坂ノ上茜 – 自分の心で決断する
坂ノ上茜主演、映画『ぬけろ、メビウス!!』を観て考える。
いろんな道を見てみるのは悪いことじゃない
― 2022年公開の『愛ちゃん物語♡』に続く2本目の主演作となった映画『ぬけろ、メビウス!!』が公開されます。前作で演じた愛ちゃんと、本作で演じた櫻川優子は全く異なるキャラクターなんですけど、どこか似ているようにも感じました。
奔放なところは似ているかもしれません。
― ああ、たしかに。坂ノ上さん自身からも奔放さを感じるんですけど、実際どんな性格なんですか?
明るいほうだと思います。ふざけるのも好きですし、わりと奔放かも。
― 周りからも言われますか?
天真爛漫ってよく言ってもらえるので、そこは大事にしたいと思っています。
― とはいえ落ち込むこともありますよね。ストレスが溜まったときの解消法は?
お肉とお酒がすごく好きなので、おいしいお肉を食べて、友達と一緒にお酒を飲みながら「聞いてよ」って話をすることでしょうか。
― 劇中でもビールを飲むシーンが多かったですよね。あれは本物のビール?
本物です。他の方はノンアルコールだったんですけど、私は飲みたくて飲んでいました(笑)。
― 素敵です(笑)。本作では“夢”がキーワードのひとつになっていましたが、坂ノ上さんにとって夢といえばどんなことが浮かびますか?
女優としてもっと羽ばたいていきたいということと、その活動を通して地元の熊本にきちんと恩返しをしていくことが今の夢です。
ー 女優になるのは、小さいころからの夢だったんですか?
そうです。13歳で今の事務所に入って、その夢がずっと続いているという感じです。
― そもそも女優になりたいと思った原体験はなんでしたか?
テレビがすごく好きだったんです。毎日の楽しみがテレビで、影響されるものも、やりたいことも全部テレビがきっかけで。そのテレビに、自分も入っていきたいと思いました。
― まずはテレビに出る人になりたかったんですね。
その中でも最初にやりたいと思ったのが女優というお仕事でした。
― 最初にご両親に伝えたときは驚かれたのでは?
まだ10歳ぐらいだったので、両親がどこまで本気にしていたかはわからないんですが、協力的ではありました。事務所のオーディションがあると教えてくれたのも母で、私がやりたいことを否定されるような家庭ではなかったです。
― ご家族の理解はすごく重要ですよね。『ぬけろ、メビウス!!』で坂ノ上さんが演じた優子は、家族の理解という点では少し恵まれていないところもありました。坂ノ上さんは優子のように、この道を進んで良いのかと迷うことはなかったですか?
大学3、4年になって周りが就活を考え始めたときは、私も悩みました。そんなときに先輩から、「私はこの道だって決めることも素敵だけど、せっかく選択肢があるんだから、いろいろ見たうえで判断するのも良いんじゃない?」ってアドバイスをもらって。合同説明会に行ったり、エントリーシートを書いて面接に行ったりもしました。そういった大変さも、自分が体験しないとわからないこともあるので、今となっては良かったかなと思っています。
― そのときにしかできない貴重な経験ですね。今、進むべき道に悩んでいる人に坂ノ上さんがアドバイスするとしても、先輩と同じようなことを伝えたいですか?
はい。いろんな道を見てみるというのは、私は悪いことじゃないと思っていて。続けることも、逆に夢を諦めて別の道に行くという決断も大きな勇気が必要で。どちらが正解とかではなく、いっぱい悩んで、自分の心で決断することが大切ではないでしょうか。
― そう考えると、将来に悩むタイミングが来たということ自体が価値のあることなのかもしれません。
そうですよね。優子も派遣切りにあわないと考えるきっかけがなかったと思うので。
いろんなことをやって唯一続いたのが今の仕事
― 坂ノ上さんは大学で東京に?
はい。それで一人暮らしを始めました。
― 地元に残った優子と境遇は異なりますね。
でも地元には、優子のように都会に出たくても出られなかった子がいっぱいいたんです。特に、私が通っていた高校は共学なんですけど、ほぼ女子高みたいなところで。女の子が東京に出るなんて心配だから地元にいなさい、と言われていた子たちの顔が浮かびました。
― 坂ノ上さん自身は、優子と共通点はありましたか?
長続きしない、飽きっぽいタイプなところです。私が続いたのは今のお仕事と新体操ぐらい。習い事はたくさんやってきました。
― たとえば?
ピアノも、習字も、囲碁も。あとはバレエ、塾、バレーボールもちょっとやっていたかな。
― 囲碁…?
