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ART/DESIGN

ポップの奥にある、時代を見つめるまなざし — 中村キース・ヘリング美術館「ケニー・シャーフ&キース・ヘリング:K!K!」展レポート

Jun 14, 2026
会場でまず目に飛び込んでくるのは、ビビッドな色彩とユーモラスなキャラクター、踊るような線だ。キース・ヘリングとケニー・シャーフの作品には、難しく構えずに近づける親しみやすさがある。けれど展示を進むうちに、その明るさは、1980年代ニューヨークの熱気や不安、社会へのまなざしを抱えたものとして見えてくる。

中村キース・ヘリング美術館で開催中の「ケニー・シャーフ&キース・ヘリング:K!K!」は、キース没後初めて、2人の関係性を主題にした展覧会だ。日本の美術館でケニーの創作世界を本格的に紹介する初の機会でもある。展示はキースの作品を起点に、2人の出会い、80年代ニューヨークでの活動、そしてケニーの現在の表現へと進んでいく。

ケニーは、キースよりもさらにポップだと言われることがある。ここでいうポップさとは、単に明るく楽しいということではない。難しい文脈を知らなくても、色や形、キャラクターから作品に近づいていける入口の広さのことだ。ケニーの作品は、楽しさやユーモアをまっすぐに差し出しながら、その明るさの奥に、環境問題や社会への違和感を重ねている。

ポップの奥にある、時代を見つめるまなざし — 中村キース・ヘリング美術館「ケニー・シャーフ&キース・ヘリング:K!K!」展レポート

Jun 14, 2026 - ART/DESIGN
会場でまず目に飛び込んでくるのは、ビビッドな色彩とユーモラスなキャラクター、踊るような線だ。キース・ヘリングとケニー・シャーフの作品には、難しく構えずに近づける親しみやすさがある。けれど展示を進むうちに、その明るさは、1980年代ニューヨークの熱気や不安、社会へのまなざしを抱えたものとして見えてくる。

中村キース・ヘリング美術館で開催中の「ケニー・シャーフ&キース・ヘリング:K!K!」は、キース没後初めて、2人の関係性を主題にした展覧会だ。日本の美術館でケニーの創作世界を本格的に紹介する初の機会でもある。展示はキースの作品を起点に、2人の出会い、80年代ニューヨークでの活動、そしてケニーの現在の表現へと進んでいく。

ケニーは、キースよりもさらにポップだと言われることがある。ここでいうポップさとは、単に明るく楽しいということではない。難しい文脈を知らなくても、色や形、キャラクターから作品に近づいていける入口の広さのことだ。ケニーの作品は、楽しさやユーモアをまっすぐに差し出しながら、その明るさの奥に、環境問題や社会への違和感を重ねている。

1978年、ニューヨークで出会った2人

2人が出会ったのは、1978年のニューヨーク。ロサンゼルスからニューヨークへ移ったケニーは、スクール・オブ・ビジュアル・アーツでキースと出会う。ケニーが初めてキースを見たとき、そこにはDEVOの音楽が流れていたという。音のする方へ向かうと、キースが部屋で一人、床に白黒のドローイングを描いていた。その光景を見て、ケニーは「これこそ私がニューヨークに来た理由だ」と感じたという。

入口に掲げられた、キースの象徴的なモチーフ《Radiant Baby》。キースにとって最も重要なモチーフのひとつであり、現在はキース・ヘリング財団のマークにもなっている。

会場冒頭では、キースが床に線を描いていく初期映像作品《自分を角に追い込むペインティング》を上映。ケニーが初めて目にしたキースの姿でもあり、ふたりの出会いを象徴する場面として紹介されている。

当時のニューヨークでは、アート、音楽、ファッション、パフォーマンス、クラブカルチャーが近い距離で交わっていた。教会の地下にあった「Club 57」には、学生やDJ、パフォーマー、アーティストたちが集まり、夜ごとに実験的な表現が生まれていた。「ファン・ギャラリー」やナイトクラブ「パラディウム」も、2人の活動を語るうえで欠かせない場所だった。そこでは、絵画や彫刻、音楽といったジャンルの境界よりも、何かをつくり、誰かに見せ、場を共有することのほうが重要だったのだろう。

