北香那 × 安達祐実 – 対峙する女優
映画『春画先生』で激しくも、美しくぶつかりあった二人が今考える、演じること、性のこと。
安達さんと対峙したことは、自分にとってすごく価値がある(北)
― 今日初めてお二人にお会いして、劇中とはだいぶ違って和やかな雰囲気でホッとしました(笑)。
安達祐実(以下、安達):バチバチでしたからね、映画では(笑)。
― お二人は初共演ですか?
安達:初共演です。
― 強烈な出会いになりましたね。お互いどういった印象を受けましたか?
北香那(以下、北):私世代にとって、安達さんはずっと第一線で活躍されている本当に素敵な女優さんなので、絶対に一度はご一緒したいと思っていました。実際の撮影では、カメラが回ってないときの安達さんと、芝居に入ったときの安達さんの差がありすぎて、対峙する役なのに目を逸らしちゃいそうになるんです。パワーがすごくて、ずっと吸い込まれそうでした。
― 本当にスクリーンの中とは全然違いますよね。
北:撮影中は失礼になると思って、私が安達さんをすごく好きでご一緒したかったことは言ってなかったんですけど。幸せなひと時をありがとうございました。
― いちファンなんですか?
北:取材の場なので言わせていただきます。本当に好きです。
安達:うれしいです(笑)。
― 安達さんから見て、北さんはいかがでした?
安達:もともと『バイプレイヤーズ』などを観ていて、素敵な人がいるなとは思っていました。一緒にやってみて、すごい目が強いし、役として負けじと歯向かってくるところにこっちも掻き立てられて楽しかったですね。お互いに相乗効果が生まれていたら良いなと。
― 終盤の2人のシーンには圧倒されましたが、やはり撮影は大変でしたか?
安達:大変でしたね。丸1日リハーサルをやって、、次の日から撮影だったんですけど、長時間だったので集中力も体力もきつかったです。あと、私が北さんにキスして、北さんもやり返してくる場面があったんですけど、だいたい男女でキスシーンをやると私はされる側じゃないですか。
― その場合が多いでしょうね、きっと。
安達:女の人に自らキスをしにいくというのが初めての経験だったから、大丈夫かな、失礼がないかなって、男性の俳優さんたちの気持ちがわかって、ちょっとおもしろかったです。
― たしかにやる側も、緊張というか配慮というか、難しいですよね。
安達:そう。今回、インティマシーコーディネーターというポジションの方がいろいろ問題のないように見ていてくださったんですけど、むしろ仕掛ける側のほうが緊張するんだなって思いました。
― やり返した側としてはいかがでしたか?
北:私こそ失礼がないようにしなきゃと緊張しました。でも安達さんと対峙して、初めてそういうシーンをやらせていただいたということが、自分の中ではものすごく価値のあるものでしたね。あと、安達さんのムチ使いがすごくて。
― ムチ使い(笑)。
北:それに監督がすごくうれしそうだったんです。
安達:喜んでいただけてなによりです(笑)。
― そんなお二人をつなぐキーマンが、内野聖陽さん演じる芳賀一郎ですが、彼ってめちゃくちゃモテるじゃないですか。女性たちが彼に惹かれる理由は理解できましたか?
安達:色気ダダ漏れみたいな人なんですよね、きっと。撮影しているうちに、本当に内野さんが芳賀さんに見えてきて。(安達さん演じる)一葉としては自分はこの人にフィットする人間ではないというのはわかりつつ、やっぱり振り向いてほしいと思う瞬間もある。そういう気持ちがなんとなく私の中にもちらついたりして、すごく楽しくて切なくて、良い時間でしたね。
― 北さんが演じられた弓子としてはいかがでしたか?
北:芳賀さんからしてみればすべてが仕組んでいることなんですよね。アッと思ったシーンがあって、あるイベントから先生の自宅に戻って、弓子がちょっとふわふわしてる状態で電気を消されて「おいで」と呼ばれるんです。「初夜かな?」みたいな。でも実際は、ただ蛍を見せてくれただけで。そういうもどかしさみたいなものを先生が演出して、そこにまんまと弓子ははまってしまったんじゃないかなと思います。
― それは芳賀さんの自覚的なところなのでしょうか? それともちょっと天然で?
