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2024秋冬コレクション(東京)を「原点回帰」をキーワードに振り返る

Apr 13, 2024
各ブランドから2024秋冬コレクション(東京)が発表されたが、長年ファッションエディターとして活躍される徳永啓太氏に今回の2024秋冬コレクションを「原点回帰」をキーワードに振り返ってもらった。

2024秋冬コレクション(東京)を「原点回帰」をキーワードに振り返る

Apr 13, 2024 - FASHION
各ブランドから2024秋冬コレクション(東京)が発表されたが、長年ファッションエディターとして活躍される徳永啓太氏に今回の2024秋冬コレクションを「原点回帰」をキーワードに振り返ってもらった。

ファッションデザイナー、アーティストに限らず原点に戻ることは一定期間を過ぎると必要なことだ。
原点回帰とは「初心を思い出す、過去の整理、浄化、そして変化する前触れ」
言葉の意味を探るため、「原点回帰とはなんでしょうか?」とchatGPTに投げてみた。
筆者が気になったところを抜粋すると
「原点回帰は、ある意味でサイクルの一部として捉えられることがあります。新しいことが出現し、一時的な変化や成長が起こった後、状態は元の状態に戻り、新たなサイクルが始まるというプロセスが繰り返されることがあります。」
さらに「一度は異常や非行と見なされた行動や状態が、時間とともに社会的に受け入れられ、普通の一部として認識されるようになることがあります。」
言葉の本質からは遠ざかる解釈かもしれないが、納得させられるところもある。

常に新しいことを求められるデザイナーにとって原点回帰は、周囲から認知された証なのかもしれない。
そしてサイクルは円形ではなく螺旋状で成長しながらも同じ立ち位置に戻るという意味だろう。
ブランドを発展させるために必要な原点。
今季はブランドの原点とサイクルの流れを感じたショーがいくつかあった。ブランドが過去に行ってきたことを追いながら2024年秋冬コレクションを振り返りたい。

「ショーでお披露目、ショーで再スタート」 HIDESIGN

ハイドサイン株式会社は2005年から全国の多種多様な企業向けユニフォームをデザインする会社。2022年ファッションブランドとして展開するためディレクションに山口壮大氏を迎え、コレクションをスタート。<HIDESIGN(ハイドサイン)>のコレクションは、シーズン毎、順番に数字がつけられ発表されている。まず、ブランドデビューのお披露目としてショー形式で発表した23春夏コレクションが「1」、企業の技術や素材開発を間近で感じてもらえるように、プレゼンテーション形式を選んだ「2」「3」。そして、4シーズン目の今季から販売を開始する決意から、ショー形式でカムバックした24年秋冬コレクションが「4」となっている。

<HIDESIGN>がコンセプトにしているグレーカラーは、“色(color)”と“襟(collar)”の意味を持ち、製造や土木の作業服のブルーカラー(collar)、オフィスシャツのホワイトカラー(collar)の両方の特色を含みながら分類できない色、すなわち属せない新しい職業の色としてグレーカラーを用いている。

筆者はコンセプトにしている“色(color)”のグレーを白と黒の間、晴れと雨の間の雲、はっきりしない・個性がないなどの意味を含むと考える。はっきりしないからこその余白や解釈の自由があるように、ハイドサインも同じくそれらを着る側に委ねているのだろう。

24年秋冬コレクションのショーは、建設現場で聞こえてくる鉄を叩く音から踏切の音、朝の通勤で聞こえてきそうな環境音とともに疾走感のある電子音が混在。演出も防護服の如く全身を覆った30体のモデルがランダムに立ち並び、その間を新作を着たモデルが颯爽と駆け抜ける。日常で聞こえてくる音や風景を感じながらも労働だけで終わってしまう日々のありようを感じ取った。通常はショーの前に渡されるパンフレットが、ショーの後に配られた。そのパンフレットには、ポケットはニーズに合わせてカスタマイズが出来るという提案や、腕・身体・フードとパーツごとに脱着が可能である展開図が記されており、多種多様な労働者のユニフォームをデザインしていた実績があるからこそ、状況に適応した提案ができることが示されていた。



今季のコレクションを山口氏は「ワーク・クチュール(work・couture)」という言葉を使って説明をした。つまり今後、ファッションで求められるのは「beautiful・美しさ」だけでなく、「comfortable・快適さ」を兼ね備えたものが必要になってくるという意味を込めたものなのだろう。それは筆者の中では、新作と対比するために立っていた防護服を模したモデルの方が色濃く記憶に残ったからだ。コロナ禍や自然災害を体験して以降、身につけるもので自分をプロテクト(保護)する重要性が高まっている現在、ファッションデザインは機能美だけでは物足りない。個人の生活をより快適に、よりフィットするアイテムや”装飾(カスタム)”がラグジュアリーに必要なものとして支持されていく未来を想像させられた。

