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津田肇 – 映画という虚実

Sep 25, 2020 - FILM
演出家・映像作家の津田肇が監督と脚本を手掛けた初の長編映画『Daughters(ドーターズ)』。ファッション・イベント業界の第一線で活躍するクリエイターは、なぜ映画を撮り、いかに映画と向き合ったのか。

『Daughters』は奇跡のような映画

— 津田監督が映画のことを意識しはじめたのはいつ頃だったのでしょうか。

父親が映画好きで、特に黒澤明監督の映画が好きで、ずっとリビングルームで観ていたんです。僕も幼い頃から横で観ていたんですけど、それが強烈な原体験でした。黒澤監督のカラー作品『夢』や『乱』や『影武者』などのビジュアルはすごく覚えています。色の無い風景の中に、ワダエミさんが作った強烈な青とか黄色とか赤の洋服がバーンって出てくる感じは影響を受けているかもしれません。

— そこから「映画を作りたい」という思いが生まれ、脚本を書き始めることになったのは何かきっかけがあったのでしょうか?

映画も好きでしたけど、テレビドラマも好きで。高校生のときはフジテレビに入ってドラマを作りたいと思っていたのですが、大学生になって広告やリアルなイベントなどいろんな所に興味が広がっていったんです。大学卒業後は、映像とは全く違うファッションやコスメの新作発表、ブランドのコレクションやパーティーなどイベントに関わる仕事に就きました。

イベントの仕事がすごく楽しかったので、20代前半は「映画を絶対に撮る」というような想いは全然ありませんでした。その後、イベントの世界全体が何となく見えてきたなという頃に、「自分でストーリーがあるものを生み出して、世の中に投下した景色を見てみたい」という想いがじわじわと生まれて。29歳のときに映画を作ることを目標として脚本を書き始めました。

— 本作『Daughters』のスタッフィングは、衣装や音楽など、各分野でさまざまな活躍をされている方が多いですよね。興味深い座組だなと思いました。

これまでものを作る仕事をしてきて、もの作りの流れはなんとなくわかっていたので、衣装や美術や音楽は以前からの友人や知人を巻き込んで面白いものが作れたらと思っていました。衣装では、ルキノ・ビスコンティ監督の映画をシャネルが手掛けるなどという形もあったので。

撮影、照明、録音などは映画の現場をよく経験しているチームだったので、とてもいい融合だったと思っています。そしてほとんどの方が同い年だったので、今でもすごく仲が良いんです。

『Daughters』は本当に奇跡のような映画だと思っています。同じ世代で、同じものが好きで、同じものに向かって走れる同世代が居るというのはこんなに楽しいんだという感覚を久し振りに味わいましたね。またみんなで築地へ飲みにいきたい(笑)。

— 素敵ですね。そのチーム作りが映画のクリエイティブや世界観作りにも繋がっているように感じました。

映像表現がファンタジックだったり、部屋の内装や洋服を非現実的だと感じたり、おしゃれ映画として入っていただく方も多いと思うんです。でも僕自身はギャスパー・ノエ監督のようにはなれないですし、やっぱり映画としてのカタチをなさないことはできないと思っていました。だからこそストーリーはリアルな感覚を大切に、嘘をつかないことにこだわりましたね。

 

現実への怒りも込められている

— 回想シーンの入れ方や、(三吉彩花さん演じる)小春のナレーションの言葉などからも、エモーショナルな感覚を湧き起こされました。少しこだわりを教えていただけますか?

