渋谷PARCOで、いつもの見方を少しだけずらす|「P.O.N.D. 2026 re/sort」
本イベントを訪問し、アートディレクターや空間ディレクター、そして今注目のアーティストに話を聞いた。
ART&CULTUREの祭典「P.O.N.D.」
〈P.O.N.D.〉は、渋谷PARCOを舞台に開催するアート&カルチャーイベント。前身は2011年から続いた「シブカル祭。」で、そのフィロソフィーである「新しい才能の発見と応援」を引き継ぎ、2020年から〈P.O.N.D.〉として新たにスタートした。名称には「Parco Opens New Dimension(常に新しい次元を切り開いていく)」という想いが込められており、アート・ファッション・音楽・映像など幅広いジャンルのクリエイターの才能とエネルギーがあふれ出す場となっている。
今年のテーマ“re/sort”と空間デザイン
“resort”が持つ「行楽地、リゾート」、そして修飾語とともに用いられる「人が集う場所」「たまり場」という意味に、“re=再び”“sort=整理すること”という別の読みを重ねる。見慣れたものや価値観を捉え直し、選び直し、組み替えること。日常からほんの少し距離を置くことで、いつもの景色に違う輪郭を見つけていくようなテーマだ。
本展の開催にあたり、キービジュアルを制作したアートディレクターの田岡美紗と、会場のデザインを担当したクリエイティブファーム・NEW DOMAINに、本展のテーマや作品をどのように捉え、表現や空間に落とし込んだのか、そして来場者に届けたい体験について話を聞いた。
田岡美紗(アートディレクター)
『文化的な側面と商業的な側面を併せ持ち、フロアごとに異なるコンセプトが展開される渋谷PARCO。そこで開催されるP.O.N.D.のグラフィックでは、「re/sort」というテーマを、日常的なものを商業空間へ持ち込むひとつの“実験”として捉えました。作品を見ることは、作家の視点を通して切り取られた何かに触れることであり、その多くは日常の中から見出されます。そこで、日々撮り溜めていたスナップ写真から、似た要素を持ちながらも異質な組み合わせを選び、整理の際に使う付箋とともにグラフィックとして再構成しました。日常から切り取ったものを、場所や方法を変えてあらためて見つめ直す。その感覚を、メインビジュアルを通して体験してもらえればと考えました。』
Instagram:@taoka_misako
NEW DOMAIN(空間ディレクター)

『日常から離れ、思考や感情を一時的に預ける「場所(resort)」と空間とを結ぶために、私たちは作品の輸送や搬入現場で用いられる「養生・梱包資材」を主なマテリアルとして展開します。作品を守るための資材は、移動という流動的なプロセスの中に だけ現れる仮設的な存在です。私たちは、その用途を読み替え、 機能を再編集することで、本来の「かたち」から別の「かたち」へと変化させていきます。それは、完成ではなく、変化し続けるプロセスの中に生まれる「このままでもいいのではないか」という一時的な状態です。常に更新される都市・渋谷と、そこに集い、それぞれの可能性を模索しながら変化していく人々の姿に重ね合わせます。既存の用途や役割を一度ほどき、別の意味や機能へと並べ替え再編集することで、固定された「かたち」から解放し、変化の途中にある空間を目指します。』
Instagram:@new_domain
“re/sort”を体現する、アーティストたちの作品を紹介
本展は渋谷PARCO B1の「GALLERY X BY PARCO」、1Fのエントランス、4Fの「PARCO MUSEUM TOKYO」、9Fの「SUPER DOMMUNE」で展示が行われ、入場は無料だ。展示を行う13名のアーティストのコメントとともに展示を紹介する。
みずかみしゅうと(アーティスト)
B1F GALLERY X BY PARCOでは、2025年の「P.O.N.D. AWARD 2025」グランプリを受賞したみずかみしゅうとの個展「いつか島になるため」を10月2日(金)から10月12日(月)まで開催。
