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ART/DESIGN

“見る”というより、“置かれている” — ワタリウム美術館「ジャッド|マーファ展」レポート

Mar 26, 2026
ワタリウム美術館で開催中の「ジャッド|マーファ展」は、ドナルド・ジャッドの初期絵画から立体作品、そして活動の拠点であったテキサス州マーファに至るまでの展開をたどる構成だ。
(PHOTO:無題 1990年 黒のアノダイズド・アルミニウム、ブロンズ色のプレキシグラス(10ユニット) 静岡県立美術館蔵)

“見る”というより、“置かれている” — ワタリウム美術館「ジャッド|マーファ展」レポート

Mar 26, 2026 - ART/DESIGN
ワタリウム美術館で開催中の「ジャッド|マーファ展」は、ドナルド・ジャッドの初期絵画から立体作品、そして活動の拠点であったテキサス州マーファに至るまでの展開をたどる構成だ。
(PHOTO:無題 1990年 黒のアノダイズド・アルミニウム、ブロンズ色のプレキシグラス(10ユニット) 静岡県立美術館蔵)

展覧会を見た、というより、空間の中に置かれた、という感覚に近かった。
ジャッドの作品は、単体で完結するものではないからだ。

 

平面の中で、すでに崩れはじめている

2F展示風景 撮影:木奥恵三

左より、無題 1989年 鹿児島県霧島アートの森蔵、無題 1960年 ジャッド財団蔵、2F展示風景 撮影:木奥恵三

展示は初期の絵画作品から始まる。

一見すると抽象絵画の形式をとっているが、画面の中には平面として閉じきらない違和感がある。塗られた色面の濃淡や構造の差異によって、画面は均一な平面ではなく、奥行きをもったものとして知覚される。

ただ、それは単なる視覚効果ではない。絵画の中に、すでに立体へと向かう構造が入り込んでいる。

絵画における奥行きは、本来イリュージョン(視覚的に奥行きがあるように見せる錯覚)にすぎない。そこに“あるように見える”だけで、実在しているわけではない。

シンポジウム(2026年2月15日開催)でも触れられていたように、ジャッドが問題にしていたのはこの点だった。絵画の中で立体を表現するのではなく、その構造そのものを現実の空間へと引き出すこと。つまり、表現ではなく、存在のあり方を変えようとしていた。

 

描くことから、置くことへ

その結果、ジャッドは絵画から離れていく。

奥行きを描くのではなく、それ自体を現実の中に置く。床の上に、空間の中に。

このとき作品は、「何かを表すもの」から「そこにあるもの」へと変わる。絵画が前提としていた“見るための枠組み”も、ここで崩れていく。

 

視点が成立しないという体験

立体作品に移ると、その変化はよりはっきりする。

箱状のユニットや反復構造は、特定の視点を前提としない。どこに立つかによって、見え方そのものが変わる。

2F展示風景 撮影:木奥恵三

無題 1990年 黒のアノダイズド・アルミニウム、ブロンズ色のプレキシグラス(10ユニット) 静岡県立美術館蔵

壁面に沿って同じ形状のユニットが垂直に反復される「スタック」において、重要なのは形ではなく配置だ。均質な構造だからこそ、わずかな位置の違いがそのまま体験の差として現れる。

見る位置を選んでいるつもりで、すでにその関係の中に含まれている。

 

マーファ──作品を超えて環境になる

そうした流れの延長線上にあるのが、マーファだった。
その思考が、実践として空間に置かれた場所でもある。

4F展示風景 撮影:木奥恵三

4F展示風景 撮影:木奥恵三

ジャッドはニューヨークを離れ、テキサスのこの地で、作品を恒久的に設置する環境をつくり上げていく。そこでは、作品は展示される対象ではなく、建築や光、土地といった要素とともに、空間の中に組み込まれている。

ここで重要なのは、「何を作るか」ではなく「どのように置くか」という視点だ。

配置は単なるレイアウトではなく、空間のスケールや身体の移動、滞在する時間までも含めて設計されている。

作品は、物体というよりも環境に近づいていく。

 

作品ではなく、状況をつくる

そして、その背景にある考え方が、次のように整理されていく。
ジャッドは、自身の作品を既存の絵画や彫刻の枠組みに収まらない「スペシフィック・オブジェクト」として提示した。

左より、無題 1977年 ワタリウム美術館蔵、無題 1991年 ジャッド財団蔵、3F展示風景 撮影:木奥恵三

3F展示風景 撮影:木奥恵三

それは何かを表すものではなく、空間の中に実在する構造そのものだ。

重要なのは、意味を持たないことではなく、意味に回収されないことにある。作品は解釈される対象というより、関係の中で成立するものとして存在している。

 

なぜ今、ジャッドなのか

いま、多くの作品は、理解可能なものとして消費される。イメージや言葉に置き換えられ、すぐに共有できる形へと変換されていく。

一方で、ジャッドの作品は、その回路にうまく乗らない。

理解しきれないまま、体験だけが残る。

“見る”というより、“置かれている”。

自分と空間の関係を、意識せざるを得ない。そういう状態が、そこにあった。

その問いは、いまも開かれたまま残っている。

 

ジャッド|マーファ展
会期:2026年2月15日(日)– 6月7日(日)
会場:ワタリウム美術館
開館時間:11:00–19:00
休館日:月曜日(2/23、5/4は開館)
入館料:
大人 1,500円、大人ペア 2,600円、学生(25歳以下)・高校生・70歳以上・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方および介助者(1名まで)1,300円、小・中学生 500円
主催/会場:ワタリウム美術館
特別協力:ジャッド財団
資料協力:チナティ財団
URL:http://www.watarium.co.jp
Instagram:@watarium
X:@watarium

  • Text & Edit : Y.O(QUI)

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