ディスクユニオン的 坂本龍一再入門 | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 28
連載第28回目となるテーマは、「ディスクユニオン的 坂本龍一再入門」
各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し”が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。
最小限の響きで奏でる美しさ、坂本龍一による究極のセルフカヴァー「1996 30th Anniversary Edition」
recommend by ディスクユニオン商品部 西 純一郎さん
普段はヘヴィメタルの商品の仕入れを担当しており、音楽ジャンルを問わず幅広く聴いています。
アーティスト名:坂本龍一
アルバム名:1996 30th Anniversary Edition(2026年 / FOR LIFE MUSIC ENTERTAINMENT)

スタッフのおすすめコメント:
坂本龍一という音楽家の名前を聞いて、多くの人が思い浮かべるメロディがあります。映画『戦場のメリークリスマス』の切ない調べや、『ラストエンペラー』の壮大な調べ。アルバム『1996』は、そんな世界中から愛される名曲たちを、ピアノ・チェロ・ヴァイオリンという最小限の楽器だけで演奏し直した「究極のセルフカヴァー集」。
本作の最大のポイントは、余計な音をすべて削ぎ落とした「シンプルさ」。豪華な飾りを脱ぎ捨てたメロディは、驚くほどピュアで、心にまっすぐ届きます。一音一音が消えていく瞬間の静けさまで美しく、まるで自分のためだけに演奏してくれているような、贅沢なプライベート・コンサートを聴いている気分に浸れます。仕事の合間に心を整えたいときや、夜の静かな時間にもおすすめです。
発表から時間が経っても、決して古びることのない美しさ。音楽の教科書のようでありながら、いつまでも隣に置いておきたい。本作は、坂本龍一という天才が残した、最高に優しくて贅沢な音楽の贈り物と言えるのではないでしょうか。
シティポップ誕生前夜に若き坂本龍一が描いた音の風景「Sunshower」
recommend by ディスクユニオンJazzTOKYO カイピリーニャさん
JazzTOKYOアルバイト勤務のシティポップ好きな困ったオヤジ。渋谷毅のピアノと一十三十一の歌声の中毒患者。
アーティスト名:大貫妙子
アルバム名:Sunshower(1977年 / Panam)

スタッフのおすすめコメント:
大貫妙子1977年のアルバム"Sunshower"は海の向こうで再発見されて"City Pop"と呼ばれることになる音楽の金字塔的作品。アレンジとサウンドプロデュースを全面的に任された若かりし日の坂本龍一の奮闘ぶりがうかがえます。その名も"都会"と題されたシティポップのアイコンとなる曲をはじめ、洗練を極めてなんとなくクリスタルになる前の限りなく透明に近いブルーな楽曲が並びますが、終盤ではキョージュらしいアヴァンポップなサウンドで時代を先取りし、作曲も担当した締めの1曲では後の映画音楽に通ずるオーケストラアレンジも披露。松木恒秀、細野晴臣、清水靖晃など振り返ると超豪華過ぎる伴奏陣に伝説のバンド、スタッフのセカンドドラマー、クリス・パーカーの名がありますが、これはちょうど来日していたスタッフのステージ楽屋に無理やり押しかけて依頼したのだとか。じつは第一希望はメインドラマーのスティーヴ・ガッドだったけれど、既に神的存在で恐れ多くて声を掛けられなかったのだと当時のキョージュの弱腰ぶりを伝える逸話も残っています。YMO以前、新進気鋭のセッションミュージシャンだった坂本龍一を知れる貴重な記録です。
声色は人間そのもの、不完全さが輝くポップス「左うでの夢」
recommend by ディスクユニオン物流 稲垣 吉人さん
気になったものは何でも試しに聴いてみる者。メタルからパンク、フリージャズやアヴァン系、ニューウェーブ等。一番好きなミュージシャンは浅川マキ。
アーティスト名:坂本龍一
アルバム名:左うでの夢(1981年 / Alfa)