北:芳賀さんは自覚的なはず(笑)。
やさしい人間になろうと、ずっと思ってる(安達)
― 北さんにとって安達さんは俳優の大先輩ですよね。安達さんは小さいころから活躍されていますが、20代のうちにやっておいたほうが良いことなど、なにかアドバイスはありませんか?
安達:私は24歳で結婚して出産したんですけど、キャリアでいうと難しいところに差し掛かっていて、まったくうまくいっていなくて苦しい20代を過ごしたんですよね。だから、これはやっておいて良かったって思うことはあんまりないんです。ただ、自分が今年42歳になって思うのは、そういうときを経たからこそ今の自分がある。だから、苦しいことがあっても無理に抜けだそうとしなくて良いんじゃないかなと。すごくもがいたとしても、それを積み重ねた先の自分というのは、きっと愛せるものだから。
― 北さんは、この機会に安達さんに聞いてみたいことはありませんか?
北:えー。
安達:やばい、超適当な人間だから答えられないかも。
北:……美の秘訣。
― 僕も普通に聞きたいですね。
北:どうしてそんなに。お肌がきれいですね。
安達:全然ですよ。お肌、すごく弱くて。内外のストレス、どっちにも弱いんだけど。あえていえば、いろんなことを「まあいいか」とか思うし、あんまり怒りの感情も持てないので、ずっと一定のテンションで過ごしてることかな。いろんなことを細かく気にしないことが良いんじゃないでしょうか。
― 美容にすごく気を遣っているわけじゃない?
安達:私、自分で化粧品を作っているんです。だけどそれも、ズボラな人でもある程度のケアができるように作ったものなので。美容にはあまり詳しくないです(笑)。
北:この世界で長くやっていくために、大事にしたものってなにかありますか?
安達:どうしたって生きていたら嘘をつくこともあるし、気づかないうちに人を傷つけてしまうこともある。それでもなるべくやさしい人間になろうというのは、10代のころからずっと思っています。
北:やさしい人間に。
安達:人に親切であることとか、一緒に仕事をした人たちから楽しかったなと思ってもらえるような人間になることとか。お芝居がうまくなることよりも、どういう人間であるかのほうが大事かなとは思っています。まだまだ本当にダメな人間なんですけど。
北:すごい。
― 北さんはなにか大事にしていることはありますか?
北:さっき安達さんが美容の秘訣としておっしゃっていたことでハッとしたんですけど、私は結構いろいろ考え込む性格なんですね。寝て起きても引きずっているような。でも最近、「まあいいか」「なるようにしかならない」って思うことって本当に大事なんだって気づいて。それ以上のことは考えずに済むし、不思議と良い方向に行くんですよ。だからなるべく、考えても無駄なことは考えないようにしています。
― そういうマインドじゃないと長く続けることは難しいですよね。
北:そう思います。
ストリップで性の概念がガラッと変わった(北)
― 本作は春画が題材ということもあり際どいシーンも多いですが、春画は一人で楽しむエッチな絵というだけではなく、ユーモアのある表現としても楽しめる自由な存在だということが意外でした。とはいえ今の時代、性に対してあけすけに語ることは憚られますよね。ユーモアとセクハラの境界って、どこにあると思いますか?
安達:ものすごく難しいですよね。だって相手が嫌だなと感じたら、同じことを言ってもアウトなわけだし。ただ、もうちょっとおもしろがる感覚があっても良いと思うんです。春画にしても、ただ卑猥なだけではない視点から見ることができたら、もっと奥深く感じられたり、美しいものだとわかったりするから。私も思春期の娘がいるので、性のことに関してもすべてがいけないことでもないというのは、お互い認識として持っていても良いかなと思いますね。
― タブー視すればするほど、良からぬ興味をそそることもままありますもんね。北さんは性的なことのタブーに関して思うところはありますか?
北:安達さんがおっしゃっていたように、受け取る側のことだと思うんですよね。私、ストリップを観るのが好きなんです。
安達:え、そうなの?
北:そうなんです。
― それは生で観に行くってことですか?
