レコードでも持っていたい、この名盤 | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 9
連載第9回目となる3月のテーマは「レコードでも持っていたい、この名盤」
レコード初心者でも所有欲を満たしてくれるおすすめの名盤をご紹介。
各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し“が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。
痛烈なメッセージを放つ楽曲達が収められた、ニュー・ソウルの始まりとも言える「CURTIS」
recommend by 商品部 ソウル担当 阿部 友馬さん
SOUL担当なりたてほやほや。MOOPの名でよなよなビートを作る日々。
アーティスト名:CURTIS MAYFIELD
アルバム名:CURTIS(1970/CURTOM)
スタッフのおすすめコメント:
サブスクで音楽を聴くことが主流どころか、探せばレア盤や廃盤の音源たちがYouTubeでいとも簡単に聴けてしまうという、味気ないけど聴けるのは嬉しい…という、なんだか複雑な気分になる時代だ。
しかしこの先、レコードを聴くという行為がなくなるということは決してないのだろうとも思う。小さな針が円盤に刻まれた溝を駆け回る音は微かなノイズとなって、何かが爆発しそうに、だけど静かに、私たちの緊張感を撫でるように、空気を伝っていく。これから曲がかかる、というときめきは何回レコードをかけようが薄れない。また、聴いているという実感の隣で、わたしたちがいまそこにいる、あるいはいた事を、そのレコードが記録しているようにも思えてきて嬉しくなるのだ。
名盤『CURTIS』は1970年、Curtis MayfieldがTHE IMPRESSIONS脱退後(脱退後も楽曲提供、グループのサポートは続けていた)、ニュー・ソウルの始まりと共に放った、1stアルバムだ。“わたしたち全員がこの政治劇の出演者だ!”の歌詞から始まる『(Don’t Worry) If There’s a Hell Below, We’re All Going to Go』に、当時の時代背景があるのはもちろんのこと、2024年3月現在になってもガザ地区で起きていること、自分の住んでいる国の企業がパレスチナに住む民間人虐殺の為に武器製造ロボットをイスラエルへ販売している事実、ただ日常を生きているだけで虐殺の片棒を担がされている今を重ねてしまう。
目の前の社会問題を鋭く切り取りながら、痛烈なメッセージを放つ楽曲達と共に人々を鼓舞するCurtisの歌に血が騒ぐ一方で、自分のパートナーに向けて「二人の関係をもうあきらめよう」とネガティヴな心のうちを曝け出したバラード、『Give It Up』にも感動する。この曲がアルバムの最後を飾ることになんとも言えない気持ちになるが、正直に自分を吐露するCurtisの創作に対する姿勢に心を打たれるのだ。
ジャケットの二つ折りを開くと、Curtisと子供たちのあたたかい写真が大きなサイズで見れるのが嬉しい、是非レコードで持っておきたい1枚。
レコードの溝が永遠に繰り返すLOOP構造の楽曲として独立している「CYCLE 30」
recommend by 商品部 ハウステクノ担当 猪股 恭哉さん
ハウステクノ担当バイヤー。HOUSE definitive改訂版参加。
アーティスト名:JEFF MILLS
アルバム名:CYCLE 30(1994/AXIS)
スタッフのおすすめコメント:
ジェフ・ミルズほどの明確なビジョンとコンセプトを持ち、かつ長年ダンスミュージック・シーンのトップで活動し続けるアーティストはいないのではないでしょうか。本作はレコードという音楽フォーマットであることに意味があり、通常、レコードは基本的に外周から内側へ向けて螺旋を描くように音が収録されているのですが、本作のA面は溝が8本掘られているのみ。それぞれの溝が永遠に繰り返すLOOP構造の楽曲として独立しているのがこの「CYCLE 30」の特徴です。
