三吉彩花 – 誰かの人生を生きる幸福
セッションするように作りあげた『Daughters』
— 映画『Daughters』で三吉さんが演じたのは、妊娠した友人・彩乃をルームメイトとしてそばで見守る小春。小春をどのような人物だと捉え、どのように演じましたか?
この物語は小春と彩乃という2人の女性の話で、彩乃の妊娠・出産を軸に、彩乃の不安や葛藤、小春の寂しさや複雑な心境が描かれています。小春をどういう人物だと思って演じたかというよりも、2人の関係性を大切にするようにしました。また、妊娠や出産は、女性にとってはすごく敏感で繊細なことなので、リアルに伝わるように心がけました。
— 役作りはどのようにされましたか?
今回、役作りはまったくしないで現場に行きました。そうしたらセリフが少ないこともあり、純ちゃん(彩乃役を演じた阿部純子)もとても悩んでいて。例えば彩乃が洗い物をしていて手が痺れるシーンで、純ちゃんが「こういうときどんな感覚なんですか?」と周りに聞いて「こんな感じだからこういうふうにするといんじゃない?」とみんなで探っていく。そうやって一つひとつのシーンをみんなでセッションしながら作り上げていきました。
そこから生まれた彼女のお芝居に対して、素直に応えていったら自然と小春になっていきました。面白いことに、純ちゃんもすごく彩乃と向き合っていたので、テストと本番でまったく同じ演技ということがなくて。テンションが少し変わったり、言い回しが違ったりすると、それを受ける自分のお芝居も自然と変わっていくんです。“リアルに会話している”ってこういうことなんだなと感じながら撮影しました。
— 主人公2人の職業がイベントデザイナー(小春)、ファッションブランド広報(彩乃)ということもあり、ファッショナブルな作品でしたね。アート目線でこの作品の魅力を語るなら?
最初にこの映画を観たときに、自分の好きなフランス映画のテイストに似ていると思いました。
例えば色彩。小春の服や部屋には黄色、彩乃には青というコントラストがあったり、淡い色味を基調にしている一方で回想シーンは原色だったりして。音楽はもちろん、水の中のシーンは泡の音が印象的に使われているんです。目でも耳でも楽しめるところがこの作品の魅力的だなと思います。
— 衣装も素敵ですよね。今作では100パターン近いスタイリングが用意されていたとお聞きしました。
すごくたくさん用意していただいて、衣装合わせも小春と彩乃の家で行い、ひと通り全部着ました。「どの色がいいかな?」「どんな組み合わせがいいかな?」とみんなで話し合いながら。監督に「靴、どっちがいい?」とか「カバンはどれがいい?」と聞かれて答えたアイテムがそのまま衣装に決まることも多かったです。
— 特に好きな衣装はありますか?
部屋で着ていた服が好きです。花柄のワンピースなんかは、あんまり普段着ないテイストなので新鮮でした。あとポスターにもなっている最初の服もかわいくて好きです。
— 好きなシーンを挙げるとしたらどこですか?
夜中に彩乃と工場で作業しているシーンです。台本を読んだ段階ではこんなキラキラしたセットになると思わなかったので、スタジオに着いて「すごい綺麗だね」って2人で感動しました。けっこう遅い時間帯の撮影だったのですが、セットを見た瞬間に疲れが一気に吹き飛びました。シーン的には比較的静かな場面なので、そのコントラストもいいですよね。
— 水の中のシーンや回想シーンでの、小春のナレーションも印象的でした。ナレーションの文章は、三吉さんが書いていた文章が参考になっているとお伺いしました。
はい。私がずっと小春としての日記をつけていて。
— 監督からの指示で?
いや、私が勝手に書いていて。打ち上げのときに監督にプレゼントしました。
— 「小春としての日記」というのはどういうものなんですか?
「小春として、このシーンではこういうことを思ってた」ということを書いただけのものです。この作品に限らず、時系列などを整理するために日記のようなものを残すことはあるんですけど、この作品は特にセリフの数がそんなに多くないので、前のシーンがどうだったかというのをきちんと振り返りながら撮影したいなと思っていて。
ただ、書いてるうちに小春として書いているのか、自分として書いているのかだんだんわからなくなってきて、どんどん自分と小春がリンクしているような気持ちになっていきました。「こんなことまでしてるなんて、私『Daughters』が大好きなんだな」と思いました(笑)。
ついていきたいと思う人との仕事はすごくやりがいがある
— ここからは三吉さんの仕事観についてもお聞かせください。三吉さんはもともとモデルとしてキャリアをスタートされましたが、当時から演技にも興味はあったのでしょうか?
