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アムステルダム発 CAMIEL FORTGENS が再解釈する、Graphpaperとの“不完全だからこそ、人とつながる服”

Dec 10, 2025
「Graphpaper AOYAMA」の10周年を機に実現した、<CAMIEL FORTGENS(カミエル フォートヘンス)>とのカプセルコレクション。整った美しさを追求する<Graphpaper(グラフペーパー)>と、“不完全さ”を価値として提示する<CAMIEL FORTGENS>。一見対照的な2つのアプローチは、どのように共鳴し、新しい服のかたちへとつながったのか。“完璧にしすぎないこと”が、人と人、ブランドと生活、そして未来をひらいていく。その制作背景と哲学を、カミエル・フォートヘンス自身が語る。

アムステルダム発 CAMIEL FORTGENS が再解釈する、Graphpaperとの“不完全だからこそ、人とつながる服”

Dec 10, 2025 - FASHION
「Graphpaper AOYAMA」の10周年を機に実現した、<CAMIEL FORTGENS(カミエル フォートヘンス)>とのカプセルコレクション。整った美しさを追求する<Graphpaper(グラフペーパー)>と、“不完全さ”を価値として提示する<CAMIEL FORTGENS>。一見対照的な2つのアプローチは、どのように共鳴し、新しい服のかたちへとつながったのか。“完璧にしすぎないこと”が、人と人、ブランドと生活、そして未来をひらいていく。その制作背景と哲学を、カミエル・フォートヘンス自身が語る。
Profile
カミエル フォートヘンス
デザイナー

アムステルダムのデザインアカデミーを卒業後、すぐに自身の名を冠したレーベル<CAMIEL FORTGENS(カミエル フォートヘンス)>を立ち上げる。既存の服作りのルールや完成された美を再構築する実験的なアプローチで世界中から注目を集めている。

Instagramはこちら!
@c.fortgens

長年の信頼から生まれた、<Graphpaper>とのコラボレーション

<Graphpaper>とのカプセルコレクション制作に至った経緯から教えてください。

カミエル:<Graphpaper>との関係は2018年春夏シーズンから始まり、今年で8年目になります。そこからずっと一緒に仕事をしてきました。そんな中、いつも親しくしている代表の南さんがアムステルダムのアトリエまで訪ねてくださり、今回のカプセルコレクションの話を直接提案してくれたんです。「Graphpaper AOYAMA」が10周年という節目を迎えるタイミングで、何かを一緒に取り組むのは、とても良い機会になると感じました。

南さんからの提案を最初にどう感じましたか?

カミエル:一歩一歩、着実にアイデアを重ねていく過程で、二つのブランドが合わさるとどんなものが生まれるのか、とてもワクワクしました。素材やアイテムをどうするかなど、南さんとはじっくりと話し合いながら進めていきました。

今回のコレクションはどのようなテーマで制作されたのでしょうか。

カミエル:僕たちがブランドで大切にしている“不完全性”を<Graphpaper>の洋服に落とし込むことをテーマとしました。そのために制作を始めるにあたって、まず<Graphpaper>とは何かを考え、そこから自分なりにブランドのコアを再解釈していきました。

具体的にはどのような再解釈をされたのでしょうか。

カミエル:まずブランドを理解するために、<Graphpaper>のアイテムを細部まで観察し、どのように作られているのか、どのように縫われているのかを研究しました。その上で、自分の視点でどう表現できるかを考えました。<Graphpaper>にとっては、僕たちのアプローチがとても新鮮に映ったようです。

<Graphpaper>はカミエルさんのアプローチをどのように見ていましたか。

カミエル:<Graphpaper>は、美しい製品を作ることを大切にしているので、縫製においてもすべてが整然と均一に仕上がっています。一方で僕たちの場合は、あえて切りっぱなしにしたり、エッジを強調するような仕上げを用いていて、ベースとなるパターンは正確なものを使用していても、あえてアシンメトリーにズラしたり、制作過程で生じた“間違い”をあえて残したまま進めました。その表現を面白がってくれました。

上質なワードローブを追求する<Graphpaper>と、不完全さを受け入れる<CAMIEL FORTGENS>では、方向性が異なりますが、どのように擦り合わせを行なったのでしょうか?

カミエル:直接会って話すときは、ブレインストーミングのように自由にアイデアを出し合いました。お互いに情熱を持ってものづくりに取り組んでいるので、役割の棲み分けははっきりしていました。<Graphpaper>は製造をメインに考え、クリエイティブなアイデアは僕たちに任せてくれました。なので、このコラボレーションは意外とスムーズに進んだんです。

<CAMIEL FORTGENS>はオランダが拠点で日本と距離がありますが、デザインやサンプルはどのように共有していたのですか?

