「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」9/27(土)から東京都庭園美術館で開催
本展は、1925年の「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(アール・デコ博覧会)」から100周年を記念するもの。アール・デコ博覧会の宝飾部門でグランプリを受賞した《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924年)が出品される。
本展では、歴史的価値が認められたヴァン クリーフ&アーペルの「パトリモニー コレクション」と、個人蔵から厳選されたジュエリー、時計、工芸品をあわせて約250点展示する。さらに、メゾンのアーカイブから選ばれた約60点の資料も公開される。
展示は4つの章で構成され、ハイジュエリーが時代と美意識の変化を語りかける。
第1章 アール・デコの萌芽

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924年 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
アール・デコ期を象徴するモチーフのひとつであるバラに注目した作品は見どころのひとつ。《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924年)では赤と白のバラが絡み合い、《ローズ ブローチ》(1925年)では一輪のバラが表現され、つぼみや葉、棘といった要素も巧みに組み込まれている。これらは自然のモチーフを幾何学的に様式化するアール・デコの美学を体現している。《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》は、メゾンが1925年のアール・デコ博覧会で宝飾部門のグランプリを受賞した作品である。

ローズ ブローチ 1925年 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
さらに《ロングネックレス》(1924年)は、東洋のイメージに着想を得た色彩豊かな宝石があしらわれ、幾何学模様と生け花を想起させるモチーフが調和している。東洋の精神性とアール・デコの様式美が融合したこの作品は、ペンダント部分を取り外すことでチェーン単体でも着用できるように工夫されている。

ロングネックレス 1924年 プラチナ、エメラルド、ルビー、サファイア、オニキス、エナメル、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
第2章 独自のスタイルへの発展
1920年代以降、ヴァン クリーフ&アーペルはダイヤモンドやプラチナを巧みにあしらったホワイトジュエリーを中心に、新たな造形的展開を追求していく。
《コラレット》(1929年)はその代表例で、壮麗なダイヤモンドがネックラインを飾り、エメラルドは総計165カラットにも及ぶ。1935年のブリュッセル万国博覧会ではフランス館に出品され、大きな注目を集めた。立体感と素材の多様性を追求したこの作品は、大胆さと洗練を兼ね備え、今日でも強い輝きを放ち続けている。

コラレット 1929年 プラチナ、エメラルド、ダイヤモンド エジプト女王ファイーザ旧蔵 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
また《ブローチ》(1927年)は、幾何学的な八角形を中心に純潔の象徴であるスズランのモチーフを左右対称に配した構成をとり、秩序と幾何学を重視するアール・デコの美学を体現している。バックルベルトから着想を得たデザインはチョーカーやブレスレットとしても使用でき、多用途性を備える。さらに連結部の精巧な技術により、身体の曲線にしなやかに寄り添う着け心地を実現している。

ブローチ 1927年 プラチナ、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
第3章 モダニズムと機能性
社会の変化に応じ、ヴァン クリーフ&アーペルは機能性とモダニズムの美学を融合させた作品を生み出した。
1933年に特許を取得した「ミノディエール」は、女性が外出時に必要とする鏡や口紅、パウダー、ライター、ノートなどを収められる小型ケース。本作《カメリア ミノディエール》(1938年)は、洗練されたデザインに加え、カメリア部分を取り外してブローチとしても身につけられるなど、用途の幅広さを備えている。パーティバッグやクラッチとしても携帯でき、優美さと機能性を兼ね備えた作品としてメゾンを象徴する存在となった。

カメリア ミノディエール 1938年 イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ルビー ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
また《カデナ リストウォッチ》(1943年)の作品群は「南京錠(カデナ)」をモチーフにしたリストウォッチ。1935年に誕生して以来、人気を博している。文字盤がわずかに傾いており、一見ブレスレットのように見えるデザインは、当時「女性が公の場で時刻を確認するべきではない」とされた慣習に対し、さりげなく時間を読むための工夫でもあった。

カデナ リストウォッチ 1943年 イエローゴールド、ルビー ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
第4章 サヴォアフェールが紡ぐ庭
新館では、現代まで継承され続けてきた「サヴォアフェール(匠の技)」を紹介。草花や動物をモチーフとしたジュエリーが、5つのセクションに分かれて展示され、庭園を巡るようにヴァン クリーフ&アーペルの技と美意識を体感できる構成となっている。
《クリサンセマム クリップ》(1937年)は、躍動的に咲く菊をモチーフにした作品。ルビーの花びらが内側にカーブし、複雑さと繊細さを表現している。石を留める爪を表に出さず宝石の滑らかな質感を実現する「ミステリーセット」技法(1933年特許取得)が用いられており、1937年の「現代生活における芸術と技術の国際博覧会」に出品され高い評価を得た。菊は19世紀以降、日本美術の影響を受けたフランスで繰り返し取り上げられたモチーフのひとつでもある。

クリサンセマム クリップ 1937年 プラチナ、イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
また《シャンティイ ジップ ネックレス》(1952年)は、服飾で使われるジッパーに着想を得た革新的なデザイン。房飾りのタッセルをスライドさせてジップを閉じることで、ネックレスからブレスレットへと変化する仕組みを持つ。1938年に特許が取得され、1950年に実際のジュエリー作品として誕生した。

シャンティイ ジップ ネックレス 1952年 イエローゴールド、プラチナ、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels
アール・デコの息づかいを、静かな美術館の空間でじっくり感じてみてほしい。
100年前の博覧会を起点に広がった美の精神が、作品を通して静かに語りかけてくる。
【開催情報】
展覧会名:永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ
会期:2025年9月27日(土)– 2026年1月18日(日)
会場:東京都庭園美術館(東京都港区白金台5-21-9)
開館時間:10:00 – 18:00(入館は閉館の30分前まで)
※11月21日(金)、22日(土)、28日(金)、29日(土)、12月5日(金)、6日(土)は20:00まで開館
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始(12月28日–1月4日)
観覧料:一般 ¥1,400/大学生 ¥1,120/高校生・65歳以上 ¥700/中学生以下無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその介護者2名は無料(予約不要)/教育活動として教師が引率する都内の小・中・高校生および教師は無料(事前申請が必要)/第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上の方は無料(予約不要)
※10月22日(水)・11月5日(水)はフラットデー開催日のため通常よりも入場者数を制限
特設サイト:https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/
※日時指定予約制
【東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)について】
東京都庭園美術館の本館は、1933年に朝香宮邸として建てられた建築をそのまま美術館として公開している。戦後は外務大臣・首相公邸や迎賓館としても使用され、1983年に美術館として新たに開館した。
朝香宮夫妻は1922年から約3年間パリに滞在し、1925年のアール・デコ博覧会を訪れている。帰国後の邸宅建設にあたり、主要な部屋の設計を装飾美術家アンリ・ラパンに依頼し、ガラス工芸家ルネ・ラリックをはじめ多くのアーティストを起用。アール・デコの精華を積極的に取り入れた。現在も竣工当時の意匠がほぼ完全に残され、当時の時代空間を体感できる貴重な建築である。
【ヴァン クリーフ&アーペルについて】
1906年、アルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの結婚をきっかけにパリ・ヴァンドーム広場で創業。自然やクチュール、舞踊、幻想世界などから着想を得た詩情豊かなジュエリーを生み出してきた。代表的な技術に「ミステリーセット」があり、また「ジップ ネックレス」「アルハンブラ」など数々のアイコンを世に送り出している。
1970年代には「パトリモニー コレクション」の構築が始まり、現在では3,000点を超える歴史的作品を所蔵。世界各地の展覧会で公開され、ジュエリー史と装飾芸術における重要な役割を果たしている。