体の驚きへとつなげている。その豊かな表現に可能性を感じ選出しました。

展示場所:東京ミッドタウン ガレリア 2F(東京都港区赤坂9-7-4)
展示期間:2025年10月16日(金)〜11月4日(水)
公開時間:11:00〜20:00
詳細はこちら

鍋梨世知 — 「Tempura Objects / Tempura Products」

1. 今回の展示作品について

「Tempura Object」は、「揚げる」という料理行為を、工芸的な造形プロセスとして扱う作品です。紙や繊維といった非食品素材に衣をまとわせ、油で揚げることで素材を変質・硬化させ、偶然と制御のあいだに形を生み出しています。それは、焼き物や鋳造のように素材を固める行為でありながら、料理的でもあります。工芸は、素材を制御し、形を与える技術として発展してきました。本作では、その工芸を「揚げる」ことから捉え直し、人の制御を超えて素材と現象の相互作用から生じる形と過程を、デザインとして提示しています。身近な料理行為をものづくりへと移し替えることで、料理と工芸のあいだにある共通点や違いを探り、工芸の枠組みを拡張する試みです。

2. 表現手法・素材への思い

調理を、食べ物をつくるためだけでなく、素材に働きかけて形や性質を変える造形のプロセスとして捉えています。切る、混ぜる、加熱するといった身近な行為には、素材の扱い方や変化を引き出す知恵が含まれています。そのなかでも天ぷらは、液体状の衣を素材にまとわせ、油の熱によって固めるという点に面白さを感じています。衣をひとつの造形材料として扱い、その厚みや広がり、素材へのつき方を探っています。油の温度や揚げる時間を調整しても、すべての変化を思いどおりにすることはできません。だからこそ、あらかじめ決めた形に近づけるだけでなく、調理の過程で起こる現象を観察し、そこから生まれる輪郭や質感を形として受け止めることを大切にしています。

3. デザインとの向き合い方

デザインに向き合ううえで、既存の分野や役割にとらわれず、目の前の素材や現象から考えることを大切にしています。アートとデザインを分けず、問いを生むことと、形や関係をつくることを一体として捉える「アートデザイン複合体」という考え方も、その姿勢につながっています。制作では、最初から答えを決めるのではなく、手を動かし、素材に起こる変化を観察しながら、考えを更新していきたいと思っています。自分の意図を超えた結果にも目を向け、そこから新しい可能性を見つける。「料るデザイン」を軸に、料理や工芸などの行為を別の文脈で試しながら、当たり前になっているものの見方を問い直し、人間と自然、物質との関係を考え続けていきたいです。


鍋梨世知(デザイナー・アーティスト)

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業。現在、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専 攻に在籍。油で素材を揚げる加工を用い、調理行為を造形技法として捉え直す制作を行う。工芸やデザ インの視点から食文化における技法を再解釈し、素材の変質や加工のプロセスに着目した作品を発表し ている。また、空き家を舞台にしたアートプロジェクト「空き家劇場」の企画・プロデュースも行う。
Instagram:@cecil_nabenashi

Selected by アストリッド・クライン、マーク・ダイサム / クライン ダイサム アーキテクツ代表
天ぷらのように「揚げる」という調理法を彫刻的な工芸作品へと昇華させる、鍋梨さんの遊び心あふれる斬新なアプローチは、日常に潜む美しさやユーモア、新たな可能性を引き出しています。思わず笑顔になる楽しさと、その先に思索を促す独創性。好奇心と確かな信念に支えられた表現は、既成概念にとらわれず、新たな視点で挑戦するDESIGNART UNDER 30の精神を体現しています。デザインが持つ驚きや喜びを改めて感じさせてくれる作品です。

展示場所:東京ミッドタウン ガレリア 2F(東京都港区赤坂9-7-4)
展示期間:2025年10月16日(金)〜11月4日(水)
公開時間:11:00〜20:00
詳細はこちら

PULSE(Rikiya Toyoshima・Shomu Taki) — 「HAKU」

 

