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おじいちゃんをミューズにしたデザイナー、RURI.W渡邉瑠璃

Feb 26, 2020 - FASHION
「人間は二度死ぬっていうじゃないですか。一度目は肉体的に。二度目は人の記憶から消えるときに。わたし、それがすごく悲しいと思って」2018年、日本の伝統的な祭装束である白丁から着想したコレクションでデビューを果たしたRURI.W(ルリ)。デザイナーの渡邉瑠璃の傍らには、祖父が残したアルバムがある。写真におさめられた祖父の姿からそのルーツを探り、服作りの礎としてきた渡邉に、自身のクリエーションについてきいた。
Profile
渡邉瑠璃(わたなべ・るり)
デザイナー

文化学園大学卒業後、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションへ留学。在学中にロンドン、ニューヨークでインターンの経験を積み、卒業後は日本のメゾンにデザイナーとして就職。2017年6月に自身のブランドRURI.Wをスタートする。

5歳でデザイナーを目指し、22歳でロンドンへ留学

服のデザイナーになることは5歳のときに決めていた、という渡邉。

「幼稚園の時にフロリダの親戚のところに遊びに行って、ディズニーワールドに行ったんです。そこで乗ったバックドラフトのアトラクションで、一瞬コスチュームの製作現場を通るシーンがあって。デザイン画がばーっと並んでいるのをみて、母親にこれはなに?ってきいたら『洋服のデザインだよ』と教えてもらって、もうそれを作る人になる!って。最初はミッキーとミニーの衣裳を作りたい、というのがはじまりでした」

5歳でファッションデザイナーを目指した少女が、実際に服作りの道に入ったのは文化学園大学に入学してから。

「大学の頃はとにかく留学したくて。わたしのまわりには、同じようにデザイナーを目指している人が少なくて、周囲と温度差を感じていたのかもしれません。当時、日本人でもセントマーチンズに行った人がブランドをはじめていたり、留学しないとデザイナーになれないみたいな風潮もあったんですよね」

自分のアイデンティティはなにか、からデザインがはじまる

文化学園大学で4年間学んだ後、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに留学。そこでデザインする“プロセス”について決定的な学びがあったという。

「大学でファッションの一般教養はしっかり学んでいたし、パターンも縫製も正直イギリスの学生より上手でした。でも、いちばんむずかしかったのが、自分のアイデンティティが何かというのを問われたこと。デザインはそこからはじまる、と教えられるのですが、日本ではそんなこと考えたこともなかったんです。小中高と同じような環境で育った友だちと過ごして、個性が出るといってもせいぜい着ている服くらい。自分の個性はこれだ、というのを見つめなおせと言われても、最初は意味がわからなくて」

デザインをするということはどういうことか、改めて考えさせられたという渡邉。

「文化にいたとき、コンテストに出品した作品を見て先生が言ったんです。これは優等生が作った服だって。その時すごく傷ついたんですが、今考えればデザインというものが全然わかってなかったんですよね。とにかくキレイに作ることばかりを考えていて、デザインがまったく追いついていなかった」

自分のアイデンティティを掘り下げ、そこから生まれたデザインを形にする。そのプロセスの集大成であり、RURI.Wのもの作りの基礎ともなっているのが、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの卒業制作だ。

「卒業制作を作るとき、まず論文を書かなきゃいけなんです。頭の中で考えていることを論文にまとめてから、制作に取りかかる。自分の個性ってなんなんだろうという課題にとことん向き合うことになりました。わたし、大学4年生のときに祖母を亡くしたんです。祖父はわたしが小学生のときに亡くなったのですが、身近な誰かが亡くなったとき、それを全然受け入れられなくてずっと泣いているようなタイプで。ネガティブなことなんですが、受け入れられない、というのが自分の個性なんじゃないかと思ったんですよね。じゃあなぜそうなるんだろう?と考えて、誰かが亡くなったとき、残された人間の心理を考えることからスタートしました」