会場冒頭の展示風景。暗い空間の中に、キースの《ブループリント・ドローイング》や立体作品《セルフ・ポートレート》が浮かび上がる。

キースが地下鉄構内の黒い広告板にチョークで描いた《サブウェイ・ドローイング》。誰もが目にする公共空間を舞台に、アートを街へと開いていった。

キースの《サブウェイ・ドローイング》にも、その姿勢は表れている。1980年代初頭、彼はニューヨークの地下鉄構内で、広告が貼られる前の黒い紙のスペースに白いチョークで絵を描いた。美術館やギャラリーへ足を運ぶ一部の人たちだけではなく、街を移動する人々の目に触れる場所へ。アートを、日常の中へ開いていく試みだった。

アンディ・ウォーホルをミッキーマウスのようなキャラクターとして描いた、キースの《Andy Mouse》シリーズ。ポップアートの先達へのまなざしと、キースらしいユーモアが重なる。

スウォッチ、Pop Shop、アブソルート・ウォッカなど、ポスターやプロダクトを通して広がったキースの表現を紹介する展示風景。「アートをみんなのために」という思いのもと、作品が日常の中へと広がっていった過程をたどることができる。

その姿勢は、のちのPop Shopにもつながっていく。Tシャツやステッカー、ポスターを通して作品を流通させる試みは、当時のアート界から批判も受けた。けれどそこには、アートを一部の人だけのものにせず、より多くの人へ届けようとする意志があった。

ケニー・シャーフをつくったカートゥーンの記憶

キースが地下鉄やPop Shopを通してアートの入口を広げていったとすれば、ケニーは幼い頃からテレビで親しんできたカートゥーンの記憶を、自分の表現の中に取り込んでいった。子どもの頃、彼は画面にかじりつくようにして、テレビを見ていたという。『宇宙家族ジェットソン』や『原始家族フリントストーン』のようなカートゥーンは、彼にとってただの娯楽ではなく、言葉を介さずに感情や物語を伝えるための視覚言語でもあった。

ケニー・シャーフ《JANGURU!》2023年、Courtesy of Nanzuka。熱帯雨林を思わせるモチーフと鮮やかな色彩が、彼の有機的な想像力を伝えている。

テレビのフレームを用いたケニーの作品群。映像は動かないが、見る者はつい画面の前で待ってしまう。テレビ文化への親しみと、頭の中で物語を動かしてほしいという作家の思いが込められている。

ケニーの近年作を紹介する展示風景。中央には、アーティストによる遊園地プロジェクト「Luna Luna」のために制作された彫刻をもとにした立体作品が並ぶ。

鮮やかな色彩や細密な筆致で描かれたケニーの作品群。ポップでユーモラスな表情の奥に、環境や社会へのメッセージも込められている。

丸みを帯びたフォルム、モンスターのような愛嬌のあるキャラクター、笑っているようで少し不穏な表情。ケニーの画面には、カートゥーンの親しみやすさと、自分自身の感情や社会へのまなざしが重なっている。難しい言葉を介さなくても、見る人はその世界に入っていける。その明るい色彩や楽しげな表情の奥には、環境問題への意識も忍ばされている。

不安の多い時代に、それでも楽しい絵を描く。
それは、現実を見ないことではなく、別のかたちで現実に触れる方法なのだと思う。

《Cosmic Cavern》、光る洞窟のような空間へ

《Cosmic Cavern》は、ケニーを代表する没入型インスタレーションのシリーズだ。始まりは1981年、キースとアパートをシェアしていた頃。小さなクローゼットから始まったこの作品は、その後も場所を変えながら制作されてきた。

ケニー・シャーフ《Cosmic Cavern》の内部。廃材や家電、日用品を取り込んだ空間は、1981年にキースとシェアしていたアパートのクローゼットから始まった。

