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黒崎煌代 – “見はらす”という視点

Oct 9, 2025
黒崎煌代の初主演作となる映画『見はらし世代』。カンヌ国際映画祭・監督週間にて、日本人史上最年少で選出されたことでも注目を集める、団塚唯我監督の長編デビュー作であり、東京という都市とそこに生きる家族の変化を通して、私たち自身の“今”を問いかけてくる作品となっている。
タイトルに込められた現代的な視点、初のカンヌでの経験、そして役者としての新たな挑戦まで、自身も“見はらし世代”だと認める黒崎が見つめる風景とは。

黒崎煌代 – “見はらす”という視点

Oct 9, 2025 - FILM
黒崎煌代の初主演作となる映画『見はらし世代』。カンヌ国際映画祭・監督週間にて、日本人史上最年少で選出されたことでも注目を集める、団塚唯我監督の長編デビュー作であり、東京という都市とそこに生きる家族の変化を通して、私たち自身の“今”を問いかけてくる作品となっている。
タイトルに込められた現代的な視点、初のカンヌでの経験、そして役者としての新たな挑戦まで、自身も“見はらし世代”だと認める黒崎が見つめる風景とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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見はらしていないと生きていけない感覚

― 『見はらし世代』を拝見させていただき、2025年の東京が映画として映されていることを強く感じました。小さな奇跡がバタフライエフェクト的につながることで、都市も家族も変化し続ける。破壊や喪失、創造や再生について、大きな視点でも小さな視点でも考えさせられる作品でした。

うれしいです。ありがとうございます。

― そして英題が『BRAND NEW LANDSCAPE』というのはなんとなく理解できたのですが、邦題の『見はらし世代』。これがなかなか難しい。

そこが問題なんです。

― 団塚唯我監督からは、タイトルの意味について説明はありましたか?

まず造語なんですけど、「見はらし世代って何ですか」って聞いてみても、「いい感じやん?」「なんか見はらしてる感じやん?」みたいな答えしか返ってこなかったんですよね。

― はぐらかされる?

というか、団塚さんもわかってないんじゃないかぐらいに思っていました(笑)。

ただ、最近ようやく気付いたのが、それが答えなんだと。見はらすって、凝視と逆じゃないですか。特定のものを見るという行為ではなく、全体をなんとなく見るという。そう考えると、団塚さんの「いい感じやん?」って答えは、すごく見はらし的ですよね。

― ああ、たしかに。

東京の人はよく言うじゃないですか。「東京の人は人のことを気にしない」「歩いていても人のことを見ない」って。人口の少ない地域のほうが見はらさず、ポイントで注視しているイメージがあります。

この映画の家族、とくに(木竜麻生さん演じる)お姉ちゃんなんかはめっちゃ見はらしている。全然注視しない。今のところ僕はそんな解釈です。

― なるほど。すごく腑に落ちました。黒崎さんも見はらし世代なんですか?

どうでしょう。でも見はらし世代なんでしょうね。今は東京に住んでいるし。

― 最近の若い世代は、自分の主観よりも共感を重視し、ある物事を俯瞰的に捉えることが多いように感じます。そういった傾向もある種、見はらしているのかなと。

まさにそうですよね。この映画でも若者が出てきますが、今の若者ってたぶん情報過多で、見はらしていないと生きていけない感覚があるのかもしれません。

― 団塚監督の時代に対する洞察力はすごいですね。

団塚さんはめちゃくちゃ考えるんです。びっくりするぐらい頭のいい監督です。

 

これまでで一番役作りをしなかった作品

― 遠藤憲一さんが演じた父親は、団塚監督のお父さんとも重なります。そう考えると、(黒崎さん演じる)息子の蓮は監督自身でもあるのかなと。その部分について監督から説明を受けましたか?

直接は聞いてないですね。ただ出演のお話をいただくより前に、団塚さんが作ろうとしている映画があることは友達として聞いていて、そのときに自分の家族のことを投影した作品にしようと思っているという話はしていました。

― 蓮という役を作り上げる上で、団塚監督自身のパーソナリティも意識しましたか?

めちゃくちゃ意識しました。でも、オファーってそもそも何をしていいかわからないんです。

― どういうことでしょう?

たとえば孫悟空の役だったら役作りみたいなものが必要ですけど、監督が書いた作品で、監督自身が投影された主人公で、それを黒崎がいいと思ってオファーをしてくれたなら、私が変に役作りをするよりも、その時点の黒崎のままでいたほうがいいわけですよ。だから、これまでで一番役作りをしなかった作品になりました。

― 役作りをやらずに演じるということも可能なんですね。

役作りをやらないという役作りみたいな。蓮というキャラクターを作るにあたって自我を出さず、監督に任せられたことは責任を持ってやる、指示されたことはそれに従う。

― 比較的具体的な演出があったんですか?