きっかけは覚えていないんですが、おじいちゃんと通っていました。でも『ヒカルの碁』という漫画を読んでいるだけで、全然囲碁はしていなくて(笑)。ほかも同じような感じです。だから、今の仕事は長く続けられていて良かったなと思っています。
― お芝居に全振りしたのかも(笑)。
13歳からやっているというと継続力がありそうですけど、いろんなことをやってきた中で続いた唯一のものが仕事なんです。
― お芝居はなぜ続けられていると思いますか?
仕事だから大変なことや、いっぱいいっぱいになることもありますけど、完成した作品を観たときは達成感があります。あとは本当に人に恵まれているので、今まで現場で出会った方々とまたお仕事できるように頑張りたいとか、そういうことの積み重ねなのかもしれません。
― お仕事をしていてしびれる瞬間は?
たとえば長尺のワンカットで、人通りとかもありなかなかうまくいかず、何回も何回もトライして良いワンシーンが撮れたときはしびれます。その現場の空気感が好きですね。
― 特に予算が潤沢でない作品の場合は、俳優も含めてよりチームで取り組んでいるという意識が強くなりそうです。
『ぬけろ、メビウス!!』もクラウドファンディングなどで応援していただいて作られた映画なんです。監督も広告会社に勤めている会社員の方で、製作スタッフも会社の仲間にお願いしていて。だからスタッフみんなが休みを取って撮影していたり、土日で撮って明日は出社だとか言っていたり。その熱量ってすごいなと。映画を撮りたいという熱量が高い人たちに囲まれて作った作品だから、またいつもとちょっと違う輪みたいなものができて、すごく楽しかったですね。
― 本作では主演を務められていますが、主演として作品に関わるときは、意識や関わり方に変化はありますか?
毎回、作品に入る前には自分の中で小さな決まりごとを作るようにしています。『ぬけろ、メビウス!!』では、スタッフ陣の顔と名前をちゃんと覚えて、名前を呼んでコミュニケーション取ることを意識しました。人数も少ないし、みんなで盛り上げていくためにも名前を呼ぶって大事なことだと思いました。
― 若い10代や20代の子が観ると、きっと共感できるところがたくさん詰まった映画ですが、親の目線で観ても楽しめる映画だなと思いました。
私も(藤田朋子さん演じる)母の気持ちがわからないでもなくて、きっと年齢を重ねたときにはもっと感情移入するのかなと思ったり。登場人物みんなそれぞれの気持ちが伝わってくる作品だから、映画を観る人の状態によっても感じ方が違ってくるかもしれないです。
― では最後に、これから俳優として目指すところを教えてください。
大学で映像文学の授業を受けてから、映画って本当におもしろいなって気づいたんですけど、一方で最初にもお話ししたように、テレビを観て育ったので、テレビに出ていたいなという気持ちもあります。女優としてはもちろん、バラエティーでもテレビに出て、熊本の両親に観てもらえるような人でありたいというのが、表に出る人間としての目標です。
あとはこの世界だと、修学旅行に行けませんでしたとか、成人式に出られませんでしたという方がたくさんいると思うんです。私はありがたいことに、田舎で生まれ育って、そういう行事は全部出なさい、勉強もちゃんとしなさいと言ってもらえるような環境だったからこそ、等身大の普通の感覚というのを持たせてもらえた気がしています。そういう意味で人間らしく、自分の感覚を大事にした人でありたいなと思っています。
Profile _ 坂ノ上茜(さかのうえ・あかね)
アミューズ全国オーディション2009 THE PUSH!マン」で俳優・ルックス部門賞を受賞。2015年、テレビ東京「ウルトラマンX」のヒロイン・山瀬アスナ役で女優デビューを果たす。ドラマTBS「チア☆ダン」月9ドラマ「監察医 朝顔」 、映画『見えない目撃者』、『きみの瞳が問いかけている』などに出演。現在BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」にレギュラー出演しているなど、幅広く活躍している。2021年に1st写真集「あかねいろ」(光文社) を発売。2022年8月にはデジタル版も配信。映画作品としては、ヒロインとして出演した『BAD CITY』が2023年1月20日公開、『神回』が2023年夏公開予定。Instagram Twitter
Information
映画『ぬけろ、メビウス!!』
2023年2月3日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
出演:坂ノ上茜、藤田朋子、細田善彦、田中偉登、松原菜野花、棚橋ナッツ、吉岡そんれい/寺脇康文、加藤貴子
監督:加藤慶吾
脚本:村上かのん
- Photography : Ayaka Horiuchi
- Styling : Kyoko Toyoshima
- Hair&Make-up : Tsubakichi
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)