TOGA ARCHIVES 古田泰子氏に聞く、ASICSとのコラボレーションから見るブランドの哲学
その発売を記念して、ポップアップイベント「MoveBy ASICS」が9月12日から2日間開催され、800人以上を集めた。
ランウェイ登場時から注目を集めていたこの一足を通して、<TOGA>デザイナーの古田泰子氏に、ブランドの美学や今回のコラボレーションに込めた思いについてお話を伺った。


ブランドのアイデンティティを象徴する "メタル"への想い
-<ASICS>とのコラボレーションスニーカーにも採用されたメタルコンチョ。<TOGA>の象徴ともいえるこのモチーフは、どのようにして生まれたのでしょうか?
古田:ブランドを始めた当初、ウエスタンカウボーイから着想を得た「4(フォー)メタルシューズ」を発表したんです。ヨーロッパには華奢でフェミニンな靴か、過剰なほどに装飾的な靴かの両極端しか存在しなかったので、強さと美しさを併せ持つ女性像を表現したくて、このメタルコンチョをつけました。私たちは「スターメタル」と呼んでいるんですが、まさかこんなに長く続くとは思ってもみませんでした。
-ウェスタンカウボーイや民族調の要素は、<TOGA>の重要なキーワードになっていますが、それはなぜでしょうか?
古田: 民族的な装飾は個人的にとても好きです。また、1970年代後半にロンドンで発生したクラシックなものをわざと壊したりする「ニューロマンティック」にも影響を受けました。メタルコンチョ自体にも歴史があり、1950年代のロカビリーやアメリカのカウボーイスタイルに使われていました。 ただ、アメリカ南部のカウボーイスタイルに直接影響を受けたというよりも、それを輸入してファッションとして昇華させたロンドンの「精神性」の方に感覚的としては近いですね。その民族性が持つ土着的な生命力のような要素を、私たちのスタイルにうまく混ぜ込むことが不可欠だと考えています。


-メタルコンチョというプリミティブ(原始的)な装飾と、スポーツシューズのような新しい技術が融合しているのが、<TOGA>らしさだと感じました。改めてメタルコンチョのブランド資産の高さには驚かされます。
古田: そうですね。どんなに飽きられたとしても、私たちはこのメタルを使い続けるという気持ちを持ち続けています。ウエスタンブーツも、最初から「街(シティ)」を意識して作り続けています。 モチーフが流行り廃れても、「やっぱり私たちはこれが好きだ」という気持ちを忘れずに、常にアップデートしながら使い続ける。その意識が、新しい技術や、街で求められるものを組み合わせる原動力になります。好きなものは変えないという信念と、時代に合わせる姿勢。この両方を強く持ち続けた結果が、<TOGA>のシグネチャーになったと感じています。


<ASICS>とのコラボレーション
-今回の<ASICS>とのコラボレーションは、どのような経緯で実現したのでしょうか?
古田: 私たちは15年前から靴のレーベルをやっていますが、コレクションブランドが靴を本格的に展開するのは当時珍しかった。また、靴づくりを続けていく中で、ハイテクシューズは全く別の世界だと気づきました。自社で開発を試みたこともありますが、やはり専門チームと組まないと中途半端なものになってしまう。だからずっと良い相手を探していました。 <ASICS>とは開発自体は5年前、実際の製作は2年前からとかなり長い時間をかけたプロジェクトとなりました。
-その2年間で多くのプロトタイプを製作されたと聞きました。
古田: テストは本当にたくさん作っていただきました。<TOGA>のシグネチャーであるメタルと、<ASICS>のシルバーラインをマッチさせるために、ただ表面的なデザインだけではなく、機能性も重視したかったんです。プロトタイプを何度も繰り返し、紐の素材や色にもこだわり、ご協力いただきました。いつ発表するのかも忘れるくらいテストを続けた結果、ちょうど世界陸上が日本で開催される時期と重なり、とても運命を感じました。