これが、ないんですよね。見はらし世代なので(笑)。監督とは4歳違いなんですけど、「いい感じでやって」とか、「そういう感じで」みたいな会話で成立してしまうのは、今までの現場にはなかった感覚でした。

― いわゆる友達のノリに近いですね。

友達のノリでもありますし、今回は若手スタッフが多くて、彼らにもそれで伝わるんですよ。「もうちょっといい感じに」というのでなんとなく伝わるのが、見はらし世代的だなという感じがしましたね。本当に貴重でおもしろい経験でした。

― その一方で本作には素晴らしいキャリアを重ねてきた俳優も多く出演しています。それにより、若者のノリと勢いで作り上げた作品にとどまらず、どっしりとした厚みも感じられました。

遠藤憲一さん、井川遥さん、菊池亜希子さん、吉岡睦雄さん……最強でしたね。

― そんな強力な座組の中で今回、初主演を果たしましたが、現場での心境や行動に変化はありましたか?

主演だからといって、いつもと違うことはしていません。この映画は蓮の物語じゃなくて家族の物語であり、私はその一員にすぎない。だから気負うことなくできました。

― 蓮は言葉数が少ないキャラクターでしたが、演じる上で意識したことはありますか?

何もしないことを意識しました。私はどっちかというと何かしたいタイプなんですけど(笑)。

本を読んだときに、蓮は都市の中にいる1人であり、家族の中の1人であり、特別にピックアップされないところにおもしろさがあると思ったんです。主演だからといって、肩を回して何かすることは絶対にやめておこうというのはまず最初に決めました。

― 芝居の間もたっぷり取られているように感じました。

正直カンヌで初めて観たとき、「なんだ、この間を取る芝居」と思って嫌だったんです。でも監督が採用してくれたということは、何かがよかったんじゃないかなと。

― すごく引きつけられましたよ。

でも間を取るって、ちょっとチートみたいなところがあるんですよね。黙っていたら、それは注目されますよ。そこがちょっといやらしいし、恥ずかしいなって。

― そういうものなんですね。でも見せ場的に間を使うのでなく徹底されていたので、蓮の人となりがすごく伝わってきました。

そう言っていただけると助かります。

 

誰にとっても今を知るということは大切

― 本作でカンヌ国際映画祭にも参加されましたが、初のカンヌはいかがでしたか?

行ったことのない土地で2週間暮らしたということもあり、いろいろ大変でしたけど楽しかったです。

今日はレオナルド・ディカプリオ、翌日はエマ・ストーンと、小さい頃から憧れていた海外のスターが連日来て。そこに私も俳優としているんだからという、謎の覚悟も生まれたり。本当に夢見心地で、不思議な気持ちでした。

― どんな刺激を受けて、何を持ち帰りましたか?

やっぱり浮き足立っちゃうんですよ。ハリウッドスターと同じ場所にいて、同じレッドカーペットを歩くわけですから。ふわふわした刺激を受けるんですけど、それで海外を目指すとか言い出してもバカなのはしっかり気づいていますから(笑)。まずは日本でやれることをやってから、ですね。

でも実際は、海外を目指す必要はないのかなと思いましたね。目指したらおかしくなっちゃいそうな場所だなって。それほどきらびやかなんです。それに気づけたのはよかったかもしれません。

― 本作では初主演を務めるなど、俳優として目覚ましい活躍をされていますが、次に見据えるステップがあれば教えていただきたいです。

おもしろいことはなんでもやりたいんですが、コメディをやりたいです。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」みたいな。

― ブラックコメディですね。

あとは、いつか『ゴジラ』に出たいです。シリーズものの邦画で初めて網羅したのが『ゴジラ』で、大ファンなんです。日本が誇る最強コンテンツだと思うんですよね。次のステップでなく、股がちぎれるぐらい高いステップですけど、言っておこうかなと(笑)。

― 最後は、『見はらし世代』をこれからご覧になる方へのメッセージで締めさせてください。

先ほども申しましたが、情報があふれる世の中で、我々はどんどん見はらすということが増えていっている気がするんです。その「見はらす」という視点を、ひとつの家族の物語を通して感じてもらえればおもしろいんじゃないでしょうか。

今の東京、そして日本が映し出されている作品だと思います。誰にとっても今を知るということは大切だと私は考えるので、この機会にぜひ観ていただけたらうれしいです。

― 皆さんがこの作品をどのように捉えるのかも気になります。観た方それぞれがいろんな感想を抱く余地のある作品なので。

それぞれ見はらしながら観てほしいですね。ギュッと集中して観てもいいですけど、この映画に関しては見はらしてもらったほうが気づきがあるかもしれません。

 

Profile _ 黒崎煌代(くろさき・こうだい)
2002年4月19日生まれ、兵庫県出身。2023年にNHK連続テレビ小説『ブギウギ』に出演し、俳優デビュー。その後も映画『さよなら ほやマン』、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』などに出演。10月3日には映画『アフター・ザ・クエイク』が、10月17日には映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』が公開される。11月6日より舞台 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』の上演が始まる。
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Information

映画『見はらし世代』

2025年10月10日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開

出演:黒崎煌代、遠藤憲一、木竜麻生、菊池亜希子、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇鈺淳、服部樹咲、石田莉子、荒生凛太郎、中村蒼 / 井川遥
監督・脚本:団塚唯我

映画『見はらし世代』公式サイト

©︎2025 シグロ / レプロエンタテインメント

  • Photography : Madoka Shibazaki
  • Styling : TakumiNoshiro(TRON)
  • Hair&Make-up : TOMOE(artifata)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)