後にミニマルテクノの象徴となり、本作で提示されたアートフォームをより発展させた作品としてリッチー・ホウティンによるミックス「DE9:CLOSER TO THE EDIT」が有名です(こちらは2枚組で120本のループを収録)。オリジナル・リリースは1994年で、発売以降リプレスが2000年初頭ごろまで定期的に行われていた記憶がありましたが後に廃盤。しかし2022年にAXISの30周年記念企画として限定で600枚プレスされ、そのうち300枚のみ流通されました。残りの300枚は倉庫で保管されAXIS 60周年となる2052年に発売予定となっていて、こういったところにもジェフ・ミルズの美学が強く現れていると思います。
また、2022年再発盤含め、レコードをプレスするためのスタンパーはデトロイトの伝説的なエンジニアであるNSCのロン・マーフィーが行っており、抑えておきたいポイントです。NSCは、テクノやハウスなど、一時期のデトロイト産ダンスミュージックにはなくてはならないマスタリング・スタジオ。ジェフ・ミルズはもちろんのこと、URや初期のPLUS 8やベルリンのベーシック・チャンネルまで手掛けており、レコードの内側に掘られたNSCの刻印は多くのテクノキッズ信頼の証として記憶されています。既にロン・マーフィーは亡くなっていますが、本作でのループ溝や内側から外側へ向かって音源を収録したいわゆる逆溝など、意欲的な実験技工を施したエンジニアとしても知られており、ロンとジェフによるコラボ作品といえるかも知れません。
古いレコードディグする際にこういった溝の刻印をチェックして音
戸川純が参加するニューアルバム「THE TRIP – ENTER THE BLACK
HOLE」のアナログ盤が、なんと逆溝カッティングとのこと。まさにリスナーを強い引力で中心に惹きつけるブラックホールのような仕様に・・・。
関西アンダーグラウンドでは説明不要の伝説 サイケアウツ「逆襲のサイケアウツ: ベスト・カッツ 1995-2000 (LP)」
recommend by 商品部 ハウステクノ担当 子安 菜穂子さん
ハウステクノweb担当。90年代よりANiIIIIiiiKii名義でDJとしても各地で活動中。
アーティスト名:CYCHEOUTS
アルバム名:逆襲のサイケアウツ: ベスト・カッツ 1995-2000 (LP)(2023 /em RECORDS)
スタッフのおすすめコメント:
日本のハードコア・ジャングルの開拓者、ダンスフロアの哲学者、サンプリング・ダンスミュージックの扇動者――激動の90年代関西アンダーグラウンドに出現した化け物、サイケアウツの正統性を証明する永劫保存コンピレーション!! ――インフォメーションの記述の通り、関西アンダーグラウンドでは説明不要の伝説・サイケアウツによる嘗ての音源が2020年代に入り突如明確にヴァイナルという形でもフィジカル提示されたという点で文句なしの圧巻コンピレーション。
現在活動しているのはサウンドの中核大橋氏を中心とする“サイケアウツG”ですが、このコンピレーションで照準があてられているのはMCやVJ、セキュリティ(?)まで存在していたグループ「サイケアウツ」として活動していた90年代中頃〜00年代初頭頃の音源。結構な大人数ということもあり都内ではフルメンバーのライブを見ることは当時なかなか難しく、さらに多くは記述しませんがその「最高」のひと言に尽きるサンプリングセンスのあまりのあまりっぷりにメジャーでの音源展開はほぼ不可能(最終的にはイベントやコミケ等でCDR音源をゲットしてたっ…ちゃ)であった為、関東圏内に住んでいた筆者は当時その圧倒的な格好良さとヤバさをなかなか周囲に伝える事ができず、とても歯痒い気持ちをもったことを今でも強烈に思い出します。
12曲がファン待望の初VINYL化で彼らの代表曲/レア曲/ライブ音源を網羅した確かに存在する記念すべき2枚組。昨今の90’s RAVEリヴァイバルの波もありますが、それとは全くの別次元で打ち鳴らされる化け物の様な格好良さのアーメンビーツ。是非手にして欲しい1枚です。
日本最古のインディーズレーベル・URCが初めて会員向けに配布したLP「高田渡/ 五つの赤い風船」
recommend by ディスクユニオン昭和歌謡館 篠木 賢治さん
昭和歌謡館店長
アーティスト名:高田渡・五つの赤い風船