暗い空間の中に、壊れた家電や日用品、プラスチック素材などがぎっしりと配置される。それらは蛍光色に塗られ、ブラックライトの下で発光し、音楽とともに空間全体を変えていく。ブラックライトに照らされた日用品は、廃棄物でありながら、どこか祝祭の装飾のようにも見える。楽しげな音楽も相まって、祝祭のようでいて、どこか不穏なパーティーに迷い込んだような感覚もある。絵画を見るというより、ケニーのイメージの中に入り込むような作品だ。

今回の展示でも、ケニーは来日後の数日間、美術館内で制作を行い、新たな《Cosmic Cavern》を立ち上げた。消費され、壊れ、捨てられていくものたちが、彼の手によって、色と光に満ちた空間の一部になっていく。そこには、環境問題に早くから関心を寄せてきたケニーのまなざしも、自然と重なって見える。

《Sky High Baby》に込められたキースへの記憶

本展では、ケニーがキースに捧げる最新作《Sky High Baby》も初公開された。中村キース・ヘリング美術館が新たに収蔵するコミッションワークであり、キースの代表的なモチーフ「ラディアント・ベイビー」を思わせる作品だ。内覧会では、その場で作品タイトルが発表され、キャンバスの裏にサインが入れられた。

本展のために制作されたケニーの新作《Sky High Baby》。会場ではタイトルが発表され、作家自身の手で作品裏面にサインが入れられた。キースの《Radiant Baby》へのオマージュでもある。

この作品には、キースとの個人的な記憶も重ねられている。1980年代半ば、ケニーが大作を制作するためのスタジオを探していたとき、キースは自身のスタジオを貸した。ケニーはその感謝を込めて、自分の作品の中にキースのベイビーを思わせる存在を描いたという。

その後、1990年にキースが亡くなると、ケニーはニューヨークの壁に追悼としてベイビーを描いた。しかしその壁画は、後に手違いで塗りつぶされてしまった。今回、中村キース・ヘリング美術館で、彼は再びベイビーを描くことになった。

ケニー・シャーフ《Sky High Baby》。本展のために制作された新作で、キースの《Radiant Baby》へのオマージュとして、ケニー自身のベイビーが描かれている。

ラディアント・ベイビーは、今や多くの人にとって見慣れたアイコンでもある。けれど、ケニーが描く《Sky High Baby》には、単なる引用ではない距離の近さがある。同じ時代を生き、制作し、キースを失った人だからこそ描けるベイビーとして、本展の中でも特別な意味を持っている。

展示の中でこの作品を見ると、2人の関係性は過去の資料やエピソードではなく、いま描かれた線として立ち上がってくる。

ケニーの作品は、重いテーマをそのまま重い表情で差し出さない。《Sky High Baby》に描かれたベイビーも、《Cosmic Cavern》の光る空間も、最初に目に入るのは明るさやユーモアだ。けれどその奥には、友情や喪失、環境へのまなざし、そしてその時代が抱えていた不安が重なっている。

その明るさは、現実から目をそらすためのものではない。不安や喪失、社会への違和感を抱えたまま、それでも楽しさを手放さないこと。本展は、キース・ヘリングとの関係性を通して、ケニー・シャーフが楽しさの中に込めてきた表現の強さを見せてくれる。

 

開催情報
ケニー・シャーフ&キース・ヘリング:K!K!
会期:2026年6月6日(土)ー 2027年5月16日(日)
会場:中村キース・ヘリング美術館
住所:〒408-0044 山梨県北杜市小淵沢町10249-7
開館時間:9:00-17:00(最終入館16:30)
休館日:毎週水曜日(祝日を除く)、12月31日、1月1日
※2026年8月12日、12月30日は開館 。詳細はウェブサイトのカレンダーを確認
観覧料:大人 1,500円、16歳以上の学生 800円、障がい者手帳をお持ちの方 600円、15歳以下 無料
※各種割引の適用には身分証明書の提示が必要
観覧券購入場所:美術館受付のみで販売
主催:中村キース・ヘリング美術館
後援:ケニー・シャーフ・スタジオ、キース・ヘリング財団、NANZUKA、一般財団法人草月会
ウェブサイト:https://www.nakamura-haring.com
Instagram:@nakamurakeithharingcollection @kennyscharf
X:@nakamura_haring

  • Text&Edit : Y.O(QUI)

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