スタッフのおすすめコメント:
「スナオ サカモト」(糸井重里氏のキャッチコピーより)
YMOが商業的頂点を極めていた1981年夏にリリースされた、坂本龍一本人名義では3作目のソロアルバム。前作の『B-2 Unit』がYMOの商業的成功に対する反抗心から生まれた冷たく実験的なポストパンク/ダブ/エレクトロだったのに対し、今作は明確に方針を転換した作品です。計算された音響実験を維持しつつ、日本的囃子(はやし)の乾いたリズムや沖縄音階、雅楽的響きを電子音に融合させた、極めて独自性の高いポップス/第四世界音楽(ジョン・ハッセルが提唱した民族音楽と現代の電子音響を融合させた独自の音楽概念)が展開されています。
参加ミュージシャンも豪華かつ多彩です。YMOの細野晴臣(ベース・パーカッション)と高橋幸宏(ドラムス)をはじめ、Frank Zappa、King Crimson、Talking Headsで活躍したAdrian Belew(ギター)、純邦楽囃子仙波流家元の仙波清彦(小鼓・太鼓・マリンバなど伝統打楽器)、Robin Scott(M名義、共同プロデュース)、矢野顕子、かしぶち哲郎(ムーンライダーズ)、EP-4の佐藤薫などが参加。仙波清彦の乾いた囃子パーカッションとAdrian Belewの代名詞であるアニマル的なギターが、電子音に日本的な情緒と野性味を含んだ土着的な躍動感を与えています。邦楽要素の他特に顕著となるのは、坂本自身が大胆に打ち出したボーカル表現です。10曲中6曲で自ら歌い、その理由を以下のように語っています。
「歌っていうのは、うまさじゃなく、声色って言うの、まあその人間そのものって言うかさ、出るじゃない。(略)だから別にヘタでも何でも、いちばんなんか自己表現としては、音楽の中では最高のものでしょ」(『音楽専科』1981年10月号インタビューより)
技術的な上手さを追求せず、「声色=人間そのもの」を肯定する姿勢は、アルバム全体に不器用だけど素直かつリアルタイム的な発想/感覚から滲み出る魅力を生み出しています。ファンクのリズムを排除し、3拍子を始めとするゆったりとした囃子風リズム、沖縄三線風シンセ、笙・篳篥の雅楽的響きが絡むミニマルで反復的な構造が、まるで「電子化した日本の祭り音楽」のような独自の世界観を築いています。
下手さや不器用ささえも肯定し、巧みに表現へ昇華させたハイブリッドなポップスとして、YMOファンから実験音楽好き、さらには初心者まで幅広く心を掴む、坂本龍一のソロ作品の中でも味わい深く、受け止めやすい感覚を持った傑作です。
風景と意識が溶け合う、口琴が誘う静かなトランス「BTTB」
recommend by ディスクユニオンお茶の水駅前店 櫻流 瑠美さん
テクノを中心とした音楽が好きです。
アーティスト名:坂本龍一
アルバム名:BTTB(1999年 / Sony Music / Epic Records)

スタッフのおすすめコメント:
私が改めて取り上げたいのは、BTTBアルバムの中の曲『do bacteria sleep?』です。
この曲では、ピアノではなくモンゴルの口琴を主に取り入れています。
無邪気に跳ねるような音と滴るような音がまるで薄暗い鍾乳洞の中に佇んで聴いているかのように頭の中で反響して一種の瞑想状態のような感覚に陥ります。この吸い込まれるようなトランス的な質感が私は好きで初めてアルバムを聴いた時はこの曲で静かに空気が変わるところや柔らかい音の響きが印象に残りました。この曲を朝歩いているときに聴くと、周りの見ている風景と自分が同化していくような意識が少し薄れていくような気分になり心が落ち着きます。
また、他の『opus』や『bachata』のような曲と交互に聴くのが、日常に引き戻されるような感覚になり楽しいです。
「音楽は壊すことからはじまる」坂本龍一の思想の原点「Disappointment-Hateruma」
recommend by ディスクユニオン 商品部 原島 裕之さん
手塚治虫と東海林さだおの漫画から大きな影響を受けて育ちました。
いちばん好きなプロレス団体は全日本プロレスです。
アーティスト名:坂本龍一+土取利行
アルバム名:Disappointment-Hateruma(1976/2026 WEWANTSOUNDS)

