前田旺志郎 × 窪塚愛流 – 伝える覚悟






中途半端な気持ちで関われば誰かを傷つけてしまう(前田)
― おふたりの表情や佇まいなど、印象に残るシーンがたくさんある作品でした。本作の脚本を読んで、どんなところに心を動かされましたか?
前田旺志郎(以下、前田):特定のシーンやセリフというよりも、一番心を動かされたのは作品のテーマそのものです。東日本大震災や福島の原発のことなど、自分にとって現状を知るきっかけにもなりました。全ての瞬間が苦しく、痛みを伴うものでした。
窪塚愛流(以下、窪塚):僕は母親に忘れられるシーンに一番心を動かされました。“忘れられること”って、やっぱり悲しいし寂しいと感じたんです。東日本大震災や原発のことを皆さんが忘れているわけではないと思いますが、時間が経つごとに記憶が薄れていってしまう……。だからこそ、この映画を通して出来事を記憶に残しておきたいと思いました。
直接関わっているわけではなくても、何かしらで繋がっているはず。今すぐ自分にできることはないかもしれませんが、思い続けることはできる。それが大切なのかなと感じました。
― 起こった出来事をベースに1本の映画として公開する、その大切さも感じました。監督とはどんなお話をされましたか?
前田:監督が福島の方々に取材して見聞きしてきたことなど、いろいろなお話を聞かせてもらいました。撮影前はもちろん、段取りが終わった後にも。撮影中に「違うな」と感じたことは、その都度しっかり言葉にして伝えてくださる方でした。そして、僕自身の考えをその場で伝えたり、わからない部分を質問したり、対話を重ねながら一緒に作っていきました。
窪塚:僕も監督とはたくさん話をしました。撮影の際、監督が「ここはこういうシーンだから」ととても丁寧に説明してくださったんです。役そのものについてというより、シーンの背景や僕らがそれまでどう過ごしてきたかといったことを。そうした土台があったからこそ、自由に演じられ、向かうべき方向が見えた気がします。

― 本作のように社会的なテーマや実際の出来事を扱う作品に出演する際、普段と意識が異なることはありますか?
前田:やはり背負うものが大きく、「ちゃんと向き合わなければ」という思いは、普段以上に強く意識していると思います。すべての作品に言えることですが、中途半端な気持ちで関われば誰かを傷つけてしまうので。だからこそ作品に参加し、伝える意味はとても大きいですし、役者にとって幸せな瞬間でもあります。
―窪塚さんはいかがですか?
窪塚:プレッシャーもありますが、あまり考えすぎるのも違うなと思っています。信じてオファーしてくださったからには、僕もこの作品を信じて演じきる。そのために全力で臨もうと、自分の中で奮い立たせて現場に入るようにしています。中途半端な気持ちではなく思い切って飛び込む。
でもそれは自信があるからではなく、“伝える”という仕事をしている以上、胸を張って芝居をして、この作品を一緒に作り上げたいと思うからです。それが僕らにとって一番幸せなことだと思います。僕自身もこれまでにいろんな映画から多くの気づきをもらってきたので、この作品を観た方が何かに気づくきっかけにつながったらうれしいです。

― 今回が初共演ですが、お互いの印象に変化はありましたか?
前田:愛流は、芝居を見る前から「まっすぐでピュアな人だな」という印象がありました。その印象は実際に一緒に芝居をしても変わらなかったです。本当にピュアで真っすぐな人で、いろいろなものをどんどん吸収していくイメージがあります。
― 逆に「こんな一面もあるんだ」と思ったことは?
前田:僕の勝手なイメージですが、会うまではわりとクールな人なのかなと思っていたんです。でも実際に会って話してみると、すごくよく笑うんだなと。そこは少しギャップを感じました。撮影が終わった後は、フランクにいろいろ話をしましたね。
― 窪塚さんはいかがですか?
窪塚:僕は旺志郎くんが演じるアキラを見ていて、得るものがたくさんありました。これまで、誰かの演技を見てヒントをもらうことはあまりなかったんです。でも今回は初めて、お芝居の中から真一を演じる上で大事な感情をもらえたように思います。すごく刺激的でした。

自分の感情や気持ちには素直でいたい(窪塚)
― この作品を観て印象に残ったのは“怒り”の感情でした。役を演じる上で“怒り”や“やるせなさ”といった感情を、どうコントロールしていたのでしょうか?
前田:怒りの感情は常にありましたが、難しかったのはその怒りをぶつける対象が明確ではなかったことです。もともとは自然災害であり、原発事故でもあったので、怒りの前にまず想像を超える悲しさがあったと思います。そう考えると、ぶつける先がはっきりした怒りとは少し違っていたんです。
だからこそ、アキラは怒りを抱えたまま行き場をなくし、フェイドアウトしそうになっていた。そんなときに真一をはじめ、同じ境遇の人たちと出会うことで、徐々に“怒り”を共有できるようになり、ぶつける場所が見えてきたんです。
― 共有できる場所が見つかったことで、怒りの形も変わっていったと。
前田:そうですね。最初にアキラが抱えていた怒りは奥の方にあって、火種は大きくありませんでした。それが、話したり甘えたりできる人と出会ったことで、次第に大きな形として表に出てきた。だから、真一に初めて会ったときにぶつかったのも、真一に対して怒っていたわけではなく、そこにしか怒りを出せなかったんです。
― なるほど。
前田:今回は、人との関わりや距離感の中で感情が変化していったので、周りの存在にとても助けられました。