2024秋冬コレクションは2回のプレゼンテーションでファッション業界に周知されたこと、そして次のステップに進むための販売の準備が整い他のブランドと同じ土俵でスタートをきる意思表示として、再度王道のファッションショーを行ったのだろう。

<HIDESIGN>2024秋冬コレクションはこちら

「初期のコレクションピースがHOMMEで蘇る」anrealage homme

TOKYOファッションウィークの最後を飾ったのは<anrealage homme(アンリアレイジ オム)>。突然の知らせに驚いたファンも多かっただろう。

これまで発表してきた<ANREALAGE>のコレクションの要素を随所に散りばめながら、メンズスタイルに落とし込んでいた。キーマンとなったのはスタイリストTEPPEI氏。2018年のブランド15周年記念コレクションショーからTEPPEI氏はスタイリストとして担当し、今季オムではクリエイションにも関わっているそうだ。彼の味が現れているのがブリティッシュトラッドと7部丈のハーフパンツのセットアップに靴下を魅せるこだわり。これはTEPPEI氏も愛用した故<ChristopherNemeth(クリストファーネメス)>が提案したバランスであり、西洋人に比べて小柄で華奢な日本人体型が活かされたスタイルだ。

ファーストルックはhomme(オム)のメインカラーであるピンクのボタンがぎっしりと整列されたセットアップ。これは<ANREALAGE>の初期である2007年春夏コレクション「INORI」で種類の異なるボタンが隙間なくぎちぎちにつけられたコレクションのオマージュ。当時のコレクションピースが、時を経てメンズのテーラードのセットアップで復活。ランウェイでは、日常でも着れるくらいの軽さを感じた。


左)ANREALAGE 2007年春夏コレクション「INORI」 右)anrealage homme 2024秋冬コレクション

またそのほかのルックにもこれまでのコレクションのオマージュが垣間見える。スカジャンの柄や、スタッフジャンパーに施されたワッペンは、ニットの表現でピクセル調に仕上がっており、2011秋冬コレクション「LOW」でデジタルの低解像度をモチーフにしたシーズンを彷彿させる。また、ネクタイは2012秋冬コレクション「TIME」で残像をデザインに起こしたシーズンと同じく3本連なっていて、さらにはクリスタルで装飾されたスタジアムジャンパーは2019春夏コレクション「CLEAR」で使用した透明なものが黒く変化するマテリアルと似ている。


左)ANREALAGE 2011秋冬コレクション「LOW」 右)anrealage homme 2024秋冬コレクション


2019春夏コレクション「CLEAR」


anrealage homme 2024秋冬コレクション

現在でも<ANREALAGE>の象徴でもあるパッチワークはニットの編み地で柄を変え、ダッフルコートは、留め具に花が入ったクリア樹脂のトグルボタンが採用されている。当時からのファンにとっては心をくすぐるアイテムだ。そして最後のルックは、2007春夏コレクションと同じノーカラージャケットが、そのままメンズサイズに落とし込まれていた。ブランド創業時からはじめたパッチワークから、2024秋冬コレクション「OBJECT」で初登場したリーボックコラボと、初期から最新までが網羅されたコレクションだった。


anrealage homme 2024秋冬コレクション

<ANREALAGE>がブランドを始めた2006年は原宿スナップの全盛期、ストリート編集部から発行されたTUNEでTEPPEI氏はスナップの常連、一方森永氏はパッチワークのアイテムを発表し、個性的なアイテムに敏感な原宿キッズの注目の的。その中にTEPPEI氏もいたそうだ。
<anrealage homme>は今後も東京でコレクションショーを続けていくという。TEPPEI氏は服を着るプレイヤーとして、森永氏は服を作るデザイナーとして原宿を彩った2人。当時は駆け出しだった彼らだが、今後は、TOKYOファッションウィークという日本を代表する大舞台で、原宿の系譜をhommeを通じて次世代に繋いでいくのであろう。