『今回の展示は、髪の毛を緑色に染めたら頭が島みたいに見えたことがきっかけで撮影した写真や、島にどんなものを持っていくか、どんなものがあると良いかと考えているうちにできた展示です。小さい頃に描いた絵や、これまで集めてきたコレクションなど自分のことを振り返るような、個人史的な展示でもあります。自分にとって当たり前なことや感覚が他人から見たらどう見えるのか、どう共感してもらえるか、そうしたことに興味があります。』
Instagram:@namahamustar
稲垣悠太朗(現代美術家)
公園通りに面した1F エントランスには、ロンドンを拠点に活動する現代美術家・稲垣悠太朗によるパブリックアートが登場する。

《Citizen 1》粘着テープ、プラスチックフィルム、衣服、アニマルマスク
《Citizen 2》粘着テープ、プラスチックフィルム、衣服、アニマルマスク
《Citizen 3》粘着テープ、プラスチックフィルム、衣服、アニマルマスク
『今回はP.O.N.Dさんからパブリックアートのお話をいただきました。今までルーツになってきた都市探検の経験や、そこから派生したミューラル活動を通じて、路上やパブリックとの関係性は自分にとって大切なものでした。風除室という場所を提示していただいた時に、路上と施設の間で展示することは、自分の今の興味にぴったりだと思いました。都市に生きるということは、ローディング、つまり情報の負荷をできるだけ減らして生きていくことかと思いますが、僕の都市探検やタギングの経験は、情報の負荷を減らす生き方、ローバッテリーモード的なものとは真逆の都市との向かい方でした。僕のパブリックアートがそういったものに反するノイズとして機能して、現実世界で偶然的にアート作品と遭遇することで得られる密度を、少しでも感じてもらえたらとても嬉しいと思います。人間なのか、動物なのか、人工物なのか、生物なのか。その正体がわからない身体との遭遇によって、見慣れた都市の風景をほんの少し異なるものとして捉えてもらえればと思います。』
Instagram:@inagaky
渋谷PARCOの4F「PARCO MUSEUM TOKYO」では、10名のアーティストの展示が行われている。入り口から順に紹介。
川端健太(画家)

《Image-Thing: Touch #5》2026年 木製パネルに綿布、アクリル絵の具、油絵の具、727×606mm
《Image-Thing: Passport Photo #3》 木製パネルに綿布、アクリル絵の具、油絵の具、1200×1015mm
『本展示作品では、アクリル絵具を用いて紙の折れや劣化を再現した。紙は、制度のなかで情報を記録・伝達する匿名的な媒体として扱われる。しかし、折れや汚れ、摩耗といった痕跡を蓄積することで次第に個別性を帯びる。「手」「パスポート写真」「幼児」は、コロナ禍以降、反復して扱ってきたモチーフである。これらのモチーフや支持体を通しイメージを支える背景として見過ごされてきた絵画の表面と物質性そのものを主題化している。』
Instagram:@kawaken11_06
LI MUYUN(アーティスト、学生)
『《自由唱》は、天井から吊るされた二画面の映像インスタレーションです。正面では「私が責任を取ります」と一時間唱え続けます。自由な人間は選択に全責任を負うとするサルトルの実存主義に触発された、自身の生き方の提示です。背面では仏教的なルーツから数珠を手に座禅を組み、念仏のように同じ言葉を繰り返します。一時間のうちに表れる欠伸や痺れが、生身の弱さを映し出します。この作品が自由への小さな引っかかりとなればと願っています。』
Instagram:@mira_culous0508
kerocchi(コラージュアーティスト/作家)
『ホームセンターでバイトをしているので、廃棄になった木材などを拾ってきて作品を制作しています。今回は渋谷という場所も踏まえ、好きな工事現場をテーマに作品を配置しました。工事現場を見ているとき「音楽をめっちゃ好きな人が音楽を聴く時はこんな気持ちなんやろな」といつも思います。バイト先の中国人のおじさんは「また展示やる?頑張ってネ!」と言っていました。中国人のおじさんが好きな歌手は加藤ミリヤです。』
Instagram:@kerocchi22
Masato Yamada(美術家)