―窪塚さんは、真一の“悲しみ”や“怒り”などの感情を、どのように整理し、表現されましたか?
窪塚:真一は母に対して大きな“悲しみ”を抱えていました。でも、その“悲しみ”は井浦新さん演じる父親と分かち合っている感じがあったんです。言葉にしなくても通じているというか。
近くにいる母親は理解してくれないけれど、父親は遠くにいて、あまり言葉を交わさなくても同じ感情を共有できていました。同じ悲しみを分かち合える人がいたからこそ、アキラのことも受け入れられたのかなと思います。真一にとって、父親の存在は本当に大きかったです。
― 井浦さんのお芝居も素晴らしかったです。受け止めて包み込むような感じが。
窪塚:本当に素晴らしかったです。芝居なのか自然なのかわかりませんが、瞬きや仕草のひとつひとつに想いが込められているように伝わってきました。井浦さんの芝居を受けて、初めて息子になれたというか、言葉にせずとも通じ合える何かがあった気がします。

― お芝居をするうえでも、普段の生活でも、生きているといろんな感情と出会うと思いますが、自身の感情とはどう向き合っていますか?
窪塚:僕は、どんな感情も素直に出すようにしています。楽しいときは全力で楽しむし、悲しいときは全力で悲しむ。
でも、何かに対して怒ることはあまりないです。「そういう人もいるよな」と受け止めることが多いです。感情に対する好奇心が強いんです。
― 感情を素直に出すのは意識的に?
窪塚:そうです。だってもったいないじゃないですか。そのとき感じている悲しみを今出さなかったら、自分自身が苦しくなるし、悲しみも増してしまう。だから、自分の感情や気持ちには素直でいたいと思っています。
前田:素敵だね。僕はどうしてるかな。感情は出すよりも忘れることの方が多いかもしれません。悲しいことや悔しいことがあっても、友達と一緒に楽しく過ごして発散する。それでチャラにして忘れることが多いですね。
― ネガティブな感情を引きずらないようにしている?
前田:自分の中で限界が来たときにそうしている気がします。「やばいかも」と思ったら、友達と楽しく過ごして、だんだん気持ちが落ち着いて大丈夫になるというか。でも、いろいろ話せる関係の人には話します。だから人によるかもしれません。あまり距離が近くない人の前では、どちらかというと溜め込んでしまうタイプかもしれないですね。

Profile _ 前田旺志郎(まえだ・おうしろう)
2000年12月7日生まれ、大阪府出身。05年、子役としてキャリアをスタート。07年からは、実兄の航基とともにお笑いコンビ「まえだまえだ」として活躍。11年には、是枝裕和監督の映画『奇跡』でスクリーンデビューにして初主演を務め、その後、俳優として数多くの映画・ドラマ・舞台に出演。最近の出演作に、ドラマ「舟を編む〜私、辞書つくります〜」(NHK)、映画『リライト』(松居大悟監督)、『ベートーヴェン捏造』(関和亮監督)、『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』(木村聡志監督)など。
Instagram

Profile _ 窪塚愛流(くぼづか・あいる)
2003年10月3日生まれ、神奈川県出身。18年、豊田利晃監督の映画『泣き虫しょったんの奇跡』で俳優デビュー。21年から本格的に俳優活動を開始。『麻希のいる世界』(22年/塩田明彦監督)、『少女は卒業しない』(23年/中川駿)に出演。24年には、『ハピネス』(篠原哲雄監督)で映画初主演。最近の出演作に、映画『恋を知らない僕たちは』(24年/酒井麻衣監督)、『大きな玉ねぎの下で』(25年/草野翔吾監督)、ドラマ「御上先生」(25年/TBS)、NHKドラマ初主演作「青空ビール」(25年)など。
Instagram
cut and sewn ¥24,200・pants ¥77,000・belt ¥36,300・shoes ¥11,0000 / Séfr (Sakas PR 03-6447-2762), Other stylist’s own
Information
映画『こんな事があった』
2025年9月13日(土)公開
出演:前田旺志郎、窪塚愛流、柏原収史、八杉泰雅、金定和沙、里内伽奈、大島葉子、山本宗介、波岡一喜、近藤芳正、井浦 新
監督・脚本:松井良彦
©松井良彦/ Yoshihiko Matsui
- Photography : Keisuke Nakayama
- Styling for Oshiro Maeda : Mei Komiyama
- Hair&Make-up for Oshiro Maeda : Azusa Katsuragawa
- Styling for Airu Kubozuka : Kentaro Ueno
- Hair&Make-up for Airu Kubozuka : Katsuyoshi Kojima
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)