スタッフのおすすめコメント:
東京藝大在学中にセッションプレーヤー、アレンジャーとして活動を開始した坂本が山下達郎、大貫妙子のアルバムでの良質の仕事で注目されることになる時期前夜に残された唯一の音盤である本作は、当時わずか500枚だけプレスされた自主制作盤。商業アルバムのデビュー作となる『千のナイフ』以前の坂本を知るための必須音源として長年入手困難だった幻の1976年の作品が2026年Heba Kadryによるリマスタリングで初のアナログ盤として再発された。
サティ、ドビュッシー、ラベルという自身のフランス近代音楽のルーツをここでは封印し、あらゆるモダニズムの前衛的な現代音楽とフリージャズモードのプレイをおこなう。
同時代の音楽としてロックが持つ可能性と限界を理解していた明晰な坂本が、当時は自身の本籍をフリージャズに置いていたことが分かる。
阿部薫とのセッション、あるいは竹田賢一との「学習団」、間章との「環螺旋体」といった、フリー/環境音楽を試行した若き学生時代の坂本の音楽を知る音源として、あまりにも貴重だ。
土取利行の宙を舞うようなパーカッション(ドラムス、ゴング、ベル、ウッドブロック、バンブー・クラター他)と坂本龍一の現代音楽とフリージャズを交差させるかごとくの鍵盤が「音楽は壊すことからはじまる」という坂本の持つ根源的な思想の萌芽を充分に聴くことができる。
遺作となった『12』(2024)に至るまで、本作で見せた「音楽は自由にする」という思想は一貫して坂本の音楽の中核であった。
音を聴くという原点へ還る、坂本龍一晩年の思想の結晶「async」
recommend by ディスクユニオン商品部 原島 裕之さん
手塚治虫と東海林さだおの漫画から大きな影響を受けて育ちました。
いちばん好きなプロレス団体は全日本プロレスです。
アーティスト名:坂本龍一
アルバム名:async(2017 / commmons)