アルバム名:高田渡/五つの赤い風船(1969/URC)
スタッフのおすすめコメント:
桑田佳祐は80年代、カーステレオでカセットテープを聴く事を想定してサザンオールスターズの音作りをしていたと聞いた事があります。
という事は、ウォークマンが普及して音楽を持ち運ぶという視聴スタイルが出現する以前(70年代まで)は、
・屋内でレコードをかけてスピーカーから出る音を聴く。
・1度聴き始めると曲順の順番に流れ途中で途切れない。
・A面とB面の間には空き時間が発生する。
という聴き方のみを想定して作品を作っていたのか!って当たり前だけど気付かされました。
レコードで聴く事しか想定しなかった時代ならではの1枚が、この『高田渡/五つの赤い風船』。岡林信康・はっぴいえんどを輩出した日本最古のインディーズレーベル・URCが、1969年に会員向けに1回目に配布したLPという点でも日本の音楽史上重要な作品の1枚です。
内容は、A面に高田渡、B面に五つの赤い風船が収録されているスプリット盤。それぞれの1作目にして、高田渡「自衛隊に入ろう」五つの赤い風船「遠い世界に」など代表曲が多数収録されている名盤なのですが、単独作品じゃない為1アーティスト1枚選出する的な名盤ガイドにはあまり掲載されていません。でも紹介文を読むと「本当はこの作品がベストなのですが。。」と書かれてる事も多いです。
で、この作品、高田渡側はスタジオライブなのに対し、五つの赤い風船側はTHE BEATLES『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』風のコンセプトアルバム調の作りで、A面とB面に統一感が全くありません。また、ジャケットも表面が高田渡で裏面が五つの赤い風船なので、CDやネットで高田渡側が表ジャケみたいに扱われがちなのも当時想定外だったはずです。
レコード時代のお気に入りの作品は、アーティストが聴いてほしいと思っていた音を楽しもうという気持ちで是非レコードで聴いてみてください。ジャケット・インサートなどもじっくり見る事をオススメします。きっとCDや配信では気付かなかった発見があると思います。
インストゥルメンタル・ヒップホップのアルバムとして後世に影響を与えた「DONUTS」
recommend by 商品部 ヒップホップ担当 池松 俊祐さん
ヒップホップWEB担当
アーティスト名:J DILLA
アルバム名:DONUTS(2006/STONES THROW)
スタッフのおすすめコメント:
当時“31歳”のJ Dillaが“31曲”を収録したアルバムを、彼の“32歳”の誕生日にリリースした…とだけ聞けば多少のチープさを感じてしまいそうなエピソードですが、このアルバムが病床で制作された物であり、更にはリリース日の3日前に彼がこの世を去った(つまり誕生日を迎えることなく)とまで聞くと、その印象は大きく違ってくるのではないでしょうか?そういった遺作としてのストーリーも然る事乍ら、インストゥルメンタル・ヒップホップのアルバムとして、後の世に決定的な影響を与えた名盤としても語られる作品です。
殆どの曲は1分~1.5分前後と極端に短く、それらが曲間も無く矢継ぎ早に流れていくといったスタイルは多くのフォロワーを産み、やがて”ビート”と呼ばれるジャンルを形成するに至りました。CDでのJ dillaの笑顔の写真が印象的な本作ですが、レコードのオリジナル・ジャケットはCDとは別の”ドーナツ・ショップ”のアートワークが起用されており、後にリリースされたカセットテープ版はこちらが採用されるなど、その作品との高い親和性により多くのファンに愛されています。正に「レコードでも持っていたい」と言える、強い魅力を放つ逸品です。
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「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い
世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。
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