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宮沢氷魚 – 失ったときこそ、強く生まれ変わる

Dec 17, 2025
人は人をどう想えばいいのか。人は喪失とどう向き合えばいいのか。
スピッツの名曲「楓」をもとに紡がれた物語で、重要な役どころを演じた宮沢氷魚へのインタビュー。

宮沢氷魚 – 失ったときこそ、強く生まれ変わる

Dec 17, 2025 - FILM
人は人をどう想えばいいのか。人は喪失とどう向き合えばいいのか。
スピッツの名曲「楓」をもとに紡がれた物語で、重要な役どころを演じた宮沢氷魚へのインタビュー。

 

 

 

 

 

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キーパーソンを任せていただける喜びがあった

― 『楓』という物語のどんな部分に惹かれましたか?

小学生のころから家にあったスピッツさんのアルバムを聴いていて、その中でも「楓」という名曲をベースに映画が作られるということで、すごく興味が湧きました。いざ脚本を読ませていただくと、スピッツさんの楽曲の魅力がしっかりと反映されていて、非常に密度の濃い作品だなと思いました。

― 宮沢さんが演じた梶野茂は、福士蒼汰さん演じる双子の涼と恵の秘密を知る重要な役どころでした。

キーパーソンを任せていただけるという喜びもありましたし、梶野自身にもすごく魅力を感じました。梶野は、涼や(福原遥さん演じる)亜子の考えを尊重して、彼らが道に迷ったときに一言、二言、助言して背中を押す。それが、ちょうどいい距離感なんですね。

責任感が強く、話していないときでも「今この瞬間に一番必要な言葉は何だろう」と深く考えているキャラクターだと感じました。

― 演じるうえで特に意識した部分はありますか?

少ない日数での撮影だったこともあり、クランクインするまでに梶野とより丁寧に向き合い、彼の軸を作るようにしました。自分の中で「これでいいのかな」という瞬間があると、キャラクターがブレてしまうので。

― 行定勲監督とは初めての仕事でしたか?

行定監督の作品に出演するのは初めてでしたが、実は以前にお会いしたことはあります。僕が主演させていただいた『はざまに生きる、春』という映画で監督を務めた葛里華さんが行定監督と親交があり、行定監督が現場に何度かいらっしゃった際に助言をいただきました。

― 今回ご一緒したことで、印象に残ったことはなんでしょう?

現場では行定監督が一番楽しそうにしていましたね。梶野はすごく真面目なのですが、真面目すぎるがゆえにちょっとクスッと笑えるところもあって。そこで誰よりも笑っているのが行定監督でした。監督が楽しそうにしているのを見ると、この方向でいいんだって安心できるし、役者としてもモチベーションが上がります。

― 気難しさはないんですね。

すごくフランクで、常に寄り添ってくれます。本番ではモニターの前にいて、実際の距離はありますけど、それよりもすごく近くにいてくれるように感じました。

 

人それぞれ心地いい距離感は違うと思う

― 梶野は涼と亜子の理解者という立場でしたが、宮沢さんにとって理解者といえる人は誰か思い当たりますか?

大きな舞台でも何度か共演している俳優の大鶴佐助くんとは7年ぐらいの付き合いで、彼とは何でも話せるかもしれません。彼は舞台メインで、僕は映像がメインですけど、お互いの葛藤や悩みも話していて。同じ役者だけどちょっと畑が違うから、違う視点の意見やアドバイスがもらえるんです。

― そういう仲間が1人でもいると心強いですよね。

この仕事をしていると、みんな仲間でありライバルでもあるという難しい関係性ですが、彼とはそういう感覚にはならなくて。純粋に助け合える仲ですね。

― 先ほど梶野の距離感がちょうどいいとおっしゃっていましたが、宮沢さんがコミュニケーションで意識していることはありますか?

人それぞれ心地いい距離感って違うと思います。それを敏感に捉えるためにも相手の懐にいきなり踏み込まず、どこまで行けるんだろうとラジオの周波数を合わせるように人と接するようにしています。

そうすると波長があった瞬間に分かり合えることもあるし、もちろん全く分かり合えないときもある。それが人間だと思います。

― 行定監督は本作に対して、楓の花言葉にある「遠慮」を核にして恋愛を描きたかったとコメントされていました。遠慮というと腰が引けているイメージもありますが、もっと人のことを大切に思い、より良く関わるためのポジティブな姿勢でもあるんでしょうね。

そうですね。それがうまくいくかどうかはさておき、梶野をはじめ、本作の登場人物はみんな他の人に対しての距離感に気を使っている、思いやりのある人たちだとは感じました。

― 本作では「喪失と再生」も大きなテーマとなっていますが、喪失感を抱えた人が前を向くために必要なことはなんだと思いますか?

個人的には、一つひとつの出会いを大切にしていて。たとえば学生のころに出会って自分に大きな影響を与えてくれた先生だったり、仕事を始めて何もできない自分にいろいろと助言をしてくれた俳優の先輩だったり。そういう人たちとの出会いがあるからこそ前を向いて歩いていけたし、歩んでいく中での別れがあったからこそ今の自分がいる。

別れがないと、なかなか新しいものも生まれないと思うんです。喪失感というとネガティブに捉えられがちですが、『楓』という作品ではそこから一歩進んで、前向きに生きていく人々を描いています。何かを失ったときこそ、何倍も何倍も強く生まれ変わることができるんですよね。恵と生きた時間は確実にあったわけで、それ自体がなくなるわけじゃありませんから。

― 本当にそのとおりですね。最後に、本作をご覧になる方へのメッセージをいただきたいです。

大切な人や物との別れは誰にも訪れることですが、そんなときこそ自分が前に進むための希望を忘れないでほしいと思います。失ったものが大きな糧となって、自分の成長を支えてくれるはずなので。この作品を通して、そういった希望につながる小さな光を少しでも見つけていただければ嬉しいです。今の自分の生活や周りの人も、もっと大切に思えるかもしれません。

 

Profile _ 宮沢氷魚(みやざわ・ひお)
1994年4月24日生まれ。米国・カリフォルニア州サンフランシスコ出身。2017年 TBS系ドラマ「コウノドリ」第2シリーズで俳優デビュー。以後、ドラマ 「偽装不倫」、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」、映画「THE LEGEND & BUTTERFLY」、舞台「パラサイト」、NHK大河ドラマ「べらぼう」他、話題作に出演し続ける。 初主演映画『his』では、4つの新人男優賞を受賞、映画「エゴイスト」では、第16回アジア・フィルム・アワード助演男優賞受賞など、数々の賞を受賞。現在、主演を務める映画「佐藤さんと佐藤さん」が劇場公開中。
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Information

映画『楓』

2025年12月19日(金)より全国公開

出演:福士蒼汰、福原遥、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗、大塚寧々、加藤雅也
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)

映画『楓』公式サイト

©2025 映画『楓』製作委員会

  • Photography : Momoka Omote(guilloche)
  • Styling : Kodai Suehiro
  • Hair&Make-up : KUBOKI
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)