スタッフのおすすめコメント:
学生時代より物質・物体そのものを、できる限り作為を加えずに提示する「もの派」の影響を受けてきた坂本は、晩年にあたる2017年に自身の音楽と思想のすべてを注ぎこんだ本作を発表する。坂本の公式サイトに発表された「Ryuichi Sakamoto: SN/M比 50%」という公式は、すなわち『async』における「サウンドとノイズ50%+音楽50%=100%」の比率を表している。ノイズを排したサウンドをきれいに構造化した音楽ではなく、音楽における「もの派」とも言えるノイズとサウンドに区別がない世界の響き自体をとして捉えた音楽であり何にもおもねらず自分自身のために作られている。
「async=非同期」を主題に、音と時間の微妙なズレを丁寧に編み上げ、そこに収録された雨音、枯葉を踏みしめながら歩く音、三味線の擦れる「音」そのものが、それぞれの音楽と等価な形で楽曲化されている。『async』の楽曲はもちろん決して難解ではない。かつて武満徹が言ったように音楽を聴くときに必要なことは「まず聴くという素朴な行為に徹する」なのであって、本作ほどリスナーの意識を音そのものへと引きずり込む作品は稀有である。
もしまだアルバムに触れたことがない方がいれば、デビッド・シルヴィアンによるアルセニー・タルコフスキー(坂本が終生愛してやまなかったアンドレイ・タルコフスキーの父)の詩が朗読される⑪、晩年の坂本だからできたドローン音楽の変奏と言える⑤、映画『シェルタリングスカイ』のラストで原作者ポール・ボールズが朗読する声(自分はあと何回満月を見ることができるだろう)を収めた⑧の3曲をおすすめします。
もともとは5.1chで聴くことを想定して制作されている(ただし、わたしの安価なイヤホンで聴いても十分にすばらしさは伝わる)というように、音の空間性を強調した音像であることは本作にとって重要なポイントである。
2024年に開催された展覧会『坂本龍一 音を視る時を聴く』において展示された作品の中でも『async』から着想を得て制作された3点のインスタレーションが展示された。高谷史郎が全曲に映像につけられた『async-immersion tokyo』、ZaKKubaranによる『async-volume』、アピチャッポン・ウィーラセタクンによる2つの映像作品。まさに坂本が意図したインスタレーションを体感する絶好の機会となった。会期中はわたしも足しげく通った一人だが、老若男女、多くの海外渡航者たちが来る日も来る日も、会場前の坂本龍一展の大型ポスターの前で写真を撮り「入場まで120分待ち」という看板の前で長蛇の行列を作っていた光景はうれしくて忘れられない。東京都現代美術館の歴代最多入場数を記録したという34万人を超える観客に『async』は、考えうる限り最高の状態で響き届いていたのだ。
時間の中に生きる人間を描いた坂本龍一最後のシアターピース「TIME」
recommend by ディスクユニオン 商品部 原島 裕之さん
手塚治虫と東海林さだおの漫画から大きな影響を受けて育ちました。
いちばん好きなプロレス団体は全日本プロレスです。
アーティスト名:坂本龍一+高谷史郎
アルバム名:TIME(2026 / commmons)

スタッフのおすすめコメント:
晩年の傑作『async』(2017)で探求した非同期性。「サウンド/ノイズ/ミュージック」のバランスを発展させ作りあげた最後のシアターピース待望の初ブルーレイ化。
坂本龍一が全曲を書きおろし、高谷史郎(ダムタイプ)とともにコンセプトを構想・創作したシアターピースの初ソフト化。2017年より約4年の制作期間を経て、2021年、坂本がアソシエイト・アーティストを務めた世界最大級の舞台芸術祭「ホランド・フェスティバル」(オランダ・アムステルダム)にて世界初演。国内外で高い評価を獲得。坂本龍一の逝去から一年となる2024年3月28日、東京・新国立劇場にて初演された。
『LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999』(1999)制作当時、浅田彰の引き合わせによって活動をともにすることになるダムタイム高谷史郎の映像は、たんに坂本の世界観の裏付けとして作成したというより、むしろアート映像として極度の官能性と強度をもち、坂本の音像にスリリングに拮抗する。
『LIFE』では、20世紀を戦争と殺戮の世紀と総括し地球希望の破壊と悪化する一方の環境を憂い、未来への救済と共生を問いかけた二人が、本作『TIME』では、時間の中に生きる人間の諦念を静謐に描きだす。その例外的な美しさは、音・映像・舞踏をともなったメディアアートでなければ体験できない醍醐味。劇中3篇のテキストが舞踏家・田中泯によって朗読される声(色)と速度は、宮田まゆみによる笙の音とともに音響彫刻として観客の聴覚をゆるやかな速度で刺激する。
とりわけ夏目漱石『夢十夜(第一夜)』テキストのラストで女が死に100年の時を経て、ある形でよみがえるときのオーケストレーションは、坂本が死の直前まで書こうとしながらも、命が尽き書けなかった未完のオーケストラ曲を思わせる、坂本でしか書けない人間の諦観と官能を表現する。時間をモチーフとした音像は、高谷の映像、田中の舞踏と交わり、これ以上はない人間の表現として昇華した。
「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い

世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。
diskunionHP:https://diskunion.net/
公式youtube:https://www.youtube.com/@diskunion_official
instagram:https://www.instagram.com/diskunion/
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「アンビエントの現在地〜サウンドスケープ2026」をテーマにおすすめアーティストをご紹介
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)