About Love — starring Ai Mikami
やさしくなれる。
やさしさがあれば
寄り添える。
女優・見上愛が向きあった、
アイについて。
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Interview with Ai Mikami
見上愛インタビュー
— 映画『衝動』、衝撃的な作品でした。見上さんは言葉を失った少女、アイを演じていますが、脚本を読んでからどのように役と向き合っていきましたか?
まず、声が出ない病気のことを知ろうと思って、大学の心理学の先生に連絡をして、病気のことを教えていただきました。アイは声を失っていて全く喋れないという状況でしたけど、普通に生きていても言いたくても言えないことや、声が出ない瞬間ってあるよなと。私も、人が怒っている姿や街中で喧嘩している人たちを見ると、声が出なくなったり泣いてしまったりするので。
— 今回役作りのために一人暮らしをしたそうですね。
あまり私生活に仕事は持ち込まないように切り替えているんですけど、今回に関しては、家族や友達と一緒に過ごしすぎていて、一人や孤独ということがあまり理解できなかったので、そういう方法を試してみました。
— 役作りに関して毎回見上さんなりの取り組み方があるのでしょうか?
自分に無い要素を持った役を演じることが多いので、演じる役に近い心情を持っている子や、境遇が似ている子に話を聞かせてもらってから考えることが多いです。あとは、感情とは少し別のラインで脚本をどれだけ読解できるか、その役にどういう役割があるのかを大切にしています。
— そうして役と向き合いながらいろんな役を演じてきて、役に気付かされたことはありましたか?
毎回ありますね。私、あまり自分自身に興味がなくて(笑)。自分がどう見られたいか、自分がどう思っているかということを重要視していないんです。逆に人が何を考えているか、どう思っているかということが気になってしまう。でも、いろんな役を演じていくなかで、自分自身が抱えているものにも少しずつ向き合えるようになっている気がします。
— 演技において声はとても重要な表現手段だと思うのですが、声を出せないアイの想いや感情をどうやって観ている人に伝えようとしましたか?
今回は文字で書いて見せるシーンがあったので、殴り書き感やスピード感などに感情を乗せていきました。セリフがないからこそ、表情で出しすぎると説明的になってしまうと思って。アイの隠し切れない表情はもともと私自身にある要素だったので、自分を重ねつつ演じました。
— ハチ役の倉悠貴さんとの共演はいかがでしたか?
楽しかったです。同世代では子役から芝居をやっている人が多いのですが、撮影時には倉くんも私も芸歴1~2年目で、すごく貴重な存在でした。あとはとにかく感受性が豊かな方なので刺激を受けました。
— どんな刺激を?
倉くんの芝居が変わると、その変化に影響を受けてしまいそうになりました。倉くんだかハチだかわからない限界の状態で、目が合ったらこっちも泣きそうになってしまって。でも私が演じたアイとしては、受け取ったものをそのまま出さない方が良かったので、泣いてはいけない、強くならなきゃと葛藤していました。
— 倉さんは目の芝居がすごく印象的ですよね。見上さんは自身が演じた役に引きずられてしまうことはあまりないですか?
眠れなくなるとか、体調が悪くなるということはないですね。撮影中は引っ張られてしまうこともありますけど。今回は倉くんが役と表裏一体になって入り込んでいくタイプだったので、バランス的にも私は少し客観的な部分を残しておこうと思っていました。
— では、見上さん自身についてもいくつか質問を。女優になる契機のひとつが、寺山修司の作品だったそうですね。
高1のときに出会って、自分の肌に合うように感じました。
— どんなところが肌に合ったんですか?
とてつもないエネルギーみたいなものを感じるんです。自分はそのエネルギーを隠して上手く生きている方だと思っていて。でも、覆っているものを外した瞬間を見せられてしまったときに、本当はこうだよなとか、こうなりたいなという憧れがある。若い人ほど(寺山修司の作品を)観て、感じて、そこに行けるかもしれないということを知って欲しいですね。
— どの作品が好きですか?
実際に(寺山修司が)演出した舞台は観られていないんですけど、やっぱり戯曲は面白いですね。残っている映像資料とか、どう作っていったかのインタビューを観ても、舞台表現や身体表現にすごく優れているなと。
— 出演側でなく、制作側に興味も?
最終的には自分で「出る」という選択をしたんですが、もともと舞台の演出家をやりたかったんです。だから、まさか今こんな風に女優としていろんなお仕事をさせていただけるとは思ってもいなかったです。
— 最近上映された短編映画『AREA』(監督:関翼)では、衣装を担当されていましたね。
そうなんです。自分でやってみて、スタイリストさんってすごいなと改めて思いました。台本から要素を読み取って、表現したいことと、表現しすぎてはいけないことがあって。
— その部署を実際に担当することで、更に作品作りが面白くなりそうです。
ものを作り上げている瞬間がすごく好きで、そこに自分が出るという形でも、いわゆる裏方と呼ばれる職業でも関わっていたいという気持ちがすごく強いんです。できればいろんな職業のいろんな仕事を知っていた方が楽しいし、もっと上手くいろいろできるんじゃないかなと思っていて。
いまは大学生という肩書きもあるし、女優以外の仕事をするチャンスがある。すごく恵まれている環境にいるので、できることは全部やってみようと思っています。
— これからもいろんな出会いや経験があってたくさん刺激を受けると思いますが、どんな人間になっていきたいですか?
やさしい人間になりたいですね。というのも、私はもともと自分のことを肯定できていて、そのことにあまり疑問を持ってこなかった人間なんです。でも、『衝動』で描かれている人たちのように、孤独とか自分の存在を認められずにいる人って実際にいて。そんなことを『プリテンダーズ』や「きれいのくに」など、いろんな作品に参加していくなかで度々感じることがありました。
私はそういう人たちのことを理解して、寄り添えるやさしさを持っていきたいですし、みんなが少しずつそうなったら、もう少しやさしい世界になるのになって感じています。
— 誰かの寂しさや孤独に対して敏感だと思いますか?
そうですね。(その寂しさや孤独が)自分には無い要素だということをわかったうえでですが。だから、「わかるわかるそうだよね」とはならないんです。理解はできるけれど、本当に自分にそういう経験があって寄り添えるわけではないので。そのことを認めて、自分がどう関わっていけるかを考えていきたいです。
Profile _ 見上愛(みかみ・あい)
2000年10月26日生まれ、東京都出身。2019年にデビューし、以降ドラマ・映画・MV・CMと幅広く活躍。近年の主な出演作品に「きれいのくに」(2021/NHK)「ガールガンレディ」(2021/MBS)など立て続けに出演。オムニバスドラマ「箱庭のレミング/不純ないいね」(2021/ABEMA)第一部の主演を務める。近年の主な映画出演作に『キャラクター』(2021/永井聡監督)『プリテンダーズ』(2021/熊坂出監督)などがある。
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Information
見上愛さん主演映画『衝動』
2021年12月10日(金)より、池袋HUMAXシネマズほか全国順次公開
舞台は2020年の東京・渋谷。名前を失った少年、声を失った少女。絶望し、社会の片隅に生きる孤独な二人が出会い、物語が動き出す。その出会いは罪か、罰か、それとも―――。
出演:倉悠貴、見上愛 / 見津賢、錫木うり、工藤孝生、池田朱那、川郷司駿平、山本月乃、佐久間祥朗、三村和敬 / 村上淳
監督・脚本・企画:土井笑生
©映画「衝動」製作委員会
- Photography : Ryutaro Izaki
- Styling : Mami Oishi
- Hair&Make-up : Nanase Iizuka
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)