深川麻衣 × 井浦 新 – それぞれの信じる道をゆく
映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』に出演する深川麻衣と井浦新に、作品への思いや俳優へのキャリアチェンジなどについて話を聞いた。
元アイドルが演じるということの怖さもあった(深川)
― 本作では、深川さん演じる元アイドルの安希子と、井浦さん演じる会社員のササポンとの同居生活が描かれています。お二人は、2021年にも映画『おもいで写眞』で共演されていますよね。
深川麻衣(以下、深川): 前回新さんとご一緒させていただいた時は、本当に数時間ぐらいで言葉を交わすお芝居もなくて……。今回はたっぷり共演させていただけて、とっても嬉しかったです。そして、新さんがササポンをどう演じるんだろうってワクワクしていました。私は本物のササポンさんとはお会いしたことがなかったんですけど、実際に現場に入ってきた新さんがイメージしていたササポンそのものだったので衝撃を受けました。
井浦 新(以下、井浦):ありがとうございます。自分は「これでいいのかな?」とずっと悩んでいましたが(笑)。
― 井浦さんはいかがでしたか?
井浦:『おもいで写眞』が初めましてでしたが、麻衣さんはその前から俳優としてキャリアを積んで、いろいろな現場で座長も務めていますし、先輩方の元でたくさん学んで経験してきたと思うんです。作品を通して麻衣さんのお芝居を見ていく中で、今回はどんな表現で、どんな新しいことにチャレンジするのか、とても楽しみでした。撮影は麻衣さんとほぼ2人芝居のような形だったので、ワンシーンワンシーンを2人で協力して乗り越えていこうと思っていました。
――おふたりともまた共演できることを楽しみにされていたんですね。
井浦:あと、自分がササポンを演じるのと、麻衣さんが安希子を演じるのとでは、背景が違いすぎるとも感じていました。自分の人生と重ね合わせられる役柄は演じやすそうですが、実際はきっとやりづらいものだったりすると思うんです。 だから今回は、麻衣さんが安希子をどんな風に演じるのか、役に向かい合おうとしている姿を、最前線で見守り続けたいという思いも持っていました。どんな安希子に育っていくのかと。
― ササポンの安希子に対する眼差しとも重なる部分がありますね。深川さんは、“元アイドル”という同じ境遇だからこそ気持ちがわかる部分や、逆に演じにくかった部分はありましたか?
深川:もしもアイドルの活動をしていた時の描写が入っていたら、またちょっと違ったのかもしれません。でも、劇中で描かれている安希子の元アイドルの要素は、ご飯を食べに行っているシーンなどプライベートな部分だったので、アイドルをしていた時の自分の実体験を投影するということはありませんでした。私が元アイドルだということも安希子役をオファーしてくださった理由の一つなのかなと思ったんですけど、元アイドルだった人が演じることでキャッチーに見えすぎないかという怖さも少しありましたね。 ポップなだけではない、もっと生々しさのあるお話なので。
― 確かに、キャッチーな作品名ですが、観たあとに自分の人生を見つめ直せるような作品でした。
深川:なので、そのキャッチーさをどう打破していけるのかとか、撮影した後もどういう言い方をしたら皆さんが興味を持ってくれるかなとか。どうすれば1人でも多くの方にこの作品を観てもらえるのかということを考えていました。
井浦:元アイドルが元アイドル設定の役を演じるとなると、「こういう感じでしょ」というふうにイメージされやすいから、怖さはあるよね。でもきっと、その部分をお芝居でどう裏切っていくのか、この作品の中でイメージを超えていくものをどう生んでいくのか、というところは麻衣さんが考えて背負ってしまう部分だろうと感じていました。
深川:そうですね。考えなくてもいいことなのかもしれないですが、やっぱり考えちゃうんです。同じ境遇だからこそ、その部分は悩んでしまいました。
当たり前だった生活の形が進化している気がする(井浦)