北:観に行きます。ストリップ好きの女友達に誘われて行って、感動してしまって。というのは、今まで私は女性がそういうふうに見られている、観客がいるということは、女性が消費されているというイメージがあったんですよ。でも実際に観ると、あまりにも美しくて、あまりにも全身で表現していて。私にはまったくエロさなんて見えなくて、切なさだったり、強さだったり、そういうものが見えたんですよね。逆に消費されているのは、観客側なんじゃないかって。その瞬間、性の概念がガラッと変わって、春画はもちろんそうですけど、性的とされるものを性的な目で捉えることがなくなったんです。
― めちゃくちゃ興味深い話です。
北:ありがとうございます。
安達:ストリップ好きという人、初めて。
北:写真撮ってもらったりとかして。ちょっと推し活みたいな(笑)。
安達:良いなあ。おもしろそう。
北:おもしろいですよ。すごく。
― お話を聞いてると、春画にも通ずるところもありますよね。
北:そうですよね。本当に人生が見えてくるんですよ。
― 最後に、これから大人になる子供たちが性愛と向き合っていくうえでのアドバイスをいただけますか?
安達:今の人ってあんまり欲望がないと、よく言いますよね。愛情って、言葉とか態度とかいろんなことから受け取れるけど、でも肌を通じて染み入ってくるものって、またちょっと特別で、素敵で、すばらしい瞬間だなとも思います。本当に苦手だったら無理にすることはないんだけど、あまりネガティブに捉えることもないんじゃないかな。隠さなきゃいけないもの、恥ずかしいものだというイメージはいらないかなと思っているので、娘に対してもわりとオープンに話してはいますね。
― 北さんはいかがでしょう?
北:私は10個下の妹がいて、高校1年生なんですけど、ちゃんと考えてねとは伝えています。今はネットだけの知り合いと会って被害に遭ったり、大事にすべきものが失われてその先に続かなかったり、そういうことも現実にあると思うので。これから先、本当に素敵なことが待っている10代の若い人たちには、そういうことをきちんと考えたうえで出会うべき人と出会って、大人になっていってほしいというのはすごく思います。
Profile _
左:北香那(きた・かな)
1997年8月23日生まれ、東京都出身。17年、TVドラマ「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」(TX)でジャスミン役に抜擢され、注目を集める。18年、アニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』で声優初挑戦ながら主演を務める。主な出演作に、ドラマ「アバランチ」 (21/CX)、「恋せぬふたり」(22/NHK)、「拾われた男」(22/Disney+・NHK)、大河ドラマ「鎌倉殿の 13 人」(22/NHK)、「ガンニバル」(22/Disney+)、「インフォーマ」(23/KTV)、大河ドラマ「どうする家康」(23/NHK)、主演ドラマ「東京の雪男」 (23/NHK)、口説き文句は決めている」(23/ひかり TV・Lemino)、映画『中学生 円山』(13)『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(21)、『なんのちゃんの第二次世界大戦』(21)などがある。内野聖陽とは『罪の余白』(15)以来の二度目の共演となる。
Instagram
one piece dress / Leja , earrings / anapnoe
右:安達祐実(あだち・ゆみ)
1981年生まれ、東京都出身。2歳でモデルとしてデビューし、子役としてドラマ『家なき子』(94)などで国民的な人気を博す。その後も俳優として着実にキャリアを積む。主な出演作として、『野のなななのか』(14)、『花宵道中』(14)、『TOKYOデシベル』(17)、『樹海村』(21)、『極主夫道 ザ・シネマ』(22)、『零落』(23)、『アイスクリームフィーバー』(23)など数多くの作品に出演。近年はアパレル、コスメブランドのプロデュースを手がけるなど多分野で才能を発揮している。
Instagram X
dress ¥86,900 / TOGA PULLA、earrings ¥17,600 / TOGA ARCHIVES (TOGA HARAJUKU STORE 03-6419-8136), sneaker boots ¥28,050 / VEGE (VEGE 03-5829-6249), socks ¥3,300 / leur logette (BRAND NEWS 03-3797-3673)
Information
映画『春画先生』
2023年10月13日(金)より全国ロードショー
出演:内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実
原作・監督・脚本:塩田明彦
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会
- Photography : Yutaro Yamane
- Styling for Kana Kita : Rika Hashizume
- Hair&Make-up for Kana Kita : Keiko Minamino
- Styling for Yumi Adachi : Shota Funabashi
- Hair&Make-up for Yumi Adachi : NAYA
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)