山田裕貴 – 他者について考え続ける
戦争を題材にしながらも、子どもにこそ観てほしいと語る本作に込めた思いとは。
映画『木の上の軍隊』で若き兵士を演じた山田裕貴が、堤真一との共演、沖縄での撮影、そして食べること、生きることに極限状態で向き合った日々を振り返った。







今の若者と同じだということを絶対的に意識しながら演じた
― 脚本を読んで、最初にどんな思いを抱きましたか?
子どものころ広島に住んでいたことがあって、原爆資料館に行きました。今はきれいになって表現も抑えられていますが、昔は本当にリアルで、いまだに写真のように思い出せるぐらい衝撃的でした。
本作は戦争を題材にしている映画であって、戦争映画ではありません。年齢制限がなく、子どもも観られるんです。戦争が終わって80年の節目に、戦争の中を生きた人たちの思いを今の子どもたちに伝えられる役目を得られたことはすごくうれしかったですし、伝えなきゃいけないという使命感みたいなものもあります。
― 出演自体に迷いや葛藤はなかったですか?
なかったです。というか堤さんと、と聞いた瞬間に「やります」と即答したので。実は、堤さんとはちょっとご縁があって。『あゝ、荒野』(2017)で共演させていただいた木下あかりさんが堤さんと家族ぐるみで仲良くしていたそうで、「堤さんに山田くんのことを話したら、うちにおいでよと言ってくれてるけど来る?」と誘っていただいたんです。
お酒を飲みながらいろいろとお話を聞かせていただきました。それからずっと、堤さんといつかご一緒できたら良いなと思っていたんです。

― 実際に堤さんと共演して感じた、堤さんの魅力や凄さは?
逆にそう思わせないところじゃないでしょうか。「近づきづらい」「しゃべりづらい」みたいなところが一切なくて、意外とおしゃべりです(笑)。
上官の役だからって一言もしゃべらずにその日を終わるんじゃなくて、撮影が終わったら切り替えて「なあ、今日さ、終わったらコンビニ寄るよな、タイミングだよな」って(笑)。パブリックイメージとは全然違うと思うんですけど、僕はあんまり自分からしゃべるタイプじゃないので、すごくありがたかったです。
これまでの出演作の裏話なんかもいろいろ教えてくださったんですけど、ちゃんと俳優で、ちゃんと普通の人間だったことが僕はすごくうれしくて。じゃあ僕も、堤さんみたいになれるかもしれないと思わせてくれるというか。
― 山田さんは新兵の安慶名(あげな)セイジュンを演じられましたが、堤さん演じる上官の山下一雄とどのように対峙しましたか?
「ここはこうしましょうか」と話し合う前に、とりあえず合わせてみるという感じだったのですが、何をやっても上官は上官のままで、自分が何も心配することなくいられたのは堤さんのおかげです。
だからもう、頼もしいを超えて楽しかったですね。自分がどんな球を投げても返してくれるので。自分は安慶名をひたすら生きるだけで成立させてくれていたんだと思います。

― 安慶名という役をどう捉え、どう演じようと考えましたか?
安慶名は兵士として訓練はしていたけれど、実際は飛行機を見るのも初めてだし、爆撃を受けるのも初めてで。女の子のお尻を追いかけている本当に普通の若者で、今の子たちとなんら変わりない。
それが、自分が住む場所で戦争が起こってしまう。急に銃を持って撃たなきゃいけない。銃弾が飛び交う中、とにかく逃げなきゃいけない。目の前で友達の妹が爆死してしまう。恐怖の対象である上官とひとつ木の上で一緒になる。もうわけわかんないとなるわけで。とにかく最初は、今の若者と同じだということを絶対的に意識しながら演じようとしていました。
― 安慶名の表情がすごく印象的でした。ずっと目が泳いで戸惑い続けていて。終盤に慟哭するシーン以外は、最後まで現実感がないままふわふわしているイメージがありました。
たぶん彼もどうして良いかわからなかったんだろうなと思います。
僕が印象的だったのは、戦争が母親の命を奪ったことが悲しいのか、もし家に帰れたとしてそれがうれしいのか、安慶名が「どっちでも良いです」と言ったとき、本当に自分も同じ気持ちになっていて。とにかく生きていることが大事だと。僕らは1か月だけの疑似体験でしたが、本気でそう思いました。