1.今回の展示作品について

《HAKU》は、「間」という考え方を、現代の暮らしの中で捉え直した家具シリーズです。私たちは「間」を、単なる空白ではなく、家具と空間、人と物との関係の中に生まれる、ゆとりや余白のようなものだと考えています。今回の作品では、建築で用いられてきた左官技術と独自に開発した素材を家具に応用し、空間表現を家具のスケールへと展開しました。異なる素材の対比によって家具の存在感を際立たせながら、その周囲に広がる余白との関係性も表現しています。

2. 表現手法・素材への思い

二つの視点から表現を試みています。
一つ目は、建築に見られる空間の構成や余白のあり方を、家具のスケールへと転換すること。
二つ目は、その思想を素材や技法にも反映し、新たな質感や風合いを探ることです。

素材には、日本の暮らしに古くから根付くイグサと、伝統的な左官技術を用いています。イグサを左官材に混ぜ込む独自の素材開発により、繊維の質感や色合いを生かした自然な風合いを引き出しました。さらに、職人が手作業で塗り重ねることで、揺らぎのある繊細な表情を生み出しています。既存の素材や技術に潜む可能性を見つめ直し、新たな価値へとつなげること。そして、表現を繊細に研ぎ澄まし、静けさの中に、見る人の感覚や想像が入り込む余白を残すことを大切にしています。

3. デザインとの向き合い方

PULSEは、空間とプロダクト、それぞれの視点を掛け合わせながら、文脈を紡ぐデザインを心がけています。空間の構成や雰囲気を捉える視点と、モノの形や機能、使い方を考える視点。その両方から対象を見つめることで、一つの領域だけでは生まれない、新たな発想や表現を探っています。また、モノを単体で捉えるのではなく、その背景にある文化や技術、土地、人々の営みといった文脈を読み解くことも大切にしています。既存の価値を捉え直し、異なる要素を結びつけることで、新たな関係性や可能性を生み出していきます。

PULSEには、脈動という意味があります。
明確なかたちを押し付けるのではなく、日常に小さな変化をもたらし、新たな気づきが静かな波紋のように広がっていく。私たちは、そんなデザインを目指しています。


PULSE(デザインユニット)

豊嶌 力 / 多木翔夢
PULSEは、時代の流れに新たな脈動を生み出すことを目指すインテリアとプロダクトのデザインユニット。空間を器として捉える視点と、人の行為や身体性から立ち上がる視点を合わせながら、素材や技術、その背景にある文脈や思想を横断的に捉え新たなデザインの可能性を探求する。
豊嶌 力也:神戸芸術工科大学在学中にDesign Soilに所属。HYBE design teamを経て、個人で内装設計の活動を開始。現在は東京藝術大学大学院に在籍し、物や素材に宿る文脈を現代的に再解釈することを軸に活動している。
多木 翔夢:神戸芸術工科大学卒業後 、A Studio Design / Shin Azumiに勤務。その後SYOU DESIGN STUDIOを設立。プロダクトデザイナーとして、家電、家具、日用品のデザインを手掛ける。
Instagram:@pulse_design_unit

Selected by 川上シュン / Founder & Creative Director, artless Inc.
PULSEの作品「HAKU」に惹かれたのは、日本の伝統的な素材や技術、そして「間」という美意識を、現代の暮らしの中で新たな価値として捉え直している点です。
単に美しい造形を生み出すのではなく、素材の背景や時間、人の身体感覚にまで目を向け、目に見えない豊かさをデザインしようとする姿勢に共感しました。
伝統を継承するだけでなく、独自の解釈によって新しい可能性を見出していく。その思想と探究心に、これからのデザインの可能性を感じ、今回選出しました。
(本展示の際、HAKU のロゴデザインのサポートも行いました。)

展示場所:AUTOBAHN / KK line(東京都中央区銀座西2-2先)
展示期間:2025年10月31日(金)〜11月3日(火)
公開時間:10:00〜19:00
詳細はこちら