カミエル:僕たちがアトリエでプロトタイプを制作し、それを日本に送ってコメントをもらうという、地道なやり取りを続けました。<Graphpaper>にとっては、僕たちのアプローチが既存の方法とは真逆だったので、どこまでカットアップするのか、どんなバランスが僕たちらしいのかが分からず大変だったようです(笑)。

<Graphpaper>の生産背景を活かし、すべて日本で生産されたそうですが、日本の技術をどのように感じましたか?

カミエル:日本の構成力や技術の高さには本当に感動しました。特に、<Graphpaper>はディテールや正確性を重視しているので、こうした高い技術によって洗練された上品な洋服が仕上がることにも納得できました。一方で<CAMIEL FORTGENS>は、普段はウクライナの小規模な工場で生産しています。時には完璧ではない仕上がりになることもありますが、その不完全さにこそ人間らしさや温もりを感じます。信頼関係のあるものづくりだからこそ、その不完全性さえ愛おしいです。

不完全な私たちだからこそ、手を取り合う意味がある

AIが進化する今の時代だからこそ、“不完全性”は、人間にとって本質的なもののように感じます。

カミエル:<CAMIEL FORTGENS>のコンセプト自体が、そもそも人間性に根ざしています。僕たちは、自分の洋服を着てくれる人が、人生とどう向き合っているのかを一緒に考えていきたい。ライフスタイルの中に洋服が自然に溶け込むような存在でありたいと思っています。人間性は決して隠せないものです。不完全性を追求することは、人間の本質を追求することでもあると思っています。

普段はどういったものから、デザインのインスピレーションを受けるのでしょうか。

カミエル:日常のあらゆる瞬間から刺激を受けています。たとえば、街の人々の様子や装い、本、アートなど、生活にまつわるすべてがインスピレーションになります。実際に生きる人々がどのように暮らしているかは、僕たちのクリエイションにとって非常に重要です。ファッションデザインは時に停滞しているように感じることもありますが、生活もアートも常に変化し続けています。終わりのないライフスタイルの流れを観察し、研究し続けることが洋服のデザインにつながっています。

カミエルさんがブランドを設立する上で、大切にしている言葉や記憶はありますか?

カミエル:デザインアカデミーを卒業後、まず作ろうとしたのは<Graphpaper>のような完成された洋服でした。でも、どう作ればいいのか分からず、とにかく手を動かしていくうちに、不完全なデザインが生まれたんです。その偶然の不完全さこそが、誰にも真似できない、自分だけの表現だと気づきました。そこから、「これは僕が作るべき洋服だ」と確信し、今のブランド哲学につながっています。

今回のカプセルコレクションは、どのような人に着てほしいですか?

カミエル:僕たちは民主的で開かれた思想を大切にしているので、老若男女やファッションが好きかどうかに関係なく、幅広い人に着てほしいです。不完全なデザインが会話のきっかけとなり、疑問を持ったり、新しいアイデアにつながってくれたら嬉しいです。静かな抵抗(サイレントパンク)のように、既存の概念に疑問を投げかけられる服でありたいですね。

洋服を通して、どんな未来を描きたいと思いますか?

カミエル:僕たちの洋服を着ることで、完璧でなければならないというプレッシャーから解放され、自分を肯定できるようになってほしいと思っています。完璧であることを求めすぎると、本来の自分を隠してしまいます。僕たちはもっと人間らしい感情や状態に目を向けてほしい、ありのままを受け入れることは、弱さではなく強さだと思っています。

今後、挑戦したいことや目標を教えてください。

カミエル:最近ではアムステルダムのミュージアムと協業して、コンテンポラリーアートの制作も行ったんです。そういった様々な出会いを通してもっと人と深くつながりたいと思っています。今はヨーロッパを中心に活動していますが、世界中の人々と対話しながら成長していきたい。ファッション業界は競争が多いですが、競い合うのではなく、一緒に手を取り合って成長していける未来を築きたいです。

 


 

CAMIEL FORTGENS (カミエル フォートヘンス)

2014年に設立されたオランダ・アムステルダムを拠点とするファッションブランド。ブランドの特徴は、断ち切りの縫い目や裏返しの構造、あえて不完全さを残したような仕立てにある。それは「未完成の中にこそ人間らしさが宿る」というデザイナーの哲学を体現している。日常的なワークウェアやクラシックなアイテムをベースにしながらも、シルエットや構造をずらすことで新しいリアリティを提案。機能性と詩的な不均衡が共存する、現代のファッションにおける“正しさ”を問い直すブランドである。

Instagram はこちら!
@camielfortgens

  • Photography : Junto Tamai
  • Edit : Miwa Sato

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