― 安希子とササポンの距離がだんだんと縮まっていく感じが観ていて心地よかったです。同時に、2人のような家族でも友達でもパートナーでもない“ゆるい繋がり”が今の世の中には必要だったりするのかなと感じました。
井浦:僕は本当にいいことだと思います。いろいろなことがボーダーレスになってきていますし、人の幸せの価値観もきっとそれぞれですから。
深川:家族って近い存在だけれど、家族だと話しにくいこともありますもんね。
井浦:先日ササポンさんご本人から、シェアハウスを始めた頃のお話を聞いたんですが、当時(※原作で描かれている頃)はシェアハウス自体がそこまで世の中に浸透してなかったようなんです。
― そうだったんですね。
井浦:でも意外なことに、トラブルはほとんどなかったみたいで。今となってはシェアハウスで生活をすることは暮らし方のひとつになってきていますし、リアリティーショーやドキュメンタリーなどのテレビ番組を観て、シェアハウスでの暮らしをイメージできます。なので、これまで当たり前のようにあった、家族と暮らした後に一人暮らしをするというレールのような生活の形から、どんどん進化していっている気がします。
― 確かに。暮らし方も多様化していますよね。
井浦:他人同士であまり関わり合わないけど、同じ空間の中で過ごすことが暮らしやすい、生きやすい人たちもいますし。
深川:この作品でいうと、ササポンはある程度の距離を取ってくれて、自分からは介入してこない。だからこそ、安希子はその日にあったことや、自分が思ってることを少しずつ話せるようになっていたんだろうなと思いましたね。
― ちなみにおふたりは、撮影で長期間地方に宿泊する機会もあると思いますが、他人との共同生活にあまり抵抗はないですか?
井浦:どうでしょう?自分も若い頃に一時期していたことがあるので、比較的大丈夫だと思います。撮影の時も、状況によってはみんなで雑魚寝して数日間乗り切ろうという現場もあったりしますし。僕はそこには全くストレスを感じないので、どちらかといえば楽しめちゃう人だと思っています。
― 楽しめるのはいいですね。深川さんはどうですか?
深川:私は、アイドル時代に寮生活の経験があります。でも、それぞれ自分の部屋があるうえで、洗濯とか食堂とかが共有スペースだったので、全然ストレスなく暮らしていましたね。ご飯はみんなで食べられて、すごく楽しかったですし。あとは、寮の準備が整うまでの1ヶ月間、ビジネスホテルで暮らしたこともありましたけど、全然苦ではなかったです。一緒に暮らしていた子が波長の合う子だったというのもありますけど。窓際で2人でネギを育てたりして(笑)。
俳優の仕事はそれぞれのバックボーンが違うから面白い(井浦)
― 本作では“キャリアチェンジ”もテーマのひとつとなっています。深川さんはアイドル、井浦さんはファッションモデルとしてキャリアをスタートし、現在は役者として活動されていますが、壁や挫折を感じることはありましたか? そしてどのように乗り越えていきましたか?
深川:私は壁があるというよりも、自分で壁にしてしまっていたところがあったかもしれません。元アイドルだからお芝居ができなくても仕方が無いって見られたくないなとか、元アイドルっぽい役柄を飛び越えたものが出来るように頑張らないと、とか。その自分で勝手に作っていた壁を乗り越えられるように頑張っていかないと、ということはお芝居の仕事を始めた頃はよく考えていましたね。
― 最近の深川さんの出演作を拝見していると、その壁を大きく飛び越えている感じがします。
深川:ありがとうございます!そう感じていただけていたら嬉しいです。
― 井浦さんはいかがですか?
井浦:今では、モデルからキャリアを積んで俳優になるのは、ひとつの当たり前の道になっていますが、自分が俳優の活動を始めた頃は、モデルから俳優になるパターンはあまりなかったんです。なので、“元モデル”という表現はネガティブに言われることの方が多かったです。
― ネガティブなイメージを持たれつつも、続けてこれたのはなぜでしょう?