『今回は、渋谷PARCOという商業空間にあるギャラリーでの展示ということで、彼が置いていったシャツや、すぐに手に入るものの象徴である使われたAmazonの箱、どこにでもありふれている、つまりは日常に溶け込み、背景のようになってしまうものへの見方を変えることから考え始めました。一つの展示作品からは、ピノキオの「星に願いを」という曲の口笛が流れています。「あなたの心が求めれば、それはきっとやって来る」という歌詞とともに、都市の路地裏やバックステージを思わせる細い通路に配置された作品群は、誰にでも手に入る大量生産品が、私の介入によってたった一つのもののように見えてくるように、匿名性と特別さの間に生まれる矛盾・曖昧さ、そこに立ち上がる親密さのような感覚を、シニカルに浮かび上がらせたいと考えました。』
Instagram:@_mst.26
Seooh Park(グラフィックデザイナー)

《헤쳐모여(hechyeomoye)》2026年 Sumi ink on hanshi paper、34.5 × 105cm
《再分類001(resorting001)》2026年 Sumi ink on hanshi paper、51.5 × 72.8cm
《集散無常(shusanmujo)》2026年 Sumi ink on hanshi paper、34.5 × 105cm
『蟻は、作家自身の視覚的アイデンティティであると同時に、作品全体に共通する価値観をよく表すモチーフです。本作では、蟻という小さな単位を集めたり散らしたりしながら画面を構成し、その配置によってメッセージを直接的に伝えています。作家は、異なる言語や文化に触れるなかで、蟻の動きや群れの性質を通して、断片・反復・結合、そして「集まること」と「散らばること」のあいだに生まれる変化について考えています。』
Instagram:@seoohpark
櫻井隆平(彫刻家)
『本作は、仏像とその足元に踏み伏せられる邪鬼を出発点に、主体となるものと、その存在を下から支えるものに着目している。フローラルフォームで作られた邪鬼はターンテーブル上で回転し、上部との接触によって少しずつ削られ、形を変えていく。重量や接触、摩擦、回転といった彫刻的な要素を通して、主体と、それを成立させているものとの関係を捉え直す。』
Instagram:@ryuhey_sakurai
今井歩美(アーティスト)

《幻の登山》2024年 シナ共芯合板に墨汁、木彫、H2745mm×W1800mm
《半身》2026年 シナ共芯合板に墨汁、木彫、P20(H727mm×W530mm)
《Pattern》2026年 シナ共芯合板に墨汁、木彫、M20(H727mm×W500mm)
《Traces in the Dark》2026年 シナ共芯合板に墨汁、木彫、H1200mm×W845mm
『私の作品は、木版画にインスピレーションを受け、木を彫ることをきっかけに制作しています。制作の過程で生まれる下書きの線やテープの跡など、完成すると見えなくなる痕跡を作品に残しています。また、何かの頂へ向かう途上にある自分自身の実感をもとに、完成へ至る過程そのものを作品に残しています。今回、渋谷PARCOで展示する機会をいただいたので、2026年に制作した3点と、大作を1点出展しています。是非様々な感想を持っていただき、楽しんでもらえると嬉しいです。』
Instagram:@_imaiayumi
矢野憩啓(アーティスト)

《Scale2》2025年 Oil on Canvas、S100(1620×1620mm)
《Peel a Watermelon》2026年 Oil on Canvas、F40(1000×803mm)
《Lure and Belly》2026年 Oil on Canvas、S3(273×273mm)
『モチーフ同時の関係性や、モチーフと私がどのように接するかが見えるラインナップだと思います。《Scale2》はほぼ実寸でモチーフが描かれており、「サイズ」という基準がどのように画面や身体に関係するかについて考えています。剥かれているスイカは自画像のようにも思います。スイカの皮を一枚ずつ剥いていくように、少しずつでも誰かに何かが伝われば良いと思います。』
Instagram:@yano_yasutaka
HAL(写真家)