回想シーンは全て小春の過去の記憶なんですけど、今、目で見ている世界ではないので非現実的な方に振ろうと初めから話していました。記憶は美化されるみたいな表現で、音楽もわりとエモーショナルな楽曲を使いましたね。

ナレーション部分は、三吉さんが撮影中に書いていたノートを参考にしています。半分は小春として、半分は三吉さん自身として日記のようなものを綴っていたノートを、撮影が終わったとき僕にプレゼントしてくれて。そのノートの内容がかわいかったので、ナレーション録りの前にナレーションを全部書き直しました。

— そうだったんですね。小春が感じているモヤモヤや戸惑い、(阿部純子さん演じる)彩乃が好きな仕事を離れなければならないところの葛藤など、繊細な描写や細かなセリフにリアリティを感じました。

女性の社会進出といわれてはいるけれど、まだ現実はこうだよという僕の怒りみたいなものも込められていると思います。実際にその人が居ないとまわらない仕事は存在しますし、仕事ってそもそもそういうものですよね。僕も、誰かが代われる仕事はお前の仕事じゃないし、お前じゃないといけない仕事をしろと育てられたので。

出産や育児などで、どうしても子供の近くにいてあげなければいけない時間はやはり仕事が思うようにできなくなってしまうこともあるわけで…。「じゃあ仕事って何だろう」って考えるきっかけになればいいなと思いました。社会とかではなく、一番近くに居る人がどうすればいいのかを考えなくてはいけないのではないかなと。

— 今回、映画のチラシやプレス資料などの宣材物のデザインも津田監督が手掛けられていますよね。イベントのお仕事でも普段から全てご自身で手掛けることが多いのでしょうか?

イベントの仕事を受けるときも、招待状のデザインも一緒に受けたり、イベントの全アウトプットをディレクションしたりする機会が結構あったんです。だからこの映画も、自分のイメージ通りのポスターやパンフレットにしたいと思っていたので、全部担当させていただきました。TSUTAYAさんなどでの展開も、内装は僕が見ています。

— 今までのお仕事がすごく活きていますね。津田監督は今までもミュージックビデオやファッション系の映像を撮られていますが、長編映画との違いは感じましたか?

学生のときにも62分の映画を撮っていたのですが、ちゃんとセリフがあって、ストーリーのある作品を撮るのはすごく久し振りでした。ミュージックビデオなどと映画の大きな違いは、登場人物の気持ちを考える作業が発生することだと思います。

あとは、映画は時間の芸術だといわれるように、60分を越える作品の中で人の感情を揺さぶるにはどうしたらいいのか、どうすればエモーショナルな感覚を人に与えられるのか、というところを考えていくことも違いの1つかもしれないですね。

— 本作を撮り終えて、次にやってみたいことや撮りたいテーマなどは見えてきましたか?

映画の神様が微笑むかどうかというわけではないですけど、興行的にも評価的にもまた映画を作っても良いんだぞとならなかったら、腹を括ってイベントの世界に打ち込もうって撮る前からいろんな人に話していたんです。

でも『Daughters』のチームみんなが「現場がすごく楽しかったし、これからも作ってくれよ」って言ってくれた時点で、また映画を作ろうかなと考えを改めました。旗を振るのは僕しかいないなと思っているので、2作品目も構想はあります。

 

Profile _ 津田肇(つだ・はじめ)
1985年生まれ。幼少期を香港・シンガポールで過ごす。慶應義塾大学在学中より、映像作品やイベントの制作を手掛ける。大学卒業後イベント制作会社を経て、2015年にCHAMELEONS INC.(カメレオンズインク)を設立。ファッションブランドのコレクションや日本最大級のファッション&音楽イベント「GirlsAward」、世界最大級の美容フェス「Beautycon Tokyo」など、イベントの演出制作や映像作品の監督などを多数手掛ける。
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Information

映画『Daughters』

全国順次公開中

同じ速度で歩んでいくと思っていた友人同士。
ひとりの妊娠によって訪れる、ふたりの人生の変化を『一方』の目線から描くヒューマンドラマ。

出演:三吉彩花、阿部純子、黒谷友香、大方斐紗子、鶴見辰吾、大塚寧々
脚本・監督:津田肇
主題歌 chelmico『GREEN』

『Daughters』公式サイト

ⓒ2020「Daughters」製作委員会

  • Model : hajime tsuda
  • Photography : Kei Matsuura
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Sayaka Yabe / Yusuke Takayama