ご飯が食べられることへの感謝、命をいただいている感覚を忘れない
― 本作を経て、ご自身の中で変化や得たものがあれば教えてください。
僕が初めて沖縄に行ったのは、「ちむどんどん」(2022)を撮った後ぐらいで。「ちむどんどん」で沖縄に行けると思っていたんですけど行けなくて、撮影と撮影の合間に1人で2日間だけ行ったんです。
沖縄に1人だけいる友達が一緒に、ダーッと車で1周回ってくれたんですけど、めちゃくちゃ楽しくて。楽しいというか、ちょっと不思議な感覚で、「帰ってきた」と感じるぐらい落ち着けました。撮影と撮影の合間はいつも台本のことを考えて、どうしようどうしようと焦って、休息にならないことのほうが多いのに、沖縄では仕事のことをまったく考えずにいられました。そんな良いイメージがある場所だから、戦争って本当に嫌だなとより強く感じました。
そしてご飯が食べられることへの感謝、命をいただいている感覚は、もともと日々忘れないようにしているんですけど、改めて考えさせられました。撮影中の食事はずっと干し芋と豆腐と納豆だけにしていたんですが、堤さんが「今日は良いじゃねえか」と勧めてくれた豚の角煮をひとかじりした瞬間に、感じたことのない「うわー」って衝撃が走って。あとは実際にウジ虫を食べたりもして、動物の命を奪って生きているんだということもすごく実感しましたね。

― 劇中では米兵と日本兵、上官と新兵という二項対立が複層的に描かれているように感じました。異なる属性の人がわかり合うためにはどんなことが大切だと思いますか?
相手のことを考えること。出演したドラマのセリフなんですけど、「人間は考える葦である」というパスカルの言葉があって。見知らぬ土地の人のことを、目の前の人のことを、過去に生きてきた人たちのことを、未来のことも含めて全部考えようとすることで、相手を理解することができる。考えるのをやめちゃったらそこで終わりだから。それは安慶名が一番やっていたことですよね。
― 木の上でずっと上官のことを考え続けていた。
上官は何を思っているんだろう、上官は今どういう状態なんだろう、上官、このままだったら死んじゃいますよ、上官、行きましょうよって。ずっと上官のことを考えて、そしてこの土地の人たちのことを考えていたのが安慶名だと思うんです。
自分のことを考えるんじゃなくて、他者について考えること。その考えが足りていない、自分のことしか考えていない人たちが、今の世の中にはすごく多くなっている気がします。
― そのとおりだと思います。ぜひ安慶名の姿を、子どもたちにも観て欲しいですよね。
こういう時代があったから、今おもちゃがある、ご飯がある、幸せがある。そうやって考えられる子どもたちが増えて欲しいです。

Profile _ 山田裕貴(やまだ・ゆうき)
1990年9月18日生まれ、愛知県出身。11年「海賊戦隊ゴーカイジャー」(テレビ朝日系)で俳優デビュー。22年エランドール賞新人賞、24年には『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』『キングダム 運命の炎』『ゴジラ-1.0』『BLUE GIANT』での演技が評価され、第47回日本アカデミー賞話題賞を受賞。近年の主な映画出演作に『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)、『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』(21)、『燃えよ剣』(21)、『余命10年』(22)、『夜、鳥たちが啼く』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)ほか、日本語吹き替え版キャストを務めた『Ultraman:Rising』(24)、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(24)などがある。今後は、『ベートーヴェン捏造』(25・9/12)、『爆弾』(25・10/31)の公開が控えている。
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Information
映画『木の上の軍隊』
2025年7月25日(金)全国公開
出演:堤 真一、山田裕貴、津波竜斗、玉代㔟圭司、尚玄、岸本尚泰、城間やよい、川田広樹(ガレッジセール)/山西 惇
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
主題歌:Anly「ニヌファブシ」
©2025「木の上の軍隊」製作委員会
- Photography : Shoichiro Kato
- Styling : Akiyoshi Morita
- Hair&Make-up : Junko Kobayashi
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)