井浦:誰かに何を言われても、自分の信じた道を折れないで続けてきたからでしょうか。今では映画の現場でも、元モデルの俳優や監督たちが最前線にいますし、元モデルという意味合いも変化しています。50代目前になった今、当時の状況を気にしないで俳優を続けてきてよかったと感じています。
もちろん、叩き上げで俳優の道を突き進んでいる人に対してリスペクトをしつつも、いろんなキャリアの重ね方をしてきた人たちがいるから、俳優の仕事は面白いのではないかと。そもそも、同じ人間をみんなで同じように演じようなんていう現場はひとつもないですし。俳優の仕事は、みんなそれぞれのバックボーンが違うから面白いのだと思っています。
― では最後に。本作は鑑賞後に「もうちょっと頑張ってみよう」と思えるような作品だったのですが、おふたりの「明日もちょっと頑張ってみよう」と思える時間について教えてください。
井浦:すごく些細なこと、習慣みたいなことでもいいですか?
― もちろんです!
井浦:今、家にどんどんと植物が増えていて、意外と大変だと気付いたことが“水やり”なんです。今では習慣になったのでできるんですが、たくさんの水を何度も入れ替えてあげるのを毎日行うのは結構大変で。
― 毎日行うのって、簡単な作業でも大変です。
井浦:でも、 水をあげることで植物も少しずつ成長していて、帰ってきたときに小さな芽が出始めていたりするんです。その姿を見ていると、何か応えてくれている感じがあって、生きていることを感じられる。毎日行うのは大変ですが、僕が最近「頑張ってみよう」という気持ちになるのは、1日の始まりに植物に水をあげることです。
― 植物の成長って、元気をもらえますよね。深川さんはいかがでしょうか?
深川:新さんの“朝の楽しみ”つながりでいうと、朝ごはんのおかずですね。私、お米が大好きで(笑)。その時々でハマっているおかずがあるんです。“梅干し”と“ツナマヨ”はもう殿堂入りなんですけど、少し前は“ちりめん”で、最近は“ゴマ昆布”にハマっています。なので、「明日は何と一緒に朝ごはんを食べようかな」って考えながら眠るときが幸せです。
井浦:朝ごはん、大事だよね。
深川:はい、大事です。明日も頑張ろう!ってなります。
Profile _
左:深川麻衣(ふかがわ・まい)
1991年3月29日生まれ、静岡県出身。2011年から乃木坂46の1期生として活動をスタートし、2016年にグループを卒業。主な出演作は、映画『愛がなんだ』(19)、ドラマ『まんぷく』(NHK/19)、『日本ボロ宿紀行』(TX/19)、『青天を衝け』(NHK/21)、『特捜9 』(EX/22〜)、『彼女たちの犯罪』(ytv/23)など。主演映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』が2023年11月3日に公開予定。
Instagram Official Site
one piece dress ¥29,700 / crinkle crinkle crinkle (RESERVOIR 0120-10-6616), ring [index finger] ¥11,000・ring [little finger] ¥6,600・ring [middle finger] ¥23,100・ear cuff ¥19,800 / Jouete (Jouete 0120-10-6616)
右:井浦新(いうら・あらた)
1974年9月15日 東京都⽣まれ。1998年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」の活動もしている。
Instagram X
jacket ¥151,800・vest ¥64,900・pants ¥96,800 / FRANK LEDAR (MACH55 Ltd. 03-5846-9535), cut and sew ¥15,400 / ATON (ATON AOYAMA 03-6427-6335), Other stylist’s own
Information
映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』
2023年11月3日(金)より全国ロードショー
出演:深川麻衣、松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛、河井青葉、柳憂怜、井浦新
原作:大木亜希子「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社刊)
主題歌:ねぐせ。「サンデイモーニング」
©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
- Photography : Motofumi Sannomiya
- Styling for Mai Fukagawa : Miku Hara
- Hair&Make-up for Mai Fukagawa : Emi Hanamura(MARVEE)
- Styling for Arata Iura : Kentaro Ueno
- Hair&Make-up for Arata Iura : NEMOTO(HITOME)
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)