いや、意識したこともありませんでした。モデルの仕事を始めたのは小学生のときで、当初は「モデルとしてこうなりたい」みたいな目標も特になかったです。いろんなお洋服を着て写真を撮る、その時間が好きで。当時から演技のレッスンには通っていましたが、人前で泣いたり怒ったりするのが恥ずかしくて、むしろ演技はやりたくないと思っていました。
— それが今ではドラマに映画にひっぱりだこ。演技のお仕事が面白いと思えるようになったのはどんなことがきっかけだったんですか?
演技のお仕事をさせていただくようになってから、いろんな人の人生を知ることができるのが面白いと思うようになって。さらに自分が演じて誰かの人生を伝えることにより、誰かに感動や勇気を与えられるなんて素敵だなと思うようになりました。この先、自分も彩乃のような母親役をやることもあるのかなと思うと不思議ですよね。
— やってみたい役や憧れている作品はありますか?
いろんな人になってみたいし、幅広く演じられる女優さんになりたいですが、今後はカッコいい役も演じてみたいですね。モデルの仕事では、“クール”とか“強さ”みたいなところも見せられているとは思うんですけど、アクションにも挑戦してみたいですし、これからは新境地を見せられたらと思っています。
— モデル・俳優に限らず、お仕事をする上で大切にしていることはありますか?
いいクリエイティブをするために人との関係性を大切にすることです。私はモデルや女優として表に出て表現するということ以外にも、いろんなクリエイティブなことをやってみたいという気持ちがあって。同じゴールを目指している人たち、同じ夢を持ってる人たちと、常に楽しくワクワクするような仕事をしていたいです。
— 素敵ですね。そして同じゴールを目指している“チーム”のようなところに目が向いているのに驚きました。
考え方は年々変わってきていますね。学生のときは「自分が目指す女優像に近づくためにどうするか」ということを考えていましたけど、自分ががんばるのはもちろん、ついていきたいと思われるような人になることが大切だと思うようになりました。ビジネス書も読んで、リーダーがどういうことを考えているかというのも勉強してるんですよ。「この人についていきたい」と思う人との仕事ってすごくやりがいがあるので。
— 実際にお仕事したことのある方の中にそういう方がいたのでしょうか?
今作の津田(肇)監督もそうでしたね。監督は今作が初の長編映画制作でしたが、新しいことをするときってすごく怖いし、成功するとも限らないじゃないですか。そういう中でも自分のスタンスは崩さずに、役者さんにもスタッフさんにもラフに寄り添ってくださっていて、ついていきたいと思えました。
監督やスタッフさんとは、撮影が終わった今でも定期的に連絡を取ってるんですよ。また何かの形でご一緒できたらいいなと思っています。
— では最後に、そんな刺激的な撮影だったという『Daughters』の見どころを改めて教えてください。
とてもリアルに切り取られた作品なので、主人公と同世代の方や、妊娠中、子育て中の方にはもちろん共感してもらえる作品だと思うのですが、10代の方には「こんな20代が待っているのか」とワクワクしてもらえると思うし、30代以上の方にも「懐かしい」と思ってもらえると思います。男性が観てもいろいろな発見があると思うので、映画館に出かけるのもなかなか難しい時期ですが、いろんな方に観ていただけたらうれしいです。
Profile _ 三吉彩花(みよし・あやか)
1996年6月18日生まれ、埼玉県出身。 2010年、ファッション誌『Seventeen』でミスセブンティーン2010に選ばれ、7年間の専属モデルを経て2017年に同誌卒業。現在は雑誌「25ans Wedding」のカバーガールを務めている。女優としては、映画『グッモーエビアン!』(12)『旅立ちの島唄~十五の春~』(13)に出演し、第35回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。近年の主な出演作にドラマ『警視庁 捜査一課長』(20)。映画では『ダンスウィズミー』(19)、『犬鳴村』(20)など、主演作が次々と公開。
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Information
三吉彩花さん出演映画『Daughters』
2020年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
同じ速度で歩んでいくと思っていた友人同士。
ひとりの妊娠によって訪れる、ふたりの人生の変化を『一方』の目線から描くヒューマンドラマ。
出演:三吉彩花、阿部純子、黒谷友香、大方斐紗子、鶴見辰吾、大塚寧々
脚本・監督:津田肇
主題歌 chelmico『GREEN』
ⓒ2020「Daughters」製作委員会
- Model : Ayaka Miyoshi(AMUSE)
- Photography : Kei Matsuura(STUDIO UNI)
- Styling : Ami Michihata
- Hair&Make-up : Ryo
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text : Chie Kobayashi
- Edit : Sayaka Yabe / Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)