<anrealage homme>24秋冬コレクションはこちら

「男性服から始まり、男性服の復活。」KEISUKEYOSHIDA

<KEISUKEYOSHIDA(ケイスケヨシダ)>が初めてショー形式で発表したのは2016春夏コレクション。まだ若手だった<SOSHIOTSUKI(ソウシオオツキ)>や<AKIKOAOKI(アキコアオキ)>らとともに合同ショーを行った。当時のTOKYOファッションウィークでは大手ブランドも参加していたが、無名だった吉田氏が一夜にして一番名の知れたブランドのコレクションとして話題を呼んだ。その象徴となったファーストルックが「ゲームセンターにいる少年」としてSNSを中心に大きな反響があった。冴えない少年、親が買ったものから離れ自分で選ぶようになった思春期、お洒落かはわからないがこだわった着こなし。男性なら誰もが一度は通るコーディネートは、彼の等身大であり、コンプレックスでもあった。彼の実直な提案はネットユーザーの心を揺さぶり、約2,000リツイートされた。しかしこれ以降、彼はウィメンズ一本でブランドを始める。それは、自身との葛藤の始まりとなった。思春期、人間関係、学内のヒエラルキー、育った宗教の教え、など当時は言語化できなかった彼自身の劣等感を、ありとあらゆるところから全力で掘り起こし、コレクションに100%を注いでいた。時おり筆者はそのパワーに圧倒され、学生時代に実は感じていた孤独を引き出し、ショーが終わってからも立ち直れなかったことを覚えている。それだけ彼自身が抱える劣等感は「武器」であり「強さ」であり、それが、同じ境遇を持った若者への共感を産み、今日においてもカルト的な人気を誇っている理由なのだろう。


2016春夏コレクション ファーストルック

しかし、筆者が彼の心境の変化を感じたのは23年秋冬コレクション。とある17歳の少年のために作り上げたコレクションが彼にとって大きな転機となった。その少年は吉田氏と同じ劣等感を抱いていたが、彼の目に映るその少年は、決して安くはない彼が作ったジャケットを買ってもらえるほど親から愛されて恵まれていた。彼は自分もその少年と同じ環境にいることに気づき始めたのだ。のちに発表された24年春夏コレクションのルックは軽さとクラシカルな大人の色気を纏い、これまで内(自分)に向いていたベクトルが、美しい女性の所作に焦点が当たっており、外(他者)に向いているようだった。もしかしたら劣等感から解放されたとも感じ取れるくらい大きな変化に見えた。

先シーズンの変化が頭をよぎりながら向かった24年秋冬コレクションのショー会場は立教大学。彼が小学校から大学まで16年間一貫校で通った学院。ゲーセンの少年から始まり、その後の劣等感を打ち出したコレクションの全てがここに詰まっている。今季のコレクションノートには「大学で留年する夢、実際にはしていないにも拘らず、いまだに見続けているのだ。」とある。そこには、一貫校だからこその見えないプレッシャーを抱えており、今でも消えない劣等感があったのだ。ではなぜ母校を選んだのか。それは17歳の少年との出会いで、過去の劣等感と距離をとり整理できたのではないか。この学校で彼なりの生き苦しさがあったのだろう。しかし筆者が初めて踏み入れた立教大学の印象は、同じ池袋でも駅付近の治安とは対照的な空気感であった。学校に応じた教養とそれに準じた教育者、博識があるが故の気品ある身だしなみ、キリスト教の聖女。彼は自然とそのような品のある大人を見て育ってきたに違いない。彼が出会った17歳の少年に抱いた“恵まれている”という感覚を、筆者は彼に向けていた。そう言った意味で24年春夏コレクションの変化には納得がいく。

今季、彼は自身の外側を見渡し、これまで向き合えてなかった恵まれている環境を認めることができたのだろう
ファーストルックは8年ぶりにメンズが登場。あどけないゲーセンの少年は、時を経て青年へと成長していた。そして最後のルックはマキシ丈のコート。なびくと垣間見るタイツが品のある大人の色気を演出している。また立教大学のカラーである紫のシャツ、大学の後輩である<fluss(フルス)>のデザイナー児玉氏とコラボしたストールと母校と仲間への愛も詰まっていた。これまで劣等感を感じるしか無かった母校での16年間、そこに向き合い、感謝をするというこれまでの彼からは想像しづらいコレクションが、ファーストルックのメンズのように彼自身の成長が見て取れる。


2024秋冬コレクション ファーストルック

最後、フィナーレはやらなかった。そこには、「過去に感謝しつつも振り返らない」そんな姿勢を感じ取った。吉田氏にとっての原点回帰は新たな一歩を踏み出すための過去の清算である。

<KEISUKEYOSHIDA>2024秋冬コレクションはこちら

  • text : Keita Tokunaga

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