-今回のコラボレーションの3つのカラー展開について教えてください。
古田: 1つ目のカラーは、<TOGA>のシグネチャーカラーでもあるシルバーです。ショッピングバッグにも使うほど昔から愛用しているので、<ASICS>のシルバーラインは<TOGA>らしさを表現するのにぴったりでした。
2つ目のカラーは、誰もが履けるグレーグラデーションです。ただ、それだけだと少し保守的に感じたので、<TOGA>らしくシルバーのメタルを加えて展開しました。
そして3つ目のカラーは、誰もが想像しないような組み合わせにしたかったんです。アンプルのような色(鮮やかで強い色)と、シルバーやブルーといったスポーツ要素が強い配色を混ぜ合わせることを提案しました。この3つ目は、<ASICS>と<TOGA>だけのエクスクルーシブなものとして販売する形で落ち着きました。
-お披露目は2025年秋冬コレクションでしたが、企画や制作はコレクションの発表とは別軸で進んでいたのでしょうか。
古田: はい、そうですね。ちょうど<TOGA>も30周年に向けて、シグネチャーであるメタルをランウェイでどう展開していくか、次なるフェーズを考え始めていた時期でした。それが、たまたまロンドンで発表したいタイミングとも重なり、色々なパズルがはまってきたような感覚でした。
-スポーツウェアとファッションは異なる分野だと思いますが、実際にコラボされてみていかがでしたか?
古田: 今回のコラボレーションで、<TOGA>は「人」が主役であり、現代的な「街(シティ)」に向けて提案するという点を重視しました。洋服もシューズもそれぞれの方向は違っても、「人が着る・履く」という点では同じです。
<ASICS>は快適さ・最適さに重きを置いていて、そこにシンパシーを感じたので、お互い取り組みやすい環境でした。「スポーツとファッションと違う」という考えはなかったです。
<TOGA>では革靴を定番アイテムとして展開していますが、近年は、革靴の定義が変わってきているように感じます。現代の人が、いつまで硬い素材で足を縛りつけるようなものを身に着けるのかと疑ってもいいと思います。その視点が、今回のコラボレーションを考えるきっかけになりました。造形で新しいものを提案するのがデザイナーの役割なので、<ASICS>と関わることで、デザインをどう落とし込むかという良い経験になりました。最終的には「<TOGA>らしい<ASICS>のスポーツシューズ」に仕上がったと皆さんに思ってもらえるかどうかを重視していました。


フォーマルの定義と崩し方の中に潜む美学
-時代や人が求めるものの変化に合わせて、革靴も変わってきたということですね。
古田: そう思います。品川駅で見かけたサラリーマンが履いているのも革底のように見えてもソフトソールだったりする。 日常では美しさの優先より、実際は履きやすくてストレスが少ないものを選びますよね。そういった視点を取り入れていくことが、今の時代に合ったアプローチだと考えています。 例えば、私たちが定番としているコインメタルローファーは、スニーカーソールを合わせていて、発表当時は珍しい存在でしたが、今では当たり前になっています。フォーマルの代表とも言える「革靴」もアッパーは革だけどソールはビブラムといったように、どんどん変化し、これまでのいわゆる「革靴」は時代と共に薄れています。 <TOGA>も時代に合わせてスタイルを変えていきたいので、常に新しい技術を取り入れたいと模索していました。ビブラムソールまではたどり着きましたが、「ハイテクソール」はやはりスポーツ用品専門ではないと展開できないと感じていました。



-25AWのコレクションテーマは「フォーマル、インフォーマル、アンチフォーマル」でした。フォーマルの定義を揺るがす試みの中に、<ASICS>が入ってきたことで、さらにその境界線が曖昧になったように感じます。
古田: フォーマルの基準となるデザインを崩したり外したりしたのは、フォーマルの定義そのものの境界線がなくなっていると考えたからです。様々な要素がクロスしていく過程に興味があったので、色々な「フォーマルの形」を提案しました。
人によって「ザ・フォーマル」という定義をどう捉えているかわかりませんが、クラシックなフォーマルは絶対的にありますよね。階級を意味するフォーマルは必要がないんじゃないかというメッセージを込めて、私たちはアメリカ人フォトグラファーのウィリアム・エグルストンがネクタイを垂らすスタイルから着想を得て、フォーマルを完成させない姿勢が一つの表現であるというアプローチを取り入れました。

-ロンドンという都市の文化も影響していますか?
古田: ロンドンの人には、伝統的なフォーマルの文化はもちろんありますが、それを崩すことにも理解があります。パンクが生まれた背景も相まって、保守が生まれては壊すというのを繰り返している国柄なんです。<TOGA>がやりたいことを面白がってくれると感じますね。ひねりの利いたユーモアや、シニカルな表現が好きかもしれませんね。
-「フォーマル」を崩すというのは<TOGA>のこれまで提案してきた美学とも共通しますね。
古田: 2025年秋冬コレクションでは崩したフォーマルの形を提案していますが、一方でフォーマルのいいところである、時間と場所、オケージョン、そういった伝統やしきたりを理解することの重要性も同時に感じています。
「自由だから何でもいい」ということではないんです。フォーマルの良い部分を尊重しつつも、「決まったものを必ず着なければいけない」という慣習に対する問いかけでもあります。特定の場所や空間に対して、自分自身のアイデンティティと向き合い、着る服を選ぶことは、とても大切なことではないでしょうか。
-商品情報

品番:1203A838
価格::37,400円(税込)
カラー:(左から)GRAY/BLACK PURE SILVER、WHITE/RED PURE SILVER、BROWN/BLUE PURE SILVER
サイズ:23.0〜29.0(0.5cm刻み)(※アシックス取り扱いサイズ)
-発売情報
・応募期間
9月26日(金)11:00 〜 9月29日(月)10:59
※応募後の変更・キャンセル不可
・当選発表
10月1日(水)11:00より順次発表
・事前抽選入店対象時間
10月3日(金)11:00〜15:00
※当選者のみ入店可能。混雑状況により15時以降も入場規制の可能性あり
※営業時間は11:00〜20:00
抽選への応募はこちら
また、全国のアシックス、TOGA直営店では10月3日より発売予定。
- Text : Keita Tokunaga
- Photograph : Kaito Chiba
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)