今野 雅也 — 「在りもしない幹 / Nonexistent trunk」

1.今回の展示作品について

本作「在りもしない幹」は、秋田県沿岸部に広がる、虫害によって枯れた松林を起点とした作品です。空虚に立ち枯れた松の木々は、幼い頃から見てきた当たり前の風景でした。そこに手を伸ばしてみると、虫に蝕まれた幹が崩れていく一方で、樹皮はその輪郭を留めていることに気づきました。異なる木から無作為に採取した樹皮を、互いの輪郭が呼応するようにつなぎ合わせ、磨き上げることで、実際には存在しない幹の輪郭を立ち上げています。樹皮に潜んでいた生命感を露出させ、失われていく自然をそのまま再現するのではなく、そこに残されたものから新たな風景を見出すことを試みました。

2. 表現手法・素材への思い

松の樹皮を用いた制作は、卒業制作でテーブルをつくったことから始まりました。しかし、樹皮それぞれの輪郭を均質化し、異素材で強度を補う方法に疑念が残り、樹皮本来の輪郭を生かす最適解を考えるようになりました。今回の展示では、元の幹へと戻すように輪郭を再構成し、この世に存在しない幹として立ち上げています。虫害も自然の豊かな営みの一部であり、害と呼ぶこと自体が人間都合にも思えます。一方で、それに向き合う人の苦労を自然の循環へ溶かし込むこともできない。そんな割り切れなさから、金継ぎや、割れた窓ガラスをセロテープで留めるような、物への慈愛を純粋な行いとして自然物にも向け、人の手による修復を試みています。介入の是非を決めきらず、自然のひとかけらと自分の手の間で、課題と豊かさの釣り合いを探っています。

3. デザインとの向き合い方

今回、幼い頃から見てきた風景という極めて狭い世界からの発見を展示として拡張してきましたが、ここでのデザインの意義は、その風景や自分の発見を見たことのない誰かへ、感動し、思わず足を止めてしまうほどの「翻訳」を行うことだと考えています。単に風景を再現したり、背景にある問題を説明したりするのではなく、その新たな物体を通じて、他者が自分なりの発見をするきっかけをつくること。自分にとっての当たり前を、他者にとっての新たな視点へと変換することが、自分として重要であるとともに姿勢であり、同時に最大の課題でもあります。


今野 雅也(デザイナー)

2025年、東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科を卒業。同年、自動車メーカーに入社し、CMFデザイナーとして勤務する傍ら、個人で制作活動を行う。
Instagram:@masaya_konno

Selected by 永田宙郷 / TIMELESS代表
社会課題や暮らしの美を起点とするデザインが多いなか、個人的な記憶から出発する視点がユニークで選出理由のひとつになりました。また幼き日の記憶と枯れ落ちた松の皮、その双方に通じる薄く儚い存在を積層し、新たな美と造形へと昇華させていこうとする様は、詩的な表現にとどまらず、丁寧なリサーチと独自のアプローチ、確かな造形力によって、個人の記憶を他者と共有できる価値へと転換されており、今野さんのデザイナーとしての可能性も強く感じた次第です。

展示場所:日比谷OKUROJI(東京都千代田区内幸町1-7-1)
展示期間:2026年10月30日(金)〜11月8日(日)
公開時間:10:00〜19:00
詳細はこちら

東京の各所に広がる「DESIGNART TOKYO 2026」。街を巡りながら作品と出会い、その背景にある思想や作り手の視点に触れることで、見慣れた風景も少し違って見えてくるはずだ。次代を担う5組の表現から、デザインの新たな可能性を感じてほしい。

開催情報
DESIGNART TOKYO 2026
会期:2026年10月30日(金)〜11月8日(日)
開催エリア:銀座・東京・六本木・外苑前・表参道・原宿・代官山・池尻
メイン会場:KK線(旧東京高速道路)数寄屋橋交差点〜銀座一丁目
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
公式サイト:https://www.designart.jp/designarttokyo2026/
Instagram:@DESIGNART_TOKYO

  • Edit / Text / Photograph : Seiko Inomata(QUI)

NEW ARRIVALS

Recommend