『《Gun》は、中学ぐらいからスケボーを始めて同時ぐらいに写真を始めた時に時間が止まる面白さに魅力を感じた。そこから何枚も撮って違う時間を一枚にするパノラマコラージュという手法をメインに作品を作り出してきた。今回はそんなパノラマコラージュを立体として捉えてみた。正面から見るとパノラマコラージュ、横から見ると拳銃の形に見える立体写真作品。時間(写真)というものもプリントすれば物質に変わる。そしてプリントという物質を重ねれば立体に。写真も立体になれるんじゃないかと。ストリートビューで旅をすることにハマってる最近。ちょうど群馬の高速あたりでストリートビューの車が覆面に職質されているところをスクリーンショットして作った実験作品。《GATSBY》は、僕が昔遊んでいたばあちゃん家の隣の小さい子屋をストリートビューで再来、探検。標本箱の中に複写したスクリーンショットを樹脂の層を作り重ね子屋の立体を水の中に入れた様子を再現。小さい1:80スケールのフィギアも埋め込んでいる。』
Instagram:@haldeadstock
百野幹人(写真家 / Photographer)
『「枝派」とは、ある表現が時代をつくり、流派やジャンルとして枝分かれし、その先にまた別の表現が派生していく。その枝の先に自分たちもいる、ということから考えた言葉です。《Funi Funi》では、異なる場所や時間で撮影した写真を木材にシルクスクリーンで刷り直し、撮影した時には知らなかったことや、時間を経て変化する見え方を、もう一度確かめようとしています。』
Instagram:@hyakunomikito
玉山拓郎(アーティスト)
9F SUPER DOMMUNEでは、DOMMUNEと「P.O.N.D. 2026」による新たなコラボレーションプロジェクト〈P.O.N.D.OMMUNE〉が始動する。第一弾を飾るのは玉山拓郎。家具や日用品を思わせるオブジェクトと鮮やかな照明、音響を組み合わせ、身体感覚や知覚を揺らすインスタレーションを展開してきた玉山が、SUPER DOMMUNEという特異な空間と交わる。
『今企画では、二つの異なる作品のあり方を同じ空間に置きます。《After Overture》はDOMMUNEという環境を受けて変化し、《Epiphany》はその場所から一定の距離を保ったまま、自立した存在として立ち上がる。状況に応答することと、あえて応答しないこと。その両方から、作品と空間の関係を考えます。』
Instagram:@takurotamayama
さまざまな表現が交わる「P.O.N.D. 2026 re/sort」を訪れ、いつもの見方を少しだけずらしてみてほしい。そこから生まれる新たな感覚や、思いがけない出会いを楽しんでいただきたい。
開催情報
展覧会名:P.O.N.D. 2026 re/sort
会期:2026年10月2日(金)-10月19日(月)
開館時間:11:00-21:00
※入場は閉場の30分前まで
※最終日は18:00閉場
会場:渋谷PARCO
・4F PARCO MUSEUM TOKYO
・1F エントランス
・9F SUPER DOMMUNE
・B1F GALLERY X BY PARCO
住所:〒150-8377 東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷パルコ
入場料:無料
主催:〈P.O.N.D. 2026〉実行委員会
アートディレクション:田岡美紗子
空間ディレクション:NEW DOMAIN
企画制作:PARCO、RCKT/Rocket Company*
公式サイト:https://pond.parco.jp/
※B1F GALLERY X BY PARCOで開催する個展「いつか島になるため」は2026年10月2日(金)-10月12日(月)。
※9F SUPER DOMMUNEの〈P.O.N.D.OMMUNE〉は11:00-17:00、金・土曜は21:00まで。
詳細・最新情報は以下にて順次公開予定
Instagram:@p.o.n.d.official、@parco_art
Website:PARCO ART
※ 営業日時は変更となる場合がございます。詳しくは渋谷PARCOのHPをご確認ください。
※ 企画内容は予告なく変更になる可能性がございます。
- Photograph : Kaho Furui
- Edit / Text : Seiko Inomata(QUI)