“形見”をコンセプトにした卒業制作のコレクション

制作のプロセスとして、知人から形見として大切にしているものをリサーチ

「祖母は、祖父が亡くなった後も祖父の洋服をずっと捨てずに持っていたのですが、祖母が亡くなって、いずれそれも処分されてしまうのではないかと思うと、すごく悲しくて。だからといって、わたしが着ることもできないし、他の人が着るにも時代遅れ…。でも、その人の背景を踏まえて新しい服をデザインすることができれば、違うかたちで想いが生き続けるんじゃないかと考えました」

コンセプトをCreating my collection as keepsake(わたしのコレクションを形見として作る)と置き、ミューズに設定したおじいさんが何が好きだったのか、その背景を探ったという渡邉。

「祖父はお祭りがすごく好きで、地域のお祭りを仕切るような人でした。写真にも神輿を担いでいる姿がたくさん残されていて。それで、祭りの装束をベースに、実際の着方とは違うアレンジを加えたりしながら作りあげていったのがこのコレクションです」

お祭りで着られる「腹掛け」と呼ばれる装束をアレンジ。写真はおじいさんの祭仲間

なかでも白丁という装束をヒントにしたデザインは、RURI.Wデビューコレクションも飾った象徴的なスタイルになった。

白丁というデザインソースから実際の服に落とし込まれるまで、その過程が細かに記されている

「服を作るとき、はじめに資料を集めた段階である程度は作りたいものが発想できるんですが、それが必ずしもオリジナルである可能性は低いと思っていて。過去に見たことがある何かをなぞっていたり、誰かのコピーだったり。でも、こうやって1からプロセスを踏んでいけば、必ず自分のものになっていくと思うんです。一つひとつにちゃんとストーリーがあって、論理的につながっていないと納得がいかない。自分オリジナルのものを作るということがここで身についたと思います」

白丁からヒントを得た2018SSのデビューコレクション

2020SSシーズンのテーマはAPRES-BOY

デビューから5シーズン目となる2020SSは「APRES-BOY(アプレ・ボーイ)」がテーマ。アルバムでおじいさんが着ていた服から着想している。

「1950年代くらいのスタイルで、当時アメリカで流行っていたアロハシャツだったり、ツータックのパンツだったり、幅広のスーツだったり。そういうイメージから発想しています。アルバムを見ていて気になった服があったら、どの時代に流行っていたものなのかを調べて、今回だったらアメリカのファッション史を調べたり。そうやってコアな部分まで理解して服を作らないと、なんかでたらめなものを作ったような気がしてしまって」

左上の写真でスーツにサングラス姿なのがおじいさん

ビンテージのアロハシャツをイメージした、とろみのあるレーヨン素材のシャツ。ボタンのディテイルは、アメリカの軍服からヒントを得た。当時としては新しい色だった「ピンク」を、セピア写真の印象に重ね合わせて、くすんだカラーに仕上げている

UNISEX ALOHA SHIRT ¥28,600

同時代のビンテージシャツをトルソーにのせ、さまざまな着せ方をして見えてきたシルエットをデザインに落とし込んだドレス&ブラウス。丸いシルエットはその工程から生まれた

左:DRAW STRINGS DRESS ¥47,300

右:DRAW STRINGS BLOUSE ¥36,300

祭りの装束をテーマにしたときの紐のモチーフや、バイカーファッションをテーマにしたときのアクションプリーツなど、ブランドのアイコンディテイルを盛り込んだシャツ

LONG SLEEVES SHIRT ¥34,100

2018SSのデビューコレクションから祖父をミューズにコレクションを生み出してきた渡邉だが、今回の2020SSで一度そのテーマに区切りを付けるという。

「自分の中で気持ちが落ち着いてきたというのもあります。いまはある程度やりきった感じというか、ちょっと違うところへ行ってみようかな、という気分になったので」

2020AWからは新しいテーマに取り組むという渡邉だが、そのデザインにおけるプロセスは変わらない。自分のアイデンティティに向き合い、それを構成する一つひとつを紐解いていったように、これからもRURI.Wにしか生み出せないオリジナルのデザインを見せてくれるだろう。

 

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