夢を追う女の子だけが持っている、最強のキラキラ。映画『転がるビー玉』
『NYLON JAPAN』15周年を記念して制作
人気ファッション誌『NYLON JAPAN』の創刊15周年プロジェクトとして制作された映画『転がるビー玉』。監督はこれまで『サラバ静寂』『魔法少年☆ワイルドバージン』など、物語が放つパンクな問いと独特の世界観で観る者を驚かせてきた宇賀那健一。これまでとは作風が大きく変わり、監督としての幅の広さをうかがわせる。本作では、変化し続ける渋谷の片隅に転がる夢と刹那性を見事に切り取り、まだ何者でもないすべての若者たちにエールを送るような、温かみのある作品に仕上がっている。
渋谷で共同生活を送る同世代の3人の女性が主人公だが、実は似た者同士の3人組ではない。3人のうち、いつのまにか特定の誰かの目線にかたよって観てしまう人も多いだろう。若者としての普遍性を持ち合わせながらも三者三様の個性や演出が光る作品であり、そして、次世代を担う注目の女優たちの今を記録した作品としても注目してほしい。
不器用な女の子たちの、最強のキラキラを詰め込んだ映画
人気モデルを目指して日々自分にできる努力を続ける愛、男にだらしない面がありながらもファッション誌での仕事に奔走する瑞穂、ギターを抱えて歩道橋で歌う恵梨香。それぞれが自分の夢を追いながらも、周囲に遅れを取っていることに焦りを抱えて、悩んでは泣いて、ぶつかり合い、それでも大好きな仲間となら、また何度でも笑いあえる。夢を追いかける女の子たちだけが身に纏うことをゆるされた、荒削りで最強のキラキラが詰めこまれた映画だ。
自分の才能を信じているわけではなかったけれど、決して中途半端な気持ちじゃなかった。むしろ自分には才能がないからこそ、そのぶん努力してきたはずだった。周りにいる誰かが少しずつ夢を掴みとっていくのを目にしながら、自分は相変わらずうまくいかない毎日。そんな日々の中のふとした帰り道には、すれ違う人たちがみんな自分より輝いているように見えて、自分がどうしてこの街にいるのか、そんな意味とか理由さえも忘れてしまいそうな、この街で自分だけが取り残されたような、どうにもならない感覚だけが溢れてくる。
それでも、何者でもない自分には、他の誰にもかえられない仲間がいる。かけがえのない、帰る場所がある。3人で食べるごはんは最高に美味しい。3人でいれば、私たちは無敵だ。
彼女たちはダイヤの原石ではなかったのかもしれないけれど、欠けたビー玉のように不器用に、転ぶように転がりながら、時にはどんな宝石よりもまっすぐに光り輝いてみせるだろう。転がりながら傷ついても、どこに向かっているのか分からなくても、3人でいれば前を向ける。
毎日少しずつ変わり続ける渋谷の街のように、望んだ姿なのかそうでないのかはさておき、いつか彼女たちの夢の行方にも変化が訪れるだろう。だけど、みんなと過ごした期間限定の生活がくれた愛おしい思い出だけは、いつまでも変わることはない。夢を見失ったり、この場所に立っている理由を忘れてしまったときには、みんなのことを思い出して、少しだけ泣いて、また歩き出せる。彼女たちは、きっと大丈夫だ。
『転がるビー玉』
2020年1月31日ホワイト シネクイント(渋谷パルコ)にて先行公開。2月7日より全国順次公開
©『転がるビー玉』製作委員会
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- Text : Masayoshi Yamada